ホコリまみれ汗まみれな身体をシャワーで流し、わたしは湯船に浸かった。
時計は午前6時を指していた。
昨夜は遅くまで仕事。
結局、あのあと学生一行にはご帰宅願って、大人たちで現場対応と現場検証が行われた。それで深夜までかかって、ホテル帰宅後即寝てしまった。
そのため、今やっと念願のお風呂タイムってわけ。
ちゃんと湯船が付いているホテル、とっておいてよかったわ。
「……」
湯船に浸かりながら、わたしは能力を使ってみた。操れる炎はないが、髪がオレンジに染まる。
揺れ動く炎を纏め、動かし、捏ね、固めるイメージ。その通りに炎を動かすことが出来る。
「……」
わたしは昨日の事を思い出していた。
皆本くんとザ・チルドレンは、アンチスキルと一緒に来た救急車に、否応なしにすぐ乗せられた。
あまりの手際のよさに、図らずとも『仕組まれていたのでは?』と勘ぐってしまう。
これで、ザ・チルドレンたちも適当な理由をつけられて、病院で精密検査(という名前のデータ採取)を受けさせられることになるだろう。
事実上、皆本くんを人質に取られたようなものだ。
「……」
もちろん彼らのことも心配だが、BABELの後ろ盾がある以上、変なことを行うことは無いだろう。
ただ、実は私は今、その事を気に病んでいる訳ではない。
あの時。
ECMが動いていた最中。
暴走した、明石薫の力。吹き飛ぶECM。
ギリギリのところで、私の炎の壁が間に合い皆を助けられた。
あの時。
私はECM稼働中でも、炎が使えたのかもしれない。
ECMで超能力が使えない、と先入観があり、稼働確認してから私は能力を使おうとしてなかった。
けど、あの時とっさの行動に出たとき、まだ装置は『動いていた』。つまり、炎を使えたのだ。
「……何でよ」
なのはちゃんたちの『魔法』とも、
『超能力』とも違うということになる。
「……」
この能力は……いったい何なんだ?
オレンジ色の髪の『私』が、鏡から覗いていた。
**********
今日こそは本屋巡り。
早速、母に『アレ』が認可されたか聞きにいったが、結局NG。特別な検索は出来なかった。
あと、昨日借りた車の件は、こっぴどく怒られた。
吹っ飛んで転倒してウィンドウ砕けてた。すまん、母よ。
そこで、私は彼女の力を借りようと考えた。
《初春飾利》さんだ。
彼女のデータベースになら、それっぽいものがあるのではないか。
平日なこともあったので、私はケータイにメールを入れた。
「まかせてください! 都市伝説にはかくも沢山の怪しいお店がいっぱいあります!!」
メアド間違えた。
そして速攻折り返しで直電話掛かってきた。
間違えた。これ《佐天涙子》や。
が。平日で授業があるというのに、彼女の対応は想定以上に早かった。
『認可されていない古物商や古本屋! それに合わせて、都市伝説サイトや掲示板の情報を、集めに集めました! リストに纏めましたのでメールでお送りしまっす!』
あ、この情報の速さ。初春さん使ったな。
ありがとう、
データが重すぎて、ダウンロード中にフリーズしまくりだよ。
そしてダウンロード中に電話してくるな佐天涙子っ。
「イオナさん、でも気を付けてください。最近、本屋に関してやばいウワサがあるんですよ」
「へえ、どんな?」
89%ダウンロードを中断されて少し不機嫌な私。
「本を食べる妖怪です。夕方になると現れ、書店にある本を丸ごと……ペロリ。全部食べられてしまうそうで!」
「非現実的ね」
「それが! 目撃者もいるんですよ! 長い髪の女で、常にキャリーケースを引いているそうです! 被害にあった小さな書店は、本という本すべてその女に持っていかれて、店員さん廃人になってお店潰れたんですよ!!」
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さて、教えてもらった一件目。
なんとこの書店、秘密の地下への入り口があるとのこと。
「えーと」
佐天さんから貰ったリストに、その地下室への行き方が載っていた。
といっても、インターネット掲示板に載っている噂話レベルの内容ではあるが。
「……リストが重い」
一度閉じてしまうと、再度開くのに異常に時間がかかる。
なんとか開けられたデータを見ながら、半信半疑でエレベータのボタンを押す。
「1」「1」「2」……で、図書カードを……はさんで。
本当にこれで地下に行くのだろうか。
「ガタン」
地下に落ちていくエレベーター。
ボタンには地下表示はない。
まじか。佐天涙子すげぇな。
『チン』
エレベータの扉が開くと、そこはかなり古い書店であった。
日本の本以外に、見たことない国の本が沢山ある。
意外と、こういった所に埋まっているのかもしれない。
「読子さんに出会ったりして」
ふと、BABEL非常勤エスパー『読子=リードマン』のことを思い出した。
この本探しは、元を正せば大英図書館のエージェントの仕事ではないのか。
ただ、この日本、しかも『学園都市』という特殊な場所であるため、大英図書館が手を拱いた。
そう推測される。
日本在住かつ、今は非常勤講師として、学園都市側に来ているはずの読子さんにも、この本の探索は伝わっているはず……なのだが、あの人の性格から、任務すっぽかしている可能性も否めない。
何より、学園都市は文字通り『知恵、知識』も多く集まる。それこそ壁の外とは比べ物にならないレベルで。
今いるこの場所なども、もしかしたら非合法な手段……『暗部』が集めた本を扱っているのかもしれない。
こういった場所が、本当に点在している(By 佐天ファイル(6GB))のだとすれば。
本に目がない彼女は、必ず、目ざとく場所を突き止め、大英図書館の意図と関係なく、この案件に突っ込んでくるはず。
それにしても、佐天涙子が言っていた「本の妖怪」か……。
小さな書店は元々廃業寸前。そこに来た妖怪が、本をすべて買って帰った。
書店は売るものすべて売ったおかげで、店員は心置きなく店を閉めた。
というのが……まだ現実的かもな。
そう、この人みたいに。
赤い表紙の書籍。書店員に法外な値段を告げられ、
「あのう……月末払いで……」
などと言う女性。
そう、こんな感じで。
いた。
読子さんや。
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外に出た読子さんは超絶ホクホク笑顔。
彼女は早速、本を歩きながら読み始める。
ちゃんと周りは見えて……なさそう。
心配なので、そのままついていく。
本は、私が買った。……は語弊があるが。
読子さんは持ち合わせがなく、危うくその本を買うことができないところだった。
そこで私が、クレカで買ったのだ。
「おいくら?」
「25万」
「……ぶ、分割で……、あと領収書は「BABEL」ね」
いてぇ出費。このBABEL宛ての25万の領収書。死んでも離すものか。
そんなことつゆ知らずか。もくもくと本を読む。
「ねえ、読子さん」
「……ふふっ……ふへらっ」
なんか一人笑いに非常にイラついたので、彼女のほっぺをつねる。
「はひ! いたひじゃないですかぁ!」
「その本は、あくまで「BABEL」のもの! それは肝に銘じておいてください」
「判ってますよぉ、だから会社にお渡しする前に、なんとしても読んでおきたいんです!」
「最終的には、大英図書館の蔵書になるから、その時に読めばいいのに……」
「いま、ここで出会えたことが奇跡なんです、だからこそ今のこの時間で、読んでしまいたいんです! ……はあ。素敵なお話……」
そう、この本、大英図書館が血眼になって探していた本そのものだった。
まさか、都市伝説の書店におかれていたとは。佐天涙子侮りがたし。
本来なら、一刻も早く本を大英図書館に持っていきたい……。
念のため、大英図書館には連絡を入れておいた。読子さんも同行している旨も一緒に。
『……読子さんも一緒ですか……はぁっ……』
電話先の男性が、軽いため息をついたように思えた。
「はい、それで彼女、全然本を手放してくれなくて……」
『でしょうね。判りました。私が直接、ザ・ペーパーを説得しますよ』
っと。
近況を報告しつつ、読子さんの動向チェック!
すると、
道の先(少し路地に入ってしまった)から女性の叫び声。
「きゃぁぁっ!! 女性が服を脱がされてるっ!!」
! 白昼堂々と変態か!
私はダッシュし、声の方角に向かった……あれ?
そこにいたのは、
服を脱がされた半裸の女性と、
服を持つ男子校生。
あと、御坂美琴。
「し、シャツをきてください!」
「と、とにかく服を着て! 見られてますっ!!」
……。
見方によっては、
女の人が、男女の学生に服を奪われ襲われてるように、見えなくもないが……。
違うか。
「炎天下の中、歩き回ったんだ……汗びっしょりだ……」
確かに今日の気温は、5月なのに真夏日になるってテレビで言ってた。
アスファルトからの照り返しは、殺人的な暑さだ。
だからって、暑いから服を脱がされて(?)、そこから服を着ないってことは無いだろ。
この女の人、脱ぎたがりか?
「ふ、ええええ、どういう状況ですかぁ?」
本に夢中だった読子さんも、声が気になって一緒に来てくれた。けど、目に飛び込んできたのは異質な空気感だった……。
どういうこと、と聞かれても、説明しようがない。
「ご、ごご、誤解だぁぁっ!!!」
シャツ(たぶんその女の人の)を、御坂美琴に押し付け、男子校生が駆け足でその場から逃げ出した。
「あ、君っ!」
「ちょっと!」
私と御坂が、その男性を止めようよしたが、
「なあ、服を持っていかれると困るんだが」
裸の女性が制してきた。てか、そりゃ服を持っていかれるのはマズい。
ん……?
あれ、この女性……てか、このキャラどこかで……あれ?
「おや、その本……」
裸女が、読子さんの稀覯本に興味を示した。
「! この本、興味あります? ご存じなのですか! うわぁ! 嬉しい! 素敵な恋のお話なんですよね……」
読子うっとり。
「いや、知り合いが探していた本に似ていたのでね」
なんだ、と、項垂れる読子さん。
本について語り合える仲間を見つけたのだと思ったのだろう。
まてよ。知り合い……あれ?
この人の知り合いって、だれだ?
『思い出せない』。
わたしの転生において、大きな欠点のひとつだ。
「物語のクライマックス」は思い出せないのだ。
この人……裸女のことを上手く『思い出せない』ということは、何か、この先、この人が仕出かすのではないか。
そんな心配が頭をよぎる。
「しかし。暑いな、こうも暑いと服など着ていられない……」
忘れてた。
まずはこの公衆猥褻物陳列罪をどうにかしないと。
せめて、日陰につれていこう。
ついでに、色々と話を聞き出せ、私!
「と、とりあえず涼しいところに!」
適当な喫茶店……!
ちょうど、近くにカフェが見えた。
「皆、あそこに行きましょ! あそこなら涼しいし、お話も伺えます!」
「でもわたし……もう手持ちがないんですけど」
眼鏡本女! ここで話の骨を折るな!
「……奢るわよ!」
私は叫んだ。
カード残高きっついけど……。
もちろん、請求書はBABELで切るつもりですけどね!!