ユメミグサロンパ   作:24社長

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幕開け

美織くんの挨拶が終わるとよろしくね、よろしく、なんて在り来りな言葉が辺りに交差する。

 

一部睨み合ってるところもあれば、一方的に嫌悪感を露わにしているところはあるけれど、ほとんどの人は上手くやっていこうとしているようだった。

 

そんなのんびりとした時間に終止符を打ったのは突如体育館に響いた誰かの声。

その声は今俺の目の前にいる25人の誰にも当てはまらない、場違いも甚だしいほどに子供じみた甲高い声。

 

その声が耳に響いたのか、少し顔を顰める奏撫ちゃん。

声の方向はステージからで、全員がその先へと視線を投げるとそこには

 

 

「注目注目、全員ただちに注目しなさあい!」

 

 

『…は、』

 

「何ですか、アレ」

 

「と、時計…?ヒト…?」

 

 

思わず声を漏らす俺と、怪訝そうに見つめる夏月くん。

口に手を当てているえがきちゃんの呟き通り、声の主の姿はまさに異形そのものだった。

 

背丈は小学校高学年くらいで、服装は入園式や卒園式で着るようなフォーマルなもの。

その肌は指の先までが仄暗く、何よりも問題なのはその頭部だった。

 

家のような形をした時計がそこにあるんだ。

しかもその針は正確に時を刻んでいる。

いや、正確ではないのかもしれない。

本来動くべき方向とは真逆の方に針が動いていく。…反時計回り、というべきか?

 

 

「えー、みなさん!本日はゴソツギョーおめでとうございまあす!」

 

「……。」

 

「はは…卒業も何も、俺ら今はじめて会ったんだけど。」

 

「ね、ねぇ…アレ、なに?誰?」

 

 

蒼太郎くんが眉を寄せ、まどかくんが呆れたように乾いた笑いをこぼす。

そして不安そうな色を目に載せ、回りをぐるりと見渡すきるちゃん。

 

流星くんと琴梨くんの「子供?」という声と、琉霞くんと飛鳥ちゃん、美織くんの困惑する声が同時に聞こえてくる。

 

 

「…大方、被り物をした悪戯好きの子供が迷い込んだんじゃないの?」

 

「ぇ……そ、そぅ、なの…かな」

 

「そうよ、でないとわけが分からないじゃない」

 

 

そんな会話をする壱華ちゃんとあるむちゃん。

 

1人の呟きはまるで水紋のようにじわじわと広がっていき、やがて大きなざわめきに変化を遂げた。

 

最早誰が何を言っているのか分からなくなるほどに各々が騒ぎ出し、不安や恐怖を滲ませ、警戒する者や怯える者、逃げ腰の者から諦めたような者まで……。

 

そのざわめきは地を這うように低く、そして圧倒的な威圧感を含ませた子供の声によって潰される。

 

 

「うるさい」

 

 

それはたった一言。たかが一言。

されど、一言。

 

 

『……!』

 

 

時が止まったのかと思うほど、誰も動かない。声を発さない。

動けなくなって、発せなくなった。

 

魔法をかけられたのではないんだからしようと思えばどれも出来る。

しよう、と思えないだけ。

 

 

「どうでもいいことでわめくの大好きなんだねえ。ボクがおめでとうって言ってんだから、ありがとうって言うのが礼儀じゃなあい?」

 

「うぷぷ…ほうら、「ありがとうございます」ってさあ。…あれれ、言えないのお?」

 

 

そうしてまた「うぷぷ」と薄気味悪い笑い声を上げて、彼(?)は楽しそうに体を揺らす。

ステージから飛び降りてひとつ、ふたつ、みっつとこちらに足を動かした。

 

後退りしようにもなぜだか足が動かない。

 

地面に縫い付けられてしまったのか、掴まれてしまったのか、やはり本当に魔法をかけられたのか。

 

その場にいる全員、ただ目を動かし、はくはくと金魚のように口を動かすしか…。

 

 

「どうしようかなあ、どうしようかなあ…ボクねえ今ちょっぴり気分悪いんだあ」

 

 

「ねえねえ誰だっけ?ボクの頭を、あまつさえ「被り物」なんて言った不届き者!」

 

 

「オマエ?オマエ?それともオマエ?オマエのような気もするし、オマエじゃない気もする!」

 

 

マシンガントークをしながら子供のように無邪気に俺の顔を覗き込んだかと思えば、すぐに次の子の元へと行く。

スキップでもし始めそうなくらい軽い足取りで、あの子は順番に俺達に恐怖を持ってきた。

 

 

ピタリ。足音も笑い声も消える。

 

 

「オマエだろ」

 

「……っ、…何よ」

 

 

あの子の向いてる先にいるのは壱華ちゃん。

嫌な予感がした。

あの子は壱華ちゃんに手を伸ばす。

 

その手を止めようと思っても体が動かない。

突き飛ばそうと思っても足が動かない。

ただ、眺めることしか出来ない。

 

 

無力。

 

 

死という不穏な言葉を吐かずとも、その存在をこれでもかというほど撒き散らして彼はあいつは、子供の手が壱華ちゃんの顔に、

 

 

「…なあんてね!うぷぷ」

 

『…は…っ、』

 

 

伸ばした手を引っ込めて再び体を揺らしながらステージに戻っていく。

壱華ちゃんは依然として冷静な様子でいたけれど、その額にはじわりと汗が滲み出ていた。

 

 

「……アンタ、何者?」

 

 

麻堂くんがそう聞くと、あの子はどこからがマイクを持ち出して仁王立ち。

 

 

「ボクはこの学園の統率者のモノクロックだよお!」

 

 

声高らかに自己紹介。

まるで、数分前の俺達の真似をしているかのように。

 

 

「モノクロック…?」

 

「モノクロとクロックをかけてるんじゃない?ほら、白黒だし頭なんて時計だし!」

 

「あの時計解体したら大人しくなるんじゃないんですかね」

 

「や、やめた方がいいかと…」

 

 

どこに耳が付いているのかは分からないけど、あの子はしっかりとレディちゃん、葉金ちゃん、夏月くん、ラピスくんの会話を聞いていたらしく

 

 

「ちょっと!ボクへの暴力は校則違反になるんだからねえ!反省文なんかじゃ到底許されないよお!!」

 

 

…マイクを通して大声を出すもんだから、思わず耳を押さえてしまう。

また機嫌を損ねてしまっただろうか、とモノクロックさんを薄目で見るとブツブツと文句は言っているけれどそんなに怒ってはいないようだ。

 

 

「あ、あの…」

 

「きちんと挙手出来て偉いねえ、オヒメサマ!なあに?質問?」

 

「はい。えっと…ひとつ、聞きたいのですけれど。此処は一体…?学園とは…?」

 

「ああ…あ〜!コホン、よおく聞いてね」

 

 

「此処は【私立刻ヶ峰学園】。そしてボクがこの学園の一番偉い人!生徒はオマエラで全員。超高校級の才能を与えられた、国に選ばれた生徒!」

 

 

私立刻ヶ峰学園

その名前にやはり聞き覚えはなかった。

他のみんなも同じなようで、顔を見合わせたり首を傾げたり…

 

 

『え?生徒、これだけ?』

 

「…………少ない。学園は、広いのに。」

 

「うぅん…僕、起きたら此処にいたからなぁ…どうやって来たんだろう?」

 

「……アタシも、目が覚めたら此処にいたわ。その前のことはよく分からない…。」

 

「多分、みんな同じ状況なんだと思うなぁ…私も気が付いたら教室だったし。」

 

「そうですね、暁美さんに同感です。しかし、全員が此処にどう来たか…いや、そもそも此処に来る前のことを覚えていないのは不可解ですね。」

 

「は!も、もしや誘拐…?しゃしゃめくんの出番…!?」

 

「誘拐なんて人聞きの悪い!オマエラはちゃあんと自分の意思で、自分の足で、此処に来たんでしょお?ボクは関係ないもん!」

 

「では、君は僕達をどうするつもりだ?盛大な登場を披露してみせたのだしこれで終わりだとは言わないだろう?」

 

「ま、まさか…お、俺食べ、食べても美味しくないよ…?」

 

「どうもしないよお。ていうか食べないし!オマエラ同士で好きに交流してこの学園の中で好きに過ごしてくれればボクは文句ありませえん!」

 

 

「まあ、"この学園から出られない"し半強制といっても過言じゃないんだけど。」

 

 

はたり。

待って、今、なんて。

「出られない」って、言った?

 

 

「ねぇ統率者さん、出られないってどういうことなのかな…?」

 

「そのままの意味!窓は割れないし開かない。いくらマジシャンのオマエでも脱出は無理だよお!」

 

「それじゃあ私達はいつまで此処で生活すれば…?」

 

「さあ?いつか出られるんじゃないかなあ。歴史に残る生活にしようねえ!」

 

 

「つまり、体のいい監禁って事か…」

 

「出られない、とか、ああもう」

 

 

琉霞くんと美織くんの悲嘆に塗れた声を最後に、俺はそこから先をよく覚えていなかった。

ただ分かったことは「俺達は学園に閉じ込められた」ということ。

 

蒼太郎くんの小さな小さな、「ふざけるな」という言葉に俺は心の中で賛同した。

 

そう、あの子は…モノクロックさんは、ふざけている。ふざけていることを当たり前のように言うから意味が分からないんだ。

 

今日から1ヶ月の自由期間。

モノクロックさんは干渉しない、と宣言した。

 

「青春をすることが仕事だ」なんてどこぞの熱血教師のような事を言って俺達の前から姿を消した。

 

残された俺達はなんとも言えない空気を感じながらも、各々集まりあって会話を交わす。

壱華ちゃんは特に、…いや、第三者の俺からはあまり言わない方がいいのかな。

 

とにかく酷く不安な気持ちのまま、俺の学園生活は幕を開けたんだ。

 

1ヶ月は何もしない。

それなら、1ヶ月を過ぎたら?

…俺達はどうなってしまうんだろう。

木目の床が笑っているような気がして、俺は目をそらすように前を向いた。

 

 

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