本編どうぞ↓
ジォ・テラード湿地帯に猛猛しい咆哮が木霊する。
空高くそれでいて地上にいるヤクモとイノシマにはっきりと聞こえるほどの力強い羽ばたきと共に蒼火竜が悠々と現れた。
その瞳にはその鮮やかな蒼い龍鱗からは想像も出来ない程真っ赤に染った殺気と怒気をこれでもかと言うほど孕んでいた。
そして真っ直ぐにヤクモ達を見据えてゆっくりと地上へ舞い降りて来る。
「予想より早い到着ですね」
「"もう少しヤクモ殿の回復に貢献してくれるかと思ったのですが、仕方ないです!……………………にしてもこの辺なんか臭くないですか?"」
ヤクモの言葉に同調するようにイノシマもキリッとした口調で武器を構えるがその直後に気の抜けるような声を出して片手でブルファンゴフェイクの鼻を抑える仕草をした。
「ペイントボールの匂いです。カムラでは馴染みがないそうですね」
「"使ったこと無いであります………………"」
うぅ…………と言いながら渋い声を出すイノシマのおかげでヤクモの肩からも僅かに緊張が解れていくのを感じる。
そしてもう一度リオレウス亜種の殺気を受けて緊張を高めていく。
「来ます!」
「"合点であります!"」
ヤクモの脳内にリアルタイムで情報が駆け巡る。
エリア情報、味方の戦力、敵の殺気、配置情報………………その全てを脳内で駒のように動かして理論値を導き出す。
現状ヤクモは先の一撃で負傷中。
回復薬で多少マシにはなったとはいえ万全のコンディションとは言えない状態。
そしてイノシマに関しては先程のGPの影響も全く無いらしく、動きに支障は無いようだ。
空の王者である火竜リオレウスの亜種個体。
これに関しては正直詳しい情報はほとんど無い故、どうしても予測によって物事を考えていくしか現状では進められない。
ベースは当然通常個体のリオレウスだ。
先程少しの間相手をした感じだと動き自体は大きく異なっている部分は少ないように感じた。
ただ、通常種よりもさらに強靭な体躯は突進中に急ブレーキをかけて無理矢理その速度を殺しきること等予想外の事態に陥ることはかなり多くなるはず。
ヤクモは大きく深呼吸をしてから太刀を構え直し、突進に備える。
直後、地面へ着地したその瞬間にリオレウス亜種がこちらに向かって突進を開始した。
「散開!!」
「"合点!!"」
短いやり取りからヤクモとイノシマが同時に反対方向へ飛び、リオレウス亜種の射線上から退避するとローリングの受け身から一気に地面を蹴って両サイドから距離を詰める。
ヤクモがリオレウス亜種の左後方、イノシマはその逆右後ろからそれぞれ武器を抜き放って距離を詰めた。
「イノシマさん!尻尾の振り回しに注意してください!」
「"了解であります!"」
先程は不意を突かれて重い一撃を貰ってしまったが、その攻撃があると分かれば避けることは可能だ。
想定通り、突進を外したことを悟ったリオレウス亜種はすぐさま急ブレーキをかけて尻尾の振り回しを放ってくる。
ブォン!と棘のついた尻尾が唸るように振り回された。
しかし、
「フッ!!」
(ガチン!!)「"……っさァ!!!"」
尻尾の軌道を見切ったヤクモは体を捻って半身になりながら見切り、イノシマもガッチリと
そして、ヤクモの見切りからの切り上げが尻尾を振り回すために回転中のリオレウス亜種の右脚辺りにヒットする。
それによってリオレウス亜種が仰け反った。
「今です!イノシマさん!!」
相手が怯んだこの瞬間は攻撃のチャンスではあるが、今現状の自分の火力を考えた結果それは不採用となる。
代わりにバックステップで後退し、リオレウス亜種の正面を大きく空けた。
直後、彼女が空けたその場所へ向けイノシマが
「"待ってました!!!行くでありますよ!!!一撃必到!!!!"」
そして、鉄蟲糸技『形態変形前進』の勢いを左足の踏ん張りで相殺しつつ右手に持った剣に左手の盾を組み込むと、重心を落とすどっしりとした構えに移行。
武器内部の機構が重厚な機械音を奏でながら稼働し、最後にガチンと機構のロックが解除される。それが合図となりエネルギーが極限にまで達した事を所有者に告げる。
その溜めに溜めたエネルギーを一気に爆発させて大きく遠心力を乗せた水平薙から続けて最後に斧形態の武器を思い切りリオレウス亜種の頭目掛けて叩きつけた。
通常の爆弾のような火薬による爆発とは異なる内蔵されたビンが巻き起こす通称ビン爆発による追加ダメージもしっかりと健在で、彼女の振り回す『シュラフカッツェ』は相手の気絶を誘発させる「榴弾ビン」を内蔵しているようだ。
「"超出力属性解放斬り!!!!!"」
高らかな電子音声とは裏腹に地面が揺れたと錯覚してしまうほどの衝撃がリオレウス亜種の脳天その1点に全て注ぎ込まれ、瞬間的にリオレウス亜種の頭部を
これには流石のリオレウス亜種もたまらずバランスを崩して横転した。
ここで一気に畳み掛ける!
イノシマとの反対側(尻尾側)に素早く回り込み、走りながら体に錬気を練り上げる。
意識を体の中心に集結させて渦を巻くようにしながら少しずつ大きく膨れあがらせる。
その気は徐々に色を帯び始め、青、黄、赤。
そして最後、錬気の解放と同時に色は白へと昇華して体全体を覆い尽くした。
納刀した太刀を腰の当たりで構えながら距離を測り、自分の間合いに入るのと同時に抜刀斬り、それから流れるように太刀の刃を返して気刃斬りへ移行する。
狙うは尻尾。
こいつを切り落とすことさえできれば攻撃力を大幅に削ぐことができるからだ。
錬気を纏った刃を斜めに斬り下し、続けて遠心力を乗せながら逆から。
体を捻りながら水平切りを放ち、おおきく振りかぶった縦切りから一瞬で刃を返して返し斬り。
そして、流れるように腰の鞘に刃を収め、リオレウス亜種が気絶から回復して立ち上がったその一瞬。
腰の鞘から太刀を一気に抜き放ち、居合抜刀切りへ。
一瞬にして斬り抜いた刃に手応えが伝わる。
この一撃によって先程ヤクモを吹き飛ばした尻尾を護っていた甲殻にヒビが入っていた。
「"流石ヤクモ殿!!"」
「ふぅ…………イノシマさん、そろそろ一旦距離を取りましょう」
「"合点!"」
ヤクモが言葉を言い終わらないうちから
両者バックステップでリオレウス亜種から距離を取り、同時にヤクモはポーチから閃光玉を取り出して投擲。
リオレウス亜種の視界を奪ってからエリア移動のために北へ向かって走りつつ装備の『広域化』スキルを利用して鬼人薬の効果をイノシマに渡す。
彼女はヤクモの後ろを走りながら不思議そうにしていたが、ヤクモの装備を改めて見直して納得したようだ。
「"いやぁ、噂には聞いていた『広域化』の効果はこれのことなんですなぁ!"」
「イノシマさんは初めての経験ですか?」
「"はい!なにせ1人の活動が多かったですから"」
「そうなのですね。…………てっきり慣れているものかと思っていましたが」
「"あはは、カムラは元々正式なハンターの数が少ないですからね〜"」
エリアの端まで来た所で一旦足を止めて後方のリオレウス亜種へもう一度向き合う。
閃光玉の効果時間は15秒程度。
ヤクモが振り向いたのとほぼ同じタイミングでリオレウス亜種も視界が回復したようで何度か周囲を警戒し、その視線をこちらへ向けた。
怒り狂う咆哮と共にこちらへ向けて突進を開始するリオレウス亜種を確認してから再び背を向ける。
南西部エリアでの交戦時間もいくらか稼いだ。
もうそろそろ商隊の避難もあらかた完了する頃だろうか。
小型モンスター程度であればイズモ1人で対処できるだろう。
全力で北上しながらリオレウス亜種の突進をギリギリのタイミングで真横に飛んで回避する。
反対側では同様に回避行動をとったイノシマが綺麗に前転しながら受身をとっていた。
そして突進後の無防備に投げ出されたリオレウス亜種の背後へ向けて追撃を行う。
今回は両足で踏ん張ることなく勢いをそのまま前に投げ出すように突進の勢いを止めたリオレウス亜種の背後はこちらが攻撃を加える最大のチャンスだ。
受身に使った軸足で体のバランスを維持しながら地面を蹴り、姿勢を低く保ちつつ接近。太刀は腰のあたり。
柄を握る手に力を込めながら接触と同時に抜刀居合切りで反対側に走り抜けた。
抜刀と同時に放った刃がヒビの入った甲殻部分に吸い込まれるようにくい込み、細かい破片が飛び散る。
「手応え、ありました!」
そして私と入れ替わるように鉄蟲糸技『形態変形前進』で鮮やかに
同時に武器内部の機構がガチャンと無機質な音を響かせて内部に充填されていた瓶エネルギーを解放しその先端へ集中させた。
「"はぁぁぁぁああああッ!!!!!!"」
一瞬にしてエネルギーを臨界点まで引き上げたイノシマが武器の遠心力を最大限に利用した水平斬りを放ち、その勢いを殺さないように綺麗に武器を持ちかえると、そのまま軸足に溜めた力もふんだんに乗せて思いきり斧をリオレウス亜種に向かって叩きつけた。
狙いは当然先程からヤクモが連続で攻撃を仕掛けたことで脆くなり、ヒビの大きくなった尻尾部分。
ズガァン!!!!
瓶爆発の盛大な爆発音を残して、その衝撃波によって空気が振動する。
それと同時に一瞬、ほんの一瞬ではあったのだが、ヤクモは確かに
イノシマが斧をリオレウス亜種の尾に叩きつけた刹那、バキン!と甲殻が砕け散る音と刃が肉を切り裂く音が聞こえ視界には切り離された尻尾が小さく宙を舞う姿と思いもよらないダメージによろけ、こちらに向かって威嚇咆哮をするリオレウス亜種。
その瞬間だけまるで時間が遅くなったかのような感覚が走り抜けていた。
「……っ!」
しかしそれもすぐに治まり、身体中に緊張感が戻ってくる。
怒り狂ったリオレウス亜種が再び大きく息を吸い込んで咆哮を放つ。
それにはさすがにヤクモもイノシマも同時に耳を抑えてしまった。
反射的に目を瞑ってしまいそうになるのをどうにか片目だけは開いたままリオレウス亜種を捉え続けることが出来たが…………
リオレウス亜種の口元に赤い炎がこぼれ出した。
「ブレス!来ます!!」
「"が、合点!!"」
お互い片手で耳を抑えながらブレスの斜線上から横っ飛びで避け、すぐに頭を上げてリオレウス亜種の方へ視線を向ける。
しかし、
「なっ!?」
「"い、居ない!?一体どこに…………"」
「この短時間でどうやって………………いや違います!」
「"前に居ない、という事は………………"」
「上!!」
「"上!!"」
2人が同時に空へ視線を向ける。
直後、バサリという巨大な羽ばたきを響かせたと思えば今度は上空から
まだキンキンと耳の奥で耳鳴りが響くのを耐えながら左右へ小刻みに移動することで火球を避けていき、若干助走をつけるようなモーションをリオレウス亜種が取る。
「(来る!)」
見覚えのある攻撃モーションに先程まで耳に当てていた手を離してすぐさま太刀を納刀し重心を落とす。
腰辺りに太刀を固定し、その柄を握りしめる。
あの動きには見覚えがある。
以前アカシ、レマと共に通常種のリオレウスを狩りに行った時によく見た動きだ。
聴覚の麻痺による集中力の低下が大きいが、どうにか押さえ込み目視で距離を測る。
直後、予想通りリオレウス亜種が上空高い位置からヤクモの方を狙って勢いよく滑空して来た。
通常種ではそのまま滑空の勢いを殺すこと無く両足で蹴りを放ってくるが、そこもどうやら亜種個体だとしても変わらないらしい。
「ふぅ……………………はっ!!」
距離を図り、居合の間合いにリオレウス亜種を捉えた瞬間抜刀と同時に前へ飛び出すようにしながら切り上げた。
先程まで切り続けていた尻尾部分とは異なりまだ甲殻が無傷の状態の場所へ切りつけた。
やはり硬い。
接触と同時に右手が衝撃で麻痺する。
「っ!」
リオレウス亜種の方にも大したダメージは入っていないようでこちらを蹴りつけたあと再び上空へ飛び上がってしまった。
あそこまで高く飛ばれてはこちらとしては分が悪い。
どうする。
考えがまとまらないヤクモをよそにリオレウス亜種は今度はイノシマにターゲットを定めたようでブレス、滑空から両足での連続蹴り等の攻撃を続けざまにイノシマへ繰り出していた。
イノシマも流石に飛行中の相手には反撃も難しいようで左腕に装着している盾で攻撃を受けるだけで精一杯の様子。
攻撃を受ける度にその衝撃で若干後退させられながらも今はどうにか右足で踏ん張って耐えているが、それも肩を大きく上下させている状態ではいつまで持つか分からない。
尾を切られてもなおその獰猛さは衰えることを知らず、むしろ切る前よりも激しくなっている気さえする。
そう考えた直後。
「(……!あれは!)」
ベースキャンプの方向から赤い煙が立ち上っているのが見えた。
間違いない。発煙筒の煙だ。
ということはつまり、商隊は無事に安全地帯まで誘導が終わったという合図。
「イノシマさん!」
「"っぐぅ………………はい、見えてます。イズモ殿の合図、ですな!………………っともう!しつこいであります!"」
リオレウス亜種の連続蹴りを盾でがっちりと受け止め、身動きが取れないまま言葉だけで返すイノシマ。
それからヤクモは手早くポーチの中から閃光玉を取り出して塞がっている右手の代わりに歯を使ってセーフティを引き抜くと、再度上空高くに舞い上がったリオレウス亜種の顔前に向けて投擲した。
顔をこちらに向けたまさにそのタイミングで閃光玉の外殻が弾け飛び、周囲に強烈な閃光を撒き散らす。
「これで!」
「"引きましょう!!"」
腕で両目を覆っていたヤクモとイノシマは強烈な光によって視力を奪われたリオレウス亜種が地面へと墜落していくのを確認しながら即座に武器を仕舞いその戦場を離脱した。
♢
ベースキャンプ。
「はぁ……はぁ、イズモさん。商隊の方々は無事ですか?」
「"はぁ……はぁ……し、しんどいであります……ふぁ"」
出来るだけ勘繰られることのないように気配の察知や目視での確認があればすぐに木の影等に隠れながら隙を見て全力疾走をしてきた2人はベースキャンプに着くやいなや膝に手を置いたり壁にからだを預けたりと荒く乱れた息を必死に整える。
「あぁ、貴君らのおかげでどうにか全員無事だ。すまないが、ここに残しておく必要もなかったが故商隊の面々は先にドンドルマへ向けて発たせてもらった」
「はぁはぁ、いえ、それで、結構です……はぁ、ありがとう、ございました……はぁ〜」
依頼達成の報告を聞いて張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、大きく息を吐きながらヤクモがその場でへたり込む。
心做しか今まで全集中によって忘れていたダメージに加えて疲労も一気にのしかかってきた。
「おやおや、そんなに息が上がっていて大丈夫かい?」
「………………ふぅ、どういう意味でしょう?」
今の質問に若干の違和感を覚えたヤクモがトンガリ帽子を被り直していたイズモへ質問を投げ返す。
それに対して、被り直したとんがり帽子のツバを僅かにつまみながら目を伏せたイズモが1テンポ置いてから視線を真剣なものへと変えて先程よりも抑えたトーンで一言ヤクモへ。
その視線は既にヤクモから逸らされており、フィールドの方へ注がれていた。
「…………たった今、ギルドから正式な辞令が下った」
「……辞令…………まさかとは思いますが…………」
その言葉に対してヤクモがスっと眉を寄せる。
それを見てフッと小さく笑い、流石だなと大きく息を着きながらイズモが視線をヤクモへ戻す。
「あぁ、そのまさかだ。たった今、リオレウス亜種の討伐が正式な依頼として受理された」
「"と、討伐って…………ほ、ホントですかぁ〜……はぁ"」
「どうしてまた………………」
「今回の1件でギルドはリオレウス亜種がこの場所を徘徊する事を脅威であると判断したのだろうな。まぁ、ココット村からドンドルマへ向かう通商ルートはこのジォ・テラード湿地帯を横断するのが最短ルートだ。故にその度にいちいち対応するくらいなら討伐してしまった方がルートの安全確保を望む商隊にとっても希少な亜種個体である火竜の研究対象確保を望むギルドにとってもメリットとなりうるわけだ」
「"…………安全確保"」
「確かに。脅威排除と検体確保を当時に出来るのであればこの上なく都合が良いですからね」
僅かに声のボリュームを落として自分に言い聞かせるように呟いたイノシマに続いてヤクモも言葉を述べた。
「とはいえ、貴君らはかなり消耗が激しい様子。その姿を見れば向こうも相当消耗させてくれたのは容易に想像出来る。それであれば少し時間はかかる可能性も考えられるところではあるが私一人でもどうにかなるかもしれない。貴君らは休んでいても構わないが、どうする………………」
そう言いながらベースキャンプに立てかけてあった太刀『ファントムミラージュ』を手に取りながらイズモが
その言葉を聞いたヤクモは大きく深呼吸した後にキッと口を結んでまっすぐにイズモを見据え小さく頷き返し、イノシマも岩壁に預けていた体を離して軽くジャンプをしてからパシンと左手の掌に右手の拳を打ち付けていた。
「………………と、言うのは野暮だったか」
「野暮ですね」
「"野暮であります。庶民の安全確保もわた………………コホン、オイラ達ハンターの役目でありますからな!"」
「うむ。では貴君らの体力が回復したら出るとしよう」
「はい!」
「"承知であります!"」
〜
蒼空
響く
視界
我が身
〜
リオレウス亜種
はい、まさかの3話構成では終わらなかったというね。
やらかしました、はい(笑)
ま、気にしない方向で←
最後のやつは私なりに琵琶法師っぽい文章を考えてみた結果ですね、私的には最後の二文が結構気に入っていたりw
では次回。