転生先は超能力少女たちの多重クロス世界でした   作:黒片大豆

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【第8話】正しい運命、違える命運【その1】

 私たちは、学園都市の第七学区。とある図書館に案内された──。

 外見は普通の図書館なのだが、曰く、大英図書館の分館とのこと。一般向けにも解放してて、変に特殊な雰囲気もなく。

 

「あら、イオナさんじゃありませんか。BABELの方もこちらに?」

 

 連れてこられた会議室には、『白井黒子』のほか、『固法美偉』『初春飾利』の、ジャッジメント面々も集められていた。

 

 なぜこの3人なのか……。

 彼女たちの共通の知り合いに、私は覚えがあった。

 

「ウェンディ君、準備は出来ているかい?」

「あ、はい! 先方とは繋がってます……あれ? あれ?」

 

 カタカタ……と、パソコンのキーボードを叩く音。ウェンディと呼ばれた、淡い褐色肌の女性は、たしかジョーカー氏の秘書。

 あまりパソコン操作に慣れていないのか、モニターは真っ黒のままだ。

 

「ええと、お手伝いしますよ」

 

 それを見かねて、初春飾利が助け船を出した。彼女の指がキーボードの上を華麗に流れる。

 

 すると、会議室に備え付けてあったモニターに、1人の男性が写し出された。

 見知った顔だった。

 

 

 皆本光一君だ。

 

 

 #################

 

 

 メインスクリーンには、派手に燃え上がる米国の……図書館だろうか。

 映画のワンシーンかと思ったが、なんというか、映像に『品性』が無い。リアルすぎる。

 

「皆さんお揃いですね。いやしかし、文明の利器の発展はすさまじい。つい先日まで、電話を持ち運べることすら驚きだったのに」

 

 写真の説明もままならぬまま、ジョーカー氏はインターネットを介したウェブ会議に感心していた。

 

『ミスタージョーカー。そ、それよりその写真は一体』

 

 まだ入院中の皆本君。病院からパジャマ姿でリモート参加だ。

 

「ミスター皆本。そして皆さん。この写真は本物です。数日前、謎の怪人が米国に現れ、米国議会図書館が襲撃されました」

 

『え? そんなニュースありましたか?』

 

「かなり情報を統制したので、一般のニュースになってません」

 

 ジョーカーが壁に映写された画像をスライドさせた。

 するとそこには、燃える図書館に立つ不審な影──ちょんまげを結った男が映っていた。

 

「怪人は、稀覯本600冊を盗み逃走。米国は正式に、我々に本の奪還を依頼してきました」

 

「ちょちょ、ちょちょっと待ってください! なんですかそのお侍さん! 明らかに写真の中で浮いてますよ……ねえ白井さん……白井さん?」

 

 初春がジョーカーの説明を遮り、白井黒子に話を振ったが。

 

「あのときの電撃男!」

「……平賀源内!」

 

 黒子と私は、その男に見覚えがあった。

 

「そう、彼の背中に背負っている箱。エレキテルです」

 

 あのう……と、読子が授業よろしく手を上げた。

 

「でも、平賀源内さんってもうお亡くなりになってますよ?」

「ですわ、だとしたらこの侍はコスプレか何かかしら」

 

「いえ、彼はゲンナイヒラガ。本人です」

 

 ジョーカーが画面を切り替えた。

 

 縦長の円柱状のガラス管。緑色の液体が満たされている。中には、人間の形をした人形……いや、本物の体の一部なのだろうか。臓器なども観察できる。

 

 うっ、と、ジャッジメントの3人は若干身を引いた。そりゃ引くわ。

 

「世界優性遺伝子保存局。昨年、そこからいくつもの遺伝子サンプルが盗まれました。ゲンナイヒラガもその1人。そして何者かが、そこから偉人を蘇らせたのです」

 

「そんな非人道的なこと、普通は許されません。が、ここでお話しするということは……そういうことですかミスタージョーカー」

 

 固法美偉が察した。

 

「そう、この学園都市で、彼らは甦った……高レベルの超能力者の遺伝子を付加されて。と、我々は践んでいます」

 

「ちょっと待ってくださいまし! それが本当なら、この平賀源内の超能力は……もしかしてお姉さまの……!」

 

「英国図書館のエージェントによれば、少なくとも『御坂美琴』。そして、精神操作系の『レベル5』の遺伝子情報が、一緒に盗まれていたことがわかりました」

 

 しんっ、と静まり返る会議室。

 いきなり集められ、語られる内容にしては、少々情報量が過多だ。

 

『ジョーカー、奴らの目的は?』

 

 ウェブ会議の向こう側から、老人の声。

 ジョーカーの上司。英国図書館の特殊工作員のボスである、ジェントルマンの声だ。

 彼は今回、音声のみで会議に参加していた。

 

「不明です。ですが奴らは、この稀覯本を狙って、またここ学園都市に現れるでしょう──そこを、叩きます」

 

 ジョーカーは、先ほどまで読子がガシッと掴んで離さなかった赤い本を手に取り、話した。

 なお何度も申し上げるが、あの本の代金は私が払ったし、領収書も未だ手元にある。

 

「反対です! テロリストに対して学園都市をオトリに使うなんて、危険すぎます!」

 

 固法美偉が立ち上がり、抗議した。

 

『僕も反対です。まずは稀覯本を安全な場所に移動させ……』

 

 皆本君も、モニタ越しに反対を宣言した。

 が、それらをジョーカーが遮った。

 

「あなた方も、あの力を見たのでしょう? ゲンナイヒラガだけでなく、他の偉人も高レベルの超能力を得ているとするなら、安全な場所なんてありません」

 

 それに──。ジョーカーが続けた。

 

「偉人への対応は、BABELと学園都市の上層部、共に承諾とご協力を得てます。あなた方ジャッジメントがここにいるのも、上からの命令ですよね」

 

『ほっほっほ。旧知の仲は大切にするもんじゃのう。こんなとこで役に立つとは、ワシも思わなかったわ!』

 

 ジェントルマンの笑い声。

 少し鼻につく高慢な笑い声だった。

 

 くっ、と、本件は黒子が折れた。が、同時に、このジャッジメント面々が選ばれた理由を理解した。

 

 それは皆本君も同じだった。

 

『ジョーカー、あなたは常盤台の超電磁砲(レールガン)と、親しい仲の人を召集しましたね、意図的に』

 

 ええ、と、ジョーカーは頷いた。

 

「本来は超電磁砲(レールガン)も御同席願ったのですが」

 

「お姉さまのケータイ、いま繋がりませんわ。私も少し心配している所ですの」

 

 多分ですけど。

 今ごろはカレシと河原でイチャイチャ(放電バトル)してます。

 

「異能案件の報告書を拝見しました。超電磁砲(レールガン)に協力を頂けると、我々としても心強い。ゲンナイヒラガが彼女を気にしてるようでしたしね……っと、ウェンディさん、会議中ですよ」

 

「すす、すいません! ですが解析結果が……」

 

 ジョーカーの話に被せて、先ほどの秘書、ウェンディが一枚の書類を持って会議室に入ってきた。

 

「……失礼。……ふむ、やはり、先ほどの偉人は『ファーブル』です。彼の持っていたノートと彼の手記が一致しました。さすが、日本の司書は仕事が速い」

 

 

 あっ……。

 

 私は一つ、大切なことを思い出した。

 

 木山春生のことだ。

 

 あのとき。

 多量の虫に襲われた時。

 彼女は小さく呟いていた。

『ファーブルか』と。

 

 木山が、この後何を企んでいるのか思い出せない。原作(ものがたり)の終盤にかけて起こることは大体忘れてしまっている。

 だが、推測するに、たぶん木山は『悪役』だ。

 

 そんな私の感情に気づいたのか、読子さんが声を掛けてきた。

 

「……どうしましたぁ? イオナさん?」

 

「い、いえ……」

 

 

 どうしよう。

 木山春生のこと、ここで話してしまうか。

 まだ悪者と決まった訳じゃない。けど、せめてマークだけでも──。

 

「ミスイオナ、顔色が優れませんね?」

 

 皆の視線が集まる。

 

 

「あ……

 

 

 

 

 

 あのときの、巨大バッタを思い出しちゃって……はは。あれはエグかったわ……」

 

「ああぁ! あのバッタ、すごい気持ち悪かったですね!」

 

 言えなかった。

 好きな作品だからこそ、ここで私の発言で、物語が終わってしまうのが嫌だった。

 いかに多重クロスオーバーしてるとしても、やっぱり原作のお話しは大切にしたい。

 

 

 私は罪を一つ背負った。

 

 

 ##############

 

 

 堅苦しい会議を終え、外の空気を吸いに出た。

 

 偉人については要注意として。

 とりあえずは皆、解散となった。

 

 ちなみに。

 本の領収書は『うちはBABELではありませんので』と、突っぱね返された。

 ごもっともで。

 早く処理したい。これ絶対に紛失するフラグだ。

 

 外はとっくに日は落ち、夜が更けていた。

 

 うーん。と、5月の夜の空気を胸一杯に吸い込んだ。昼間の暑さとは打って変わって、夜は少し冷え込んだ。

 

 しっかしまあ! 

 なんとも困ったクロスオーバーしてくれてんなぁ! 

 

 偉人と、木山春生の謎の関係。

 

 平賀源内の電撃、あれがレベル5御坂美琴の電気と同じ可能性がある。

 アニメの源内も、相当の電気使いだったけど、こっちのと比べてどうなんだろ。

 

 それより、精神操作系のレベル5って、

 やっは、『彼女』よね。人を「操る」力。

 

 人の精神を掻き乱す、偉人……

 ……くっそ! まただ。

 

 偉人の中に『精神操作』する奴がいたはずなの! 

 

 でも、名前も、何を『やらかした』かすら思い出せない! 

 

 私は頭をかきむしった。

 なんでこんな中途半端な『転生』をしてしまったのだろう。

 この世界は既にレールが敷かれている。

 そして、私はその先を知っていたはずなの。

 はずなのに、そのレールの行先が見えない恐怖。

 

 

 そして、

 そんな世界(ものがたり)を壊したくないという理由で。

 危機を一つ見逃した。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 うし。寝よ。

 ピザ食って風呂入って寝よ。

 

 

 最近悩んでばっかりだ。そういうときは気分転換。好きなことして生きていこう(現実逃避ともいう)。

 

 とにもかくにも。

 

 明日はジャッジメントが追っている『爆弾魔』案件のお手伝い。

 

 皆本くんたちの入院も、後2、3日ってとこらしい。怪我は完治してるけど、ザ・チルドレンたちの『精密検査』を名目に長期間拘束されたが、やっと解放される。

 

 そうなったらさらに忙しくなるぞ! 

 今のうちに、休めるだけ休むだけさ! 

 

 がんばれ私! 

 がんばって休むぞ! 

 

 拳をうーんと上に突き上げ、背伸びをしながら、私はピザ屋に向かった。

 

 

 #####################

 

 

 

 その日の夜。

 

 学園都市にある巨大な総合病院。

 さまざまな医療が集まり、そしてたくさんの生死を扱う場所。

 

「あの女……適当なこと言って、ここに誘導してきたな……」

 

 駐輪場近くの、病院の壁。

 

 そこは、小さい、黒い、シミのようなものが広がっていた。

 ……普通の人には認識できない、魔力が籠ったものだ。

 そしてそのシミは、『あるもの』を中心に育っていた。

 

「これが、グリーフシード、か」

 

 ボソリ。

 それを見た女が呟いた。

 

(みつかった?)

 

 頭のなかに直接語りかける声。

 テレパシーによるものだ。

 

(いや、あの青髪女に騙された。こりゃグリーフシードって奴だ。病院の柱に突き刺さってる)

 

(……病院……)

 

(──! 駄目だよ! こっちの人間がどうなろうと、私たちには関係ない)

 

 テレパシー会話に力が入る。

 

(うん、でも、グリーフシードもかなり強い力の集まりよね)

 

(まあ、かなり『似てる』けど……どうなんだろうな)

 

(試してみる価値はあると思うの)

 

 ううーん。

 グリーフシードを目の前に、その長身の女は腕組みして悩んだ。

 

(まあ、わかった。私は使い魔だからね、フェイトの思い通りにやってみよう!)

 

(ありがとう、アルフ)

 

(まったく……フェイトは優しいな)

 

 すっ……と、その女は闇に紛れてその場から去った。

 

 駐輪場の街頭に当てられたグリーフシード。

 まだ小さいものであったが、ゆっくり着実に育っていた。

 

 

 もう、明日にでも収穫の時期だ。

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