モンスターハンター〜伝説の邂逅〜   作:奇稲田姫

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取り敢えずこの話で一区切り


3.ヤクモ・ミナシノの新人教育 後編

密林。

からりと晴れた空に訓練生達の叫声が響き渡った。

 

「リ、リオレイアって、正気ですか!?」

 

「そんなの自殺行為だろ!」

 

「リオレイアって………………()()リオレイア?いやいや、無理無理無理!!」

 

「…………」

 

そんな抗議の声が上がる中、ヤクモがスっと笑顔を引っ込めた。

 

「それがどうかしましたか?」

 

その一言によって訓練生が再び黙り込む。

 

「もとより私たち『ハンター』という職業は見方を変えれば自ら死地へ赴く自殺行為とさほど変わりません。それを理解した上であなた方はこの世界へ足を踏み入れることを決意したのでは?」

 

「それは………………」

 

訓練生が口篭る。

 

「ハンターはその性質上()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()立場にあるのです。モンスターに対峙した時点でまずは窮地。それを乗り越えて討伐ないし撃退をすることが出来れば周囲からは感謝されることでしょう。しかし、失敗した場合、高確率で命を落とします。先程のロアルドロスの例で言いますが、船頭アイルーさんの閃光玉がなかった場合、どうなっていたと思いますか?」

 

「し、しかし……過去の訓練でも初日のクエストは採集がメインだったとクロオビ(教官)から聞いていました。であれば僕らも過去の事例に従うべきだと考えます!」

 

「確かに本来であればそうでしょう」

 

「ではなぜ!」

 

「そうですね、では私からも1つお聞きしましょう」

 

「…………?」

 

「過去、その採集クエストでいったい()()()()()()()()()()()()()()?」

 

ぞわりと一瞬にして空気が冷える。

そう感じるほど体が強ばっていく10人の訓練生。

 

「では、リディさん。何人だと思いますか?」

 

「え!?わ、私!?」

 

いきなり名前を呼ばれた快活そうな少女が自分を指さしながらキョロキョロ視線を泳がせる。

 

「はい、そうです。あなたは何人だと思いますか?」

 

「あ、えっと……その、でも採集クエストで命を落とすなんて…………毒キノコにあたったとか毒を持った虫に刺されたかでしょ?……それでも0だと思います」

 

「なるほど。ではミコさんはどうですか?」

 

相槌を打ってから今度はつり目の少女に向けて質問を投げかけた。

 

「何人亡くなったと思いますか?」

 

「0だ。採集程度で死ぬわけが無い」

 

「そうですね。もう1人くらい聞きましょうか。では……………………」

 

そう言って視線を動かすヤクモに硬直しきってガチガチに固まってしまった訓練生達。

 

「エミールさん。どう思いますか?」

 

ビクッと名指しを受けたメガネの少年がクイッとメガネを上げながらおずおずと回答を述べる。

 

「ひ、1人か……2人くらい?」

 

「おや?それは本音の回答でしょうか?」

 

「あ、い、いえ………………」

 

「なるほど。まぁ、予想の範疇ですので問題はありませんが。正解を言いましょう。正解は………………」

 

ふと瞳を閉じて黙祷を行いながらゆっくりと正解を告げた。

 

「…………過去、ドンドルマから排出された新人ハンターの数と訓練生の数から導き出した数はざっと74名中48名。」

 

ゾワッと訓練生たちの背筋が凍りつく様子がその表情から読み取ることが出来た。

 

「そ、それって、つまり………………」

 

「はい、数値化すると64.9%の新人ハンターが最序盤の採集クエストで命を落としています。加えてこの統計は()()()()()()()()()()となります。今やハンター養成所、もとい訓練所は各地の至る所に存在しています。近隣に巨大な雪山のあるポッケ村、英雄伝で有名なココット村、それからジャンボ村にユクモ、モガ、そしてカムラもそうですね。今あげた以外にも拠点はありますが、これ程多くの拠点から同程度の死者が出ていると考えてみてください」

 

「……まじかよ」

 

「もっと簡単に例えるなら………………」

 

ワンテンポ間を置いてからヤクモが続ける。

 

「この10人の中で生き残ることが出来るのはたったの4人しかいない、という事です。まぁ、答えは明白ですよね?毒虫や毒キノコの類では無いとしたら…………」

 

「…………モンスター、ですわね」

 

「ご名答。流石はルシアさんです」

 

高飛車な少女、ルシアの答えに軽く拍手を交えながら答える。

 

「はい。その48名のうち死因の9割9分はモンスターの襲撃によるものです。なにか勘違いをしているようですので訂正しておきますが、1歩でもこの地に足を踏み入れたならもう私たち人間のルールなんてまかり通るわけがありません。全ては大自然がルールです。つまり、私たちが初心者だからと言っても戦い慣れしていないと言ってもこの自然からしたらなんのことでも無いのです。弱肉強食の世界に於いて弱者は淘汰されゆくのみ。故に採集クエストとは言えモンスターは当然襲ってきます。中には大型種に属するモンスターも徘徊していますね。私達からすれば何も苦戦することは無い小型モンスターのランポスであったとしても訓練生諸君(あなた達)には十分脅威と言えるでしょう」

 

「それでも比較的安全なタイミングで受けてくれたんじゃ……」

 

「安全なタイミング?狩場において最も安全な場所、それは即ち、ベースキャンプ(ここ)以外に存在するわけありませんよ。だから唯一の安全地帯として確立するために周囲の哨戒は必要不可欠な要素です。それを疎かにしたが故に散った仲間も私は目の当たりにしてきました」

 

誰も何も言い返せないまま無言の時間が過ぎていく。

そんな10人の顔を見渡してからヤクモは少しだけ語調を強めながらはっきりと伝えた。

 

「しかし、ここまで脅しておいて申し訳ありませんが、心配しないでください。あなた達のことは私が見る以上絶対に死なせたりしません。私にしっかり着いてくればそんなことには絶対にさせません。まぁ、死ぬほど辛いかもしれませんが。将来しっかりと活躍出来るような、安心して狩りを任せられるようなハンターに育てます。それを踏まえた上で今ここであなた達に選択肢を与えます」

 

「選択肢?」

 

「はい。単純な選択肢です。私のこのクエストを、承諾(受ける)離脱(受けない)か。その二択です。承諾(受ける)場合はこのまま進みます。しかし途中離脱は認めません。逆もまた然り、途中からの合流は出来ません。30分ほど時間をあげますのでよく考え、その上で承諾(受ける)者は私の元へ来てください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………そう言ってテントの中へ戻ってきたヤクモであったが、簡易的な椅子にストンと腰を下ろすとはぁ〜と大きなため息を吐き出してしまった。

 

「はぁ…………まだ駆け出しの子達だと言うのに、私は何を説いているのでしょうか……。これを理解するのはあの子達には早すぎると頭ではわかっているのですが…………はぁ……」

 

「なーんにゃお前さん、様子を見に来てみればでっかいため息にゃんてついて」

 

「船頭アイルーさん……」

 

「ま、最初のパンチにしてはか〜なり強めに殴ったとは思うけどにゃ〜。鳩尾会心で入ってたにゃ」

 

「やっぱり…………」

 

椅子の隣にある木箱の上でケラケラと笑う船頭アイルーの言葉で再びため息をついた。

 

「でも、【そのくらいの気概は持っていて欲しい】ってことにゃ〜?どの道遅かれ早かれその事実には直面するんにゃから気にすることないにゃ〜」

 

「そう言っていただけるとありがたいです。それよりも………………はぁ、全員来てくれるでしょうか」

 

「…………考えてなかったのかにゃ。来なかったらどうするつもりにゃ?」

 

「それは………………な、泣きます」

 

「お前さんが言うと冗談に聞こえにゃいんだにゃ〜」

 

「はぁ……」

 

そんな思わず漏れた大きなため息をついたすぐ後だった、自分の名前がテントの外から呼ばれたのは。

 

「教官!」

 

なにか質問ごとだろうか、まだ時間を与えてからほんの数分しか経過していないはずだが。

 

「はい。なんでしょうか。質問です……………………か?」

 

そう言いながらゆったりとテントを出ると、そこには10人の訓練生がずらりと並んでいた。

しかも全員が全員片手を胸に当てた『敬礼』のような仕草をしながら。

 

この光景にはさすがのヤクモも瞬きを数回してから思わず聞き返してしまった。

 

「あの………………これは?」

 

直後。

真ん中にいたつり目の少女(ミコ)が1歩前に出てヤクモの目を真っ直ぐに見る。

 

「先の問に対する回答をしにまいりました」

 

「回答…………あぁ、回答ですね」

 

こんな突飛な光景を目の当たりにしてしまったが故に数刻前の出来事が一瞬だけ飛かけるがどうにかそれだけは防ぐことが出来た。

 

「では1人ずつ承諾か離脱か言っていただき………………」

 

「いえ、その必要はありません。ここにいる訓練生全員一致で『承諾(受け)』させていただきます」

 

「あら、全員一致ですか」

 

「はい。不満でも?」

 

「いえ、不満はありません。が、脱落する者もいるかと思っていましたので意外だっただけです」

 

「まぁ、そうでしょうね…………」

 

「俺は全然心配してなかったぜ?」

 

ミコの後ろで高飛車な少女(ルシア)が苦笑いを浮かべ、フレンドリーな少年(クレイン)がふふんと誇らしげに言う。

 

「嘘………………いの一番に説得しようとしてた」

 

「ちょっ!?それは言わないって言ったじゃんよ〜!」

 

眠そうな半開きの目で淡々と喋る眠そうな目の少女(ヘラ)に対してクレインが慌てて反論をしている。

その様子を見てからヤクモはもう一度目の前に並ぶ10人の顔を順番に見ていく。

 

10人全員の瞳の中に『覚悟』が芽生えていることを確認し再度問い掛けた。

 

「厳しく行くつもりです。生半可な覚悟では着いて来れないかもしれません。いいのですね?」

 

敢えて視線をキツくし、脅しをかける。

しかし、ほんの数刻前の彼らからは想像も出来ないほど真っ直ぐにこちらを見据えてはっきりと返事を返してくれた。

 

人と言うのは何がきっかけでどう変わるのかなんて誰も分からないものだ。

だが、今回の彼らはどうやら良い方向に変化しつつあるようで、ヤクモは内心ホッと胸をなで下ろした。

 

「分かりました。………………はぁ、では、詳細の説明に移りましょう」

 

訓練生諸君の「はい!」と言う短い返事が海風に乗ってベースキャンプに響きわたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3班、編成?」

 

頭に疑問符を浮かべながらクールな少年(ルイ)が問い返す。

 

「はい。その通りです。この先あなた達が卒業までを共にする班となります。その班の中でモンスターに対する攻め方、ハンター同士の連携、その他諸々の事を学んで言ってもらう予定です。基本的にそれぞれの班に別々の課題を科す予定です」

 

「なるほど。という事は人数は3人の班が2つと4人の班が1つということになりますね」

 

「だな、振り分けはどうするんだ?クジでもやるのか?」

 

ルイと赤髪の少年(エドワード)の言葉に対してそれぞれ首を左右に振って、ヤクモが答えを返す。

 

「いえ、3人×3班の編成で振り分けはもうほとんど決定しています」

 

「3人編成が3班?それでは1人あまりますが」

 

「え!?もしかして始まって早々脱落者!?」

 

「!……」

 

疑問を投げかけたのは顎に軽く手を当てて何かを考え込んでいたメガネの少年(エミール)

その言葉に反応した快活な少女(リディ)が不安そうな声を上げ、無口な少年(シオン)もそれに反応してビクリと体を震わせてしまっていた。

 

「あ、いえそうではありません………………まぁ、取り敢えず班の編成の話を進めましょう。そうですね、まずは名前を読み上げますので読み上げられたもの同士で固まってください。まだこれで決定では無いのであしからず」

 

未だに頭の上を疑問符が飛び交っている訓練生の名前を順番に読み上げて3人の組を3つとプラス1人で分けていく。

 

 

 

―――

 

1組目

・ミコ

・エドワード

・ルシア

 

2組目

・クレイン

・シオン

・リディ

 

3組目

・ヘラ

・ルイ

・エミール

 

残り

・フィレット

 

―――

 

 

 

「あらあら〜、私があまりですか〜?」

 

相変わらずのスローテンポで片手を頬に当てながら天然そうな少女(フィレット)が驚きの声を上げる。

 

「あいつがあまりか。判断基準が分からないな」

 

「私も、分からない」

 

腕を組みながら軽く鼻を鳴らすミコに続いてヘラも淡々とした口調でフィレットに向けていた視線をヤクモの方へ戻す。

他の訓練生もバラバラではあるが視線をヤクモの方へ向けてきていた。

 

「……。そうですね。では、ここから本格的に班編成を行っていきます。まず今の組み分けの判断基準から説明致しますね。これは先程私があなた達へ向けて『閃光玉投擲』指示を出した時のそれぞれの反応を見て3つに分けました」

 

この一言で再び訓練生がざわついた。

 

「先程の閃光玉投擲指示でって………………あ、あの一瞬の間で、ですか?」

 

まじかよ、と言いながらクレインが聞き返す。

 

「はい。その通りです。まずはミコさん、エドワードさん、ルシアさん。この3人は反射的に道具を収納するポーチではなくまず第1に武器に手を掛けた3人です」

 

「っ!」

 

「うっ、た、確かに俺は武器に触った…………」

 

「よ、よよ、よく見ていましたのね…………」

 

ヤクモの言葉に図星を突かれた3人が言葉を濁す。

ミコだけは吐き捨てるように小さく舌打ちをしていたが、構わずヤクモは続きを話していく。

 

「別に咎めている訳ではありません。あなた達3人にはこの先前衛としての立ち回りを中心に学んで行ってください」

 

「前衛?」

 

「はい。まず前衛としての役割は主に『積極的にモンスターへ攻撃をしていく』役割の他に『モンスターの注意を引き付けて味方を援護する』役割。大きくわけてこの2つが存在します。細かい事は置いておくとして。そのためには道具を使用するより武器を振るう場面の方が圧倒的に多くなります。故に不意をつかれた際反射的に武器を手に取ることが出来るのであれば生存確率は飛躍的に上がります」

 

「それが、俺たちの役割、ってことか」

 

「この高貴な(わたくし)に最前線で立ち回れとおっしゃるのですね……」

 

「基本は前衛。しかし覚えるのは全て覚えて頂きます。さて、次はクレインさん、リディさん、そしてシオンさんの3人ですが…………」

 

ミコ、エドワード、ルシアに説明をし終えたヤクモ。

今度はクレイン、リディ、シオンの3人の方へ視線を向ける。

 

「貴方達3人には遊撃としての役割を中心に覚えて言っていただきます」

 

遊撃?と3人の頭の上に疑問符が同時に現れた。

 

「遊撃とは刻一刻と常に切り替わる状況の変化に応じて時には前衛と共に攻撃に参加し、時には前衛と後衛の中間で両者の援護を主に行う役割となります。先程の閃光玉投擲指示において反射的にポーチに触りはしたものの道具を取り出すところまでいかなかった3人を選出させて頂きました。支援特化よりもさらに状況を把握することが重要となってくる役割のため状況判断の時間と視野の広域化、それと同時並行で道具の使用を判断出来るようになれば狩り全体の難易度を下げられます。そして次はエミールさん、ルイさん、ヘラさんの3人ですが…………大方想像できていると思います。あなたたち3人には後衛としての役割を主として覚えて言ってもらおうと思っています。この3人はポーチから道具を取り出して安全装置まで指をかけられた人達です。もう少しで船頭アイルーさんに勝てたかもしれない人達ですね」

 

ヤクモの言葉にクレインとリディが同時に力強く頷きながらシオンの肩に手を置いた。

そんな2人にキュッと口を一文字に結んだシオンが大きく頷き返している。

そして後衛の3人、エミール、ルイ、ヘラも静かに互いの手を合わせていた。

 

「この3人から1人ずつ選出して3班作ります。まずは第1班、エドワードさん、リディさん、ヘラさんの3人です」

 

「おぉう、いきなりかよ」

 

「あたし1班〜」

 

「1班〜」

 

名前を呼ばれた3人が集合し軽く一言二言交わしながらハイタッチをしている。

 

「続いて第2班です。第2班はルシアさんとクレインさん、そしてルイさんです」

 

「ふふふ、(わたくし)がいるからにはもう勝ちも同然ですわ!モンスターなんて恐るるに足りませんわ〜♪」

 

「お前、さっきのロアルドロスの時思い出してみろよ…………」

 

「やーかましいですわ!」

 

「ふぅ、全く、まさかこの中で群を抜いて騒がしい2人と同じチームになるとはね」

 

この組も名前を呼ばれたあと1班とはまた違う空気の会話を交わしながらお互いのことを確認しあっていた。

 

「そして最後に第3班。ミコさん、シオンさん、そしてエミールさんです」

 

「足を引っ張るのであれば捨てていく」

 

「っ………………」

 

「何もそこまで言うことないだろ、ミコ」

 

「ふん」

 

ほかの2班とは違い3班が1番ギスギスしている関係にあったのは明白だった。

とはいえそれも込みでこの組み合わせにしたのだから当然といえば当然の反応ではある。

ならどうするか。

シオンがキーマンになるだろう。

 

そんなことを考えつつ、ヤクモは視線を最後にフィレットへと向ける。

 

「最後にフィレットさん。あなたにはやっていただきたいことがありますのでこの後ほか3班が出発したあとここに残ってください」

 

「ん〜やって欲しいこと、ですかぁ〜?」

 

「その通りです」

 

「わかりましたぁ〜」

 

「はい。それではほかの3班はそれぞれのルートを説明するので地図が見える位置にまで集まってください」

 

フィレットの返事を聞いてから小さく頷き、テントの中から簡易テーブルをセットしてその上に地図を広げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほか3班出発後、ベースキャンプ。

 

 

 

 

 

「あのぉ〜お話ってなんでしょうか〜」

 

人数が減ったことで今までかき消されてしまっていた波の音がいつもより鮮明に耳に響く。

そんな中で正面から向かい合ったヤクモにフィレットがおずおずといった様子で話を切り出した。

 

「早々に失格………………とかじゃないですよね〜……」

 

「いえ、そうではありませんよ」

 

その一言でフィレットがホッと胸を撫で下ろす。

 

「では本題に移りましょう………………………………と、言いたいところですが、疲れませんか?」

 

「え?」

 

ようやく本題かと思った矢先に唐突に振られた質問に思わず瞬きをしてしまうフィレット。

 

「ですから、疲れませんか?()()()()()

 

「っ!」

 

「私といる時は隠す必要はありませんよ。ありのままで結構です」

 

真っ直ぐにフィレットの目を見据えながらヤクモが言葉で切り込んでいく。

まさに見切り斬りのごとく鋭く核心を突いた一言に瞠目していたフィレットが大きくため息を漏らした。

その雰囲気は先程のようなのらりくらりとしたような雰囲気とは対称的にどちらかといえばミコのように凛とした雰囲気に近い感じだろうか。

 

「はぁ、………………まさか、いつから気づいていましたか?」

 

「だいたいそう感じたのは閃光玉投擲指示の時ですね。貴方だけはほかの9人よりも明らかに違う行動を挟みましたから」

 

「違う行動ですか?」

 

「はい。あの場面。ほかの9人が反射的にロアルドロスの方へ視線を向けたのにも関わらず、貴方だけはいの一番に()()()()()()()()()()()()()()。頭は動かさずに視線だけを周囲に巡らせたのにも驚きましたが、まずモンスターよりも味方の状況把握をする人が現れるとは、正直予想出来ていませんでした」

 

「………………なるほど」

 

「つまりほぼ勘です」

 

「………………はぁ、となると私は()()()()()()()()、ということですか」

 

「そうなりますね。結果はこの通りです」

 

「恐ろしい直感してますね」

 

「そうでしょうか。自分ではそんなことは無いとは思ってるんですけど………………そういうならそうなのでしょう」

 

ふむと軽く顎に手を当てて考え込んだヤクモであったが話が脱線思想になっていることにようやく気づきぽんと手を軽く合わせた。

 

「いえ、今はその話しではなくて、どうして残ってもらったかですね。単刀直入に言いますと………………」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

「フィレットさん。あなたには私の後を継いで頂きたいのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベースキャンプから少し離れた砂浜。

 

 

周辺にモンスターがいないことを確認すると少女はゆっくりと空を見上げた。

 

 

 

 

 

『私の全てを真似ろとは言いません。もちろん断って頂いても構いません。ただ、皆を鼓舞し折れそうな柱があれば支えてあげられるような、そんな存在になっていただきたいのです。あなた達は、1()0()()()()()1()()()()です。誰一人欠けることは出来ない存在なのですから。時間はありますのでゆっくり考えてもらって良いので、答えが決まったら教えてください』

 

 

 

 

 

 

1()0()()()()()1()()()()……ですか」

 

先程ヤクモ教官が私達を形容した表現を小さく復唱した。

 

モンスターの気配が無い砂浜は驚くほど静かで風と波の音が妙に際立って聞こえてくる。

 

「………………私が、皆様を支える存在に……」

 

そう小さく言葉を漏らしたその直後。

 

 

 

 

 

 

「だああぁぁぁぁ!!!!!!!死ぬ死ぬ死ぬ!!」

 

そんな絶叫と共に特大の地響きを引き連れて先に出発していた1班のメンバーが密林の中を全速力でこちらに向けて走って来た。

 

緑色の飛龍のお友達と一緒に。

 

「ちょっと!!!エドが音立てるから気づかれたんだからどうにかしてよ!!!」

 

「馬鹿言え!!誰のせいで小石踏んだと思ってんだよ!!お前が押すのが悪いんだろ!!元はと言えば!」

 

「初の狩場で陸の女王と鬼ごっこ」

 

「おい!!なんでヘラ(お前)はそんなに落ち着いてられんだよ!!?」

 

「落ち着いてない。泣きそう。泣いてもいい?」

 

「ダメ!あたしが先に泣くから!」

 

「じゃあ譲る」

 

「んな事言ってる場合じゃ………………お、おーーい!!!フィレット!ちょうど良いい!!この状況何とかしてくれ!!!」

 

リオレイアと初めて対面しているとはいえここまで騒ぐことが出来るのならばある意味余裕はあるのではないだろうか。

なるほど。

あの教官はここまで想定済み、ということなのだろうか。

 

「あらあら〜皆様お揃いでお元気そうですね〜。うふふ〜」

 

いつもの口調に戻しながら返答し、全力で走ってきた3人が息を乱しながらフィレットの横に並んで連れてきた女王に正面から向かい合う。

全身を覆う深緑色の鱗に巨大な翼、そして毒が蓄積されて膨れ上がった尻尾には棘がびっしりと生えておりあれの一撃を貰ってしまったら本当にタダでは済まないだろうと直感でそう感じた。

リオレイア。

別名雌火竜。

 

これが陸の女王の姿。

 

「はぁはぁ、元気なもんか」

 

「ど、どうやって逃げる!?ねぇ、どうする?」

 

「リディ、落ち着いて」

 

そんな3人に構うことなく少し離れた位置で対面していたリオレイアが大きく息を吸い込み、吼える。

幸い相手との距離が離れていたこともあり耳をやられることは無かったが、相手はしっかりと臨戦態勢だ。

『大自然がルール』。

今ならこの意味が痛いほどわかる。

 

相手は待ってはくれない。

 

「じゃあ〜そうですね〜、閃光玉投げますね〜。え〜〜い」

 

ゆったりとした動作でポーチの中から閃光玉を取り出して、投げる。

今まさに突進を開始しようとしていたリオレイアの目の前で閃光が弾け、目を焼かれたリオレイアが大きく仰け反った。

 

「今?今だよね!?逃げるなら今だよねぇ!?」

 

「そうですね〜。ベースキャンプの方に走りましょう〜」

 

リディの言葉に肯定し、ほかの2人と共にその場から全速力で離脱した。

 

その途中、走りながらふと背中越しにリオレイアを確認する。

 

どうやらまだ視力は回復していないようでその場で立ち尽くしながらキョロキョロと周囲を見回している。

 

 

 

 

私は逃げることで頭がいっぱいになっている3人の代わりに周囲に警戒網を張り巡らしながらベースキャンプの方へ帰投を果たしたのだった。




はい。

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