重め何でお気をつけてください。
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1.はじめに神は天と地を創造された。
2.地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。
3.神は「光あれ」と言われた.すると光があった。
4.神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみを分けられた。
5.神は光を昼と名づけ、やみを夜とし名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である。
6.神はまた言われた。「水の間におおぞらがあって、水と水とを分けよ」。
7.そのようになった。神はおおぞらを造って、おおぞらの下の水とおおぞらの上の水とを分けられた。
8.神はそのおおぞらを天と名付けられた。夕となり、また朝となった。第二日である。
9.神はまた言われた、「天の下の水は一つ所に集まり、かわいた地が現れよ」。そのようになった。
10.神はそのかわいた地を陸と名づけ、水の集まった所を海と名づけられた。神は見て、良しとされた。
11.神はまた言われた、「地は青草と、種をもつ草と、種類にしたがって種のある実を結ぶ果樹とを地の上にはえさせよ」。そのようになった。
12.地は青草と、種類にしたがって種を持つ草と、種類にしたがって種のある実を結ぶ木とをはえさせた。神は見て、良しとされた。
13.夕となり、また朝となった。第三日である。
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旧約聖書.創世記:1章:1節〜13節
こうして陸海空(天)が誕生した。これは俺ら3人にも当てはまることだった。しかし一つ違うところがあったとすればそれは、空(天)と海が陸を拒絶したことだろう。
兄は聖天と言い、妹が海音、そして俺が陸人。わかりやすく言えば、俺は兄と双子の妹に嫌われ、拒絶された。まあ、それもそうだろ。俺が去年、兄を“殺した”んだからな。昔はなんでも完璧にこなして、周りにちやほやされて、イケメンな一つ上の兄さんに憧れた。そんな憧れも、今ではどこかへ消え去った。正直ここまで容易く忘れられるのは、俺でも驚いた。でも、どんなに頑張っても、罪の罪悪感は俺の肩にのしかかったままなのだ。
海音は、兄を慕っていたし、なんなら海音も聖天兄さんに憧れていた。そんな憧れを俺は潰しんだから、そりゃ俺を憎むだろうな。だから俺は彼ら兄弟から、家族から距離を置いた。だから地元石川を離れ、東京の虹ヶ咲学園へ入学した。母は俺を心配してくれたが、兄や妹以上に俺に怒りをぶつけてきたのは父親だった。兄を“殺した”日、ただでさえ精神がすり減っているなか、彼は俺の首を両手で力強く握った。自分自身もこのまま死んだ方がいっそ楽だと思った。が母親がそう簡単には死なせてくれなかった。東京に行けというのも、母親の提案だった。
母さんは、俺を東京へ送り出して、寮に入るわけではなく、とある親戚のい家にお世話になるように言った。ただでさえ、人と関わりたくなかった俺には荷は重かった。そしていざ東京へ行くとなった日の別れ際、一応みんな見送りに来てくれたものの、母さん以外とは会話も碌にしなかった。
「………それじゃあ、行ってきます。」
「あ、陸人。」
母に名前を呼ばれて俺は振り返った。そういえば母にも名前をまともに呼ばれるのは久しぶりだった。
「言い忘れてたけどさ、」
「なに?」
俺がそう聞き直すと、その人の顔から笑顔が消え、まるで別人のような低い声で、こう呟いた。
「もう帰ってこなくていいから。あんたもういらないから。」
「え…………?ちょっと待ってよ。俺ら家族じゃん………!」
「ハハハ………お兄様の人生潰しといて、あんた何今更、そんなこと言ってんの?」
彼女は高笑いをし、ふぅっと息を吐き、真顔で俺を見つめた。俺は否定できず、呆然と立ち尽くした。双子なのにここまで差がつくのか、どこで道を踏み外したのか、そんなのわかりきっていた。
「………………」
「まあ、ママかパパが死んだ時にでも顔に見に帰ってきなよ。陸人兄。」
そう言って、彼らは一切振り向く事なく、その場を去っていった。俺はそこに立ち尽くした。そう、俺のことを一番憎んでいたのは、父でも、妹でもなく、紛れもない母であった。全て、俺が視界に入らないようにするための算段だったと考えると、裏切られた感に蝕まれた。でもそれ以上に、見捨てられたという事実と殺したという罪悪感が心をえぐった。どんなに罵倒されても、どんなものを投げられ、自分が傷ついても、決して見捨てられることはなかったから、この痛みは感じたことのないほどの痛みだった。外傷がないのに、胸が痛い。今までの中で一番痛かった。今考えると、俺は褒めてもらえたことが、小さい頃しかなかった。
初めて殴られたのは、小学生の頃で、それからもずっと殴られ続けた。俺は痛くて、辛かった。密かに、軽めのダンベルを買ったが、それらは全て、俺をぶつための武器となっていった。何かを買えば、それらが全てが母によって投げ道具へと変換された。それ以来俺は何も買わなくなった。投げられても威力がない服は買ったものの、そのほか、筆入れや鉛筆などはほとんど買わず、小学校で使っていたものを、ずっと使い続けた。周りは今時のシャーペンや筆入れを使っていて、小学校のものをそのまま使っている奴なんて俺くらいだった。
別に恨んではない。恨む要素だらけかもしれないが、陰で頑張ってくれていることも、東京へ追いやろうとしてるものの、ちゃんとお世話になるところに話を通してくれているんだから、感謝すべきといえば、感謝しかない。
だから………俺に八つ当たりをしていることも、なんとなくは分かった。そんなストレスの中での、俺の兄さん殺しで、溺愛していた兄が死んだことで、さらにストレスが溜まったに違いない。勉強もスポーツもできる聖天兄さんには、俺では手が届かなかった。特にサッカーは兄が唯一続いたスポーツであり、どれに賭けた時間も努力も計り知れなかった。兄さんの時間を、両親の誇りを、妹の憧れを俺は奪った。恨みはしなくても、悲しいものは悲しいのだ。
俺はその場で、キャリーバッグを手放し、座り込み、泣いた。そんな状況を見て、いろんな人に声をかけられるが、それは泣いてる俺の耳には届かない。次第には大騒ぎになり、駅員さんも呼ぶ羽目になってしまった。
その頃、和水家族は………泣いていた。
「ごめんね。陸人。ごめんなさい。」
「もう言うな。悲しくなる……ぐすっ……あいつなら大丈夫だ」
「陸人兄ぃなら、大丈夫だよ。だって、この暁朔夜の双子のお兄様なんだから!」
「ふふ、そうね。それ芸名でしょ?海音」
「へへ、でもなんとかなるでしょ。」
(そうでしょ………陸兄ぃ)
そんなことに思いを馳せ、彼らはとある病院に向かった。エスカレーターで4階に上り、右のフロアへ進んで、一番端っこの部屋。
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l 401 和水聖天 l
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と書いてあった。
コンコン
海音がそのドアを叩く。すると中から声がした。
「はーい」
「お兄様〜入るよ〜」
「おお、海音か、母さんも父さんも来たんだ。どうして母さんは泣いているんだ?」
「………………陸人を東京へ送ってきたんだ。」
「ああ、そっか。ありがとう。嫌な思いさせてしまってごめんなさい。」
そう言って、彼は苦笑いを浮かべた。ここから先は陸人が知らない真実。
「それで別れ際お母さん、陸兄ぃにトドメ刺しちゃって、お母さんも辛かったみたいで……」
陸人の前で見せた海音の態度は演技である。
「ごめんなさい…あんなことを言うつもりは………」
彼の母、和水光は、陸人を最も愛している。
「すまないなぁ。父さん、母さんのこと何もフォローできなかった。」
彼らの父、和水大地は、誰よりも優しく、彼らを見守ってくれている。
「………ごめん。俺のわがままのせいで。」
彼、和水聖天は死んでなどいない。しかし彼は“殺した”。
「でも、こうでもしないと、あいつは俺のことを追って、来ると思ったから。あいつには…陸人には、俺みたいになって欲しくないから。」
彼が殺したのは、サッカーをする足。彼が聞かされていた事実は弟を離れさせるための、巧妙な罠である。陸人が轢かれるのを庇って死んだとされていた聖天は、人間としては生きている。だが、サッカー選手としては死んだ。これにより去年の高校入学時のスポーツ推薦は取り消しされ、勉強で行けるだろうが、この車椅子生活で、何を言われるかわからない中行くのが怖かった彼は、その道を考えなかった。こうして彼の人生のタスクは全て蒸発した。
「その時が来たら、俺からあいつに直接話すよ。」
「でも大丈夫かい?それって東京に行くってことだよ?」
母は聖天を心配した。しかし彼は、笑顔で答えた。
「その時は海音に助けてもらうよ。逃げられたら、追いつけないし、三兄弟水入らずの話し合いしたいから……でも、まだその時じゃない。」
これを知った時、彼はどんな反応をするのか………そんなことを思う親子だった