連続グラビトン事件と同時に発生した、病院の魔女。私はどちらに向かうかの選択を迫られてしまうことになった。
(くっそ! 魔女の件についても、事前に皆本君たちに伝えておくべきだった!)
BABELの異能案件処理班……まあ、実質私だけなんですが。それらに対応するにおいて、他の業務優先してよいとのお達しは頂いていた。しかし、魔女については、実は未だにBABEL本部に内容を報告していなかった。
魔女の発生条件もさることながら、それを討つことで命をつないでいる魔法少女の存在……巴マミさんたちのことを、あまり公にしたくなかったからだ。
「重力子による爆発でも、火災発生の可能性があります。神之原さんの能力であれば火災は……神之原さん?」
「あ、ああごめん!」
私の心は完全に、病院に現れた魔女に向かってしまっていた。目の前には、ジャッジメントを狙う卑劣な爆弾魔事件があるというのに。
でも、この連続グラビトン事件ならそのまま平和的に解決の一途をたどるはず……。
「……皆本君、ごめん、そちら任せていいかしら?」
「? いったいどういう意味です!? 本件は全員で協力しないと……」
「まって皆本さん。あとイオナさんも」
すると間に、紫穂が割って入ってきた。両手を私に向けて目をつむっている。これはサイコメトリーで集中しているときの格好だ。
まずい。私が『グラビトン事件は平和的に解決される』って思っていることが読まれちゃう!
「ちょ、紫穂ちゃん!」
「『このメンバーなら、グラビトン事件は解決できるだろう、だから私は、異能案件を対処しよう』ですね、イオナさん」
「い、異能案件ですか!?」
いい塩梅に紫穂ちゃんが私の心を読んでくれて、そこに皆本君が乗ってくれた。助かった、話がスムーズにまとまりそうだ。
「ええ。実は事情があって、まだBABELに未報告の異能案件があるの。できれば単独で対応したいのよ」
「……判りました。グラビトン事件は、ザ・チルドレンで対応します」
「助かるわ」
「任せな! イオナネーチャン! あたしの超能力で犯人をぶっ潰してやるぜ!」
「薫ちゃん、今回はデパートの人の避難誘導が優先よ」
よかった、私のワガママが通ってくれた。紫穂ちゃんが間を繕ったみたいになってくれて正直救われたわ。
「お話しは終わりましたか? それでは、お店に急行いたしますわよ! 葵さん、
白井黒子が、私と皆本君の会話が終わるのを待っていてくれていた。
「りょーかいや! ほな皆、現場に飛ぶで!」
葵ちゃんがそう言い残し、ザ・チルドレン一行は一瞬にして消えた。既に白井さんも飛んでいて、会議室には、私と、数人のアンチスキルとジャッジメントの人が残っただけになった。
そして私は、すぐに電話を掛けた。相手はもちろん、巴マミである。
************************
……葵ちゃんに、私を病院に
病院が遠い!
バス? 爆弾魔事件のせいで動かない!
タクシー? 道路も封鎖してるから無理だって!
BABEL社用車? 鍵は皆本君がもっている!
結局、全力ダッシュで病院に向かうことになった。
魔女との戦いの前に、既に私の体力は満身創痍である。
「……ゼー、ハー、ゼー、ハー、お待たせ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「私もちょうど来たところです」
急いでその病院に向かったが、結局は、巴マミさんのほうが先に現場に到着していた。
どうやらマミさん、なにやら胸騒ぎがしたとか、僅かに魔女の気配を感じていたとかで、偶然にも学園都市内に来ていたのだそうだ。
そのため、思ったよりすぐに全員が合流できたが……既に美樹さやかは、魔女の迷宮に取り込まれていた。
「さやかちゃん!」
同じく合流した、鹿目まどかちゃんが壁に向かって呼びかけた。しかし返事はない。
「そこね……どいて、結界を開けるわ」
巴マミさんが手をかざすと、指輪が輝いた。すると、病院の壁に円形の模様が現れた。紫色のそれは、いわゆる魔法陣と呼ばれる模様に似ていた。
すると、何やらわたしの脳にも声が届いてきた。キュゥべえを介したテレパシーによるものだ。
『キュゥべえ、状況は?』
『まだ大丈夫、すぐに孵化する様子はないよ』
ほっ、と、わたしを含むその場の3人が胸をなでおろした。
「さやかちゃん、大丈夫!?」
『へーきへーき。むしろ退屈すぎて居眠りしそう!』
美樹さやかも無事なことが確認でき、鹿目まどかはさらに安堵した。
しかし、実際はそうはいっていられないようだ。キュゥべえが、少し焦ったような声色で答えた。
『むしろ大きな魔力で刺激しないほうがいい。急がなくていいから、静かに来てくれるかい?』
『わかったわ』
巴マミは、かざした手に何やら力を込めた。すると、先ほどの魔法陣が大きくなり、人が通れるくらいに広がった。光の輝き方も先ほどより強くなった。
魔女の迷宮への入り口。それはどこまでも奥まで続いているような、薄気味悪い色を呈していた。まるで私たちを手招きしているようであった。
*******************************
「もう無理しすぎよ、ふたりとも!」
その『ふたり』とは、鹿目まどかと美樹さやかのこと。私のことではない。
魔女の生成した迷宮に誘われ、美樹さやかがまつ奥へ向かう道中で、鹿目まどかは巴マミに叱られていた。
「でも、マミさん。彼女たちがいなければ……」
「……それは、判っていますけど」
そう。まどかちゃん達が早急に見つけてくれたおかげで、魔女が完全に孵化する前に、こうやってマミさんと私を連れてこれたのだから。
「病院って、心の弱っている人が多い……もしこの魔女が孵化していたら……」
「病院の患者さんたちの多くに被害が及んでいたでしょうね」
「そんな……」
私が、独り言のようにつぶやいたが、二人にも聞こえていたようだ。
「今回は結果オーライってことで、ね、マミさん」
「そうですね……これなら、魔女を取り逃がす心配は……」
すると、巴マミは急に歩みを止めた。
その理由は……実は、私にも判っていた。先ほどからずっと、後ろをついてきている人物がいた。長い髪の少女。私を含め、その場全員が、彼女のことを知っている。
暁美ほむらだ。
「言ったはずよね? 二度は無いって」
巴マミの機嫌が明らかに悪くなった。
私も、つい彼女を睨みつけてしまった。以前に出会った際の、私を明らかに忌避し、厄介者扱いされて、機嫌よく再開を喜べるほど、私は人間出来ていない。
「今回の獲物は、私が狩る。貴方たちは手を引いて」
「そうはいかないの。美樹さんとキュゥべえを迎えに行かないと」
「その安全は保証するわ」
「……信用すると思って!?」
巴マミが手をかざすと、暁美ほむらの足元からオレンジ色のリボンが現れた。ほむらの体に執拗に巻き付き、完全に彼女を固定した。
「くっ、馬鹿っ! こんなことやっている場合じゃ……今度の魔女は危険なのっ」
「大人しくしていれば……帰りには介抱してあげる」
完全に動きを止めた暁美ほむらに背を向け、巴マミは歩き始めた。
「いきましょ、鹿目さん、レオナさん」
……うん、私は知っている。ここの魔女は一筋縄ではいかないことを。
魔女としての素体の強さももちろんあるが、何より、彼女……巴マミが、大きく慢心し、隙を見せてしまうことを。
そして、彼女の命運が尽きる事も。
今回、私がついていけば、その運命は変わるかもしれない。
魔法少女に、超能力者のサポートが有れば。
魔女の強さや、攻撃方法なんかも、一度見ている私が手を貸せば、運命は変えられる。
「……マミちゃん、ちょっと提案があるんだけど」
「どうしました?」
そう、運命は変えられる。物語は、変えられる。
なのに、なんで私は、こんなことを言ってしまったのだろう。
「私、暁美ほむらを見張っておくわ。何しでかすかわからないし……。貴方たちは先に行っててよ」