「ねぇアンタってさ、捜査してた?なーんか、見なかった気がするんだけどなぁ」
「……は?どうでもいいだろ、お前の見える範囲で捜査しろとでも命令する気か?」
「あは、怖い。別にそんなんじゃないけど。捜査してたなら素直にそう言えばいいのにね」
にんまり笑う麻堂くんは何か証拠でも見つけたのか、いつにもなく上機嫌なようだ。
一方で蒼太郎くんは変わらず不機嫌そうに舌打ちをしているけれど…。
「ん〜っと!そもそも今回三人が殺されたわけでしょぉ、モノクロック的にはそれOKなの?」
「ああ、それね。言い忘れてたんだけどさあ…」
ユキちゃんの疑問に軽く反応をすると、高貴な椅子から飛び降りて俺達を包むように大きく腕を広げる。
「一度に殺せる人数は二人まで!ま、今回は許してあげるけどお…今後はそのままオシオキだから気を付けてねえ」
知らなかった情報にどこからともなく動揺する声が漏れる。
人数制限があるのはきっと、皆殺しになることは避けたいからなんだろう。そのENDを彼はきっとつまらないと評価するだろうし。
ちょこんと椅子に座り直したモノクロックを見たえがきちゃんは、一つ小さくため息をつくと、議論を進めようと口を開く。
「えっと…まず、三人の死因は一緒ってことでいいのかな?刃物で刺されて失血死、なんだけれど」
「相違なければそういうことだよねぇ…二藤ちゃん苦しそうだったなぁ、目も閉じてなかった」
「うん…。…東雲ちゃんと柊くんはどうだった?」
「夏月は大体一緒だったぞ」
「うんうん、刺傷も確認したけどあれは本物だったし刺殺でいいんじゃないかな♪」
「でも東雲は違うんだ。刺殺じゃなくて、絞殺なんだと思う…いつも首に巻いてたスカーフを使われたのかなって。刺された跡は無かったと思うけど…」
どこか不安げにしてる美織くんを支えるべく、そうだね、と頷いてみると不意にオレーシャちゃんが思い出したように声をあげる。
「そういえば…保健室からひとつだけ薬が無くなっていたの。…これって、今回の事件に何か関係あるのかしら?」
「…ああ。それ多分、睡眠薬の戸棚だと思うよ。俺も気になったから…確認はしておいたんだ」
「うーん!一ノ瀬くんの証言が本物だとして…消えた睡眠薬ってかなり怪しいんじゃない?むむ…全員眠らせてから殺したってことぉ?」
「研究家はともかく、スパイとオタクはどう見ても眠らされたとは思えない顔してただろ」
「ふむ…今回の殺人においてその睡眠薬を使ったとするなら東雲さんに、が妥当ですが…でもどうしてクロは他二人には使わなかったんでしょうか」
「不自然だよね…クロが個人的に東雲ちゃんに思い入れがあった、とかなら分かるんだけど…」
無くなった睡眠薬。
莎莎匁くんの言う通り、使ったとするなら一人だけ安らかな死に顔だった飛鳥ちゃんに使ったって考えるのが普通だけど…。
そうしたらどうして、夏月くんもまどかくんもあんなに苦しそうな顔をして死んだんだろう。
どうして、飛鳥ちゃんだけ…?
「……単純に、研究家を殺してるとこをスパイとオタクに見られたから口封じで殺したんだろ。だからあの二人は刺殺なんじゃねえの?」
蒼太郎くんがそう言うと、グレイちゃんがゆるりと首を縦に振り、
「ええ、わたしもそうだと考えるわ。おそろいね」
と、蒼太郎くんの意見に同意する。
そっか。口封じなら、手間暇かける余裕なんてとてもじゃないけど生まれないから…。
「それじゃあ、次は凶器について話そっか。私は、厨房にある包丁とかナイフとかだと思うんだけど…」
『ううん。クロが使った凶器はそれじゃないと思うよ、奏撫ちゃん。多分、包丁もナイフも夕飯以降は誰も使ってない』
「そっか…そういえば、未依葉くん達は刺傷まで確認したんだっけ。そこからなにか分かることってあったりした?」
「ああ!そういえば、お客様の刺傷はかなり細かったんだよね。何ヶ所か刺されたみたいだけどそのどれもが浅いみたいで…だから、鋏を使ったんだと思うよ。もちろん保健室にある鋏は調べてみたけど、あれは今回は関係ないみたい」
「そう…となると、あとは被服室にある糸切り鋏とか裁ち鋏とか…になるのかしら」
「うんうん、そうだと思うよぉ。…ってことは、才能的にオレーシャちゃんか中夜ちゃんってことになったりするのかなぁ」
ユキちゃんがそう呟き、ちら、と二人を交互に見る。
オレーシャちゃんも中夜ちゃんも、反論したげな表情でユキちゃんを見ていた。
裁ち鋏か…。
あれ、でも被服室に裁ち鋏なんてもの、あったか?
「待て、中夜がクロは不自然じゃないか…?だってそれって自分で殺しておいて倒れたってことになるだろ?」
「まあ普通は有り得ないですね。……なんだか、こんなに呆気なく分かるものとは思いませんが」
「つまりクロはオレーシャさんということになるんでしょうか」
疑いがオレーシャちゃんに向いているのが肌で分かる。
お前が三人も殺したのか、と言いたげな雰囲気が、オレーシャちゃんを追い込んでいくんだ、
見かねた未依葉くんが口を挟むより早く、えがきちゃんが彼女を守った。証言という、とても強いシールドで。
「待って!それは…ちょっと違うと思うんだ。オレーシャちゃんはクロじゃないの!だって、アナウンスが鳴ったときわたしと一緒に居たんだから…!」
「…………どうなんだよ、ドール作家」
「……ええ。そうよ。肝試しでネタを閃いたからって頼まれて…だからアタシ、モデルになってたの。えがきの描く漫画のね…ユキがどうのって言って大っぴらにはしたくなかったみたいだけれど」
オレーシャちゃんの目線の先には、きっとヤキモチを妬いてしまったんであろうユキちゃんがじとりとえがきちゃんを見つめていた。
そんな事は露知らず、えがきちゃんは誤魔化すように咳払いをするととにかく!と話を進めた。
まあ、つまりオレーシャちゃんにはアリバイがあるってことだよね…。
クロ候補もいなくなってしまった今、本当の本当に詰んでしまったように思える。
凶器も見つからず、謎も謎のままで…一体これからどうしたらいいんだろうか。
「ねぇ…夜中さ、アンタと東雲ちゃんが一緒にいたとこたまたま見ちゃったんだけど、あのとき何してたの?」
「…………………」
「あれ、聞こえてないのかなぁ。それとも自分じゃないって思ってる?…アンタに言ってるんだよ、人形師の卯佐美ちゃん」
「……。…………なにもしてない。ただ会っただけ」
「…っ…中夜ちゃ、んが…クロなわけなぃ…っ、て、適当、言わなぃでよ…っ!」
あるむちゃんが中夜ちゃんを守ろうと麻堂くんにたてつき、吠える。
中夜ちゃんは少しだけ冷や汗を流して受け答えをしているのがここからでもよく見える。
その様子は、少し焦りがあるように見えて。
「……動機。動機ない。……だからうさみは…」
「…そうだよな。中夜には三人を殺す動機がない。…仲が悪いとか喧嘩をしたとかっていうのも、ないだろうし。幸運の言うことを否定するわけじゃないけど…」
「動機があろうがなかろうがそんなのどうだっていいんだよ。証拠だってお前の部屋から出てきてる。…いちいち言い逃れすんな、面倒くせえな」
蒼太郎くんは血がべっとりと付いた大きな裁ち鋏を俺達の前に提示した。
その鋏を見た瞬間、中夜ちゃんは顔を青くして唖然としていたからきっとこれは中夜ちゃんの持ち物で間違いないだろう。
「…ああ、なるほど。終夜さんは皆さんの個室を調べていたんですね。道理で見かけなかったわけです」
「…その鋏、中夜ちゃんの部屋から出てきたってことは…やっぱりそういうこと…になるの?」
「…でもっ!そんなの…ちゅ、中夜ちゃんの部屋入った、終夜くんが偽装したかもしれなぃ…じゃん!」
「その可能性も無くは無い…ね。推理漫画でもよくあるし。…わたし達が捜査してない場所だから、嘘ついてても分かりっこない…」
そうすると、彼女はふるふる…と首を横に振って、
「夏月くんの遺体の傍に1222、と数字が残されていたことは覚えているかしら。…調べてみても意味が分からなかったけど、今、分かった気がするわ」
「1222、とは12月22日の事…つまり冬至ね。…図書室で調べたときに知ったの。知ってたかしら?「中夜」って、冬至の異称らしいのよ」
「…頭の良い柊くんが遺しそうなメッセージ…状況的にも、偶然にしては出来すぎてると思うなぁ」
「つまり柊ちゃんは最後の力を振り絞って、卯佐美ちゃんがクロってことを教えてくれたわけだね。…で、アンタはどうするの?チェックメイトだと思うけど」
夏月くんの遺体の傍にあったダイイングメッセージも紐解かれ、中夜ちゃんは黙り込んで俯いてしまった。
あるむちゃんはそんな様子を見て、顔を青くして言葉を失う。
「ふわあ…今日の裁判は静かだねえ。そろそろ投票に移行しても大丈夫そうかなあ?」
欠伸を漏らしながら木槌片手にゆらゆら揺れているモノクロックは俺達の言葉に耳も傾けず強引に裁判を進行していく。
超高校級の歴史研究家 【東雲飛鳥】
超高校級のスパイ 【柊夏月】
超高校級の芸能人オタク 【二藤まどか】
を殺したクロは?
▶︎卯佐美中夜
「大大大正解!そう、今回のクロは中夜ちゃんでしたあ!か弱い見た目に反して武力的だねえ!」
「……………そうだよ。うさみがクロ」
「…聞かせてくれる?お客様がどうして殺人なんてことしたのか…さ」
『俺も、知りたい。こうしたわけにはなにか理由があるんでしょ…?』
何か吹っ切れたように、中夜ちゃんは教えてくれた。
東雲ちゃんを殺した理由…夏月くんを殺した理由を。
「…肝試しが終わった後。うさみ…すぐ行動した。………飛鳥を呼び出して眠らせた。苦しめたくなかった。…首を絞めてたら夏月に見られて……それ、で…」
「……蒼太郎のそれ。…形見。持ってたその裁ち鋏で夏月を刺した。抵抗されて、引っ掻かれて…。……ほら、これ。証拠。」
そう言って袖を上げると、中夜ちゃんの白い腕には痛々しく真新しいような引っ掻き傷があった。
血が出たにもかかわらず、手当はしなかったんだろう。
衣服に擦れて血が伸びて固まってしまっていた。
「どう殺したのかは分かったけど…どうして、殺したんだ?」
「そうね…アタシも知りたい。何かしら、動機、あるんじゃないの?」
そこから、中夜ちゃんの語った動機は、少し夢見がちで…それでいて、酷く純粋なものだった。
少しの穢れもなく、ただひたすらに信じているような…。
「……だって。死ねばやり直せるって。今まで死んだ人も…死んだら、生まれ変わって、幸せに人生をやり直すことが出来るって」
「…………肝試しにも参加するって。きっと楽しんでくれるって。…………でも本当に。そうだった…でしょ?……未依葉達も。…もしかしたらいたのかなって…言ってた、よね」
「……………うさみ。あのディスク見ちゃったから。…飛鳥…苦しんでた。……だから楽にさせてあげたかった。もう苦しんでほしくなかった。………幸せになってほしかったから」
「……うさみは悪くないって。…オレーシャ。言って、くれた…。うさみ。悪いことをしたのかな…。…奏瑛を苦しめてた。……ごめん、なさい。…ごめんなさい、ごめんなさい…」
俺に向かって何度もごめんなさいと呟いて、必死に罪の意識に耐え続けようとする中夜ちゃん。
それはその体で支え切るにはずっとずっと重くて、大きいものなんだ。
死体を見た瞬間の俺の姿に重なって、ああ、きっと俺もあんな感じに見えていたんだろうと、場違いにも程があるほど客観的に見据えてしまう。
「そっか…。ねえ、卯佐美ちゃん。今の言い方だと、まるで誰かに「死ねばやり直せる」とか「生まれ変わって幸せにやり直してる」とか言われたみたいだけど…それって誰かに言われたものなの?」
えがきちゃんのその質問にぴたりと止まると、何度も何度も何度も何度も、ぶんぶんと首を振って否定する。
「言えない」と。
…その行動は、誰かに言われたと確信させるには事足りるものだった。
「では、東雲さんと柊さんを殺したことは分かりましたが…二藤さんはどうなんです?二藤さんについては言及されなかったように思えますが」
「そうだね。ねえ、卯佐美さん。二藤さんのことはどうして何も言わないの?」
「……う、さみ。……うさみっ、うさみは。……まどかを……っ?」
何かを言おうとして、中夜ちゃんは途端に首をガクンと下に提げてしまった。
驚いて身を乗り出した瞬間、中夜ちゃんの首をアームが掴んでいたことを知る。
そう。クロとされた人間がオシオキに向かうときに付けられる、人を人のように扱わない、あのアームが。
…どうしてモノクロックは何も言わずに中夜ちゃんのオシオキを実行しようとするんだ。
「待っ…ま、待ってよ!!…中夜ちゃん、ぃ、今何か…ねぇ!連れてぃかなぃで!なんでっ…今まで、クロの言葉…聞いてくれてたのに…!」
「うぷぷ…なんのことお?クロは特定されたし今まで通りオシオキに向かうだけ!さあ、レッツゴー!」
「ていうかあ、今まで死んできた子が未練もなく冥土を満喫してるって思い込めるなんて、とんだシアワセモノだねえ」
「そんなわけないでしょお、ぜーんぶボクの作った仕掛けだったのに!」
……モノクロックのその言葉に衝撃を受けた中夜ちゃんは、みるみるうちに力を無くして成されるままにアームに引き摺られていく。
「……ぜっ、……全部。……嘘…?」
「……あ。うさ、うさみ。…うさみは。……っ、まどかころした、……!」
中夜ちゃんの声は、遥か彼方に消えて聞き取れなかった。
耳の良い奏撫ちゃんもきっとそう。
オシオキ場所へ連れていかれる際中夜ちゃんはずっと誰かを見ていたような気がするけど、ガクガクと不安定に揺れるその目では誰を見ているのかが分からない。
俺を見ていたような気もするし、あるむちゃんを見ていたような気もするし、全然別の人を見ていたような気も…。
✿ クロ が 特定 されました
オシオキ を カイシ します
✿ オシオキ 完了
「おい。今の裁判どういうことだよ。…本当に人形師が三人も殺したのか?」
「時計ちゃん…今のは私も、不自然だなって思うの。第三者がいるような、そんな予感が…」
裁判終わり、蒼太郎くんと奏撫ちゃんがモノクロックの元へと行き今回の裁判の不審点をあげていた。
しかし当のモノクロックは聞いているのかいないのか、悠長に口笛なんか吹いていて。
しかし、今回の裁判は極めて異例だ。
おかしい。おかしい。……そもそも、マジックの種明かしをするように毎回クロの反抗手口を説明する彼が、今回に限っては何も言わずに終わろうとしている。
「ありゃ…ダメだね全く聞いてないよぉモノクロックてば。都合悪いのかなぁ、あはは…」
「まあ、分かりやすくていいんじゃないかな…。今回は、謎が多かったしね…教えてよ、モノクロック」
「……あのねえ。もし仮に別のヒトがまどかくんを殺したんだとしても、どの道オシオキされるのは中夜ちゃんだったよお。同時に殺人が起きたとき、最初にヒトを殺した方が優先されるからさあ?…知ってたんじゃないのお?」
「知らない、俺シラナイ。そんなこと…というか重要なこと言わなすぎでは…?なんでそんな常識ですけどみたいな感じで…」
「常識でしょお!…っていうかあ、いいのお?オマエラ、気付いてないみたいだけどお…」
「中夜ちゃんの殺人に手を貸したヒトがいるとしたら、ソレはオマエラの中にいるってこと!…うぷぷ…愉快犯なのかなあ?絶望的なことをするヒトもいるもんだねえ」
「いいのお?いいのお?そんなことを証明したいのお?友情!努力!絶望!それこそがオマエラの求める代名詞なのにさあ!すぐに仲間を疑うことがクセになってんだねえ!」
うぷぷぷ、と笑う声が反響する裁判場。
……疲れきった俺の頭は最早、何も考えられなくなって。
ただ幸せだったあの瞬間を、幾度も思い返してしまうだけだった。
4章【歓迎を裁つ事気付かず】