雷を駆る魔法少女──フェイト・テスタロッサが、この大ピンチに現れた。
『Arc Saber』
光る刃が空中を飛んだ。激しく回転する光の刃が、洗濯物がぶら下がる紐を次々と切り裂いていく。
セーラー服の魔女が苦痛を感じているのか、低い呻き声を上げた。すると魔女は『やめろ』といわんばかりに、今度は切れた紐を振り回したのだ。
「……くっ!」
ロープが繋がったままのほむほむの体が、強く引っ張られる。このままでは小柄な彼女の体が地面にたたきつけられる!!
「邪魔するよ~、こっちの世界の魔法使いさんっ!」
赤毛の女性が自慢の鋭い爪を使い、ほむほむを縛っていた紐を裂いた。
よく締まった健康的な体つき。20歳を越えないくらいの若々しい体格。胸も……まあある。私よりある。ナイスバディ。ふざけんな。
フェイトの使い魔、アルフの人間形態だ。
彼女はほむほむをロープから開放したのだ。
「……」
「おっと、助けたのに、どうして睨むんだい?」
「あなたたちは一体、何者?」
「あたしらも、グリーフシードに興味があってね……って、いつの間に!」
アルフが理由を答え終える前に、ほむらは魔女に向かって走っていた。アルフはほむらが離れたことに全く気付いていなかった。
「あの子、
まるでテレポートのように、魔女のロープをわたっていくほむら。
「……」
それに気づいたフェイトは、先に魔女を討伐せんと、バルディッシュを構えて砲撃の体制に入る。
「! フェイト! 後ろ!」
アルフが叫んだ。フェイトの真後ろから、あの道化のふざけ顔の魔女──お菓子の魔女が、大口を開けて襲いかかった。奴はまだ倒れていなかった。
「くっ!」
想定外の攻撃に、身をひねりギリギリのところで避けることに成功した。
お菓子の魔女に気を取られている隙に、ほむほむは委員長の魔女の本体の目前まで来ていた。
「オレンジヘアー!!」
ほむらは、私に呼びかけた。その刹那、彼女が大量に『何か』を、その魔女のスカートの中に放り込んでいたのがわかった。
「……オッケーまかせて!!」
それらは爆弾だった。おそらく彼女お手製の爆弾。火薬の量は適当であったが、その爆発に併せて、私が火力を増強させた。
巨大な爆発が発生し、魔女が火に包まれる。すると、お菓子の空間にねじ込まれた青空が、ぐにゃりとねじ曲がり、小さくなっていった。
「倒したの、か?」
空間が消失したということは、そういう意味なのだろう。
「……もう一体は!?」
私は、フェイトを襲った魔女を探した。すると、少し離れた場所で、激しい空中戦を繰り広げていた。
だが、それもすぐに決着が付いた。お菓子の魔女は既に、ほむほむの爆弾と、マミさんのティロ・フィナーレを直撃した後に、さらにフェイトの砲撃魔法を受けている。奴自体もどうやらボロボロだった。
フェイトはバルディッシュを光の大鎌の形態にし、魔女を真っ二つに切り裂いたのだった。
「……なんとか、なったわね」
魔女の結界はとかれ、いわゆる「現実の場所」に戻ってきた。うーん、結局私は特に大きな活躍ができなかった。
私の腕には、巴マミさんが横たわっていた。顔面蒼白、意識不明。呼吸も不安定。傷は炎で塞いだけど、これは……。
「マミさん!」
「マミさん、しっかりして!」
鹿目まどかと美樹さやかが、終ぞ彼女に呼びかける。
「これが……グリーフシード」
そんな折、目の前に立つフェイトが、黒い球体を持っていた。先ほどの魔女を倒したことで発現したグリーフシードだ。
「……! フェイトちゃん! それがあれば、マミちゃん助かるかも!」
「そ、そうか! 返せよ! それはマミさんの物だぞ!」
そんな私たちの声が届く前に、フェイトのうしろには彼女が立っていた。彼女はハンドガンの銃口をフェイトに向けていた。
「あなた、何者? 魔女の仲間なの?」
「……」
「おっと、あんたも動くんじゃないよ、あたしはあんたが動く前に潰せる自信があるからね」
暁美ほむらの真横には、アルフが飛び掛からんと構えていた。
しかしそんな脅しには、ほむらは屈しなかった。
「答えなさい、貴方の目的は何?」
「……他の
「じゃあ、なぜ魔女狩りに現れたの?」
ほむらの再度の質問に対して、フェイトは大きなため息で答えた。
「グリーフシード、想定よりエネルギーが粗悪すぎる。とてもじゃないけど、ジュエルシードの代わりにはならない」
すると、それをポイ、と、私に向けて投げ捨てる。
慌ててそれをキャッチする私。
「! マミさん!」
反射的にそれを受け取った私は、マミさんのソウルジェムに大急ぎで近づけた。彼女のソウルジェムはどす黒く曇っていたが、まだ僅かに光っていた!
(さしずめ、希望の光ね……)
ソウルジェムの淀みを、グリーフシードが吸い取っていく。完全には綺麗にならなかったが、それでも、マミさんの命を繋げたと感じた。
「マミさん! マミさん!」
しかし、呼びかけにはまだ応じない、意識は戻ってきていなかった。
『ふむ、これは肉体の消耗が大きすぎるね、彼女の意識が戻るかは五分だね』
キュゥべえがだいぶ絶望的なことを宣う。また『焼いて』遣ろうかと思うも、いまは目の前のことに集中だ。
「これでよかったのでしょ? 黒髪の魔法使いさん」
「……」
ほむらは、フェイトに向けていた銃口を下し、それを手品のように消した。併せて、服がいつもの学生服に戻っていた。
それを見たフェイトも、バリアジャケットを解除した。黒を基調とした服は金髪が良く映える。
踵を返し、フェイトとアルフはその場から離れた。特にそれ以上の挨拶などなく、また、ほむらも呼び止めなかった。
鹿目さんと美樹さんは、先ほどからずっと巴マミに呼びかけているも……彼女の意識は戻ってきていない。
「……オレンジヘアー」
暁美ほむらが、私に話し掛けてきた。しかし、以前とは大きく顔つきが異なっていた、不愛想なのは変わらないが……なんとなく、すこし心を許しているような。
「な、なによ……」
「……いいえ、まだ貴方を信用できない」
は?
そういって暁美ほむらは、さらに不愛想具合を増した顔つきになり、夕方の雑踏に消えていった。
「……って! そんなことしてる場合じゃない! 医者!」
私自信の些細なことに、気を取られすぎていた。
今、助かるかもしれない命を助けるのが先決だ。
巴マミ、貴方を生かしてみせるわ。