奴らをおびき出せる魔法を掛けられるのは、アヴァラックただ一人であるが、魔法を多用する者のそばに置いておけば誤作動の危険もあるので、ゲラルトが管理することとなった。
「あった。これだ。」
さらに二十分ほど、ゲラルトが声を上げた。
目の前には、ゲラルトが自分の世界で何百と見、使い続けてきた物と同じ物があった。
「ああ、それか。使おうとしたけど、中になんかまだ入ってて、洗うのが面倒だったから使わなかったやつなんだよ。」
ここでも、魔理沙の性格が露わになる。
「…少し机を借りるぞ。」
他の製作器をどかし、ゲラルトは作業を開始した。
「…私の家の掃除は?」
「これが済んだらな。」
まあ、霊薬やオイルでゲラルトの戦力はより高いものとなるので、優先事項だと思い、魔理沙は文句は言わなかった。
「…よし。これで十分ほど待てば完成するはずだ。」
流石に、何百と扱ってきた物なので、作業が異常に早い。
「霊薬ってさ、私たち人間が飲んでも平気なのか?」
魔理沙がふと疑問に思う。
「いや、霊薬は人間が摂取したら毒になる。少し前に、ほんの少量だけ霊薬を取り込ませ治療したことはあるが、量を間違えば苦しむことだろう。」
ゲラルトが霊薬と過去の依頼について語る。
「お前ら魔女が摂ったらどうなるかは分からんがな。」
魔理沙はすぐに否定する。
「いや、私は魔女では無いんだ。確かに魔法は使えるが、これでも種族はまだ人間だぜ。アリスやパチュリーは魔女だけどな。」
「そうか、すまないな。」
「いや、別に良いんだが。」
そんな話をしている合間にも、霊薬が出来たらしい。
「あ、これ…」
「知っているのか。」
「いや…知らないけど、森ででっかい鳥と戦ったときにこれ飲んでなかったか?」
「ああ…そうだな。この紫色をしているのは、『森の賢者』と名前を付けた物だ。主にこの霊薬は気力の回復を早めることが出来る。『印』には気力が必要なのでな。重宝している物の一つだ。」
「もう一つは何だったんだ?」
「この場には無いが、緑色の霊薬は『雷光』だ。力を一時的に高めることが出来る。」
「何というか…もとより能力が高いゲラルト達がもっと化け物になるのは、狡っぽいぜ…」
魔理沙が苦笑する。
「だが、そうでなければ、勝てることの敵わない者があっちにはたくさん居たと言うことだ。」
「うへぇ。」
魔理沙はそのような言葉しか出なかった。
「素材には余裕があるので、まだ使わしてもらうぞ。」
「ああ、掃除忘れんなよ。」
「分かっている。」
霊薬も大量に入手でき、魔理沙の家の掃除も終わったゲラルトは、帰路へ付く。
「やれやれ、我ながらよく終わらしたものだ。」
何も感じていないように見えるが、しっかり内心はくたくたである。
紅魔館に向かう道中、人里の前を通るのだが、そこには例のごとく奇抜な格好をした少女がいた。
「ここで何をやっている。」
ゲラルトが声を掛ける。
驚いて、こちらを振り向いたが、すぐさま落ち着いて言葉を交わす。
「こんにちは。突然ですが、人里の皆さんに伝言をお願いしたいのです。私から伝えてもよろしいのですが、お目付役としての仕事が残っているので…」
ゲラルトは警戒を解かない。
「まず名前を名乗ってもらおうか。」
「失礼いたしました。私は『永江衣玖』と申します。ここ、幻想郷の天空に位置する『有頂天』に住む天人の一人、『比那名居天子』様のお目付役でございます。」
その衣玖と名乗った少女は、首あたりのひらひらしたものが目立つ。
「天人の目付役が何のようだ。」
「ええ、近頃外の化け物達が幻想郷に出現したことはご存じですよね?」
「ああ、そうだな。」
「今からそう遠くない時期に、今とは比べものにならない脅威が迫ってきます。くれぐれも、警戒を怠らないよう、よろしくお願いいたします。」
「なに?」
ゲラルトが眉をひそめる。
「なぜお前にそんなことが分かる。」
「私の能力の応用みたいなものですわ。では、これで。」
それだけを告げると、衣玖は天空へと帰っていった。
「重労働を強いられそうだ。」
ゲラルトはのんきにそうつぶやいた。