全てを知っても、君は笑ってくれますか?   作:ワサオーロラ

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同好会加入

「お邪魔しまーす…誰かいますか〜?」

 

学校の日課が終わり、週で場所が変わる掃除が今週はなかったから、やることもなくとぼとぼとゆっくり歩きながら同好会の部室へ向かう。渡り廊下を歩き、窓の外を眺めながら、ただ無性に歩を進める。少しずつ沈み始めた太陽が廊下のガラスを通り俺の足元を照らす。それを見てただ、まだ春なんだなと思う。世は5月中旬。夏とも言い難い湿気が増え、蒸し暑くなり虫なども活発になる。そこから考えたら、夏かもしれない…されど5月中旬。暦上ではまだ春であるし、まだ日が長くなり始めたばかりだ。そう考えると、今は春なんじゃないかとも言える。つまり、中途半端な中間の時期なのである。

 

渡り廊下を抜け、すぐの階段を降りると、外に出る扉がある。それを開けて、外に出る。そこから部室棟の繋がった木の板の上をひたすら歩く。部活が盛んなこの学校は、ちょくちょく運動部の試合の会場になったりする。だからとは言わんが色んなところから怒鳴り声がめっちゃ聞こえる。怒ってるわけじゃないんだろうけど、そのぐらい叫ばないと他の部活の声にかき消されるんだろうな。

 

木の板を通過して、また重いドアを開けて、部室棟に到着!それからロビーをまっすぐ進んでショッピングモールのような看板があるから、そこから一番近い階段を登って、右に曲がってそこで分かれ道になるから、そこも右に曲がってそのまま直進。まっすぐ行くとまた曲がり角があるがそこは曲がらず、左に回転すると、そこには一つのドアがある。スクールアイドル同好会と書かれた看板がついているドアである。よく見ると薄く(かすみんの)って書いてある。

 

(かすみんのって書いてあるの面白いよな。あとで愛さんあたりに聞いてみよ。)

 

ドアの前で一呼吸して、意を決してドアノブを捻ってドアを押した。

 

 

 

 

 

そして、今に至る。ドアは空いており、誰かが開けたということがわかる。だが、こんな蒸し暑い中、窓も空いてなければ、電気もついてない。誰かがいたという痕跡が全くない。俺はとりあえず中に入り、ソファーに腰掛ける。誰がきても怪しまれないように、鞄から彼方さん枕を出して、抱きしめる。

 

(なんかこの匂い安心するんだよね…なんでだろう…)

 

俺はそんなことを思いながら、あくびを出す。空いた口を手で隠し、口が閉じた時には目に涙が滲んでいる。枕から安心した匂いがするわでだんだん眠くなる。さらにそこがなんともいい感じに日が当たるもんだから、また眠気を誘う。

 

(この匂いのせいだ。だから眠くなるんだ………あぁ、だめだ…もう耐えきれない………ね…りゅ………)

 

気がついたら俺は眠りに落ちていた。

 

 

 

 

side侑

 

「おつかれ〜歩夢」

 

「侑ちゃんもお疲れ様。」

 

「じゃあ行こっか」

 

そして私と歩夢は部室へ向かった。歩夢は私の歩く速さに合わせる。

 

「そういえばさ、朝部室で私作業してたじゃん?」

 

「うん。みんなのことまとめたノート書いてたよね。」

 

「その時さ………鍵閉め忘れちゃって〜あはは…」

 

私は右手を頭の後ろに回しあちゃ〜みたいに話した。

 

「え〜それって大丈夫なの?」

 

「まあ〜私が鍵持ってるからね。でも、何か無くなってたらやばいかも………」

 

「じゃあ、急いだほうがいいんじゃないかな。」

 

「じゃあ走ろっか。」

 

私と歩夢は木の板の上を小走りした。板を踏むたびに地面と板がぶつかる音が響く。4足の力の加え方、接し面や接触時間、板の踏んだ場所などそれらが全てバラバラで4足全てが四種類の音を鳴らす。

 

部室棟に入り、階段を駆け上がり、部室のドアを開ける。

 

「やっぱり開いてる。電気ついてないから私たちが一番乗りかな。」

 

そして私は電気をつけた。すると歩夢があっ…っと声を上げた。

 

「うわぁ、びっくりした〜どうしたの?」

 

「あっ、ごめんね。陸人くんいるからさ」

 

「ああ!ほんとだ!気づかなかった!」

 

「しぃ〜!寝てるから!」

 

「そうだね。しかも彼方さんの枕を抱きしめて寝てるね。容姿女の子みたいで、ちょっと可愛いね。」

 

「ふふ、そうかも。もうちょっと寝かせてあげる?」

 

「そうしよっか。でも写メっとこ。」

 

「もぅ〜侑ちゃんたら〜」

 

 

 

 

 

side陸人

 

カシャ カシャシャ

 

朦朧とする意識の中、眩しい光とその音だけが聞こえる。薄く目を開くと閉じていた時にも見えた明るい光がより一層明るく俺の目に入ってくる。俺は咄嗟に右手を光と目の間に入れる。影ができて辛うじて見ることができるそれは太陽だった。しかも窓枠ギリギリで今にも沈みそうなほど、落ちていた。

 

(ありゃ、寝ちゃったんね。帰るか〜でも眠い………)

 

俺は組んだ腕の中に顔を埋めようとすると、ボフッて感じで何かが邪魔をする。その柔らかさから枕であることは容易に想像できる

 

「ん〜クンクン………彼方さんの匂いだ〜いい匂い………」

 

(なんで持ってるんだろ………)

 

組んでいた腕を解いてその紫と白のものを隅々まで触っていく。低反発ですごい沈むし、彼方さんの匂いがするからそれが何かは簡単にわかった。

 

(なんか忘れてる気がする………あ、そうだ)

 

俺はばっと勢いよく起き上がって前を見ると、せつ菜さん以外が俺にカメラを向けていた。色んなアングルから撮られていて俺の隣には、中須さん。下からは、しずくちゃん、彼方さん、愛さんと璃奈ちゃんが縦やら横やら色んなアングルから俺のことを撮っていた。そして高咲さんと上原さん、エマさん、朝香さんは立っていたものの、やはり下の人たちと一緒に俺のことを撮っていた。

 

俺はため息をつきみんなのことを見る。俺と目が合うと、苦笑いする人もいればふふんっとやってやったぜみたいな顔をする人がいた。せつ菜さんは俯きながら手で顔を抑え首を横に振った。呆れ返ってないもいえないみたいだった。

 

(なんでこんなことになってるんだろうな………)

 

俺はそう思いながら夕暮れが眩しく光る窓を眺める。なにを考えるでもなく、ただ黄昏ていた。すると、俺の後ろからシャッター音がする。中須さんだった。まあ〜この状況でまず写真を撮れるのはさすがだとしかいえない。完全に静まり返って、もうやめようと一同が思って去ろうとした瞬間の出来事だった。しかし悪ノリが好きな愛さんと高咲さん。中須さんがやったことに便乗して俺を撮り始めた。

 

安心し切った腑抜けた写真を撮られたと思った俺は抱いていた彼方さんの枕には顔を埋める。

 

「ああ〜彼方ちゃんのまくら〜」

 

「あっ!すみません、フカフカでつい…」

 

「それは悪魔の枕なのだよ〜彼方ちゃんそれがあればどこでも寝られちゃうもん。」

 

「わかります。僕もこれ抱いて寝ちゃったぐらいなので、すごい気持ちいい枕ですね!」

 

「ふふふ〜なら貸してしんぜよう〜」

 

「いいんですか?やっ…「と言いたいことだけども〜彼方ちゃんの匂いくんくんしちゃう悪い子には貸してあげません!」

 

俺が目を輝かせて彼方さんを見ると、彼女はプイッと俺から視線を逸らした。周りの方々はあはは〜と苦笑いを浮かべるばかり。するとせつ菜さんが不意に口を開きこう言った。

 

「確かに私たちが寝顔を撮っていたのは確かにダメだと思いますが…」

 

「え!!せつ菜先輩写真撮ってたんですか?!」

 

中須さんが急に大声をあげてそう聞き、せつ菜は少し戸惑い赤面しながらも、小さく口を開いた。

 

「…ま、まあ…1枚ほど………そ、そんなことよりあなたの寝言の方がすごかったですから!!」

 

「え!!僕寝言言ってましたか?!」

 

「うん。なんか、彼方さんの匂いだとか、いい匂いとか、それから枕ぎゅって抱きしめて…」

 

「璃奈さんもうやめて!陸人のライフはもうとっくにゼロだよ!」

 

「はぁ!しまった…」

 

俺はそれを聞いてただ赤くなり、彼方さんの枕には顔を埋める。耳を隠せていない時点で照れているのは一目瞭然。彼方さんのことは気になり、不意にチラッと視線を上にし、彼方さんを見る。するとたまたまこっちを向いてたみたいで目がある。その途端気まずくなり、ハッとして少し照れて同じタイミングで視線を逸らす。

 

すると彼方さんが唐突に俺が持っていた枕を引っ張る。

 

「そ、その…これ彼方ちゃんのだから…そろそろ返して………?」

 

その顔は少し赤く、俺と目を合わせてくれない。それにその声は枕に遮られ、俺まで届かなかった。

 

「え、なんですか?」

 

「だ、だから!はぁ………//」

 

少し強めに発した言葉の反動で顔を上げた彼女と目があった俺はハッとする彼女を見た。目があった途端少し涙目になり、視線を下に向ける。

 

「これ………返して………?」

 

「あ!すみません………」

 

あんな顔で見られたら俺も流石に照れる。そして彼女は枕を取ると、すぐそこにしゃがみ込んだ。

 

「ふぅ〜落ち着く〜」

 

そこにはさっきまでとは違ういつも通りの彼方さんがいた。俺は少しドキッとしたがなんとか耐えて彼女に許ししてくれるよう頼んだ。

 

「どうか許してください。」

 

俺は座った状態で彼女に頭を下げた。すると頭に柔らかい感覚が伝わってくる。

 

「よしよし。陸人くん。大丈夫だよ。彼方ちゃん怒ってないよ〜だからそんな顔しないで。」

 

彼女は俺に目線を合わせてそう言った。その後俺の耳元で囁く。

 

「同好会、入ってくれるんだよね………?」

 

そして俺は朝の会話を思い出した。彼方さんと過ごした今朝のこと。そこで彼方さんに誓ったこと。これは彼方さんだけじゃない。みんなが期待していることだった。

 

顔を上げると、みんながこっちをじっと見つめていた。そして下の唇を噛む。そして俺は立ち上がる。すると、みんなうわっと驚く

 

「ど、どうしたのりっひー、急に立ち上がって!」

 

「すみません。驚かせてしまって………自分は、なんの取り柄もなく、今まで迷惑しかかけてこなかった身なので、正直皆さんを支えられるとは、到底思っていません。」

 

静かな空間で俺だけの声が共鳴する。

 

「なんなら、足手纏いになると思います…」

 

声が詰まる。その度に親の言葉が蘇る。

 

“役立たず” “お前なんていらない!”

 

そうかもしれない。あなたからしたらそうだったかもしれない。

 

「でも、そんな僕にも…皆さんは笑って話しかけてくれた。だから恩返しがしたいんです。まだほんの少ししか関わってないですけど…」

 

でも俺にはもう必要としてくれる人がいる。その人たちを支えたいっていう俺がいる。

 

「だから…」

 

「僕に皆さんを支える手伝いをさせてください………!」

 

俺はそう言って深々と頭を下げた。そしてみんな何事なかったように、立ち上がる。

 

「じゃあ、ひと段落したところで、練習始めよっか!」

 

「よーし!やーるぞ!!」

 

(どうやら外しちゃった感じかな。まあしょうがないか…)

 

俺は顔を上げて他の部屋へ向かう皆さんを見送ろうとした。すると、高咲さんが俺に方へ振り向いた。

 

「どうしたの、陸人くん。」

 

「いや、最後なんで見送ろうかと…」

 

「手伝ってくれるんじゃないの?」

 

「皆さん僕のことを必要じゃないみたいだったので。」

 

「同好会に君が入ることを歓迎しない人なんていないよ。歩夢、かすみちゃん、しずくちゃん、果林さん、愛ちゃん、彼方さん、せつ菜ちゃん、エマさん、璃奈ちゃん、そして私。その全員が君がいることを望んでる。だからおいで。」

 

「自分が入りたいって言っても皆さんなにも言いませんでしたし………」

 

「そりゃそうだよ。私たちはスクールアイドル同好会なんだから。アイドルって一人じゃなにもできない。見てくれる人、ステージを作ってくれる人、今まで関わった人の応援で成り立ってるの。だから君は私たちに関わった時点で仲間なんだよ。ただ私たちと陸人くんとの距離が少し縮まっただけだよ。」

 

俺はその言葉に救われた気がした。なにも言わずに俺のことを受け入れてくれた皆さん。また一つ恩ができてしまったようだ。これを返し切れるのにどれだけの時間がかかるかわからない。でも、返せずにはいられなかった。

 

「ようこそスクールアイドル同好会へ。歓迎するよ。陸人くん」

 

「はい!よろしくお願いします!!」

 

俺は高咲さんに導かれるように教室から廊下に駆け出す。廊下には同好会のメンバーが待っていた。俺を見るなり、中須さんはにひひと笑う。他の人達も俺を見て微笑む。俺の対する痛々しい視線は全く感じなかった。俺は上を向き目を抑える。しかしその抵抗虚しく、目尻から頬を伝い、それは溢れる。一回出始めたものは、止まることを知らず、理性という堤防を破壊して津波のような涙が滝のように流れ落ちる。止められない…止まらない…自然災害なんて生ぬるい。これはすでに天変地異の域に達している。どうすることもできない。対処法がないのだ。

 

俺は高校生とは思えないほど、泣いた。

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