遂に、私の左右は遺影になってしまった。
奏瑛くん…夏月くん…二人とも、私にとってはかけがえのない大切な人。
見ててね、私の勇姿を。…なんて、自分で言うことじゃないか。
「時間は無限じゃない。死因が、アリバイが、…ほら、とっとと話せよ」
「…終夜さんから切り出すなんて、珍しいね。何かあったりしたのかな」
「うるさい、いいから早くしろ」
「ええっと…歌方くんの死因は、転落死だと思う…!静野くんたちも言ってたけれど、落ちたか落とされたか…じゃないかな」
「故意だったら咄嗟の事だったのかもね、何があったのかは、まだ分からないけど…♪」
奏瑛くんは階段の下で倒れてた。
だから、死因は転落死で確定してもいいんじゃないかな…。
それ以外の死因は、彼の遺体からは考えられなかったもの。
落ちたか、落とされたか。
「ぁ…ぁのねっ!…そ、のこと…な、なんだけど…」
「ぅた、歌方くん、ね。落とされ、たと思ぅ…。ぅ、受け、身無しで…落ち、落ちるのは、ぉかしぃ…よ、きっと…」
びくびくと震えているけど、その音は確固たる自信を秘めているようで…あるむちゃんは、自分なりに真剣にこの事件について推理しようとしているみたいだった。
もし、私が足を滑らせちゃって階段から落ちそうになったらどうするかな。……うん、多分、慌てて手摺を掴むだろうなあ…
『確かに、何の抵抗も無しに落ちるのはおかしいかも。奏瑛くんって運動神経は悪くなかった気がするもの』
「咄嗟に突き飛ばしたり故意に突き飛ばしたりするんであれば、この学園の階段でも死亡させることは可能です。事故であれば条件があるのでそう簡単には死なない…と、以前見聞きしたことがありますね」
「そっか…じゃあ、やっぱり突き落として殺したってことになるのかな。次は時間帯だね、最後に歌方くんと会ってた人って…誰だろ?」
「星霰さんだった気がする。君、歌方さんと一緒に体育館倉庫に見回りに行ってたよね」
「え?あ、うん…でも、何も変わってなかったから歌方と一緒にすぐ帰ったよ。その後のことは知らない、俺も一人でいたし…」
「そっかぁ…でも、アリバイがないなら星霰くんには犯行が可能って事になっちゃうよね〜」
じと、と疑うような目を向けるユキちゃんに美織くんは慌てて有り得ない、と言葉を返す。
「それなら宇留賀はどうなの?ていうか、宇留賀に限らず全員が何してたか気になるけど」
「僕?僕は……」
「宇留賀ちゃんはずっとわたしと食堂にいたよ。ほら、わたしウイルスに感染しちゃってたし…宇留賀ちゃん、あの後も心配してそばにいてくれたの」
本当?と聞くと、ユキちゃんはコクリと頷いた。
二人は仲が良かった印象があるから、友達があんな目に遭ってたら私でもそばにいようとするかも。
「んん…と、それじゃあお客様はお昼過ぎまでは生きてたってことでいいのかな?」
「死体発見が八つ時でしたし、そういうことになるかと。昼食後、何者かに殺されたんでしょう」
…証拠は、それ以上出てこなくて。
かろうじて突き止められたのがこの事件は他殺であることだけ。
後頭部からの血が、階段の角に付着していて…でも、その他のめぼしいものは何も見つけられなかった。
『ね、誰か…なんでもいいよ、何かおかしいところとか違和感があるところとか、無かった?』
皆が顔を見合わせている。
「多分、突発的な事だからほとんど証拠なんてないんだと思う。その身ひとつでの殺人だろうから…」
「ん、ん…小鳥遊も、そぅ思ぅ…だ、誰か、見て…見てたり、しなぃの…?な、なんて…」
「さぁ…その可能性は望み薄ですね。違和感…と言いますか、不可解なのはやはりモノクロックのばらまいたウイルスですけど」
裁判官席に座ってゆらゆらしていた時計ちゃんは、莎莎匁くんのその言葉を聞いて動きを止める。
まだ言ってるの、とうんざりして。
「そもそも、わざわざ発熱剤を利用してウイルスなんて偽ったこと自体違和感ありありなんだよ。……もう一度聞くが、アレは何の為だった」
「……もう!理由なんてどうでもいいでしょお、どうせ後で分かるんだからさあ」
ぷんぷんと効果音が出そうなくらい、可愛く地団駄を踏んだ時計ちゃんはそれきり干渉しなくなってしまった。
ウイルス、…なぜだか、今回のことと無関係とは思えなくて…それがすごく怖いけれど、今は目の前の謎を優先しなきゃ。
「あ!…そうだ、ウイルスと言えば宇留賀さん、解熱剤見つけられた?」
『解熱剤?あ、ユキちゃん、あの後もお薬探してくれていたんだね』
でも、なんだろう。
小さなノイズが鼓膜をくすぐって、
…違和感が、ある。
「いや、…でもそれおかしくないですか?だって、それだと先程の夢描さんの証言と矛盾しますよ」
『……確かに…』
「ふうん……ね、どういうこと?夢描」
莎莎匁くんの指摘に美織くんが髪をふわりと揺らしてえがきちゃんを見る。
その目を見たえがきちゃんはびくりと肩を揺らして、そして言葉に詰まった。
ドキ、ドキ、と変な音を立てる心臓が少し苦しいけれど、私も必死にえがきちゃんに聞くの。
『…一緒に、いなかったんだよね?本当は』
でも、えがきちゃんは何度も何度も首を横に振って、否定する。
「……いたよ、いたの、…わたしはっ、」
「アウトだよそのマジック♪」
…そして、その否定を否定するのは未依葉くんだった。
彼はにっこりと笑って手を広げる。
「やっぱり道化は向いてないんじゃないかな♪…いつまで庇うつもり?俺が水を取りに食堂に寄ったとき、夢描さんは一人だったよね」
「それとも…宇留賀さんを利用してまでアリバイ、作りたかったの?」
えがきちゃんはその大きな目を揺らして、酷く動揺する。
音が、聞こえて
困惑する音、怯える音、……
「ねえ、夢描ちゃんをいじめないでよ」
ほんの少しの、どろどろとした音