ドンドルマ。
大衆酒場。
「えぇ!?レマちゃん怪我したの!?」
「はい、それで急遽帰ってきたんです」
酒場のカウンターの奥でグラスを磨きながらヤクモの話を聞いていたヨミが驚きの声を上げた。
そのせいもあってか酒場内の視線が一瞬だけヤクモとヨミのほうへ集まってくるがそんなことには気にも留めずにヨミは磨き終わったグラスを戻してからロイヤルハニーのドリンクを二杯ほど作り、片方をヤクモに差し出しながらカウンターに肘をつく。
「ヨミさん、仕事中でしょう」
「いいのいいの。休憩だよ~っと」
鼻歌交じりにドリンクを飲むヨミを見ながらヤクモはため息をつきながら頭を抱える。
そもそもヤクモがこの酒場によった理由も実際のところ大した用事があるわけでもなく思いのほか狩りが早く切り上げざるを得なくなったおかげで予定が狂い、かといって家にいてもやることがなくて手持無沙汰であったためだ。
ドンドルマに帰投した直後は負傷したレマを医者に連れていったりギルドへの戦果報告、依頼されていた素材の受け渡しなどなどバタバタしていたものだが、それも一段落し病室で眠るレマに見舞いの品を置いてきたその帰り道のことだ、ふと酒場によろうと思ったのは。
一応以前からヨミに言われていた思いつめすぎないようにという理由もあるにはある。
今でこそ夜も更けてきた時間だが正直このまま一人になっていたら明日の明け方まで今回の狩りにおける反省会を延々と一人で行う羽目になっていたかもしれない。
「でも、ヤクモちゃんもこの前私が言ったことわかってくれたようで何よりね」
「何か言ってましたっけ?」
「ひどい!もう、ほら、何か悪いことがあっても一人で考えすぎないでって言ったじゃない」
「あぁ、そういえばそうでした。その説はありがとうございました」
「むぅ。まぁそうはいっても、何はともあれヤクモちゃんが無事でよかったよ」
「よかった…………といっていいのかはわかりませんが」
前に出されたロイヤルハニードリンクに一口口をつけながら珍しく頬杖をつくヤクモ。
そのあとの深いため息を見たヨミはなぜか責任を感じて落ち込んでいるヤクモの額をピンとはじく。
「あのさ~、毎回毎回ちょっとアクシデントが発生くらいでそんなに落ち込まないでくれる?見てるこっちまで気分が滅入ってくるって」
「ですけど。やっぱりもっとこうしてればよかったとかああしてればよかったとか考えてしまうんです。一種の職業病みたいなものでしょうか。今回の狩りもできるだけ素材の量を確保するために4人がそれぞれ単独で行動していたので、異変に気付くのが遅れてしまったことが大きな原因でしたし。こんなことになるなら初めから効率よりも安全性を取って2人対2人での行動を提案するべきでした。これもそう、慢心しきっていた私の油断が…………」
「ちょっと待ってストップ!!待って?なに?ヤクモちゃんどっかでアルコール飲んできてるの?」
「?いえ、特には……」
今日はいつにも増して盛大に落ち込んでいるらしいヤクモをなだめつつとにかく!とヨミは彼女の暗い雰囲気にのまれないようわざと明るい声を出した。
「レマちゃんのことは心配ないって。だってほら、コハクさんたちと一緒に狩りに行ってたんでしょ?あの人って薬草とか応急処置とかにめちゃくちゃ詳しいじゃない。だから大丈夫よ」
「はい、そうですね……」
「……はぁ、まったくもう。ちょっと待ってて」
そんな調子でどうにも気持ちの切り替えができていないような友人の様子をカウンターの向かい側から眺めていたヨミはわざとらしく大きなため息をこぼしつつ飲み終わったロイヤルハニードリンクのグラスを回収すると、そのまま手慣れた手つきで二人分のグラスを洗っていく。洗い終わったグラスはシンクの隣にかけてあるふきんで水気を取ると後ろに備え付けてある
注ぎ終わると無言のままそのうちの片方をスッとヤクモの前に差し出し、若干むすっとした表情のままヤクモに向かってグラスをくいっと動かした。
「ヨミさん……これは」
「いいから、仕方ないから今日くらいは付き合ってあげるわよ」
「?」
ヨミの言葉に若干疑問を抱きながらもせっかくなら、とグラスを手に取ったヤクモは盛大な乾杯をするわけでもなく静かにヨミとグラスを突き合わせた。
その後、せき止めていた本心と後悔の念をすべてぶちまけながら泣き崩れるヤクモがしゃべり疲れて意識を飛ばすころにはすでに東の空が白み始めていたのだった。
※
翌日。
自室の窓から差し込む光が顔に当たって意識が覚醒する。
本来、朝方であれば窓から光が差し込んでいようと顔にまで当たることはないので何か違和感があるが、まだぼんやりとする意識の中もぞもぞとベッドから這い出して窓の外を見て納得した。
太陽は完全に真上にまで昇っており時間は朝方ではなくお昼時だということを示していた。
上に向かって大きく伸びをしながらあくびを1つ。
じょじょに回り始めた頭に疑問がいろいろと浮かんでは来るが何はともあれ顔を洗おうと洗面所のほうへ行こうとしたその時、ふいにズキンと頭に痛みが走った。
「(っ……?)」
不意打ちのような痛みに顔をゆがめつつヤクモは洗面台のほうへ向かい冷水で思い切り顔を洗う。
おかげで頭の痛みも多少ましにはなってきた。
昨日は狩場から帰投してからレマの件やエリンが持っていた黒い液体をギルドに報告するついでに依頼された素材の納品やモンスター討伐依頼の報告などなどドタバタいろいろなところを駆け回ってへとへとになっている状態で酒場に行ったせいでついついヨミと夜更けまで話し込んでしまっていたことを思い出す。
そこでロイヤルハニーのドリンクをもらって、少し話し込んでいるとヨミがあきれたような顔をしながら麦酒を出してくれて…………そこからの記憶がまるでない。
今自分が自室のベッドにいたということは酒場からちゃんと帰ってこれたということではあるが、どんなルートで帰ってきたのかなどの情報がきれいさっぱり記憶にない。確か昨日の段階では全身防具を纏っていたはずなのだが今の自分の姿はいつも就寝時にきている寝間着だ。
「……」
思考回路が一瞬だけフリーズし、それから一気にありとあらゆる可能性が頭の中に浮かんできたことで思わずサァっと血の気が引いていく感覚を覚えながら着替えようと寝間着の第一ボタンに手をかけかけて動きを止めた。
そんなことよりも!
「と、とりあえずヨミさんのところへ行くことにしましょう。はぁ」
今は一刻も早く昨日の出来事を確認して事実を知ることが先決だ。
何となく今日の体調はいつもよりもいいほうではないがそんなことに気を割いている場合ではない。
大きく開け離れた窓から吹き込んでくる風を肌に受けながら手早く寝間着からいつものインナー、本日は狩りに行くわけではないので『依巫・祈』装備ではなくクローゼットの中からTシャツを取り出して頭からかぶりつつ首を通してから長い髪をパサリと外へ。
黒い髪が大きく靡き周りに甘い香りが漂う。
「(?…………入浴、しましたっけ?)」
そこまで考えてしまい再び手が止まってしまうが無理やり頭を左右に振って着替えを再開していく。
念の為と言いながらヨミに半ば無理やり作らされた黒のレザーレグス*1に足を通して腰はベルトで締め、特に狩りに行く用事でも無いため髪は纏めずにサラリと流した。
最後にケルビの素材から作られた上着を羽織り、姿見の前で整えたら出かける準備は完了。
いつものグリーヴとは別の履物に足を入れてヤクモは自室を後にした。
※
「ヤクモ先輩。お疲れさまです」
「はい、あぁ、アデリアさん。お疲れ様です。今お帰りですか?」
「そうなんです。ちょうど今依頼が完了して帰投してきたところです。先輩は……私服なんて珍しいですね」
家から酒場までの道すがら今回の騒動で自分とは別の狩場に出払っていた後輩ハンターにばったりと再会した。
ヤクモと同じ黒い髪が特徴的な彼女は深めの緑色で統一されたドレスタイプの装備である『レイア・S』装備のヘルムを脱ぎながら一通りヤクモの全身を流し見ながら一つ息をついた。
思わずヤクモもあははと若干照れながら笑みを浮かべ、軽く頬を掻く。
「あはは、確かにそうですね。私は予定よりも早く帰投しましたので本日の予定が空いてしまいまして。休日も防具を着るのも何か違和感がありましたので」
「そちらもそちらで珍しいですね。いつも予定期日に忠実でしたのに」
「まぁ、少しアクシデントがありまして、戻らざるを得なくなったというところです」
「なるほど。……今から酒場のほうに?」
「はい。アデリアさんも酒場に行くところですか?」
「ちょうど依頼完了の報告がありますので。それでしたら私もご一緒しても?」
「構いませんよ」
射抜くような半目の瞳にうれしそうな表情を浮かべたアデリアが小走りでヤクモに追いつき、二人並んで酒場のほうへ歩き出すのだった。
「そういえば、アデリアさんは今回の依頼ラティオ活火山地帯のほうへ向かっていましたよね」
「はい、先日ヤクモ先輩たちが相手をしたショウグンギザミに続いて今度は【鎧竜】グラビモスが異常発生しているとのことでしたのでそれらの掃討、そのついでにギルドマスターさんから頼まれていた鉱石類、小型モンスターの素材回収をしてきました。グラビモスに関しては今火山地帯に出現していた分は5頭すべて討伐してきました。…………私含めて同行した先輩たち全員がすべての道具を使いきってどうにか5頭倒しきったって感じでした。最後のほうは回復薬や閃光玉あたりは現地調達で賄ったりして……ギリギリ」
やつれたようにため息をつくアデリアは、現地で相当気を張っていたようで先輩ハンターであるヤクモにそのストレスを吐き出したことで一気に力が抜けてガクリと肩を落とした。
「1頭だとしても骨が折れる相手ですのにそれが5頭も…………もう疲れたなんてものじゃないです……。正直こんな危機的状況でなければグラビモス5頭連続狩猟なってやりたくないです……」
「それは大変でしたね。にしても5頭も、ですか。それは、本当にお疲れさまでしたね。それからアデリアさんたちも無事で何よりです」
「ありがとうございます。ヤクモ先輩のほうは確か……」
大きなため息交じりに感謝の言葉を返したアデリアは、今度はヤクモのほうへ質問を投げかけた。
「私のほうはグラビモスほど面倒な相手ではありませんでしたけど、ダイミョウザザミとバサルモスの掃討が依頼内容でした」
「ダイミョウザザミとバサルモスですか!?わ、私もヤクモ先輩と一緒の班になりたかったです……。ちょっとうらやましいです……」
「ふふふ、まぁ、どの依頼を担当するかと一緒に狩りを行うパーティーメンバーはクジでしたからね。また今度機会があれば一緒にいきましょう」
「はい!」
「そうは言っても、こちらもこちらで大変でした。できるだけ多く討伐が依頼内容だったので効率を考えて全員が単独行動で掃討することになりましたから」
そんなヤクモの一言にアデリアが目を丸くしながら驚愕した。
「え!?単独!?1人一匹ってことですか!?」
「その通りです。今回は私がダイミョウザザミ5匹、レマさんがおそらく4匹、それから一緒にいったエリンさんがバサルモス7頭のコハクさんが6頭といった結果でしたね」
「それは…………逆に今回は先輩たちと同じ班じゃなくてよかったかもしれないですね」
苦笑いを浮かべながら渋るアデリアを見つヤクモはクスリと笑みをこぼした。
「それにしても、最近今回のような依頼が増えてきていませんか?」
しばらく他愛もない会話に花を咲かせた後再び話題を依頼に戻したアデリアが若干眉間にしわを寄せながらつぶやく。
目的地の酒場もすでに目の前にまで近づいてきており、先ほどまで歩いていた場所から考えると少しばかりすれ違う人の数が多くなってきている感じがした。
ハンターでは別の普通の人、それから砦復旧に携わる職人の人やギルド関連の職員、それからギルドが緊急事態として各所から救援を呼んだのであろう見慣れないハンターがちらほらすれ違った。すれ違いざまに目があった人には律儀に会釈をしているヤクモを見ながらアデリアもつられて会釈をしていく。
「そうですね、私たちが依頼を分けてもまだ何通か依頼は残っていましたし……、昨日ヨミさんから聞いた話ではギルド内でも今回のようなモンスターが急に増えた等の被害報告は相次いでいるとのことです。そうは言っても大型モンスターの被害報告は私たちが分担したダイミョウザザミ・バサルモスの掃討、アデリアさんたちが行ったグラビモス5頭、それから雪山でのティガレックス複数。聞く話によると雪山に現れたティガレックスですが砂原や火山に生息していた個体が移動したといううわさもあります。あちらの班が返ってくれば真実がわかるとは思うのですが……」
「……私は初めて聞きました」
「そうなのですか?そうは言っても今のところただのうわさどまりです。しかしそれが真実となると……」
「不思議ですね」
「今、このドンドルマで何が起きているのでしょうか……」
軽く顎に手を当ててつぶやくように漏らしたヤクモの言葉を聞き、アデリアのほうもわずかに顔をしかめるのだった。
※
そうこうしているうちにヤクモとアデリアの二人は酒場の前に到着し、比較的簡素なつくりの扉を押し開けながら入店する。
店内からは来客を告げるベルとともにウェイトレスの元気な声が迎え入れてくれた。
「い……いらっしゃい~……アデリアちゃんにヤクモちゃん……」
そんな中、ただ一人だけげっそりとカウンターテーブルに持たれながらやつれているウェイトレスが目に入る。
ざっと周囲を見渡してからヤクモとアデリアは目の下に隈を作りお世辞にも体調がいいようには見えない彼女の元へ。
「……ヨミさん、今日元気ありませんね。何かありましたか?」
「あぁ、アデリアちゃん…………何かあったってそれは……」
ぐったりとしたヨミが視線だけをスッとヤクモのほうへ向けた。
つられてアデリアもその視線を追うようにヤクモのほうへ振り返り、短く『あっ……』と声を上げる。
当の本人は頭の上に?マークを浮かべながら状況が読み込めないという表情をしているが、事情を察したアデリアはヨミのほうへ視線を戻すと小さな声でご愁傷様とつぶやいた。
「察してくれたかしら……」
「はい、それはもう……お疲れ様です」
「まぁ、今回は私から誘ったから気にしてはいないんだけど……」
「そ、そうなのですね……」
「えぇ、まぁいろいろあってね…………、それで?何か用があってきたんでしょ?って言ってもアデリアちゃんが来たってことは依頼の結果報告ね……それでいい?」
見るからに青ざめた表情でにこっと微笑みながらヨミがカウンターから体を起こして討伐確認の連絡と契約書を持ってヤクモたちのところへ戻ってきた。
その間もちょくちょくふらふらと足元がおぼつかない様子を見せており、何度か転びかけては同僚のウェイトレスに支えられながら進めていた。
ほかの方からはもう今日は休んでいいという声も上がっていたが、本人は大丈夫だと言いながら仕事を進めている。
そんなヨミが確認を終えて契約書類を持って戻ってきた。
「あぁ……はい、これ。依頼完了の確認取れたわ。……報酬はいつも通りの場所に入れておくから確認して頂戴……」
「わかりました。ありがとうございます」
「……また次の依頼も頑張ってください~」
依頼完了後の決まり文句も済ませるとヨミは視線をヤクモのほうに移した。
「それで?ヤクモちゃんは、どうしたの?今日はお休みだったんでしょ?」
「そうですね。とはいえ、今の状況を見れば休むべきなのは私よりもヨミさんのほうだと思いますが。本日はどうしたのです?目の下に隈も作って、昨日はよく寝付けなかったのですか?」
ヤクモのその一言にヨミが頭を抱えながら大きく息を吐き出した。
「……知らぬが仏、よ」
「?」
その様子を見ていたアデリアも小さく苦笑いを浮かべていた。
「それは、間違いないですね」
「アデリアさんまで……。一体なんのことを言っているのでしょう」
「ヤクモちゃんは気にしなくても大丈夫だよ。それはそうと、さっき病院から連絡が入って…………」
ガタッ!!
『病院』という言葉を聞いた途端ヤクモがカウンターから身を乗り出すようにヨミに詰め寄った。
「……最後まで喋らせてよ、もう……」
「ヨミさん!病院からって言うことは……」
その様子に置いてきぼりを食らったアデリアはヨミとヤクモを交互に見つつ頭の上にハテナをうかべた。
「まぁ、大方あなたの思っている通りよ。レマちゃんが目を覚ましたって。この後予定ないなら行ってあげて」
ヨミの言葉に体の力が抜けたようにその場で脱力するヤクモ。
「レマ先輩?病院って、レマ先輩怪我をしたんですか!?」
「はい……、実はそうなんです。だから予定よりも早く帰投してきたんです。原因不明の爆発に巻き込まれてしまったらしく意識不明になってしまいまして」
「あのレマ先輩が…………。その、ヤクモ先輩」
「はい、なんでしょうか」
「レマ先輩のところ、私も一緒に行ってもよろしいでしょうか」
思ってもいなかった申し立てにヤクモとヨミは思わず顔を見合わせてしまう。
それからアデリアの方へ視線を戻し微笑んだ。
「はい、ぜひ。レマさんも喜ぶと思います」
「あぁ…………アデリアちゃん、私の分までお見舞してきて。…………体調回復したら改めて行くって伝えておいてくれる?」
「承りました」
その後、依頼完了報告にあった報酬等の分配を手早く終えたアデリアが再び酒場に戻ってくると、その足で先日レマが運ばれた病院の方へヤクモとアデリアの2人で向かうのだった。
「レマさん、元気でいるといいですね」
「はい。それから………………」
「?どうしました?アデリアさん」
「いえ、なんでもありません。早く向かいましょう、ヤクモ先輩。…………(……『原因不明の爆発』。まさかとは思いますけど……。杞憂であればいいですが)」
正式採用したキャラ1
妄想のKioku様から送っていただきました。
『アデリア』ちゃんです。
今後もいろいろな場面で登場すると思うので、よろしくお願いいたします
まだまだ締め切りまでは期間がありますので、よかったらどうぞ
期限は11月30日までですので
→キャラ募集板
まだ採用の可能性はあるかもしれません