「なんか、拍子抜けね……」
多くの高層ビルが立ち並ぶ都市。一台のワンボックスカーが幹線道路を進んでいく。
その車に乗るのは、私『神之原イオナ』と、皆本くん、そして、ザ・チルドレンの3人。
「ええ、僕も驚きました」
運転手の皆本くんが、私の呟きに答えた。
なんのことかっていうと、ここ『学園都市』に入る際に行われた、いわゆる『検問』のこと。
一般人が学園都市に入るには、原則、公共機関を使うしかない。私たち『B.A.B.E.L』は、特例を使いバベルの社用車(混乱を避けるためいつもの大がかりな輸送車ではなく、普通のワンボックスカー)で学園都市に入ったのだが、そこで行われた『検問』では、予想していたよりはるかに『簡単に』終わったのだ。
「せやなー。ひと悶着あるか思うてたわ」
葵がまあ物騒なことを言う。もちろん、バベル上層部の根回しがあったのだろう。しかし、流石に『何も無さすぎ』で不気味だ。
「あの人たち、ほんとは心底嫌がってたわよ。『命令じゃなかったら、こんな得体の知れないガキなんて通さない』ですって」
いつの間にサイコメトリを使っていたのか。紫穂が検問の人たちの心の内を代弁した。
ま、そりゃそうか。
「……」
そして、普段ならすぐに文句を垂れて不満をぶちまける彼女の元気がない。
私は少しだけ心配になって、声をかけた。
「大丈夫? 薫ちゃん?」
「あ……ああ! ここが学園都市じゃなかったら、全部ぶっとばしてやるのによーっ!」
やめなさい。
しかし、しばらく前から薫の調子が悪い。健康診断は問題ないのだが……。
賢木くんにメンタル面でサイコメトリしてもらったところ、悩みを抱えてるみたい。
もちろん、このことは皆本くんも周知している。
(プリキュアに、高町なのはの件……だよね。超度7である自分の力並みか、それ以上の威力の攻撃を目の前で見せつけられたんだもの。例えそれが『魔法』だったとしても。薫ちゃんにもあるのよね……プライドってやつ)
「しっかし、大都会だな。どこもかしこも高層ビルばかりだし……あ! ロボットが道を掃除してるのか!」
みんなに心配されているのを感じ取ったのか、薫が急に喋りだした。
……空元気も元気のうち、ね。
街の奥に進むうち、歩道を清掃する自動ロボットが目についてきた。
「街中に監視カメラ、無人の掃除ロボット兼警備ロボット。最新の医療設備と、世界トップクラスの教育現場。日本の最先端が全て集まってるといっても過言じゃない」
皆本くんが説明を始めた。
そしてつい、私も話に補足をしてしまう。
「特に、超能力研究は他に類を見ないレベルで発展してる……外とは別次元でね」
「やはり、お詳しいんですね。『神之原サイファ』氏の関係ですか?」
皆本くんの口から、よく見知った女性の名前が発せられた。
「? 誰や? それ」
「神之原ってことは……」
薫と葵が疑問に思い、
「へぇー。イオナさんのお母さん。超能力研究の人なんですね」
紫穂が、私をサイコメトリして確信に至る。
「こら、勝手にサイコメトリしないの! ……隠してた訳じゃないわ。聞かれなかったから言わなかっただけよ」
本当に、隠していたつもりはない。
母のことは嫌いじゃないし、むしろ、バベルに入社する前は、声をかけられれば母の仕事も手伝っていた。
……けど、前世の記憶が甦ってくるたびに、学園都市と関わってほしくない気持ちになる。
「AIM拡散力場の微弱な力をエネルギーとして回収する……みたいな。エネルギー研究科の人よ。学園都市と、外を行き来してる。その関係で、私もよく仕事の手伝いしてたこともあるわ」
すると薫が、違う方向から私の話題に食いついた。
「じゃあ学園都市にも、来たことあるんだ! なあ! 今度案内してくれよ!」
「……まあ、それは構わないけど、保護者さんは如何かかしら?」
もちろん保護者さんは、
「コラ! 今回はあくまで任務だ! 遠足じゃないんだぞ!」
といった感じでお叱りになられました。
端から見たら遠足気分な小学生……。
だけど、うすうす彼女たちも周りの『空気』を感じているだろう。
なんとなく、普段よりみんな緊張してる。
学園都市の外とは違い、これほどの超能力者が密集してる地区。彼女たちなりに、気が張っているように感じた。
(そして、『これ』の件も、ね)
私は、小脇に抱えた小さなアタッシュケースに触れた。
学園都市出発の直前、私だけに追加の命令が、桐壺局長から直接下された。
『神之原くん、大英図書館からの要請だ。この『本』を、学園都市第七学区の図書館へ預けてほしい』
アタッシュケースの中には、かなり年代物の『本』が入っていた。
そして私は、その『本』に見覚えがあった。
『……お言葉ですが、局長。本件なら他に適任者がいるのでは? ……あの、ザ・ペーパーとか……』
『彼女は、既に学園都市に入ってもらっている。……偶然に、だがな。彼女は、教員の非常勤講師も受け持っていてな。今は都市の学校で先生をしている』
なるほど。そして図書館で、彼女と、英国のエージェントと落ち合う予定ってことになったのだ。
そう、『原作』には、私が『稀覯本』を運ぶなんてことはなかった。
他の作品が
……本当に、変えてしまっていいのだろうか。
元々ある、大好きな作品を崩してしまうことに、私は、大きな罪悪感を持っていた。
「……っと、だいぶ早く着いてしまうな……」
皆本くんが運転しながら、時計を見た。
検問の時間を見越して、時間に余裕を持っていたのだが、それが裏目にでた。
「少し時間を潰そう。どこかないかな」
ワンボックスカーを駐車できて、時間が潰せるような場所。どこかファミレスとかが良いかしら。
「あ、皆本さん、あそこよさそうよ」
紫帆が指差す場所は、小ぶりな公園だった。そこは何かのイベント中なのか、クレープ屋のようなキッチンカーが停まっていて、また、運良く近くの駐車場も空いていた。
「お! クレープ屋さんじゃんー!」
薫がクレープ屋にテンションを上げた、が、
「はぁ? 薫はん、あれはタコ焼きやろ」
葵がそれを否定した。
「二人とも正解よ。あれはクレープとタコ焼き、両方扱ってるみたい」
そして紫穂が、二人の主張が合っていることを補足した。
……ん??
タコ焼きとクレープ??
……あの車、どこかで……。
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「あら! いらっしゃい! こんなところで奇遇ね!」
キッチンカーから顔を覗かせたのは、アカネさんだった。
「ん? イオナ、知り合いか?」
クレープを買うため並んでいた薫が、質問してきた。
まあ、そりゃ疑問に思うわよね。
「……まあ、知り合いっちゃ知り合いね。海鳴市の公園の事件の一件から、ここのお店の行きつけなのよ」
そしたらアカネさんが元気に補足してくれた。
「はっはっは、世間は狭いねぇ! ……いやぁね、あそこの公園、最近イタズラ多くてね、お客さんも少し入りが悪くて!」
確かに、あの公園はなにかとトラブルが多かった。
湖のボート乗り場が破壊されたり(※第2話)、公園裏の山の上は木々の葉っぱがすべてむしり取られ見事に禿げ山となっていた(※ 第4話)。
……どっちも異能案件やん。
できるだけ異能案件は表沙汰にしたくないのに、こうも目立つと……。
軽く頭を抱えていると、アカネさんが持ち前の明るい声で楽しそうに話し掛けてきた。
「そしたらね! 実はタコカフェが、
(まじか)
偶然にしてはタイミングがドンピシャ過ぎるわ。
「ちょうど連休じゃない? だから、私の後輩も連れてきたの!」
え、アカネさんの後輩って……『あの二人』か……。
辺りを見回すと、彼女たちが客の呼び込みをしていた。
「いらっしゃーい! 学園都市限定、『タコ焼きクレープ』はいかがですかー!」
「今なら先着順で、マスコット人形プレゼントしてまーす!」
美墨なぎさ
と
雪城ほのか
だ。
世間狭すぎだろ。
私が一人で頭を抱えてると、観光バスから子供たちが公園にでてきた。彼らも休憩時間なのだろう。
そして休日の学生服の子や、先程の子供たちがタコカフェに並び始めた。
あまり長考はよくないな。
「じゃあ……生クリームクレープを」
……タコ焼きクレープは止めておこう。明らかに『地雷』だ。
一旦、どっかに座って、甘いクレープを食べながら頭を整理しよう。
「わたしチョコクレープっ!」
「わたしはイチゴかなー」
「ほな、うちはタコ焼き!」
「僕もいただこうかな……バナナクレープをお願いします」
ザ・チルドレンたちと、皆本くんも立て続けに注文した。
しかし、こう、皆本くんとザ・チルドレンを見てると、『引率の先生と生徒』だよなぁ……。
そんなこんなで、クレープを受け取ったわたしは、ちょうど空いていたベンチに腰かけた。
シンプルな生クリームクレープ。まずは一口。うん、やっぱタコカフェの食べ物は間違いない。
……しっかし……。
集まりすぎだろ、主要メンバー。
学園都市に、
絶チルに、
『稀覯本』はR.O.Dだし。
そこにプリキュア勢が絡んできた。
大丈夫かしら……。
ポツリと、私は呟いた。
「なにも起こらないといいんだけど」
「何も起きないはず、も無く」
「えっ」
ドキリとした。いつの間にかベンチ横に、人が座っていたのだ。
灰色パーカーを深く被り、顔は良く確認できない。
デニムのショーパンから健康的な足が見え、背格好はわたしと同じくらいか。そして特徴的な髪の色。
私の能力使用時とは正反対な、深い青の髪がパーカーから覗いていた。
「……! あなた、あのときの……!」
ハッキリ覚えている。
私が初めて、ザケンナーと対峙したときにいた人だ。
あの時は雑踏に紛れ見失ったが、ずっと心の隅で気になっていたのだ。
「おいしいですね、このクレープは」
その青髪の女は、タコカフェのクレープを食べていた。
(……うわ、注文しなくてよかった)
そのクレープの中身には、まだ湯気が立っている出来立てのタコ焼きと、ホイップクリームが共存していた。
学園都市限定『タコ焼きクレープ』だろう。
ここの人たちの味覚は外とは一線を画している。
それを美味しそうに食べる、この青髪の女は、学園都市の人間なのだろうか。
ザケンナーの一件のとき、私たちを見ていたのは何故なのか。
そもそも、先程の『なにも起きないはずもない』とは、どういう意味なのか。
そんな疑問を問う前に、青髪の女が独り言のように語った。
「タコ焼き、クレープ、ひとつひとつがよく考えられて調味されてる……これらは、単品で素晴らしい完成品ね」
「……?」
「これらを混ぜた、タコ焼きクレープ。これは美味しいのかしら」
「何を……言いたいの?」
すると、女は熱々のタコ焼きと生クリームを一緒に、一気に全て頬張った。モグモグと口を動かし、それを味わい、ゆっくり嚥下した。
「ふむ。甘いしょっぱい香ばしい。磯の香りと生クリームの匂い。熱々とヒンヤリ。これは好みが分かれる『作品』ね」
「作品……?」
女は、生クリームとタコ焼きソースがついた口の周りをそのままに、ニヤリと笑った。フードの角度のせいで、女の目元は確認できない。
「ひとつひとつは至高の名作。じゃあそれらを混ぜ会わせたら……それはホントに美味しいのかしらね」
この一言で、一つの大きな疑問が生まれた。
……こいつ、この『世界』が、混ざりものだと、気づいている……?
「ねぇ! あなた!」
私が真偽を確認しようと声を上げたが、青髪の女は、私の左手を指差し、こう言った。
「さっき貰ったお人形、見覚えないの?」
(ん? お人形?
ああ、そういえば、クレープを買ったときに一緒に貰った、あのキーホルダー。
確か先着順で配ってたわね)
正直、興味無かったから、すっかり忘れてたわ。
私は、貰ったキーホルダーに目線を向けた。
それは、カエルのキーホルダー。
あ、私、このキャラの名前知ってる。ええと……そう、『ゲコ太』だわ。学園都市の。
あの、御坂美琴がカバンに着けているやつね。
……クレープの……オマケ……。
……学園都市の広場。
「……!! 」
私は、広場の向かいにある建物に目を配った。
私の記憶が正しければ、そう、そこには『銀行』がある。
平日の昼間なのに、シャッターが閉まってる銀行が。
「……しまっ……」
耳を劈く爆裂音。
銀行のシャッターが、これでもかと言わんばかりに、
派手に爆発した。