あれから、もう10日ほど経ったが、彼女は来なかった。
少しだけ、博士の心の隅っこで、
そのことが、心配と言えば心配だった。
「・・・ねえ博士。あの子が来ない」
博士の気持ちに同調するように、彼が博士に言った。
「まあ、何か色々あるんだよ、きっと。
気になるのかな?君は」
「うん」
彼は答えた。
「だって、博士が気にしてるから。・・僕はもう、気にしていないけど」
・・僕も実はあの子のことが気になっているんだけど。
となぜか言えそうだったけど、言わなかった。
いつもほとんど、思ったことは博士に言っていたんだ、と、
彼は、はっと気が付いてしまった。
(・・・これって、嘘になるのかな。でも嘘も悪い事ばかりじゃないと
博士言ってたし)
あの時、嘘は絶対悪だと言わなかった博士のその時の言葉に、
少し救われた気がした。
それに、博士だって、今僕と同じ気持ちかもしれないし。
ああ。人って、案外こういうものなのかもしれない。
なんとなくだけど、博士の言っていることが少し分かった気がした。
もう、私の名前を誰も呼んでくれはしないの。
『・・・この私の大事な花瓶を割ったのは誰だ!・・お前か!?』
『・・・ううん。・・・こ、この子よ、父さん!』
『・・違う!私じゃない、お父さん!
・・継母さんと継姉さんがまたドレスの取り合いで
大喧嘩してその拍子に・・』
『またお前か。・・・本当にこいつだな?母さん』
『ええ、そうよ。この子です。
・・・また自分の悪さを人のせいにして。ああ、実の母親の顔が見たいわ』
『・・・ふん。この汚い、嘘つきめが!』
そう言うと、私の優しかったお父さんは、むりやり
私を冷たくて凍えそうな蔵の中に閉じ込めたんだわ。
それからどうなったか、もう私の記憶がないの。
そして気が付いたら、ここにいた。
これが死なの?
だけど、あの時の、
むなしくて、悲しくて、辛い感覚が、悲しいぐらいに残っている。
誰か、助けてほしい。だけど言えない。
・・あの時、私があの突然変わってしまった父さんに連れられてやって来た
意地悪な人たちの喧嘩をみなかったら、私、
助かっていた?
・・あの時、『私がやりました、ごめんなさい』と嘘ついていれば、
私、助かったの?
・・・あの時。・・・ええそうよ。私も嘘ついていたらよかったのよ。
目には目を。歯には歯を。
嘘には嘘を。
あの時、『・・・父さん、あんたの継母さんと継姉さんは、
わざと亡き母さんとの思い出の大事な花瓶を、粉々に割ったの。
・・・わざとよ!』
と言って、コルセット脱いで、一目散に逃げてやればよかったのよ!
続
だって私は嘘をつかないと