私たちは、学園都市の第七学区。とある図書館に案内された──。
外見は普通の図書館なのだが、曰く、大英図書館の分館とのこと。一般向けにも解放してて、変に特殊な雰囲気もなく。
「あら、イオナさんじゃありませんか。BABELの方もこちらに?」
連れてこられた会議室には、『白井黒子』のほか、『固法美偉』『初春飾利』の、ジャッジメント面々も集められていた。
なぜこの3人なのか……。
彼女たちの共通の知り合いに、私は覚えがあった。
「ウェンディ君、準備は出来ているかい?」
「あ、はい! 先方とは繋がってます……あれ? あれ?」
カタカタ……と、パソコンのキーボードを叩く音。ウェンディと呼ばれた、淡い褐色肌の女性は、たしかジョーカー氏の秘書。
あまりパソコン操作に慣れていないのか、モニターは真っ黒のままだ。
「ええと、お手伝いしますよ」
それを見かねて、初春飾利が助け船を出した。彼女の指がキーボードの上を華麗に流れる。
すると、会議室に備え付けてあったモニターに、1人の男性が写し出された。
見知った顔だった。
皆本光一君だ。
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メインスクリーンには、派手に燃え上がる米国の……図書館だろうか。
映画のワンシーンかと思ったが、なんというか、映像に『品性』が無い。リアルすぎる。
「皆さんお揃いですね。いやしかし、文明の利器の発展はすさまじい。つい先日まで、電話を持ち運べることすら驚きだったのに」
写真の説明もままならぬまま、ジョーカー氏はインターネットを介したウェブ会議に感心していた。
『ミスタージョーカー。そ、それよりその写真は一体』
まだ入院中の皆本君。病院からパジャマ姿でリモート参加だ。
「ミスター皆本。そして皆さん。この写真は本物です。数日前、謎の怪人が米国に現れ、米国議会図書館が襲撃されました」
『え? そんなニュースありましたか?』
「かなり情報を統制したので、一般のニュースになってません」
ジョーカーが壁に映写された画像をスライドさせた。
するとそこには、燃える図書館に立つ不審な影──ちょんまげを結った男が映っていた。
「怪人は、稀覯本600冊を盗み逃走。米国は正式に、我々に本の奪還を依頼してきました」
「ちょちょ、ちょちょっと待ってください! なんですかそのお侍さん! 明らかに写真の中で浮いてますよ……ねえ白井さん……白井さん?」
初春がジョーカーの説明を遮り、白井黒子に話を振ったが。
「あのときの電撃男!」
「……平賀源内!」
黒子と私は、その男に見覚えがあった。
「そう、彼の背中に背負っている箱。エレキテルです」
あのう……と、読子が授業よろしく手を上げた。
「でも、平賀源内さんってもうお亡くなりになってますよ?」
「ですわ、だとしたらこの侍はコスプレか何かかしら」
「いえ、彼はゲンナイヒラガ。本人です」
ジョーカーが画面を切り替えた。
縦長の円柱状のガラス管。緑色の液体が満たされている。中には、人間の形をした人形……いや、本物の体の一部なのだろうか。臓器なども観察できる。
うっ、と、ジャッジメントの3人は若干身を引いた。そりゃ引くわ。
「世界優性遺伝子保存局。昨年、そこからいくつもの遺伝子サンプルが盗まれました。ゲンナイヒラガもその1人。そして何者かが、そこから偉人を蘇らせたのです」
「そんな非人道的なこと、普通は許されません。が、ここでお話しするということは……そういうことですかミスタージョーカー」
固法美偉が察した。
「そう、この学園都市で、彼らは甦った……高レベルの超能力者の遺伝子を付加されて。と、我々は践んでいます」
「ちょっと待ってくださいまし! それが本当なら、この平賀源内の超能力は……もしかしてお姉さまの……!」
「英国図書館のエージェントによれば、少なくとも『御坂美琴』。そして、精神操作系の『レベル5』の遺伝子情報が、一緒に盗まれていたことがわかりました」
しんっ、と静まり返る会議室。
いきなり集められ、語られる内容にしては、少々情報量が過多だ。
『ジョーカー、奴らの目的は?』
ウェブ会議の向こう側から、老人の声。
ジョーカーの上司。英国図書館の特殊工作員のボスである、ジェントルマンの声だ。
彼は今回、音声のみで会議に参加していた。
「不明です。ですが奴らは、この稀覯本を狙って、またここ学園都市に現れるでしょう──そこを、叩きます」
ジョーカーは、先ほどまで読子がガシッと掴んで離さなかった赤い本を手に取り、話した。
なお何度も申し上げるが、あの本の代金は私が払ったし、領収書も未だ手元にある。
「反対です! テロリストに対して学園都市をオトリに使うなんて、危険すぎます!」
固法美偉が立ち上がり、抗議した。
『僕も反対です。まずは稀覯本を安全な場所に移動させ……』
皆本君も、モニタ越しに反対を宣言した。
が、それらをジョーカーが遮った。
「あなた方も、あの力を見たのでしょう? ゲンナイヒラガだけでなく、他の偉人も高レベルの超能力を得ているとするなら、安全な場所なんてありません」
それに──。ジョーカーが続けた。
「偉人への対応は、BABELと学園都市の上層部、共に承諾とご協力を得てます。あなた方ジャッジメントがここにいるのも、上からの命令ですよね」
『ほっほっほ。旧知の仲は大切にするもんじゃのう。こんなとこで役に立つとは、ワシも思わなかったわ!』
ジェントルマンの笑い声。
少し鼻につく高慢な笑い声だった。
くっ、と、本件は黒子が折れた。が、同時に、このジャッジメント面々が選ばれた理由を理解した。
それは皆本君も同じだった。
『ジョーカー、あなたは常盤台の
ええ、と、ジョーカーは頷いた。
「本来は
「お姉さまのケータイ、いま繋がりませんわ。私も少し心配している所ですの」
多分ですけど。
今ごろはカレシと河原でイチャイチャ(放電バトル)してます。
「異能案件の報告書を拝見しました。
「すす、すいません! ですが解析結果が……」
ジョーカーの話に被せて、先ほどの秘書、ウェンディが一枚の書類を持って会議室に入ってきた。
「……失礼。……ふむ、やはり、先ほどの偉人は『ファーブル』です。彼の持っていたノートと彼の手記が一致しました。さすが、日本の司書は仕事が速い」
あっ……。
私は一つ、大切なことを思い出した。
木山春生のことだ。
あのとき。
多量の虫に襲われた時。
彼女は小さく呟いていた。
『ファーブルか』と。
木山が、この後何を企んでいるのか思い出せない。
だが、推測するに、たぶん木山は『悪役』だ。
そんな私の感情に気づいたのか、読子さんが声を掛けてきた。
「……どうしましたぁ? イオナさん?」
「い、いえ……」
どうしよう。
木山春生のこと、ここで話してしまうか。
まだ悪者と決まった訳じゃない。けど、せめてマークだけでも──。
「ミスイオナ、顔色が優れませんね?」
皆の視線が集まる。
「あ……
あのときの、巨大バッタを思い出しちゃって……はは。あれはエグかったわ……」
「ああぁ! あのバッタ、すごい気持ち悪かったですね!」
言えなかった。
好きな作品だからこそ、ここで私の発言で、物語が終わってしまうのが嫌だった。
いかに多重クロスオーバーしてるとしても、やっぱり原作のお話しは大切にしたい。
私は罪を一つ背負った。
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堅苦しい会議を終え、外の空気を吸いに出た。
偉人については要注意として。
とりあえずは皆、解散となった。
ちなみに。
本の領収書は『うちはBABELではありませんので』と、突っぱね返された。
ごもっともで。
早く処理したい。これ絶対に紛失するフラグだ。
外はとっくに日は落ち、夜が更けていた。
うーん。と、5月の夜の空気を胸一杯に吸い込んだ。昼間の暑さとは打って変わって、夜は少し冷え込んだ。
しっかしまあ!
なんとも困ったクロスオーバーしてくれてんなぁ!
偉人と、木山春生の謎の関係。
平賀源内の電撃、あれがレベル5御坂美琴の電気と同じ可能性がある。
アニメの源内も、相当の電気使いだったけど、こっちのと比べてどうなんだろ。
それより、精神操作系のレベル5って、
やっは、『彼女』よね。人を「操る」力。
人の精神を掻き乱す、偉人……
……くっそ! まただ。
偉人の中に『精神操作』する奴がいたはずなの!
でも、名前も、何を『やらかした』かすら思い出せない!
私は頭をかきむしった。
なんでこんな中途半端な『転生』をしてしまったのだろう。
この世界は既にレールが敷かれている。
そして、私はその先を知っていたはずなの。
はずなのに、そのレールの行先が見えない恐怖。
そして、
そんな
危機を一つ見逃した。
……。
……。
うし。寝よ。
ピザ食って風呂入って寝よ。
最近悩んでばっかりだ。そういうときは気分転換。好きなことして生きていこう(現実逃避ともいう)。
とにもかくにも。
明日はジャッジメントが追っている『爆弾魔』案件のお手伝い。
皆本くんたちの入院も、後2、3日ってとこらしい。怪我は完治してるけど、ザ・チルドレンたちの『精密検査』を名目に長期間拘束されたが、やっと解放される。
そうなったらさらに忙しくなるぞ!
今のうちに、休めるだけ休むだけさ!
がんばれ私!
がんばって休むぞ!
拳をうーんと上に突き上げ、背伸びをしながら、私はピザ屋に向かった。
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その日の夜。
学園都市にある巨大な総合病院。
さまざまな医療が集まり、そしてたくさんの生死を扱う場所。
「あの女……適当なこと言って、ここに誘導してきたな……」
駐輪場近くの、病院の壁。
そこは、小さい、黒い、シミのようなものが広がっていた。
……普通の人には認識できない、魔力が籠ったものだ。
そしてそのシミは、『あるもの』を中心に育っていた。
「これが、グリーフシード、か」
ボソリ。
それを見た女が呟いた。
(みつかった?)
頭のなかに直接語りかける声。
テレパシーによるものだ。
(いや、あの青髪女に騙された。こりゃグリーフシードって奴だ。病院の柱に突き刺さってる)
(……病院……)
(──! 駄目だよ! こっちの人間がどうなろうと、私たちには関係ない)
テレパシー会話に力が入る。
(うん、でも、グリーフシードもかなり強い力の集まりよね)
(まあ、かなり『似てる』けど……どうなんだろうな)
(試してみる価値はあると思うの)
ううーん。
グリーフシードを目の前に、その長身の女は腕組みして悩んだ。
(まあ、わかった。私は使い魔だからね、フェイトの思い通りにやってみよう!)
(ありがとう、アルフ)
(まったく……フェイトは優しいな)
すっ……と、その女は闇に紛れてその場から去った。
駐輪場の街頭に当てられたグリーフシード。
まだ小さいものであったが、ゆっくり着実に育っていた。
もう、明日にでも収穫の時期だ。