希望の終わり
あれから1ヶ月。
俺達は驚くほどすぐに打ち解けることが出来、中にはなんと恋人にまで進展した子もチラホラと。
それぞれがグループのようなものを作って集まったり、特定の子を連れてあちこち探検したり…その光景はまるで本当に、ただの学校生活と何ら変わらないようなもの。
唯一違うところと言えば、全員が「超高校級」という点だけかな…。
自己紹介の時は名乗らなかった子達もきちんと才能を持っていたみたい。かくいう俺も実は超高校級のミュージカル俳優だったり!
そう、ええと…他の子の才能は例えば不運とか美化委員、ベビーシッターに少年漫画家、ビスクドール作家やハッカー、ブライダルモデルとかドラムメジャー、あとは歴史研究家だとか芸能人オタクだとかもいるみたい。
気象学者とか特撮ヒーローとかマジシャンとか…仲睦まじい様子の高貴な2人はプリンセスと執事なんだって。
自己紹介の時は聞けなかったけれど、この学園に囚われた全員が才能を持っていることは事実だった。
約ひと月前のあの日にモノクロックさんが言った言葉に嘘偽りはひとつもない、だからこそ俺達はモノクロックさんに対して不信感が募っていったわけなんだけれど…。今のところ平和に過ごせているのも、また事実だ。
そんなこんなで結局はいろんな子にあだ名を付けられるくらいには仲良くなれていて、はじめは不安だらけだったこの学園生活も、外に出られないことを除けばかなり良いものだった。
食料は目玉が飛び出るかと思うほど多いし(モノクロックさんによれば腐ることはないらしい)、お風呂や洗濯機もあり、更にはそれぞれのプラカードがかかった個室なんかもあって衣食住について困ることもない。
「……あるむ、着いてきて。こっち。」
「ぅ、ぅん!ちゅ、中夜ちゃんにつぃてく!」
「夢描ちゃん夢描ちゃん、美術室行こぉ」
「美術室?いいよ、行こう」
行動を共にしようと誘い誘われ、引き引かれで教室から出ていくうさみん、あーちゃん、ユキちゃん、えがき先生。
微笑ましい姿に思わず頬を緩ませてしまう。
そんな俺の顔を見て、どう思ったのか近くにいたまどかくんは頬を抑えて「うわ…」と声を漏らしていた。
数時間はゆっくりとした時間を過ごせていたんじゃないかなぁ。
麻堂くんの怪我の様子を見るりゅーちゃんとか、壱華ちゃんの隣に座って笑顔を浮かべているゆずくんとか…「カップル」の彼ら彼女らをただボーッと眺めるだけでも、面白いものだった。
廊下を見るとことくんとみおくんが話してる姿や、アンジュちゃんとラピスくんが外の桜を眺めている姿が目に入った。
みんなも1ヶ月の間にだいぶ落ち着いたようだ。
このゆっくりとした穏やかな時間をぶった切ったのは、懐かしさすら感じる在り来りなチャイムの音。
《オマエラ全員、体育館に集合しなさい》
✿
「1ヶ月楽しかった?」
そう聞くモノクロックさんに俺達は軽く頷いてみせた。
この子は子供以上に子供っぽく、質問に対して答えを返さないと金切り声をあげて暴れ始めるんだ。これは多分全員が得た知識。
「何か用でもあったのかしら、わたしたちを呼んで…」
「あーし、もう少し音楽室にいたかったんだけどな〜」
「私も。ピアノがあるだけ、楽しみもあるもの。」
首を小さく傾げるグレちゃんにやるせない表情のまま指揮杖を振るきるちゃん。
その2人に同調するのは奏撫ちゃんだ。3人は同じ場所にいたのかな、さっき同時に体育館に入ってくるのを見た。
俺達の訝しげな視線を知ってか知らずか、ステージ上にある教壇に手をついて話を続けるモノクロックさん。
まるで校長先生のよう、とは思ったけれど、その先に続く内容はお世辞にも校長先生のようとは思えなかった。
「オマエラってさ、実際は起伏のない日常ばかりでツマラナイって思ってるでしょお?」
だからそろそろ刺激をあげるよ、だって。
することも、やることもないこの場所で、ただ彼ら彼女らと話をし、絆を深める生活。
つまらないとは思わない。俺は、きっと。
……それでも、本当に?
舞台に立つこともなければ観客を前に演じることもない、ただの学園生活。
今までの日常が恋しいと思わないといえば、多分、それは大きな嘘になる。
ほんの些細なアクシデント。それすらも今や過大なアクシデントと感じるんだろう。
「刺激、か。刺激なぁ…この場合の刺激は、あまり良い方に期待しない方が良さそうだ。」
「なあんか嫌な予感!流星くんが怖いこと言うからかも、それとも元よりあたしの気のせい?」
「いえ師匠。師匠の嫌な予感はきっと正しいです。実は、私も…。」
「例えばさあ。……ああ、ちょっと静かに。」
俺達で言う、口元。恐らくそこに手を寄せシー…というポーズをとる。
それだけで十分静かになってしまうんだから不思議だ。どうにも、逆らえない。
「そう、良い子だね。でね、例えばの話。例えば、……その前にひとつだけ質問!」
「オマエラ、後悔してることある?」