特徴を聞くにシルヴァンと断定したが、本当にいろんな怪物がこちらへやってきているとゲラルトは呆れるように思った。
報酬は慧音が肩代わりするとのことで報酬の心配は無くなり、ゲラルトはその依頼を受けた。
霧の湖は、紅魔館と隣接しており、現地へ着くのに時間は掛からなかった。
その名の通り、湖一帯に霧が発生しており、見通しはよくない。
居場所を特定するのに苦労するだろうと覚悟した。
しかし、歩き始めてすぐに化け物が暴れた後が見つかったため、それは杞憂となった。
「これはまた、派手に暴れたな。」
なぎ倒された木々を見つめ、隆起した地面を調べながらゲラルトはそうつぶやいた。
「元々力の強い生物なのは知っている。だが、ここまで強力なのは聞いたことが無いぞ…余り見聞きしないから、こっちの情報が薄いだけか?」
大きな足跡を頼りに、ゲラルトは森の奥へ進んでゆく。
そう時間が経たないうちに、ゲラルトの前に洞穴が現れた。
その中から生物の反応がする。
汚い咀嚼音がかすかに聞こえる。
この中に居ると判断したゲラルトは、『猫の目』を服用し、『遺存種』に有効なオイルを剣に塗り、洞穴へ足を入れる。
『猫の目』は暗い場所でも昼間と変わらない視覚を手に入れたり、催眠術などの解除や予防に効果を発揮する霊薬の一種である。
それにより、ゲラルトは暗い洞穴の中でも地上と変わらぬ速さで歩みを進める。
進み始めて数分、開けた場所に出てきた。
たいまつの火で辺りが照らされており、奥には丸々太った怪物がふんぞり返っている。
あちらもこちらに気付いていたようだ。
「命知らずの愚物めが。ここを何処だと心得る?」
相も変わらず癪に障る生物だ。
「言うならば先住民が快く暮らす、お前みたいな醜い化け物などお呼びじゃない土地だろうな。」
「減らず口を。」
シルヴァンはゆっくりと腕を組み、立ち上がる。
そこでゲラルトは何かに気付く。
シルヴァンの座っていた場所のすぐ横、シルヴァンが陰になって見えなかった場所に
「子供の死体か。」
頭や胴が無残に潰されている子供と思われる死体が積んであった。
だが、背中に生えている羽のようなものがあるのが確認でき、人の死体では無いことが分かった。
「こいつらは『妖精』と自分たちで言ってたな。いつまでも俺様に従うことが無かったからな。おかげで他の奴らへの良い見せしめになった。」
ふん、と鼻を鳴らして死体を見る。
「最後のチャンスだ。この地から去る予定は無いんだな?」
「貴様も同じようになるか、ウィッチャー。」
ゲラルトは剣を抜き、シルヴァンは組んだ腕を解き雄叫びを上げる。
ゲラルトはシルヴァンに向かって駆けた。
それを踏み潰そうとシルヴァンが片足をあげたが、ゲラルトが股下をくぐり後ろを取る方が早かった。
大きな背中に二つの傷跡が生まれた。
三発目は腕で受け止められ、カウンターが飛んできたが、咄嗟に後転回避をすることで免れた。
受け止めた腕からも血が流れ出る。
「威勢の割にはずいぶん劣勢じゃないか。妖精に恐れられた力を見せてみろ?」
シルヴァンはゲラルトの挑発に乗り、
「調子に乗るなよ小童!」
す…と少し息を吸い込んだ後に、広範囲の炎を吹いた。
横に大きく避けるが、炎は跡を追うように吹き続け、ゲラルトは空洞内を走り回る。
やがて、妖精の死骸に火が付き、それが燃え上がる。
息が続かなくなったのか、炎の勢いが弱まる。
「ハァ…ハァ…フゥ」
息を吸い込む直前に、ゲラルトが何かを投げ、シルヴァンに当たりそれの中に入っていた物質が広がる。
「ぐほぉ!?ゲホッ!」
シルヴァンが苦しそうに咳き込む。
投げた物の正体は中に強烈な毒素が詰まった『悪魔のホコリタケ』という爆薬の一種だった。
シルヴァンの顔色がみるみる悪くなり、口から少量の泡も吹いている。
だが、その勢いはますますヒートアップしているようであり、毒の影響で平衡感覚が定まっていないにもかかわらずゲラルトに襲いかかる。
ゲラルトは躱してゆくが、シルヴァンが壁や地面を殴るたびに振動と隆起が起こることに違和感を抱いていた。
シルヴァンは元々力の強い生物であるのだが、巨大なオーガ種のような、ここまで大きな力を持っているのはおかしい。
「魔法を使った跡は見られない…」
となると、必然的に他の方法で力を付けたことになるのだが、見当が付かない。
思うとすれば、神奈子の言っていた、神に対する『信仰心』が関係しているのかもしれない。
そうなると、シルヴァンはこの地で神として認められたことになるが…
「グァァォォァァ!」
考えている暇はなくなったようだ。
シルヴァンが苦しみの限界に近づき、大暴れし始めた思うと、入り口付近に岩が崩れ始めた。
このままでは閉じ込められると察したゲラルトは、シルヴァンの首に素早く剣を振り下ろし、その首を持って入り口へ走った。
弱り切ったシルヴァンは抵抗すること無く、ウィッチャーの一撃を受け入れた。
広間を抜けた後も、洞穴の道が崩れて行き、ゲラルトが足を止めることは許されなかった。
なんとか逃げ切ったゲラルト。
その手にはしかと討伐の証があった。
「とりあえずは依頼完了だな。」
剣を仕舞い、走った後の汗と血を拭い、ゲラルトは里へ戻る。
「こいつが、あの森で好き勝手はたらいていた怪物だ。」
慧音にシルヴァンの討伐の証、すなわち生首を見せる。
チルノ達には刺激が強すぎると思い、証は慧音だけに見せることにした。
慧音にも刺激が強かったのか、一回見てから目を背け、慧音の心が落ち着いてから話を進めた。
「被害はどうなっていた?」
「結構な範囲の木がなぎ倒され、地面が隆起していた。あと、妖精だったか。そいつらが数人ほど奴に殺されていた。俺が向かったときには、手遅れだった。」
慧音はまた、とても哀しそうな顔をする。
「お前が責任を感じることは無い。お前らは奴の存在と被害を認知する術はなかった。妖精達もどうしようも無かった。これ以上被害を増やさなかったことに喜ぼう。」
玄関の方から声がした。
慧音の家に誰かが入ってきた。
若くして白髪の少女だった。
「妹紅…」
「おっす。盗み聞きして悪いな。慧音、お前はなにもかも悪く思いすぎだ。実際、どうにも出来なかっただろ?そういうときは退治屋に「怪物を退治してくれてどうもありがとう」って言って報酬を渡しな。そうじゃないと、こいつもやってけないよ。」
だいぶ適当なことを言っている気もするが、彼女なりの慧音への思いやりなのだろう。
「そうだな…ありがとうゲラルト。おかげで被害が拡大せずにすんだ。」
そう言って、金の入った小袋を手渡した。
「自分を壊さないようにすることが大切だぞ。」
ゲラルトもなんとなくそれっぽいことを言って、慧音の家を出ようとした。
「あ、ちょっと。」
白髪に止められた。
「良い場所知ってるからさ、今度三人で飲みに行こうよ。親睦も深めたいし、あんたの話も聞いてみたいし。」
「…予定はなるべく開けておくよ。」
ワイルドハントの件が済むまではお預けだろうが。
里を理由も無く彷徨っている途中に、ゲラルトは誰かに付けられていることに気がついた。
あえて人の通りが少ない小道へ歩みを進め、尾行者に声を掛ける。
「さっきから付けているのは分かっている。姿を現せ。」
そう言うと建物の陰から、少女が現れた。
黒髪に白と赤のメッシュが混在した頭、あまり見かけないデザインのスカートをはいている。
メダルが微妙であるが反応しており、よく見ると頭に角が生えていることから、人間で無いことが分かる。
「分かるのが少し遅かったのでは無いか?」
ニヤニヤしながらこちらを見つめる。
「『ウィッチャーを倒した』と、名声が欲しくなったか?」
ゲラルトは、元の世界にも居たチンピラと同じ類いの者だと感じた。
だが、そうでは無いようだ。
「そうじゃない。私は、お前に協力を求めている。」
「なに?」
「まあ、話でも聞いてくれ。」
少女は勝手に話し始めた。
「幻想郷だけの話では無い。世界で常に上の位に位置するのは、どんな奴だ?」
「なんのことだ?」
「力関係だ。力関係で上に位置するのは?」
「それは、強い力を持つ者だろうな。」
当然と言わんばかりにゲラルトは答える。
「そのとおり。では、力が弱い者は、どうだ?」
「下だろう。」
「そう、力が強い者は常に上の位で、力が弱い者は常に下の位だ。私はそれが気に入らん。」
「ほう?」
「この法則がある限り、力の弱い者は不遇な始末を受ける。」
「つまり、俺の力を借りて『下剋上』を企んでいるというわけだな?」
少女が指を鳴らす。
「話が早くて助かる。この安定した状況をぶち壊し、弱者が物を言う幻想郷に仕上げるのだ。」
「ずいぶん、正直に話してくれるのだな。」
「あんたには嘘をついても意味が無いことは知っている。そうやって信頼をなくすよりも正直に話した方が良いだろう。」
「なぜ俺に目を付けた?他に役に立ちそうな者はいると思うんだが。」
「もちろん役に立ちそうな奴やこの望みに賛成の意見を持つ者には勧誘を怠らない。あんたは不思議な術に加えいろんな道具を所持している。それを有効に使えば、だいぶ有利に事を進められる。協力してくれて、成功した暁にはそれ相応の対価を払う。どうだ、私に協力しないか?」
「シルヴァンが火を吹く」描写ですが、ウィッチャー3やスマホのゲームでそんな場面があったような…?というとても曖昧な記憶でかいたものです。
間違いでしたら、ごめんなさい。
またまたアンケートを採ってみようと思います。
ご協力、よろしくお願いします。