彼女が引いていたトランクには、大量の紙が入っていた。それを蹴り開けたため、周囲には紙が散乱していた。
しかし、それらは一点に集まっていく。
──『紙を自由に操る能力』
さらに紙は生き物のように動き、うねり、束ね、その形を作り上げていく。
巨大な紙飛行機の出来上がりだ。
「……大丈夫かなぁ」
「いけます!」
「……」
フラグなのよねぇ。
でも、私も腹を決めた。がっしりと作り上げた紙飛行機の間に挟まるように、私と読子さんが乗り込む。
そして、紙飛行機の後ろには、残った紙を筒状に固めてもらった。
そう、私……神之原イオナの炎を操る能力を使って、紙を燃やして推進力にしようと考えたのだ。
「それよりイオナさん、本当に、紙飛行機に引火しないんですよね」
「そこは私の能力を信じて頂戴、折り紙付きよ」
3、2、1。……ファイア。
紙の筒から燃える炎が上がる。筒の部分だけ燃やさずに──そして、紙飛行機が強く前に押し出され、風車の上から飛び立った!!
──まっすぐ垂直落下なう。
「び、尾翼を忘れてましたぁ」
ばっ! と、尾翼が形成されると、今度は勢いよく体制が立ち直り、紙飛行機は空を舞った。
離陸成功。
墜落かと思った。
「追いかけるわよ」
私は炎のイメージを形作り、紙飛行機を加速させる。向かうは、あの蚊トンボ偉人だ。
***
捉えた。
「……ありえん! 馬鹿な飛び方を! 私は認めない!」
紙飛行機一つで、自慢のグライダーに追いつかれたのだからそういう感想も漏れるか。
「本を返してください!」
手を伸ばす読子さん。
「ブースター、止めさせてもらうわ!」
奴の機械の機構はわからないけど、『火種』を一気に爆発させるイメージを思い描く。すると、滑空王のブースターから火が出て、機能を停止させた。
「甘く見るな! 滑空王たる所以、思い知らせてやるっ!」
ブースターは機能停止しているのに、グライダーの機構だけで奴はヒラヒラと空を泳いでいた。
ぐるりと、紙飛行機の下に回り込まれる。
「こんなもので空を飛ぶなど……おこがましい! あつかましい!」
取り付かれたっ!
すると、奴は紙飛行機の下になにか貼り付けたようだ……あ、爆弾だ。
「やば、間に合わない!」
能力で打消そうにも、咄嗟のことでそちらに気が回らなかった。
「えいっ!」
読子さんがそれに気づいて、その部分の紙だけ外して放り捨てた。
と同時に、爆弾が爆発。爆風が私達の紙飛行機を襲った。
「うわああぁつ!」
「きゃあっ!」
「ふん! 堕ちろ堕ちろ!」
それだけでは飽き足らず、オットーは紙飛行機にかなり近づいてきた。そして。
「拳銃!?」
気がついたときには、銃口は私に向いていた。
「あっ!」
とっさに機転を聞かせた読子さんは、紙飛行機の一部を崩し、それをオットーに向かって撒いた。まるで紙吹雪みたいかと思ったけど、しかし一枚一枚の紙は硬質化されていた。
鋭利な刃物が、オットーのグライダーごと切り裂いた。
「うおおおっ! ……おのれ魔女がっ! 魔女なら箒で飛べええ!!!」
グライダーからばらまかれる大量の爆弾。一個一個を処理しようと身構えてしまった私は、そこで足を踏み外してしまう。
「やばいっ!」
「イオナさんっ!!」
無常にも爆発する爆弾。
爆風と炎に巻かれる紙飛行機。燃える主翼。
だが。
読子=リードマンは、紙を球体に組み上げ、爆発から難を逃れていた。
そのまま、その紙の球体がグライダーに体当たりする。
「ぬおおおっ!」
予想外な動きで戸惑うオットー。
グライダーにしがみついた読子さんは、オットーの目前にまで迫っていた。
「本を……返してくださいっ!」
こんな状況下でも、まずは本。流石である。
(あぶないっ!!)
パンっ!!
銃声だ。
オットーは、躊躇無く、迫る読子さんの顔面目掛け拳銃を発砲した。
パンっ! パンっ!
何発も鳴る銃声。いずれも、読子さんに向かって放たれた。
が。
(うそ……すごい)
すべての弾丸は、読子さんの目の前で止まった。いや、正確には読子さんが手前にかざした『一枚の紙』を隔てて、弾丸は止まっていた。
彼女の能力の真価である。
薄っぺらな紙が、銃の弾丸を容易に弾くまでに硬質化させる力。
「本を……返してください」
のんぼり呆けの彼女はもういない。
本の奪還という使命に燃え、彼女の眼光は恐ろしいほど鋭かった。
(ただ本の続きが読みたいだけでは、という可能性は否定しないけどね)
これで、オットーが観念するかと思ったが、そうは問屋が降ろさなかった。
「死ねぇ! 死ねぇ!」
半ばヤケクソ気味に、奴はグライダーの羽を動かしバタつかせた。読子さんを振り落とそうとしているのだ。
「わあああ! わあああああっ!」
先程の眼光とは打って変わって、読子さんの情けない悲鳴がこだまする。
しかし実際、かなり危険な状態だ。
しかたない。
「……プランBに変更するわ」
私は、炎のイメージを作り上げた。
振り落とされたかにみえただろう私は、実は、ずっと付いてきていた。
読子さんが紐状に紙を束ねて、オットーのグライダーから垂らしていた。私はそれにしがみついていた。
オットーの爆弾で、紙は燃えていたが、私がその炎を制御していた。そして今から行うことは、この炎と、読子さんの紙を使った、『一本釣り』。
私は、紙の上でくすぶる炎を成長させた。垂れ下がる紙からさらに炎が伸び、固まった。
先端をフック形状に硬めた。あとは、ここ学園都市に無数に設置されている『アレ』を使うだけ。
(あんたの空は、ここで行き止まりだよ)
フックの先端を投げ込んだ。すると羽に引っかかった。
そう、引っかかったのは『学園都市名物、発電用風車』の羽根部分。
「死ね! 死ね!」
オットーが暴れる。いまにも読子さんは振り落とされそう!
だが、それより先に、オットーの動きが止まった。強く牽引され、彼は大きく旋回することになる。……自身で想定していなかった、遠心力を伴って。
「ま、まわるうううう」
「読子さん、飛び降りて!」
「私の、本っ!!」
三者三様の様相が相まみえる。読子さんは、オットーから本を強奪し、グライダーから飛び降りた!
そしてオットーは、激しく振り回されながら……風車にくくりつけられた紐(炎と紙製)から逃れられること無く。風車に巻き取られ撃墜した。
どおおおおぉん! と、ド派手にグライダーが爆発した。中に入っていた燃料に引火したのだ。
私は、『それを待っていた』。
激しく燃える炎を、キャッチするイメージ。そこから粘土細工で捏ねるイメージ。
出来上がるは、大きめの落下傘。
そこには、私と、読子さんが捕まっていた。
「炎の落下傘なんて、初めてみました」
「作った本人が、初めての挑戦なのよね」
炎の厚みを極限まで薄くし、伸ばす。思ったよりも形状維持が難しく、集中が切れると一気に崩壊しそう……。
申し訳ないけど、地面到達まで、集中させてくれないかしら。
「ああ……本が無事で良かった」
スーリスリと、本に頬ずりする読子さん。
何度もお伝えしますが、その本の所有者は私です。
「……薫ちゃんか、白井さんあたりが助けてくれるといいんだけど……」
と思うも。それは今のところ難しそうであった。
空から見下ろす学園都市。
いま、そこは混沌となっていた。
ジュエルシードを取り合い、なのはちゃんとフェイトちゃんのバトルが始まっているようだ。
人の避難は終わったのか、応援に来たザ・チルドレンたちは、アルフと何やら戦っている。
そして、先程まで遠くで鳴っていた雷……平賀源内と、
白井さんも、御坂さんと合流したのだろう。
いろいろな『力』が、ここに集まってきている。
何故か、そんな予感がした。
そしてその予感は、当たることになる。
『おー、生きてるね』
「! パーカー女!」
脳内に響くテレパス。聞こえてきたのは、氷使いのパーカー女の声。
『フェレットのテレパスを借りてるよ〜』
「今回の一件、あんたが黒幕か!」
『うん、ほぼ正解。これで役者は揃ったよ』
すると、更に私の脳内に響くのは、他の人の声。先程と同じく、いろんな声を混戦させているのだった。
「え──」
私は、聞こえる声に、信じられないと絶句した。
まだ、逃げ遅れた人がいる。しかも、その人たち……。
『──言っただろ? このクロスオーバー世界の『力』を集めてるって』