「あら、BABELの皆さんではありませんか」
「こんにちは、白井さん」
現場の主権が既にアンチスキルに移っていた時点で、彼女たちジャッジメントがいることは想定できていた。
彼女たちと私たちBABELの信頼は、先の『
既に彼女は、早速壁に手をかざし、サイコメトリーを実行していた。
「……はっきり見えたわ。ふざけたちょんまげ姿に、変な箱を背負った男」
「平賀源内、か」
「ヒラガゲンナイ……ホワイトハウス襲撃犯の偉人か」
「本の焼け方や、コンクリの壁の特徴的な爛れ方……。
紫穂ちゃんのサイコメトリの答え合わせするかのように、皆本君、ドレイクさん、そして、白井さんが集まって会話している。
「ちぇっ、つまんねーの」
「現場検証となると、紫穂の独壇場やな」
「薫ちゃん、葵ちゃん。私たちは奥のほうを調べてみましょ。瓦礫をどけてほしいのよ」
ヒマしてそうな二人に声をかけ、私たちが出来そうな仕事に誘った。ザ・チルドレンたちに『ヒマ』を与えると……何をしでかすか判ったものではない。
「ん? 読子はんは? どこいったん?」
「あれ?」
そういえば、先ほどから読子=リードマンの姿が見えない。
「さっきまで、焼けた本を残念そうに眺めていたけど……?」
「あ! 葵! イオナねーちゃん!」
すると、明石薫が何かを見つけたようだ。焼けこげた本棚に隠されたように、人一人が通れる隙間が開いていた。
「奥に続いてるわね」
「これ、隠し部屋ってやつじゃないか!?」
どうやら、地下に続いているようだ。
「貴重な本、それこそ、稀覯本なんかを置いているかもね。皆本君たちを呼んで……っておーい!!」
私の意見など何のその。
新たに見つけた秘密の部屋の入り口を目の前に、好奇心が先行してしまうのは小学生の
私が気付いた時には、狭い隙間に二人がまるで吸い込まれるように、いつの間にか入り込んでいってしまっていた。
「んもう!」
二人が勝手に動くこと
外は火事で本棚が崩れ、壁が歪んでいたが、稀覯本が保管されている地下の書庫は、被害を被ることなく殆ど無事であった。
そんな書庫に入り込むと、古本特有の黴臭さが鼻についた。
「そうか、本来は空調もしっかりしているはずだけど、火災で電気が死んで動いてないのか」
そんな事を思いながら、奥へ進む。すると、彼女がいた。
「はあ~っ……、はあああああ~っ……」
法悦の表情を浮かべ、蔵書に囲まれながら、まるでバレエダンサーのように舞っていた。
「なんだあれ」
「……うーん、なんだろうね」
薫ちゃんのド直球な感想に対して、私も別段フォローをすることが出来なかった。
そんな、読子=リードマンは私たちの存在などお構いなしに、さらに奥へと進んでいった。本を眺めるその眼差しは、純粋な少女のそれそのものであった。
「ちょっと、読子はん!」
「流石に止めよう……ザ・ペーパー! 任務中よ!」
結果的に私たちは、彼女についていく格好となった。
「イオナねーちゃん、あの人本当に、英国のエージェントなのか?」
「まあ、腕は確かなのよ、腕は……ん?」
私はその時に、違和感に気付いた。
風だ。
蔵書庫に、僅かに風を感じたのだ。
空調によるものかとも一瞬頭をよぎったが、いやそれは違う。停電で空調は止まっているはずだ。
刹那、その風は暴風と化し、私たちを襲った。
「うわっ! なんだっ!」
「か、風っ!?」
強風はあたりの本を吹き飛ばし、ばらけたページが周囲に舞った。
そして風かと思った『それ』は、重量を持ち、私たちの横を一気に抜けていった。
強烈な空圧が私たちを押し退け、壁に吹き飛ばされた。
「本は貰った!」
響く男の声。『それ』の正体は、超小型の機械のグライダーを纏った、偉人軍団が一人。
(滑空王、オットー=リリエンタール!!)
背中を本棚にしこたま強く打ち付けてしまい、私は一瞬、息が出来なくなっていた。
「ああっ! 本がっ!」
オットー=リリエンタールの狙いは、読子さんが持つ稀覯本だ。一瞬の隙をついて、奴は読子さんが抱えていた本を掠め取っていた。
「か、返してください! 私の本!!」
(……まだ……私の所有物よ! 領収書切ってない!)
そして、薫ちゃんと葵ちゃんも同じく吹き飛ばされた。しかし彼女たちは、崩れた本がクッションになったみたいで、すぐに立ち上がっていた。だが、現状が理解できていないようだった。
蔵書庫の入り口付近に飛ばされた、薫ちゃん。
「邪魔だ!」
そこに向かって、オットー=リリエンタールが突撃してきた。おそらく外に出ようとしているのだろう。
「……薫ちゃん! そいつは偉人だ!」
私は無理やりに声を絞り出し、持ちうる情報を伝えた。すると彼女は瞬間的にそれを理解してくれた。
「にゃろ! ここは通すもんか!」
手を構え、薫はサイコキネシスによる衝撃波を連続して放った。
しかし、
「風が衝撃波に当たるものか!!」
オットー=リリエンタールは、狭い部屋の中であっても木の葉のようにヒラヒラと揺れ動き、薫ちゃんの衝撃波を避けていた。
(マズイ! このままだと逃げられる!)
そう思った瞬間、薫ちゃんは次の手に出ていた。しかし、それは正直、悪手だった。
「ならこれで! サイキックぅ……!」
「な……おバカ!」
小ぶりな衝撃波が避けられる、なら、広範囲の攻撃なら……。
薫ちゃんなりの考えなのだろう。けど、それをやるには部屋が狭すぎる。
「……トルネード!!」
「蔵書庫が、崩れ……!!」
静止するのが、ちょっと遅かった。
激しい振動とともに、蔵書庫が一瞬のうちに吹き飛んだ。