「オレンジヘアー……っ!」
敵意丸出しで私に食って掛かるも、マミさんが残したリボンに体を拘束され身動きがとれない暁美ほむら。
あの後、マミさんは私の提案に乗ってくれて、魔女の迷宮の奥に向かって行った。
『縛られたほむらちゃんを見張っておく』……というのは、実は建前。
「ね、暁美ほむら。今なら他に誰もいないわ」
私は、真意を知りたかったのだ。
彼女が何故、出会ったこともない私を、執拗に毛嫌いしているのか。
「暁美ほむら、あなたはなぜ、私をそこまで避けるの? 私、全く身に覚えがないわ」
巴マミのリボンに縛られていた暁美ほむらは、私のこの言葉を聞くや否や、驚いた表情を見せた。
お? 今までに無い反応だ。
だが、それはすぐに消え、先ほどと同様の険しい顔に変わってしまった。
「貴方がいても、何も変わらない……いえ、貴方のせいで何もかも解決できない」
むむむ。ちょっと興奮気味なのだろうか。
「その根拠を聞いてるのよ、私には何が何だか」
「とぼけないで……くっ!」
ほむらの体に、巴マミのリボンが強く食い込んだ。暁美ほむらがリボンから脱出しようと動くたび、リボンが締まる仕組みになっているようだ。
こうやって会話するだけでも、リボンが固く強く縛られて行っていることが、傍目でも分かった。
「まともに会話って状態じゃないか……」
私は、うーんと、悩んだ。
悩んだ。結構悩んだ。悩みに悩んだ末、私は決意した。
「……ああんもう! どうなっても知らない!!」
原作の流れをできるだけ壊さないよう生きてきたけど、今回ばかりは、その運命に抗ってみたくなった。
だって、折角できた年下の友達だもの。彼女が死んだら、きっと後悔すると思ったから。
私が行動起こして、命が救われるなら。
人が死ぬ悲劇なんて、いらない!
「リボン燃やすわ、ちょっと熱いわよ!」
私は、手袋に仕込んだ着火剤を使い火種を作り、リボンに投げた。僅かについた焦げを能力で増強し炎と化し、瞬く間にリボンを焼きつくした。
もちろん、暁美ほむらには燃え移らないよう、細心の注意は払ったわよ。
「……どういう風の吹き回し?」
リボンが燃え落ち、体に付いた燃えカスを、暁美ほむらが払いながら聞いてきた。
「どうもこうも、こういうことよ」
私は、燃えたリボンを指さした。この行為自体が、全ての回答であると言わんばかりに。
「わからないわ」
しかし、ほむらには私の意図が通じなかったようだ。確かに、説明不足感は否めなかったが……。
なので、私ははっきりと意見を伝えた。
「一緒に、巴マミちゃんを助けに行こう。……これでどう?」
すると、彼女は驚いた表情を一瞬見せた。が、すぐに、無機質なあの顔にもどった。
しかし、彼女は深く頷いた。彼女も、巴マミを救いたいという思いは一緒だった。
*******************
「もう──何も怖くない」
巴マミは既に、お菓子の魔女──『シャルロッテ』と対峙し、それを圧倒していた。
お人形のような小柄な魔女に対して、暁美ほむらを拘束したときと同じリボンを使い縛り上げ、巨大なマスケット銃を構えて撃ちぬこうとしていた。
「間に合った!」
私は、彼女が健闘中なところに突っ込んでいた。
「マミさん! そいつは……!」
「ティロ・フィナーレっ!!」
私の叫び声は、まるで大砲のような銃の炸裂音でかき消された。
弾丸は、キュートな容姿をした魔女を撃ちぬいた。ぬいぐるみのようなその姿は、しかし、結われたリボンの締め付けとも連動し、貫かれた穴から崩れ……たように見えたが、それは違った。
「えっ」
「……くっ!」
突如、ぬいぐるみの口から魔女が飛び出した。正確には、ぬいぐるみと同じ魔女なのだろう。第2形態とでも形容しようか。
太いウミヘビのような体。顔は人を馬鹿にするような、お
しかし、その速度は尋常な速さではなかった。一瞬のうちにマミさんの目前に迫り、大きな口を開け、鋭い牙で、彼女の頭をのみこむ一歩手前まで迫った。
魔女の口はマミさんの首から上を嚙み砕き、彼女は悲壮な最期を迎える……。
「……うおらっ!!!」
それを阻止することを、私は決意したんだ。
だから、彼女を死なせるもんか。
その勢いのまま、私はマミさんを突き飛ばした。彼女の身体が大きく反れ、横に飛ばされた。
(……よっし!)
このため、魔女の口はマミさんを捕らえることは無くなった。大きく開けられた口の先には、既にマミさんは居ない。
……ん?
【問題】
私、神之原レオナは、巴マミを横から突き飛ばしました。物理の法則が適応され、私の突撃の力が全てマミさんに使われた場合、元々マミさんがいた場所には誰が立っていることになるでしょう?
(あっれえええええ???)
気が付いた時には、私の目と鼻の先に魔女の顔があった。
いや、正しくは、ギザギザの歯が目の前にあった。ちょいと魔女が口を閉じれば、私の上半身は下半身と分離される。
(……あ、死んだ)
いや確かに、巴マミさんの生存ルートを願ったけど、その代償がまさかの自分の命だとは思わなかったわ。
このまま魔女がバクんとして、私のはらわたが周囲にまき散らされる。鮮やかな鮮血が、異彩を放つ魔女の空間の彩に加わる。
とは、成らなかった。
一種の走馬灯だろうか。魔女が噛みついてくる瞬間、周りの時間の流れがゆっくりに感じられた。
(ああ、転生先でも、こんな終わり方なのね……)
と、覚悟を決めていると。
ぱっ、と、私の目の前に余り見慣れないものが現れた。無機質な固まり。見た感じの形は、そう、果物のパイナップル。頭部のピンは取れていた。
それが手りゅう弾であることは、直感的に理解できた。
(……! 火力アップ! そして炎がこっちに来ないように調整!!!!)
魔女の口の中。閉口するほんと直前に、手りゅう弾が爆発した。爆発で生まれた炎は、私の力でさらに何倍にも膨れ上がり、結果的には、魔女の口が閉じ切る前に大爆発を起こさせた。
「どひゃああああ!!」
炎を操る力で、爆発による炎や熱を私に向かわないよう操りまくった。全部、魔女の体の中に送り込んでやったわ。
けど……私は、熱は操れても、爆風は操れなかった。
鼓膜を介して脳天まで劈く爆裂音。そして爆風が私を襲い、情けない悲鳴を上げながら吹っ飛ばされた。
壁に体を打ち付ける覚悟だったが。
彼女の存在に助けられた。リボンがクッションになってくれた。
「だ、大丈夫ですかっ!!」
……本来は、私がマミさんに言うセリフな気がする。彼女が咄嗟に、リボンで私を受け止めてくれたのだ。
「マミさん、助かったわぁ」
「私も助けられました、ありがとうございます」
「二人とも、まだ終わってない」
ほむらちゃんが、いつの間にか私たちの横にいた。手には、黒光りする物騒なモノ……実弾入りのハンドガンを携えていた。
「……あなた、協力してくれるの?」
巴マミが、怪訝な顔でほむらを見た。いや、多少睨みつけていたようでもある。
「私は敵じゃない」
「彼女を……ほむらちゃんを開放したのは私よ。勝手なことしてごめんなさいね」
私は謝罪も含めて、巴マミに事情を説明することにした。多少、本当のこととは異なるが。
「彼女から、今回の魔女の強さを教えてもらったの。話を聞くに、私は彼女を敵ではないと判断したわ。事実、彼女を開放していなければ……マミさん、貴方の首は胴体とバイバイしていたわよ」
「……」
「二人とも、来るわよ」
マミさん説得の途中に、ほむらちゃんが割り込んだ。お菓子の魔女が再度動き始めたのだ。口からは、先ほどの爆弾による黒い煙を吐き、しかし、ぎょろんとした眼は私たちを捕らえていた。
「……本当に危なかったのは認めます。ですが、さっきは油断していただけ」
「知っている。油断しなければ、マミさんほどの実力者が、お菓子の魔女に負けるなんてことは無い……! 来たっ!」
マミさんとの会話もほどほどに、お菓子の魔女が突っ込んできた。
私とマミさんは散会した。暁美ほむらは、いつの間にか別の場所に移動していた。
「……オレンジヘアー! 爆発を!」
すると、遠くのほむらちゃんが私に指示した。一瞬言っている意味が解らなかったが、反射的に能力を使って、周囲の『火種』を探してみたら、魔女の口の中に『何か』が燻ぶっていることが分かった。多分、先ほどと同様の爆弾だ。
「おっけい!」
私は、能力を発動させた。燃える炎を操り、それを何倍にも増強させた。
魔女の口の中で発生した爆発。それに伴う炎は、瞬く間に魔女全体を包んだ。通常手りゅう弾では到底発生しえない状況だ。
ほむらちゃんの重火器と、私の能力の相性……すこぶる良いわ。
しかし、結構な火力をぶつけても、魔女はまだ健在だった。体をぶんぶんと振り炎を消した魔女は、ケㇿっとした顔をしていた。
……いやいや、こんなに強いのコイツ?!
「……やっぱり、『強く』なっている」
え。
ほむほむ? 今なんて言った……?
「こんな魔女……私一人でも!」
ほむらの言葉を聞いてか聞かずか。
マミさんが、両手にマスケット銃を構えて前に出てきた。
「ちょっと! ほむほむの話聞いてた!? 落ち着いて、三人で対処しましょ!」
マミさんが少し自棄になっているように見えた。後輩たちにいい恰好を見せようとしていたのもあるだろうし、なにより、彼女はこの時、鹿目まどかという『親友』に出会え、思いの丈を開放したことで、気持ちが高揚してしまっていたのだろう。
「ちょっと、味気ないかな」
「え……うわあっ!」
「きゃあっ!」
叫び声は、私たちのものではない。……遠くから、戦闘を見ていた美樹さやかと鹿目まどかのものだ。
「なにっ!」
「……! まどかっ」
「鹿目さん、美樹さん!」
三者三様の驚き方ではあるが、全員が一斉に、彼女たちを向いた。
そこには、『あいつ』がいた。
何かあるごとに、この世界をひっかきまわしてくる、青髪パーカー女だ。
『き、君は一体……』
キュゥべえが、ごく当たり前の質問をソイツに投げた。
しかし、ソイツは全くキュゥべえを無視して、パーカーのポケットに手を入れた。
「追加だ。3対1だとアンフェアだろう?」
そういって、ソイツはポケットから、黒い物体をこちらに投げてきた。
それは、私たち全員がよく知る物質……。
『グリーフシード』だった。