日常①
未依葉視点
「あれ?今日の当番は奏撫ちゃんだけ?…あ、おはよう!」
「おはよう、奏瑛くん。彼処で未依葉くんが手伝ってくれてるから実質二人でお当番してる…かな?」
そんな会話が聞こえてきて戸棚の影から朝の挨拶をしたら、彼ってばうわ!なんて言って驚いたみたいだった。
ひょっこり顔を出した俺が思ったより近くにいてびっくり仰天!…そんなところかな?
『10人分のご飯を一人で準備しようとしてたもん、流石に見過ごせないよ。俺としても、友人としても…ね♪』
暁美さんは俺を見て歯痒そうに笑い、歌方さんは洗い物は任せて、と腕捲りをしながら流し台の前に立った。
水を吸い少し重量の増したスポンジを手に取り、泡を含ませて……と、ぼんやり眺めながら直近の出来事について思いを馳せる。
もちろん、ちゃんと手伝いながらだよ?
彼女のことは嫌いじゃなかった。
むしろ好意的に思っていたんだと思う、今でも気を抜くとつい、後ろを見て名前を呼びそうになるくらいには。
自分でも肯定すると思っていたし、受け入れられると感じていたし、許せるもんだとどこか達観していた。実際理由が違えば、きっと俺はこのどれかを実行していただろう。
たった独り、君の小さな心で耐え続けるには重すぎただけだった。けれど、……ダメだよ、オレーシャさん。それはダメだった、…。
魔法使いは神じゃない。全部を守れるほど有能でもない。失ってほしくないものまで、これでもかというほどボロボロとこの手からこぼれ落ちていく。
それでも未だ掬い上げることの出来た君から手を離し、下へと落としたことは紛れもない俺の意思、ではあったけど
今世は魔法使いだった。
だから、
『……そうだ、来世は神になって…お客様方を守るのもいいかもね』
独りにならないように、なんて出された声は思ったよりか細くて、か弱くて、普段より少しだけ上擦った音は宙に溶け込んでいく。
そんな不透明な俺の声に歌方さんは首を傾げていたようだから、なんでもないよとだけ返して取り皿を手に食堂へと移動する。
へらり、そんな適当な笑顔じゃあ騙されないことは知っていたけれど。
すれ違いざま、囁かれたもの。
「…来世も、その次も、その次も。世界が止まるまで…君は独りじゃないからね」
……流石、耳の良い暁美さん。
不透明じゃなくて透明だったなら、君にも聞こえることはなかったのかな。
優しい言葉を丁寧に噛み砕いて飲み込むと、小さく鼻の奥が痛んだような…、……気がした。