「彼方さん!」
「あれ、なんか男の人と一緒じゃない?」
「え!それって危ないんじゃ…」
「で、でも、男性だからって、全員が全員そ、そう言うことをするわけでは……ないんじゃない?」
「なに言ってるの?!しず子。男子はだいたいケダモノって言うんだから危険なんだよ!」
(さっきからなにを騒いでいるんだ。俺の精神統一の時間を削がないで欲しいものだ。)
木の影に隠れて俺のことをずっと見てくる。女の子が3人。ピンク色の髪に、なんかのスケッチブックを持った子、茶髪に赤いリボンのポニーテールをした子。そして、なんか見覚えのあるグレーの髪になんかパンみたいなものを持った子。その子達がこちらをチラチラ見ながら、何かを話し合っている。こう言う状況になったら大体の人間はすぐ立ち去るだろう。しかし、陸人とはそう言う人間ではない。どんな状況下でも自分の意思を貫き通す。そんな男なのだ。でがそれはこの状況では全くの逆効果だ。
「ちょ、ちょっとなにしてるの!!彼方先輩を返しなさい!」
「えーと、なに言ってるんですか?」
なにを言うかと思ったら、パンを持った子が俺に指を刺し、なんか威嚇してきた。
「とぼけないで!なんで彼方先輩に、その…膝…枕…してるの!?」
「ん?ああ、彼方さんって言うんですね。ここで寝てたんですよ。それにここのベンチだと首痛めちゃいそうだったので、膝枕してたんですよ。」
「うぅ、で、でも、彼方先輩いつも枕持ち歩いてるから…」
「枕元々なかった気がしますけど、一緒に探しますか?」
「そ、そうじゃなくて…!「もういいよ。かすみさん。この人嘘は言ってないみたいだし。」
パンの子は一方的に彼を怒鳴りつける。がそれを華麗に受け流していく陸人。そんな彼女を見てられなかったのか、赤いリボンの子が彼女を静止させる。
「しず子…うん。かすみんも思った。」
「わかっていただけたようでよかったです。その何かお探しでしたら、俺…僕も手伝いますよ。」
「いいえ、大丈夫です。私たちは彼方さんその人を探していたんです。」
それから彼女は事情を淡々と説明した。彼女たちがスクールアイドル同好会であること。部活の時間になっても彼方さんこと近江彼方先輩が来なかったからみんなで探していたこと。どうやら、色々忙しいらしく、夜遅くに勉強など色々しているから、よくいろんなところで寝ているらしい。
「だからたまにこうして、みんなと探しているんです。」
「そうだったんですね。紛らわしいことしてしまってすみません。」
「いえこちらこそ、ほらかすみさん。」
「うぅ、ごめんなさい。」
そう言って彼女たち3人は揃って頭を下げた。
「いえ、大丈夫ですよ。中須かすみさん。」
パンを持った子は自分の名前が呼ばれたことにびっくりして目を見開く。彼女はきっと初対面だと思っているか俺と中須さんはすでに会っている。
「なっ、なんでかすみんの名前知ってるの?もしかしてかすみんのファン?えへへ〜」
「?今日クラスであったじゃないですか。」
「クラス?あ!!」
顎に手を当て、上を向いてしばらくすると、かすみは手を叩き俺を指さし、発言した。
「今日自己紹介で、思いっきり白けた人だ!!」
「うん……それは俺が一番知ってるから、言わないで………」
「かすみちゃん泣かせた。」
初めてピンクの髪の子が話したのを聞いたが、ボード越しなのに聞き取れるようなこれで喋れてるから、彼女は滑舌がいいんだなと思った。
「え!ご、ごめん。りく男」
「………りくお?」
「しずくだから、しず子、璃奈だからりな子、陸人だからりく男」
彼女はそれぞれ名前の人を指さし、最後に俺を指さした。呼ばれ方なんて気にしたことがなかったから、なんなら名前や苗字以外で呼ばれることがなかっただろう。そのかすみがつけたりく男というあだ名は、俺の心に深く響いた。
言葉で言い表せない気持ちが彼を襲った。今までとは違う環境、人間関係それが一変され、ここまでの変化を及ぼすのか。内心これからがとても楽しみで、胸を高鳴らせる。
「そっか…ありがとう。」
「なんでお礼言ってるの?」
璃奈ちゃんはボードを顔に当て、少し顔を傾げて、俺に聞く。
「ん?そうだね、今まであまり人に馴染めなかったんだけどさ、今みんなと会ってこうして話して、あだ名までつけてもらってさ、みんなには当たり前の日常が俺にはなかったからさ。なんか新鮮だなって。」
そう言って俺は彼女らに笑いかけた。自分でも久しぶりにいい感じに笑えた気がした。それを見てみんなも笑ってくれた。するとしずくちゃんが久々に声を出した。
「あのさ、いい感じのところ、悪いんだけど…部活もう始まってるよ。」
「「あ………」」
「ど、どど、どうしよう?!」
「起こしてる時間ないから、りく男彼方先輩おんぶしてあげて!よーいドン!」
「走れ〜」
「あわわわ、とりあえず逃げろ〜」
「待って、俺はんで大きすぎるって!」
かすみの掛け声と共に俺以外が走り出す。みんなが走り出してから、俺は彼方さんをおんぶする。少し勢いよくおんぶしたから、起きてしまったかと思ったが、んんっと声をあげただけで起きてはいなかった。いざ参ろうとしたときには、もうすでに見えるところに誰もいなかったからとぼとぼ部室に向かうことにした。しかし問題が一つ……
(あれ、俺部室の場所知らなくない?やばい彼方さんを連れていくと言ってしまった反面、いかなきゃいかないけど、どこかわからないし、なんならここにきてまだ一日も立ってない!あ〜なんでこんなこと引き受けたんだよ〜)
心配と少しの後悔で、心拍が上がり、冷や汗が出て、呼吸もどんどん荒くなっていく。疲れたから以上に送り届けられるかが、心配であり、それができなかったら、昔みたいにまた信用を失ってしまう。それがたまらなく嫌で嫌で仕方ない。しかも自分のせいで同好会のメンバーの人たちに迷惑がかかるなど、考えれば考えるほど、心配事がどんどん増えていく。
「んん…あれ、どんどんドキドキしてきた。」
「あっ彼方さん。起きたんですか。」
「んん…君は、誰〜?てことは彼方ちゃん知らない人におんぶされてるってこと?!」
まあ〜反応はそうだろうな。さっきまで背中に顔を当てて寝ていたとは思えない落ち着きのなさだった。
「落ち着いてください。そんなに揺れたら怪我しますよ。」
「いや〜降ろして〜見ず知らずの人にこれ以上迷惑はかけられないよ〜」
「寝起きなんですから、少し筋肉も収縮してると思いますから、少しおんぶで伸ばしてください。」
「いや、そう言うことじゃなくて〜」
「いいですから。それに今立ったら、多分少しだけ足痺れて、結局地面に手着くことになりますから、我慢してください。」
「………そお?じゃあ、お言葉に甘えようかな。ありがとね。見ず知らずの少年よ。」
自分がここまで涙脆いのが少し嫌になる。自分が誰かの役に立てたと言う実感をくれたありがとうと言う言葉。誰かの役に立ったと思うだけで、少し涙が出そうな気がする。そういう時は涙がこぼれないように空を眺めるようにする。でもそれは逆に俺の涙を加速させ、毎回頬を流れさせる。だからいつも流れる前に袖で拭いているのに、今は彼方さんがいて拭けない。だからといって、これを止める手立ては俺にはない。すると、首の前にあった手が俺の目を目掛けて伸びてきた。その指は俺の涙を優しく拭ってくれた。
「ふぇ、なんで……?」
「君の心臓の音が、とても優しくて温かかったんだけど、急に焦ったり、慌てたりして、なんか悲しそうに聞こえたから。」
「ぐすっ、彼方さん、心臓と会話できるんですか?」
「できないよ〜でも、君の音はもう1時間は聞いてるから。膝枕してくれてた時からずっとね。」
「そ、そんな…や、やめてくださいよ…」
「あ、今照れてるね?心音が少しキュってなった。」
「彼方さん聞かないで〜!!」
こうして俺のことを全て見破る彼女はふふんと言わんばかりに不敵に微笑む。しかも彼女の声、癒しオーラ全開だから、こんなこと言われてるけど、なんだかんだ癒されるんだよな〜
「あー、そういえば、部室ここ真っ直ぐだよ〜」
「え、なんでそれを…まさか!!」
「みんなが来たあたりから起きてたからだよ〜ふふふ」
「なんて人だ〜〜!!」
ここまで騙されたことはなかった。てかこんなに自分が騙されやすくなっていたとは思ってなかった。でも、なんだかんだ言って、悪い気はしなかった。
その後、俺と彼方さんは、部室に向かって歩いて行った。