奏瑛視点
流星くんが麻堂くんを抱き抱えて他の部屋に移動したすぐ後のことだ。
ユキちゃんがねぇねぇとモノクロックに話しかけていた。
「さっき死体の回収場所はまだヒミツって言ってたけどぉ、それっていつかは教えてくれる〜ってことでいいの?」
「う〜ん、気分だったらねえ。オマエラって案外図太いんだもん」
「図太いとか、えぇ、アンタがそれ言う?一応人並みの神経して生きてきたとは思ってるんだケド…」
「あはは…多分、時計さんの言う図太い、は違う意味なんじゃないかなぁ…?」
「美織くんの思う意味でも、えがきちゃんの思う意味でも、嫌味には変わりないと思うわ」
そうでしょ?と答え合わせのようにグレイちゃんがモノクロックに聞くと、モノクロックは大きく頷いて仁王立ち。
「図太い!図太いよお、だっておかしいでしょうまだ13人も生きてる!ボクの予定ではもう8人くらいの予定でさあ…」
その態度と言葉に思わずため息をついてしまった。
たまに一味違う優しさに触れることあれ、やはり彼は彼でその何者にも変わりないんだ。
奏撫ちゃんもこめかみの辺りを軽く抑えながら呟く。
「…あのね、私達からしたらもう13人も死んじゃってるんだよ…?それなのに、時計ちゃんはまだ満足してないの?」
それに言葉を返すことなかれ、もちろんだ、と言いたげに裁判場を出て、廊下に備えられた窓を見る。
何も変わらない大きな大きな桜の木がそこらに立っていた。
……でも、こんなに生えていただろうか?
「…歌方さん、暁美さん。皆さんも。そろそろ、休んだ方が良いかと…私が此処で待ってますし、皆さんはどうかご自愛ください。…知識はあっても治療技術は兼ね備えてませんので倒れられては困りますから」
『そんな!ささめくん一人に任せられないよ、俺も残る!…ダメ?ダメって言っても、残るけど…』
「んじゃ俺は二人に任せて先に休んでようかな。あ、一緒に行く?オレーシャさん」
「……ええ。お部屋の前までお見送りさせてほしいわ、未依葉くん」
お先に♪と手を振って裁判場から出ていこうとする未依葉くんはどこか顔色が悪くて。
心配から思わずその細い腕を掴んでしまう。
「…奏瑛?未依葉くんがなにかしたのかしら…?」
『あ、いや…ただ、冷や汗かいてるみたいだったから具合悪いのかなって思って』
「え〜?そうかな、そう見える?」
やっぱりそうだ。いつもの笑顔じゃなくて今の笑顔は、なんていうか…こう、無理をしてる感じ。
「……。…はは。…実は、あーゆー死体はあんまり好きじゃなくてね……だからあんまり、見ていたくないんだ。………ごめんね」
「…ううん。謝らないで、未依葉くん。無理していつも明るくいる必要は無いんだもの…おやすみ、また明日ね」
奏撫ちゃんが優しい微笑みを浮かべると、少し安心出来たのか未依葉くんの肩から力が抜ける。
おやすみ、と返して彼は今度こそ裁判場から出ていった。
いつもなら後ろをついていくオレーシャちゃんも、今ばかりは彼の横について移動する。
見世物じゃないとでも言うように自身の体で未依葉くんを上手いこと隠しているあたり、本当に彼の事が好きなのだろう。
彼らが出ていくのと同時に、少し後ろからこそこそ話をするような声量で話してる声が聞こえてくる。
「小鳥遊さん、大丈夫?」
「……ぅん。」
「…大丈夫じゃないみたいだけど。…そっか、…小鳥遊さんも、無理しない方がいいよ」
「ぅ、ん。……ぃ、一ノ瀬くん…も、……」
「………うん、お互い様にね」
それきり、会話は終わったのだろう。
肩を並べて裁判場を後にした。
出て行きざまに琉霞くんが何かを呟くと、あるむちゃんは一度肩をびくりと揺らして顔を抑える。
きっと、泣いてるんだろう。…そう思うと、はじめてちゃんと泣いているところを見たな、なんて。
そうして遂に、残ったのは俺と莎莎匁くんの二人だけ。
厳密に言うならモノクロックもいるんだけど、今は俺達と会話をする気がないのか、離れた場所で座ってる。
少しも動かないその様子がまるで壊れた時計仕掛けの人形みたいで、ちょっとだけ背中に冷たいものが流れたけれど。よく見ると呼吸するように小さく体が上下していたから、きっとただ黙ってるだけなんだろう。
「そういえば…歌方さん。二藤さんとはその…お付き合い、されていたんでしょうか?肝試しの際どこか距離が変わったような気がしまして」
『…ううん、付き合ってなかったよ。でも…あはは、情けない話なんだけど。俺、きっとまどかくんのこと好きだった…、…って、今更ね』
「失ってから気付く恋だとしても、ちっとも情けなくなんてないですよ。とはいえ辛いことを聞いてしまいましたね、すみません」
『あ、気にしないで!不躾だけど失った、って点ではゆずくんも一緒だし…むしろ、俺は君の方が心配だなぁ』
そうですか?なんて言ってくすくすと笑う彼は出会った頃から大きく変わることはない。それでもふとしたときに思い出してしまうのは、一番最初の悲劇の上の、莎莎匁くんの顔だった。
感情が追いつかず、どんな表情を浮かべればいいのか分からないといったあの……完全な無でもない、複雑で、悲しそうな顔をした莎莎匁くんのことが忘れられない。
もし、心配させまいと我慢してるなら。
もし、警察官として在ろうとしてるなら。
他の誰でもなく、俺が支えてあげたい。
……まどかくん。俺はね、君とならもっと頑張れる気がしたんだ。この絶望的な状況から君と一緒に奇跡的に出ることが出来たとして、その先もずっと隣で君の頑張りと俺の結末を見てみたかった。
『本当は少しだけ、もう挫けたいって思うところもあるんだ。でも皆が俺を支えてくれてる。それがどんなに嬉しいことか、凄いことか、有難い事にもうとっくに分かってるから…だから、俺は前を向くことを辞めたくないんだ。もちろん気張り過ぎない程度で!』
『ねえ、ゆずくん。君もあんまり頑張りすぎないでね。君ばかりが頑張る必要なんてどこにもない、警察官としていなくたっていい。…せめて、此処では楽に息ができるように…俺の、大切な友達なんだから』
そういうと、莎莎匁くんは驚いたように目を見開いて固まった。かける言葉を探してるのか、口元だけが小さく動いているのが分かる。
ふ、と気の抜けた笑顔。
「貴方という人は本当に…なんて、希望だ。…もしも、本当にやり直せるとして。それでも私は貴方が紡ぎ、繋いだ然るべき未来の方を見てみたい。……今、此処にいる方々をすくっている貴方のお傍でね」
くすくす、さっきと同じ笑い方だけど。
眉と目尻を下げて安心したように笑う、ただの少年の莎莎匁くんがそこにいた。
俺達は顔を見合わせて笑う。
いつのまにか戻ってきていた流星くんが困惑したように此方を見ていて、いつのまにか隣に立っていたモノクロックが麻堂くんを抱えてる。
自室へと並んで戻りながら何の気なしにちょっとだけ覗き見た流星くんの顔は、スッキリしていた。
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