_____
随分と分かりやすくどうして?…なんて、聞きたそうな顔をするのね。
どうせアタシの負けなんだし、教えてあげようかしら。
まずね、アタシは流星を狙った。
適当に「力仕事を手伝ってほしい」って言ったら二つ返事で簡単に引き入れてくれたわ…拍子抜けだった。
多少は警戒されると思っていたもの…。
そうして作業中にしゃがんだところを殺そうとしたのよ。…失敗したの、タイミング良く避けられて…アタシが、流星を殺そうとしたことが流星にバレてしまった。
でもねそこで誰か人を呼べばいいものを、流星はアタシに殺されてくれるかのように振舞った。
憎みも恨みもしない…むしろ、…そう言われたら、その厚意を踏みにじるわけにはいかないでしょう?
……死ぬ間際、「ありがとう」って言われたわ。
アタシは別に流星の為に動いたわけじゃなかったのに。
ああでもそうね。…なんとなく、覚えてた漫画の通りに殺したのは…情けだったのかもしれない。きっと苦しむことなく、直ぐに死ねたでしょうから。
そうして、少しの余韻に浸っていたら。
きっと約束場所に現れない流星を探しに来たのね。Greyが多目的室に入ってきたの。貴方たちだってこれがどういう意味か分からないほど、もう無知じゃないものね。
見られたのよ。殺害現場。
見られたから、殺したの。
だってアタシバラされるわけにはいかなかった…。
でもGreyは別に死にたがってたわけじゃない。
むしろ、生きたかったんじゃないかしら?
生きようとしていたからこそリハビリについて知ろうとしていたんだと思うわ。
当然だけれど抵抗されて…そうね、奏撫の言う通り。…ほら、アタシの腕…白いから痣も見やすいでしょう。Greyの手の形なのよ、一体、あの体のどこからそんな力を出したのか…
痛みのあまり、だったか…それとも殺意のあまり、だったか…突き飛ばしたら鈍い音を立てて、Greyは死んだわ。
……これが、アタシが二人を殺した方法とその流れ。
何かわからないことはあるかしら?
_____
「…まず、ですが。二人も殺したことに対して罪悪感はありますか?」
厳しい顔をしてオレーシャちゃんを問い詰める莎莎匁くんに、思わず生唾を飲んでしまう。
それほど今の場は冷たく下がっていた。
「いいえ?だって二人までなら殺したって構わないのよね、モノクロック」
「うん!そうだよお、ちゃ〜んとボクの話を聞いてた証拠だねえ、えらいえらい!」
貴方の大嫌いな"ルール違反"では無いもの、とせせら笑ったオレーシャちゃんはそのまま首を傾げる。
「大体、殺人の目撃者を生かしておく馬鹿がどこにいるのよ」
そんな、あまりにも…残酷な言葉の裏でいつものように佇むオレーシャちゃんに、はじめての恐怖を感じて。
何も言えなくなってしまって、ただ、手元に視線を落とすことしか出来なかった。
「えっ…とぉ、それじゃあ、動機は?動機、きっと何かはあるんだよね?」
「レディさんを殺したことは偶然にしても…不知火さんを狙ったことには理由があるはずだよ」
考えるようにして、オレーシャちゃんは口を開く。
「…アタシの可愛い可愛いお人形ちゃんを、助けてあげるため。動機はきっとこれね。…流星を狙った理由なんて無いわ、誰でもよかったの。都合が良かったのが、流星だっただけ」
「アタシが一目惚れしたお人形ちゃんはね、家事で焼けて失くなっちゃった。もう一度会いたい…もう一度触れたい…それこそ目に入れても痛くないほど可愛かったんだもの、…アタシの後悔は誰よりも強いのよ!」
「貴方たちと生き残って、なんて…そんな悠長にしてられないの、次はアタシが殺されるかもしれない…そんなの嫌!アタシは早く此処を出て早くやり直すって決めていた、だって待ってられなかった…」
「…親しい子達と大好きな人形を天秤にかけたとき、遥かに大好きな人形の方が重かったわ。ならとっとと誰かを殺して人数を減らして少しでもアタシがやり直せるように!…上手く行けば、バレなければ、このままやり直せるはずたったから!」
「後悔のために人を殺した。やり直すために人を殺した。自分のために人を殺した。ええそうねこれが全てかもしれない。でもこれってそんなにおかしい事かしら?だって今までもずっとそうだったじゃない!」
言葉を区切り、肩で息をする。
聞いたことの無い声量で叫ぶオレーシャちゃんは、その白い顔を真っ赤にして俺達を睨みつけた。
そんな彼女に返事をしたのは、美織くんだ。
「…おかしい事だよ、どう考えても。人を人が殺す理由におかしくない事なんてあるわけない!……俺、は。お前は誰も殺さないと思ってた。…お前にだけは誰も殺してほしくはなかった…!」
オレーシャちゃんは静かに美織くんに目を向けて、そして………
一気に、豹変した。
「うる……っさいなぁ!!!関係ないでしょ…!?アタシが誰も殺さない…?殺してほしくなかった…?そんなこと押し付けんな、勝手に分かった気にならないでよ!!!」
「大好きなお人形ちゃんのためにアタシは動いただけ、人間以外の物が恋愛対象なのってそんなにおかしい事なの!?そうやってアタシの否定してばっかで楽しいのかよ!!!」
「アタシはただ…お人形ちゃんが大好きで、大好きで、大好きで、たった数ヶ月一緒にいた貴方たちよりもずっと大切だっただけ…」
「会ってちょっとしか経ってない貴方たちとこのままチャンスが来るのを待つくらいなら、人生を狂わせてくれたお人形ちゃん達を取り戻すチャンスを自分で作ろうと思っただけよ!!行動もできない意気地無しに説教されたくないわ!!!!」
ふぅふぅと興奮して荒い息を繰り返す。
ギリ、と音が鳴るほど強く証言台を握る彼女はまさに鬼の形相で、ビスクドールのように綺麗な表情は一変して般若の面のように恐ろしかった。
「…ぁ、…ォ、ォレーシャ、ちゃん…?な、なに…こわ、ぃよ…?ぉ、落ち、落ち着ぃて…!」
「っ…ホーネットちゃんっ!…もう、分かったから…もうこれ以上はやめて!」
『…ねえ、オレーシャちゃん。みぃはくんのことは?…ずっと、着いていくくらい…好きだったんじゃないの…?人間以外の物が恋愛対象だとしても、…人間のみぃはくんのことは、…ことだけでも、大好きだったんじゃないの?』
俺の言葉を聞いたのか、吠え続けていたものを止ませ、必死に落ち着こうとぐちゃぐちゃの頭を整理しているようだった。
悔しそうに唇を噛む。
誰よりもやり直すことを望んでいたんだろう、やり直したいと願っていたんだろう。
…俺達が暴いたせいで、その夢は断ち切られたんだから。
何分か経った頃、オレーシャちゃんはすっかりいつもの表情に戻っていた。
アームに引きずられて服を汚したくないと言って、自分の足でオシオキ場へ向かうようなことを言っていた気がする。
……歩きながら、聞いていた。
「…ごめんね未依葉くん。アタシ諦めきれなかったの…でも貴方なら、いつもみたいに笑って許してくれるでしょう…?」
「………オレーシャさん」
「どんなオレーシャさんも好きだったけど、今のオレーシャさんのことは俺…すごく嫌いだよ」
「君という人間は最悪すぎる。不快極まりないね」
「……………」
「そう」
✿ クロ が 特定 されました
オシオキ を カイシ します
✿ オシオキ 完了
遂に、半数以下になってしまった。
あまりにも減りすぎた生きている人間と、あまりにも増えすぎた死した遺影。
ここに入ってくる度、何人がいなくなってしまったのかが嫌でも分かってしまって…だから、これ以上は何も起こってほしくない。
「うぷぷ…さらなる絶望がオマエラを襲うよお!これは未来予知!うぷぷ…うぷぷぷ…」
そんなことを言って出ていったモノクロックを誰も見ようともしなかったから、手で押さえた口元が、小さく歪んでいた人がいたことを誰も知ることは無かった。
5章【星花で飾るスノーグローブ】