奏瑛視点
出来上がった料理を持って食堂に行くと、俺が通ったときよりも賑わいが増していた。
「ぁ……ぉ、ぉは、よ!…ぅ、…ぇと、星霰くん、ぃ、一ノ瀬くん」
「…おはよう、小鳥遊さん」
「おはよ小鳥遊、小鳥遊は朝食の準備お手伝いしなくていいの?」
「………ぃ、今、ぁの……行こぅとしてた!」
「おや、おはようございます宇留賀さん」
「おはよぉ楪くん!…あ、終夜くんと夢描ちゃんもおはよ〜う!」
「ふふ…おはよう、宇留賀ちゃん、歌方くん、終夜くん」
「朝からうるさい、………はぁ…」
そんな各々の日常に消えていくやり取りを見聞きしてくす、と思わず笑みが溢れてしまう。
お菓子を買ってもらえるまで強請り続ける子供のような諦めの悪さと、負けを認めることを知らないペテン師のような底意地の悪さ。
笑顔こそは最大の憩いであって、笑顔こそが最高の希望なんだろう。……そうだといいな
___数十分後
「いやぁ今日も美味しかったねぇ、特にゆで卵!僕のリクエスト聞いてくれてありがと!」
「ふふ、どういたしまして。そう言ってもらえるのは嬉しいな」
「…ああ、やっぱり無理ですねこれ。そもそも木工用ボンドではたかが知れてますし」
「深作さんの部屋に陶器用のボンドとか…無いかな、さすがに。あれば助かるけど…」
「……ウワ、小鳥遊ってばまた綺麗に壊したんだ。もうある意味器用なんじゃないの?」
「……?…楪くん達は、何をしてるんだろう?」
『あーちゃんのマグカップの取っ手、取れちゃったみたいで…直すのに四苦八苦してるみたい』
朝食を終え、腹休めに少しばかり食堂でそのまま皆で駄弁り続けることにした。
えがきちゃんと話す今も視界の隅にずっと小さく縮こまってしまったあるむちゃんがいて、彼女には悪いけれどそれが少し面白い。
ふふふ、と溢れる笑みをなんとか抑えようとすると自然と頬に熱が篭ってしまう。
…ふと、えがきちゃんの顔を見ると彼女も同様に少し顔を赤らめていた。
……え?なんで?
そしてそれは、いつも周りをよく見ている琉霞くんも目にしていたようで。
「……ねえ、夢描さん、熱あるんじゃないかな。気分良くなさそうじゃない…?」
「……うう〜…」
熱、と聞いた俺はパッとえがきちゃんに向き直る……よりも早く、奏撫ちゃんの元から飛んできたユキちゃんがえがきちゃんのおでこに手を当てた。
「……あっっっつ!ちょっとちょっと、具合悪いなら無理しちゃだめでしょぉ!」
「ち、知恵熱以外の熱は久しぶりだな……わたし、熱あったの…?」
目を丸くして伏せるえがきちゃんは、冷たくて心地よかったのかそのまま一度だけユキちゃんの手に擦り寄って椅子に座る。
負けないくらい赤くなったユキちゃんだけれど、すぐに冷静になったようで冷えピタ取ってくる!と保健室に走って向かっていった。
「…あれ?お客様もなんか顔赤くない?」
「あ、マジ…いや、マジじゃん。……って、マフラーで顔隠すとか、かえってあからさまデスヨ…」
「…………あ?」
何見てんだ、…そう毒づくのはもう慣れたもので、はいはいなんて受け流すこともできるくらいには一緒にいるけれど。
「っ、おい……触るな!やめろ気色悪い!」
「そんな事言ったって、熱があるなら安静にしてなきゃ。…ね、蒼太郎くん、おでこ出して?」
「風邪…でしょうか?終夜さんは分かりませんが、夢描さんはかなり熱が高いようです」
「で、でも…ふた、ふ、2人も?急…だよ…?」
『うん、よく考えたら今まで誰も体調崩さなかったのは正直、奇跡というか…疲労とかかもね』
……ただの熱か、風邪か、あるいは。
そんな不安と心配が場を支配して……。
「お〜!バッチリ効いてるみたいだねえ」
蒼太郎視点
ガンガンと響くモノクロックの声が聞こえてきて、漸くこの体の異様な不調の原因を悟った。
身体に篭もる熱を放出するために首元のマフラーを外そうとしても、いざ首元を開けるとほんの少しの風でさえ総毛立つほど気分が悪くなるから結局元の格好に戻ってしまう。
…クソ、クソ、クソ、なんだって急に…本当に余計な真似しかしねぇのか
重心がどこかも分からず、果てには無駄な正義感に溢れた俳優に介抱される始末。
最も悪いと書いて最悪とはこの事だ、きっと、絶対。
「うぷぷ……蒼太郎くんも人の子だねえ、おかげでボクは満足したよお!えがきちゃんもとっても苦しそうだもん!」
うざい、うるさい、ムカつく
ヘラヘラしてるその態度にも、どうせ偽善のくせに心配そうな顔してる超高校級共にも!
そう言葉にするのも面倒で、罵詈雑言の類のものは全て舌打ちの中に混じって消えていく。
「…もしかして、時計ちゃんがえがきちゃんと蒼太郎くんに何かしたの…?」
「流石に、やり過ぎだよ…。お客様方の体調不良はちゃんと治るんだよね?モノクロックさん」
「ん?ん〜、そうだなあ…あっ、タイチョウフリョウ…なんて、そんなに簡単なコトじゃなかったりして!」
パッと指を振るモノクロックに、思わずは?と声を出してしまう。俺が驚いたのに気を良くしたのか、鼻歌まで歌い始める。
「ボクねとっても暇だったの。夢とか後悔とか私怨とか…そればっかりで、まるで死んでるみたいだよねえ。ボクもーっと生きていたいもん!」
「だから思ったんだ、絶望エキス配合スペシャルプレゼントサプライズ…つまり、モノクロック印の「ウイルス」を蔓延させよう!……ってね!」
そんな、と死にそうな声が後ろから聞こえる。
目だけを向けると高熱で火照っているまま顔面蒼白になっている漫画家が。
…いや、これは、俺も他人事なんかじゃ終われない。
「待って、ねえそれは…命に関わるものなの?」
「全員感染して死んじゃうかも!ウイルス感染は馬鹿にできないよお、どの時代もいつの日も…怖いなら、オクスリ飲めば治るんじゃなあい?」
相変わらず人の神経を逆撫でする態度と絶対に思ってもない声色で上辺だけの応援をして、モノクロックは出ていった。
巫山戯て、喚いて、隠して、
お得意の手法だな…お前と……。
ただの刺激欲しさなら他がある、敢えてウイルスを選んだのには理由があるはずだ。
狙ったのか、無差別なのか、何のための戯れなのか……それを知ったところで俺は何もしないのには、結局のところ変わりない。
っ、とに…面倒くせーんだよ、全部
奏瑛視点
無理矢理自室に帰ろうとする蒼太郎くんを此方も無理矢理押さえつけ、えがきちゃんと共に一先ず保健室に連行する。
もし悪化してそのまま…となったら困るということで見張り兼看病組と薬を探す組に別れて行動することにした。
「誰も俺まで見てくれとは頼んでない、離せよ鬱陶しい」
「いやそうは言うけど、アンタ自分が何度熱あるのか分かってんの?」
「ユ、ユキちゃん…は、ぃ、ぃかなぃ…?ぇ、ぇがきちゃ、見る?」
「んーん。薬探しに行く」
「宇留賀ちゃん……ごめんね、ありがとう」
「…よし、それではとりあえず1時間、探索に出ましょうか。ペアで行くか個人で行くかはおまかせします、…で、良いですよね?」
『うん!早く見つけて、治してあげなきゃだし…俺頑張るよ』
保健室に残って二人を見てくれるのは
奏撫ちゃん、琉霞くん、未依葉くん。
薬を探すのが、俺、莎莎匁くん、ユキちゃん、あるむちゃん、美織くんだ。
あるむちゃんは誰かと探したかったらしかったけれどユキちゃんに断られてしまっていて、見かねた莎莎匁くんが誘っているのを見た。
『よし、じゃあ手分けして薬を探そう!1時間後に保健室に集合ね』