ユメミグサロンパ   作:24社長

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絶望の始まり

ドキリ。不快な跳ね方をした俺の心臓は、正しい動きを忘れてしまったかのように不安定な動きを保ち続ける。

 

 

後悔だって?…いや、そんなこと、

 

 

その問いに答える人は誰もいなかった。

 

数秒、十数秒……

 

無言の時間が増えるたびに募るモノクロックさんからのあの、絶対的な威圧。

 

 

「ある」と言えばいいだけ。

 

言いたくないのなら「ない」と言えばいい。

 

でもどうしてもその一言が出せない。

 

出してしまえばきっと、もう、今度こそ逃げられなくなってしまうんだ。

 

 

「ねえ、ある?って聞いてるんだから何かしら答えるのが常識じゃないの?」

 

 

イライラという音が中に浮かび上がりそうなくらい、いかにも機嫌が悪いですみたいな態度をとるモノクロックさん。

 

もはやこの雰囲気がトラウマになっているのか、より強く怯えることくんが視界に入った。

 

それでもみんなは黙り込む。

俺はこの空気に完全に蹴落とされてしまっていたから。…他の人は?

きっと、他の人もそうだ。

 

人に言えないような後悔を抱えているとは思えない。こんなにも良い人達なんだから。

 

 

「…そんなに難しい質問じゃないと思うんだけどなあ」

 

 

ヒステリックなモノクロックさんは苛立ちを隠しもせずに教壇をトントン、と忙しなく叩く。その音をマイクが拾って静まり返った体育館に反響した。

 

短気は損気とも言うけれど、彼の場合は損すら得に変えてしまいそうで怖い。

 

教壇を一際強く叩き、モノクロックさんはそのままステージから教壇を突き落とした。

 

ドンガラガッシャンなんて可愛い音ではなく、鼓膜が張り裂けてしまいそうなほど膨れ上がった音。

 

モノクロックさんはその音よりも強く、大きく、けれど極めて静かに、控えめに。

言の葉を雨を俺達に浴びせてきた。

 

 

「後悔を消せるとしたら。誤ちを犯したあの日をやり直せるとしたら。過去に戻れるとしたら。そうしてそれを果たせるのが僅かな人数だとしたら?」

 

 

「ボクならオマエラの願いを叶えてあげられる。オマエラに渦巻く後悔という重しを退かしてあげられる。それでも、品定めはするけどねえ…だって、恩を仇で返されたら嫌だもん!」

 

 

「だからさあ、意志の強さと思いの強さをボクに見せてよ。選ばれた人間から更に選ばれた人間になるために。」

 

 

「…どうやって、見せたらいいの…?」

 

 

忍ばせたように呟くのは琴梨くん。

 

 

「ふむ、何か条件があるのだろうか」

 

 

真面目な表情で顎に手を当てているのはぶどーくん。

モノクロックさんの言葉に反応したのは意外な2人だった。

 

簡単でしょ、と鼻で笑う。

やれやり直しだの、やれ過去に戻れるだの、一見馬鹿げた話をこんな風に真面目に聞いている俺も俺で、案外やる気なのかも。

 

 

そんな考えも次の一言で打ち砕かれる羽目になるんだけれど。

 

 

「コロシアイだよお、コロシアイ。上手に仲間を欺けた人、もしくは他人の死を踏み台に最後まで生き残った人!そんな名誉ある人が1番、後悔に対する気持ちも強いと思うしねえ。」

 

「オマエラはね、持ってるでしょお?人を殺してでも無くしたい、脆くて儚くて淡い、濃厚で濃密な後悔がさあ!」

 

 

「コロシアイ」

 

 

言葉の意味を理解するより先に、

それにぶつかるように叫んだのは

 

 

「……っ、そんなの、ない」

 

「ええ、ありません」

 

 

美織くんとラピスくんだった。

正直かなり驚いた。それは、はじめて見る彼らの抵抗らしい姿だったから。

 

それ以上口を開くことは無かったけれど、彼らの言葉は酷くモノクロックさんを怒らせたようで。モノクロックさんが怒声を出すよりも早くに2人を守るように前に立ったのは、正義感の強いあの子とあの子。

 

 

「人を殺してでも無くしたい後悔なんてあるわけがないでしょう。それとも私の目の前で犯罪を犯す気ですか?いくら統率者と言えど、許しはしませんよ。」

 

「コロシアイで得られるものは名誉なんかじゃないわ!もしも誰かの命が危ぶまれるなら、あたしは命をかけて命を守る!それだけよ!」

 

 

ああ、本当に。

 

 

『かっこいいな……。』

 

 

あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。

それが間違いだと嗤うように、重要なものは何ひとつとして見えなかったんだ。

 

 

 

 

莎莎匁視点

 

きっと私は今日で死ぬのだな、と。

 

逃げるつもりはありません。

後ろには星霰さんとラピスさん、隣には壱華さんがいるんですから。

此処を離れてしまえば、3人を守ることが出来ないんですから。

 

それでもいいのです。肉壁になれるのなら。

一般市民を庇って命を落とす、これ以上真っ当な最期はあるのでしょうか?

 

モノクロックさんは私達を逃がしはしません。殺気がもう、此処まで。

 

私は更に一歩前に出て、3人の前に立ちました。

今日で楪莎莎匁は死ぬ。

警察官として警察官らしい、警察官の望む死に方を出来るのかと思えば自ずと心も晴れやかになったような気すらします。

 

 

「ちょっ、」

 

「動かないで。…私は、壱華さんのことも守りたいんです。それがエゴだとしても、壱華さんのプライドを傷付けることになるとしても。」

 

 

私はきっと笑っていました。

これで、終わりだと。

 

 

途端に体に走る痛み。

バランスを崩して床に倒れる。

生温かい何かに触れるたび、身体は急激に冷えていくのをただぼんやりと感じていました。

 

冥土の土産に彼女を一目見ようと目を開け、霞む視界の照準をなんとか合わせて…

 

 

ああ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

奏瑛視点

 

目を開けると、体を突かれぱたりと倒れ動かなくなった壱華ちゃんの姿が飛び込んできた。

 

 

『……あ、』

 

 

じわじわと広がる鮮血。

木目の隙間に入り込み、あみだくじのように伝ってその血はやがて、俺の足元で止まる。

 

 

何が、なに、何が起こって、

 

 

『ああああッ!!』

 

 

ソレを理解した瞬間ビリビリと震える空気。

 

張り裂けそうなほど鳴る喉。

 

嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!

 

嘘だ、これは夢だ、悪い夢だ!

 

 

人が死んだ。友人が死んだ。

 

先程まで生きていた彼女が死んだ。

 

動かない。動いていない。

 

血が止まらない。流れている。

 

突き飛ばされたのか、床に手をついている彼の横で小山壱華が死んでいる!

 

 

「………有り得ない。こんなこと、なんて。」

 

「オレーシャさん、俺の後ろにいなよ。次は俺達かもしれない。」

 

「また、……勘弁してくれないかないい加減にさ。…もういいよ、不幸なことは。」

 

 

ガチガチと噛み合う歯の音すら恐怖の対象で、俺は咄嗟に自分の親指を口に入れた。

 

それでも震えは止まらなくて、頬肉や爪、指の腹の肉を次々と噛んでしまう。

 

嗚咽が出、胃からせり上がってくるものを抑えつつ、摘まれた華から目が離せなかった。

 

 

「不知火さん、小鳥遊さん。…小山さんは、もう遅いのかな。」

 

「こ、こや、ま…小山、サマ?そんな、嘘でしょう…?」

 

「死んら、ったの…?いちかちゃん、血が、たくさん、………。」

 

 

誰よりも早く動き、壱華ちゃんに真っ直ぐ駆け寄った2人は力なく静かに首を横に振る。

 

ゴロン、と力なく仰向けにされた壱華ちゃんは目を見開いたまま息絶えていた。

 

 

突き刺さる一本の棒。

 

晒され続ける血液。

 

照明に当たりてらてらと光る液体は生々しくて痛々しかった。

 

 

人の死なんて見たことがない。

 

俺は、俺達は、取り乱してしまったんだ。

 

泣き叫ぶ者、唖然とする者、腰が抜けた者

 

誰一人として笑ってる人はいないのに笑い声が止まらない、聞こえてくる!

 

モノクロックが楽しそうに笑っているから!

 

 

「絶望しろよオマエラ!始めよう、コロシアイを!そこに転がっている魂を零した器のようになりたくなければ、殺し合うしかないんだからさあ!」

 

 

『そんな事しない!!絶対にしない、コロシアイなんてしない!』

 

「こんな惨たらしいことを…壱華ちゃんが何をしたと言うの?何もしていないのに、」

 

「オマエが誰も殺さなくても、オマエラの誰かは誰かを殺す!!ボクには分かるよおだって統率者だから!」

 

 

自分でもわかってる、荒れているって。

 

それでも友人が殺されて怒らないほど俺は落ちぶれてはいない、そんなとき、熱の入った俺と奏撫ちゃんの肩を引っ張ったのは

 

 

「…落ち着いてください。殺されますよ、多分、あなたたちも。」

 

 

至って冷静な様子の夏月くんだった。

 

しかしその目には闘志の色が見えていて、彼も彼でまたモノクロックさんに対する怒りの色を滲ませているのがよく分かる。

 

……少し、落ち着けた。

 

いや嘘だ。全然落ち着いてなんかいない。

それでも先程よりはよっぽど視界が広くて。

 

 

『……絶対に、俺達はしない。コロシアイなんて絶対に。踏み躙りたくなんてない。』

 

「何も伝えないまま死した壱華ちゃんの気持ちが分からないほど、浅い友情じゃない。…そうだよね」

 

「…守りたかった奴から守られて、生き延びた楪の気持ちも、ですかね。」

 

 

ギリ、と強くモノクロックさんを見るもあの子は何も感じていないようにヘラヘラと振り向いた。

その姿に舌打ちを鳴らしたのは夏月くんか、蒼太郎くんか、はたまた両方か。

 

 

「うぷぷ。その心意気がどれくらい持つかなあ。空っぽになったコレはボクが片しておくから、オマエラもう帰っていいよお」

 

 

「……うざ」と一言だけ置き、出口へと足早に向かうのは蒼太郎くん。彼はブレない。こんな状況でも。その足音はいつもより音が多くて、…でも、それが何を意味してるのかは分からなかったけど。

 

 

「コロシアイ楽しみにしてるねえ。2週間立っても起こらなかったら、今度はオマエラの後悔をバラしちゃおうかなあ!動機があれば殺せる?それとも、今日みたいに犠牲があれば殺せるのかなあ?」

 

 

1人、1人、また1人。次に2人、3人…と、悪魔のような言葉を振り切るように体育館を後にする人数は増えていく。

 

その顔はどれも暗く、落ちていた。

 

残されたのは俺とささめくん、それとモノクロックさん。

 

 

「…オマエラって、ボクよりも本気のくせに見て見ぬふりするのが上手いよねえ。そういうとこ、バカらしくて好きだよお。」

 

 

ヒョイ、と軽く壱華ちゃんを抱えたモノクロックさんはそのままどこかに姿を消した。

 

ささめくんは未だ床に手をついたまま動かない。声も出さない。無表情でただ、壱華ちゃんから溢れ出た血を見つめている。

 

 

『………。』

 

 

なにも、かける言葉はなかった。

 

 

 

 

「さあ、欲に素直に望むのです。己の後悔のためのやり直しを。」

 

「なあんて!うぷぷ…オマエのために最高のパフォーマンスをしてみせたんだから。きっと上手くいく、期待アリだよねえ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

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