密林の緊急依頼
今日も今日とていい天気。
こんな時は絶好の狩り日和!
でも今日はそんな呑気なことを言っていられないんだ。
密林からの救援要請。なんでも繁殖期でイライラしてるリオレイア亜種の討伐に向かったハンター達がこっぴどくやられちゃったみたい……。
リオレイア………か。そう言えばあたし達にとっても縁がある相手だったな〜。それの亜種個体。
よし!今日も張り切って……いや、今日はもっと張り切って行こう!
フィーちゃんにヘラちん、ルシアも一緒なんだ、不安になることなんて何一つ無い!
いざ!凱旋!
とある狩人の日記より
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密林中央部。
高台から狩場を見下ろしているとちょうどルシアさんが捜索をしているエリアからおもむろに青い発煙筒の煙が立ち上った。
ルシアさんは主にベースキャンプから東側へ出てエリア9あたりから下層部の捜索に出る予定でしたが、その前に見つけたということだろうか。
以前からではあるがハンター同士で狩場を表現する専門用語として狩場を場所ごとに区分して番号を付けて呼び合うことはよくある話で、件の「エリア9」という場所はベースキャンプ東側の先にある分かれ道を左側、特に頭上に石造りの通路が通っている道を進んだ先のエリアということになっている。とくに密林は緑の植物が生い茂っている上層部と、ひんやりと水音が鳴り響く石壁の洞窟状に開かれた下層部に分かれているが、その下層部への道が続いているエリアの一つとなっていた。
発煙筒が打ち上げられたあたりはだいたいそのあたりなので…………なるほど、あの場所は確か東側の壁が上れたはずなのでそのうえで身を隠していたということなのだろうか。
それに対して続けて少し離れた位置から普通の白い発煙筒の煙も立ち昇るのが見える。
あのあたりはルシアさんの担当エリアのさらに東側…………リディさんでしょうか。
それから反対側の…………ヘラさんが向かったエリア付近からも白い煙の発煙筒の煙が昇り、私も少し遅れてポーチの中から発煙筒を取り出すと地面に軽く固定し、下部から飛び出ている発火用の紐を引き抜いた。
バシュッ。
紐を引き抜く時の摩擦によって内部に仕込まれた火薬に着火し、爆発とともに白煙が垂直に勢いよくたち昇るように設計されたこの道具は煙という性質上風の影響を大きく受けてしまうというデメリットこそあれど離れた距離にいるハンター同士の簡単な意思疎通や合図に利用できる効果も持っていた。
狩場に入る前には入念に作戦を立ててから踏み込むことでベテランのハンターたちであればある程度の経験則から状況の把握は可能であることが多いが、それが経験の浅いハンターであればどうしてもそうはいかない。
例えば予測不能な事態に陥った時。
モンスターの状態が事前情報よりも悪く凶暴性が増していた、とか。本来ならいるはずもないモンスターが突如乱入し狩場に波乱が訪れた、とか。不慮の事故で道具類が飛散してしまい準備していた量よりも半分以下に減ってしまった、とか。それから何より、負傷をしてしまったことで思うように動くことが出来ない。等々。
そのような事態に陥ったとしても片手さえ動けば狩場にいる味方へ信号を送ることが出来るこの道具は狩場に持ち込む道具の必須枠として最近重宝されてきている。
しかしこの発煙筒の従来の色は『白』だ。
ではなぜ、
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出発直前。
「あ、ちょっと待ってほしい」
それだけ言うとヘラさんはテントの隣に設置してある青いボックスの中身をゴソゴソと漁り始めた。
「?ヘラさん?どうしましたの?」
不思議そうに眉を寄せるルシアさんをよそにヘラさんはボックスの中から何かを取りだした。
そして、それを私たち3人に手渡してくる。
「まだ試作だけど。コレ、使ってみて。で、後で感想聞かせて」
渡されたものは一見するとただの発煙筒だった。
数は5本。
見た目は発煙筒であるもののその円筒部分には彼女の手書きであろう走り書きの字で複数の色の名前が書かれた紙が張り付けられている。
思わず頭の上にはてなマークを浮かべながら首をかしげてしまった。
隣を見るとリディさんもルシアさんも訝しげに眉を寄せていた。
「リディさん、これは…………なんですの?」
「発煙筒?…………でも、なにこれ、『
ルシアさんとリディさんが順番に質問を投げかけた。
するとその質問を待ってましたと言わんばかりに「ふっふっふ♪」とわざとらしく含み笑いを浮かべるとヘラさんは腰に手を当てて胸を張った。
「流石、いい質問!」
それからびしっとルシアさんを指さしながら誇らしげに語りだした。
彼女にしては珍しいその勢いに指をさされたルシアさんは一瞬びくついてから、指をさすなと突っ込みを入れている。
「これは私が発煙筒を改良した最新作!なんと、あの白しかなかった発煙筒に色を付けた!ふふん、これはちょっと自信作♪」
「また懲りずに道具の改造をしておりましたの?…………この前はしびれ罠に爆発要素を加えるとか何とか言って盛大に暴発していたじゃありませんか。大丈夫なんですの?」
あきれたようにルシアさんがため息をついた。
「そういえば、それに巻き込まれてたのルシアだったもんねwあはははww」
「やかましいですわ!!」
「あれは少し火薬の量を間違えただけ。次は必ず。だから、ね、ルシア。お願い」
「うっ…………」
そうは言ってもルシアさんは根が優しい方ですので、自分よりも小柄なヘラさんに胸の前で指を組みながらグイっと詰め寄られてしまえば言葉も詰まらせてしまうというものだった。
眼を泳がせながらヘラさんを体から引き離すと「わ~かりましたわ!」と言いながら渡された発煙筒の詳細をヘラさんへ問いかける。
「そ、そういえば…………この色はな、何を意味しているのですか?」
「ですね~、私も気になります~。どうですか~?ヘラさん~」
たじろぐルシアさんに助け舟を出しつつ私もこの五本の発煙筒に関しては効果が気になるのでそれに関しての説明をヘラさんに求める。
すると、先ほどまで上目遣いでルシアさんを見上げていたヘラさんがぴょこんと飛びのくと再びむん!と胸を張って意気揚々と効果の説明を始めた。
「むふ、忘れてた。ちゃんと説明しないと。基本的に使い方は発煙筒と同じ。空に向かってばしゅ~んって。で、色なんだけど…………まずこれ」
そういうとヘラさんは五本のうち紅い紙が貼られた発煙筒から順番に持ち上げていく。
「基本的にこの五本の発煙筒は狩場での簡単な意思疎通を目的に改造してみた。この紅い紙の発煙筒はおもに狩場で『メインターゲットとの接触』の合図、紅い煙が出る」
「あぁ、なるほど紙に書いてある色の煙が出るってことなんだ。………え、すご。でもさ、確かにバラバラに行動してたら今誰がどこでどのようになんのモンスターと交戦しているのかわからないもんね。先輩はなんか感覚でわかるらしいけど」
「そう。経験値がないとわからないの。だから、それを見てわかるようにしてみた」
「確かに、今回の改造道具は信頼できるかもしれませんね」
「むん。で、この黄色い紙のほうは『サブターゲットとの接触』、蒼い紙のほうは『依頼達成もしくは救難者・遭難者の発見』、緑の紙は『
それを聞いて私は視線を渡された五本の発煙筒に落としてから手を顎に当てて少しだけ考える。
確かに狩場において意思疎通は必須事項であるが先ほどリディさんが言っていた通りバラバラに行動していた場合、ほぼ行うことはできない。ゆえにその部分に注目した簡易的な意思疎通手段は狩りを円滑に進めるうえで重要な道具になる可能性があるのではないだろうか。
「そうですね~、まだ試作なのですよね~」
「むん。一応試作。でもほとんど完成してる。鍛冶屋の親方に協力してもらってる」
「なんですの。親方お墨付きなんですのね。なら、まぁ……」
「なるほど。じゃあ使ってみようよ。効果もそうだけど白以外の色がついた煙の発煙筒とかすごく見てみたい!」
「ですね〜。とにかく使ってみましょう〜」
「よろしく、ぶい」
ブイサインを作りつつヘラさんが胸を張り、私達は渡された5本の発煙筒をポーチの中へ入れ、お互いに頷きあってからそれぞれの捜索ルートへ足を進めた。
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と、言う経緯のもと各色の着いた発煙筒の試作も兼ねてこの依頼は始まった。
本来ならこのような依頼で試作品のテストはやらないことが普通ではあるが、今回はむしろ性能テストには申し分ない舞台ではある。
白い発煙筒を打ち上げてから小さく息をつき、登っていた高台から足早にベースキャンプへ目指して移動を開始した。
その途中、ふと空を見上げると先程まではっきりと立ち昇っていた発煙筒の煙が風に乗ってもう既にほとんど見えなくなってしまっていた。
仕方の無いことではあるがこれに関してはまだ改良よ余地もありそうだ。
「そうですね〜。あとでヘラさんにお伝えしておきましょう〜。…………っと」
極力モンスターとの接触を避けるために岩陰や木の影に身を潜めつつ移動してく。
そんな中、ふと思い立って足元へ視線を落とした。
救援者を見つけてベースキャンプへ戻っているということはおそらく怪我をしている場合が多い。
となると手当はリディさんがしてくれているはずなので問題は無いが、それが複数人になってしまえば材料の心配も出てきてしまう。
今回の依頼では確か……救援者3人だったはずなので、もしかしたら足りなくなるかもしれないか。
必要な材料は薬草と……簡易的な痛み止めとしてマヒダケ、眠り草で麻酔モドキの効果が得られたはず。
多めの水で希釈する必要はあるが。
この前リディさんが先輩から教えてもらったと得意げに語っていたのを聞いておいて良かった。
確か今いるあたりに薬草があったはず…………それからマヒダケも。
「ありました〜。うん、量は申し分ないようですね~」
一通りピックアップした素材を採取し終え、小さく息をつく。
「……あ、そういえば〜。この依頼のターゲットは……」
そこでひとつ大切な素材を忘れていたことに気づきキョロキョロと周囲を見渡した。
その中で緑が大半を占める密林の中で青みが掛かった葉を付ける植物を探し、プツンと葉の根元付近を折って手早く葉を摘み取っていく。
これは解毒草と呼ばれる植物で特徴的な青色の葉から抽出される液体はモンスター由来の毒に対して特に強い解毒効果を持つ植物として知られており、その手の攻撃手段を持っているモンスターとの戦闘では必須アイテムであった。
特に、解毒効果のある液体を抽出した液体と少量の回復薬を混ぜてドリンク状に加工した物を解毒薬と呼び、解毒草を直接食べるよりも飲みやすさや吸収効率を向上させた道具としてハンターの間では重宝されている。
「にしても、相変わらず不思議な色の葉ですね〜」
茎を持ってくるくると回転させながら呟きつつ、視界に入る分の最低限の量を取り終えると、そのまま腰のポーチへ。
摘みたての葉をそのままポーチに突っ込んだため多少は嵩張ってしまうが今はベースキャンプに戻るだけなので気になるほどでもないか。
付近に生えている植物の類は一通り採集し終え、一息つくと再び周囲に視線を向けてモンスターの影が見えないことを確認してからその場を後にした。
…………少しだけ心配事もあるのでなるべく急いで。
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ベースキャンプに到着。
自分では結構急いだつもりだったが薬草やら解毒草やらなにらやを一通り採集していたおかげでハンター運搬役のアイルー達よりも遅れての到着となってしまったようだ。
先に到着していたルシアさん、ヘラさん、リディさんの3人と
思っていたよりも冷静さを保っているようで安心した。
先程考えていた『心配事』というのはリディさんのことだった。
小柄でボーイッシュな見た目と元気で明るい性格である元気印なであるが、その反面突発的な出来事や不測の事態にめっぽう弱く気が動転してしまい取り乱してしまう傾向にある。
私たち10人の中でも精神面のアップダウンが特に大きい1面を持っているため、『複数人の怪我人』と言う経験がほとんどないこの状況で取り乱してしまっているのではと心配していたが、それはどうやら杞憂だったらしい。
それをベースキャンプの入口付近から見守りながら乱れた呼吸をゆっくりと落ち着かせながら見守っていると、ふと自分のポーチの中を開いたリディさんの表情が曇るのが見えた。
続けてこの世の終わりのような表情でキョロキョロと挙動不審に周囲を見渡し、ピタリと私と視線が合う。
それと同時にものすごい勢いでこちらへ走り寄ってきた。
しかし、その表情はいつもの彼女の色ではなく、激しい焦燥感の色が支配していた。
「はぁ!はぁ!フィ、フィーちゃん!ごめん!あたし!ごめん、こんなこと、今日はリオレイアの亜種個体って聞いてたからちゃんと準備したんだけど!だけど、でも!あたし!どうしよう!ねぇ、どうしよう!」
「ど、どうしましたか!?落ち着いて!落ち着いてください!リディさん!?」
「これが落ち着いて……!でもごめん!あたしの、あたしのせいで!」
あまりの取り乱し具合に思わずリディさんの両肩を掴んで落ち着けと声をかけるが、彼女がこうなってしまうと一筋縄では冷静さを取り戻せないのは今までの経験からわかっている。
そんな時一番の解決手段は、と言うと。
私は掴んでいた彼女の両肩を思い切り抱き寄せ、そのまま小柄なその身体を思い切り抱き締めた。
「大丈夫です!落ち着いてください!あなたのせいではありません!大丈夫です!」
私が語調を少しだけ強めるとさっきまで取り乱して力が入ってしまっていた彼女の体からフッと力が抜けていくのが伝わってくる。
ここまで来れば正気を取り戻せているはず。
私はゆっくりとリディさんを解放し、肩に手を乗せたまま問いかけた。
「ふぅ、それで〜?なにか良くないことでもありましたか〜?」
「はふぅ……。ん、あ、うん、それがさ。今日の狩りはリオレイアって言ってたでしょ? 」
「はい〜」
「そ、それでね…………」
そこまで言うとふと視線を落としてしゅんと肩を落としてしまうリディさん。
それでも先程までのバタついた様子もなく落ち着きを取り戻してくれている。
「げ、解毒薬、補充し忘れてて、ポーチの中に1個もなくて。ごめん!それで、お願いなんだけど!」
あぁ、なるほど。
それで取り乱して……。
「解毒薬……あぁ、それなら〜、ここにかえって来る途中で少し採集してきましたよ〜」
思わぬ返答にリディが「ふぇ?」と情けない声を出しながら瞠目した。
「救助対象は3人で全員リオレイア亜種の毒に侵されているとしても〜、これだけあれば足りますよね〜?どうですか〜?」
そういいながら私は自分のポーチの中から先程採集した薬草やら解毒草やら諸々をリディさんに見せた。
「え、あ、ありがと……。わ!すごいこんなに!これなら足りるよ!ありがとフィーちゃん!うわーーん!ありがとー!もうダメかと思ったよぉー……グスン」
「そ、そこまでですか〜?でも、安心してもらえて良かったです〜」
「グス……うん。ほんとにありがと。ヨシ!さっきはヘラちゃんとルシアに喝入れてもらったし、頑張ろう!クラマさんに教えてもらった経験を存分に活かすよ!」
どうにか立ち直ってくれたリディさんは私に勢いよく抱きついてから、すぐに離れると自分の頬をパンと叩いて活を入れた。
それから即座に私の方へ視線を戻した。
しかしその瞳に先程までの焦りと不安でいっぱいいっぱいだった表情は無く、覚悟を決めた決意の色が灯っていた。
どうやらいい感じにガス抜き出来たらしい。
これで一安心、ではある。
「ヨシ!それじゃあ、さっき言ってたお願いなんだけど」
「はい〜」
「解毒薬の調合、お願い出来る?あたしは怪我してる人の応急処置しておくから、調合できたら…………あ、こっち来て」
「はいはい〜」
人が変わったようにテキパキと指示を出すリディさんに手を引かれつつテントの方へ戻ると怪我を負ったハンターが3人ほど寝かされており、その全員が至る所に傷を負いリオレイア亜種による毒に侵されていた。その証拠に3人とも青白い顔色をしており目の下に深い隈が出来ている。
ただ、そのうち2人はまだ意識はあるようで応急処置をしているヘラさんとルシアさんと時々会話を交えていた。
しかし、残りの1人は怪我と毒の蓄積によって意識を失っているらしくダラりと簡易ベッドへ横たわっていた。
リディさんはすぐにその人の方へ視線を向ける。
「調合ができたら1番先にあの人にお願い。毒の回りがあの人だけ早い。もしかしたら普通の毒じゃなくて猛毒の方浴びちゃったのかも…………。そうだったとしたら一刻も早く解毒しないと。あたしが先に応急処置しちゃうから解毒薬出来たら頼むね」
「分かりました〜。任せてください〜」
毒を扱うモンスターは複数いる。しかしいずれも生産手段や体内への蓄積方法はまちまちではあるが、人間に対する効果はどれも類似していることがこれまでの調査によってわかっていた。
ある意味幸運である。
私は手早く
色々と設定やらつながりやら少しずつ見えてくる頃