「キャァァっ!!」
「な、なんだぁっ!!」
先ほどまで子供たちの声で賑やかだった広場は、悲鳴に変わった。
「……っく! 皆本くんっ! 避難誘導!」
広場から道路に飛び出す私。
爆発でひしゃげたシャッターの奥から、黒革のバッグを抱えた若者の集団が飛び出してきた。バッグの口はわずかに空いており、そこからは多量のお金が見え隠れしていた。
銀行強盗だ。
「へっ! どうだい俺の超能力はっ!」
「バカやろう! 派手にやりすぎだっ!」
そんな会話が聞こえてきた。派手とか地味とか関係ないわ犯罪者どもめ。
「待て……」
「待ちなさいっ!」
私が強盗たちを制止しようと声を出したが、それは他の人の声に重なった。
……っと、そうか。
ここに『彼女』が来て、強盗を捕まえるんだったわ。
「
左腕に緑色の腕章を備え、それを強盗たちに見えるように立ちはだかったのは、学生服を着た女の子。
彼女のいう『
そして、いま目の前にいるのは、空間移動能力をもつ、風紀委員。
白井黒子。
彼女に捕まったが最後、心も体もズタボロになり再起不能にされるとかなんとか……。
彼女がここにいるってことは、少なくとも私や、私たちB.A.B.E.L.が、無理にこの事件に首を突っ込む必要は……。
「サイキックっ! スーパー張り手っ!」
「うおおっ!」
人間の『手』の形の衝撃波が飛んできた。スキンヘッドの銀行強盗の1人がその衝撃波に飲み込まれ、ビルの壁にめり込んだ。
これには白井さんもビックリ。
「な、な、なんですのっ!」
そして広場から、皆本くんが飛び出してきた。
おい保護者っ!!
ちゃんと
「皆本くんっ! 私たちは避難誘導だけやりましょう! 事件は学園都市の人たちに任せて!」
できるだけ原作を崩したくないという気持ちもあるが、学園都市のトラブルに巻き込まれることほどリスキーなものは、そうそう無い。だから私は、避難を優先することを提案した。
それは、皆本くんも解ってるはずなのだが……。
「わかってる! …… 待てお前らっ!
……えっ? リミッターが外れてる……?
「へっ! なんか体が軽いと思ったんだ!」
衝撃波を発した張本人、明石薫は、道路に停めてあった観光バス近くをフワフワ浮いていた。
文字通り軽くなってるやん。
じゃなくて。
彼女が念動力で自身の体を浮かしているということは、リミッターが外れている確かな証明でもあった。
「なんだあのガキっ!」
強盗たちが薫に釘付けになっていたが、その目線は、すぐ別の物。
空から降ってくる『車』に移ることになった。
「ほいさっ」
「くっ、車がっ! 降ってくるっ!」
ズドン!!
バベルの社用車が強盗達の頭上から降ってきた。葵が、瞬間移動で車を飛ばしたのだ。
……あれ、社用車よね。壊したら、皆本くんが弁償なのかしら。
かなり早く車に気づいたのが幸いして、彼らはギリギリのところで散会し、車の下敷きになることはなかった。
「調子に乗りやがって!」
(うん、明らかに調子乗ってるわね)
ずっと車のなかで体を動かしたかっただろうし、窮屈なリミッターから解放されたこともあってか、ザ・チルドレン達はイキイキとしてる。
バシュッ!!
「な、なん……グワァァァァっ!!!!」
強盗達の1人の体に、ワイヤーが絡まった、瞬間、急に彼の体に電撃が走った。
「どう? 新装備の『ワイヤーガン』。スタンガン付きなのよ」
紫穂が、新たに支給された武器を使ったのだ。
しかし……本当にスタンガンか? 打ち込まれた相手、なんか少し焦げてないか……?
「そして、このワイヤーからサイコメトリも可能なの……えっ!」
紫穂が、痺れた(?)相手をサイコメトリしたのだろうか、驚いた表情を見せた。
刹那、紫穂が叫んだ。
「そこのビルの影に、まだ強盗の仲間がいるわっ! しかも、武器も持ってる!」
「なっ……くそっ!」
「他に仲間がっ?!」
強盗が動揺を見せた。
そして、つい私も声をあげてしまった。
……だって、確か原作は、銀行の外には仲間は居なかったはず……。
すると、ビルの影から、男が1人飛び出してきた 彼の手には、あまりお上品ではない、物騒な物が握られていた。
「う、動くなっ!」
銃を構えた彼は、私たちのほうに銃口を向けてきた。
が、すぐに彼の拳銃は、彼の手から離れることになる。
「 ほほいっと!」
葵の瞬間移動だ。
レベル7の彼女なら、ある一定の距離まで詰めれば、拳銃程度の物なら自在に別の場所まで『跳ばす』ことができる。
葵の足元に、拳銃がゴトリと落ちた。
「て、テレポーター……」
呆気にとられた強盗だったが、次の瞬間には地面に伏せることになった。
白井黒子が、強盗の目の前に跳んだ。
そして、再度姿を消し、強盗の後頭部にドロップキックをあて、派手に転倒させたのだ。
「拳銃は、やり過ぎですわよ」
そして黒子は、長さ10センチほどの金属の棒の束を取り出すと、それを目の前で手品のように消して見せた。
……いや、『瞬間移動』させたのだ。
転んだ強盗の服と、アスファルトの地面を、文字通り、縫い付けられるように、金属の棒が転移したのだ。
「な……お、お前らなんなんだっ!」
まるで、理科で行うカエルの解剖(いまの子は知らないか)のように地面に張り付けられた強盗のひとりが、黒子に突っ掛かった。
「『お前ら』という表現は正確ではありませんが、私はお伝えしたはずですわよ。ジャッジメントですの」
「くらえっ!」
まだ動ける強盗が2人。
そのうちの1人が、捕まった仲間を助けるためか。
黒子に向かって、右手から生じさせた激しい炎を投げつけてきた。
「
炎から避けるべく体の向きを直した黒子であったが、しかし、その炎は黒子に届く前に『地面に叩きつけられた』。
……うん。
やったのは、同じく『
もう、ここまで
「ま、残念ながら相性の問題ね」
私の能力……『炎を自在に操り変化させる』力で、相手が出した炎を叩きつけ、固め、それを返した。
ヒモのように細くなった炎は相手に絡み付き、そのまま『炎を固め』て縛りあげた。
即興の拘束ロープの出来上がりだ。
「な……こ、こんのやろうっ!」
(野郎じゃないわよ)
「お、思い出した……ジャッジメントには、捕まったが最後……」
地面に縫い付けられた男が口を開いた。彼の声は震え、顔は青ざめていた。
「……心も体も切り刻んで再起不能にする、最悪の腹黒空間移動能力者がいると言う噂っ!!」
「誰のことですの?」
黒子がムスっとした顔をした。どうやら、自覚はあるようだが……。
「ま、まさかそのテレポーターが、まだ小学生だったなんて……!」
しかし男が見ていたのは、そう、ザ・チルドレンの『野上葵』のほうだった。
「ん? なんや?」
「……リアクションに困る間違いね……」
なんてコントを間に挟んだけど、これで銀行強盗は全員捕まったかな……?
あれ、なんか忘れてるような……。
すると、広場にいた女性……バスガイドの格好をした女性が、大きな声を上げていた。
「……すっすいません! 男の子を見ませんでしたか!」
この騒ぎに巻き込まれ、男の子が1人迷子になってしまったようだ。
「ええっ! 」
ガイド近くにいた皆本くんが驚き、周囲を探し始めた。一緒に、セーラー服を着た女の子達も、探索を手伝ってくれていた。
「……あっ、居た」
彼女たちからちょうど死角な場所。男の子が、革ジャンの男……最後に残った銀行強盗に手を引かれ、連れ去られようとしているところを、
セーラー服の女の子が必死に止めようとしていた。
「ダメーっ!!」
その学生の決死の大声で、私含めほぼ全員が、男の子と強盗の存在に気づかされた。
「くっ! 邪魔だっ!!」
そして大声のタイミングに被さり、強盗が彼女の顔を蹴り飛ばした。
「きゃあっ!」
しかし、彼女は男の子から手を離さなかった。
強盗は逆に、男の子から手を離し、逃走用に用意していた車──白いセダンに乗り込んだ。
「佐天さんっ!」
蹴られた子と同じセーラー服の女の子が叫んだ。
「あいつ! 女の子の顔を蹴るなんて、男の風上にもおけないやっちゃな!」
「わたしが、超能力で吹っ飛ばしてやるっ! サイキックぅ……!」
薫が両手にちからをこめ、念動力を発揮させようとしたその時。
「……まちなっ! あんたたちっ!!」
誰の耳にも『怒っている』ことがわかる声が響いた。
辺りの空気が、一気にピリついた。おそらく、これは比喩ではない。
「な、なんだよネーチャン……いてっ!」
薫がその声の主に近づこうとしたら、静電気が走ったのか、バチッと音を立て薫の手を弾いた。
「こっからはわたしの、個人的なケンカだから……悪いけど、手を出させて貰うから」
そして、声の主の女子高生は、車で逃走しようとする強盗の車に、真っ直ぐ向かっていった。
「……はあ? でも早くしないと、強盗に逃げられちまうぞ!」
「あ、それは大丈夫よ薫ちゃん。『さんざん俺たちをコケにしやがって。このまま引き下がれっかよ!』ですって」
「ほなら、車で突っ込んでくるんとちゃうか? あの女子高生、危なくないんか!」
ザ・チルドレンたちが集まり、先ほどの学生の身を案じていたところに、私と、皆本くんも合流した。
「大丈夫だったか! お前たち!」
皆本くんの第一声は、ほぼほぼ『これ』ね。
そこに、『白井黒子』が、テレポートで飛んできた。
「あなた方、バベル特務エスパーの皆さん……ですわね。『
なるほど、どうやらジャッジメントには、私たちの話は伝わっているようだ。
それなら助かる。……この状況に至ってしまったことについても、だいぶ話がスムーズに進んでくれそうだ。
「……特とご覧くださいませ」
そういうと、黒子は、私たちに背を向けた。正確には、先ほど歩いていた学生のほうを向いた。
「あの方こそが、学園都市230万人の頂点。7人のレベル5の第3位……」
一旦離れた白い車が激しくエンジンをふかした。
そして、急加速によるホイールの摩擦音が響いた。
急加速した車は、真っ直ぐ、『御坂美琴』に突進してきた。
しかし彼女は避ける素振りを見せず、1枚のコインを取り出し、それを指で弾いた。
刹那、雷のような轟音と共に、
高圧電流の束が一直線に、地面を抉りながら突き抜けていった。
その直線上にあったものは、例外なく、全て薙ぎ払われていった。
そして、犯人の乗る車は表層の塗装を焦がし、ド派手な回転と共に、宙を舞うこととなったのだった。
「