全てを知っても、君は笑ってくれますか?   作:ワサオーロラ

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見透かす者

「はぁ、はぁ、」

 

「大丈夫?ずっと走ってるけど、休んでいいんだよ。」

 

「でも、もう部活始まってるんじゃないんですか?」

 

「だからって頑張りすぎだよ〜彼方ちゃんそこまでされたら、なに返しても不釣り合いになっちゃうよ〜」

 

「じゃあ、下駄箱で靴脱ぐのでそこで休みます。」

 

そしてリヒスは走った。ゆっくりな速度で。彼女、カナタンチィウスを部活へ送り届けるために。と意気込んだはいいものの………

 

「彼方さん!」

 

「あ、着いたの〜?」

 

どうやら少し眠っていた彼女を俺は慌てて起こした。

 

「いや…迷いました。」

 

「あ〜迷っちゃったのか〜一回、降ろしてくれる

〜?」

 

しゃがんで彼方さんを降ろすと、彼方さんは伸びをして欠伸をした。そして上に伸ばした腕を脱力し、俺の方を向いた。

 

「ありがとね。ここまで運んでくれて。」

 

「いえ、すみません。迷ってしまって。」

 

「君方向音痴でしょ〜?」

 

「………認めたくないですけど、不甲斐ない限りです。」

 

ここで、今日初めて来たと言ったら、きっと訳を聞かれるだろう。それを恐れた俺はそれを隠すように真実を嘘で塗りつぶす。

 

「ふふ、いいんだよ。誰にだって失敗の一つや二つあるから、そんなことで怒ったりしないから…そんな顔しないで。陸人くん。」

 

「彼方さん…」

 

顔に出ていたんだとしても、初対面の人にここまで気を遣ってくれる人はいないだろう。だからこの人になら、話しても全てを受け入れてくれると思う自分がいる。しかしだからこそ、それで拒絶されたら、自分の思っていた人ではなかったと知った時、その時の絶望に怯える自分もいる。いい未来が見えれば、よくない未来も見える。その二つから目を逸らすように彼はなにも行動しない。

 

「じゃあ、時間ないから、行こっか。」

 

そう言って彼女は俺の手を引いて走り出した。突然のことでびっくりもしたし、転びそうにもなった。だがなんとか持ち直して、彼女の後を走った。その後ろ姿は見覚えのある奴を連想させる。無邪気に笑い俺の手を引き、お兄ちゃんなんて俺のことを呼んで、笑顔で振り向くそいつ。同い年のくせにどこか俺より何年も後に生まれた妹みたいに甘え上手。そんな甘え上手なあいつにも一年前の今頃からずっと嫌われていたんだな。そんなことを思うたびに、俺があんなことを………なんて思う。今更後悔しても遅いのに。

 

「すみません…今日はもう…帰りますね。」

 

「え…具合悪いの?大丈夫〜?」

 

俺は彼方さんに手を引っ張られていたが、止まった。その反動で繋いでいた手が離れる。それと同時に、彼女は俺の方を向いた。

 

「大丈夫です。ご心配ありがとうございます。」

 

俺は左腕を掴んで、左に俯いてそう言った。

 

「………嘘だよね。だって、辛そうな顔してる。」

 

彼女は俺の顔を下から覗き込みそう言った。俺は目が合うと、慌てて目を逸らした。

 

だから嫌なんだ。俺は顔に出やすいのかもしれないが、彼女も大概だ。俺に何かあったら、彼女も自分のことのように心配する。それがどれだけありがたいか、それが誰にでもできることではないということもよくわかっている。でも………それがたまらなく辛いのだ。多分今のもそうだったように、彼方さんは俺の過去を知ったら、泣いてくれて俺の辛さを分かち合ってくれるだろう。でも…こんなことで辛い思いをして欲しくない。

 

(傷つくのは俺だけでいいんだ。)

 

「本当に大丈夫です…ありがとうございます…」

 

そう言って走り去ろうとした時、さっきまでより力強く俺の腕を掴んで俺を静止させた。

 

「待って…また…膝枕、してくれる…?」

 

「膝枕ですか?気が向いて…あと襲われそうで危なかったら。」

 

「そっか。ありがとう〜またしてくれるの待ってるね。」

 

俺はなぜこの状況で彼女がそんなことを聞いてきたのか、わからなかった。そして彼女は俺にバイバイと手を振って走り去って行った。俺がこのままだと走り去るのがわかったのか、彼方さんはこの緊迫した状況を何気なく静かに収めた。彼女のことは掴めないのに、彼女は俺を、俺という人間を掴む。掴もうとしても全てスルスルと手から抜けていく。如何様にもなれる水のように。彼女という人間が俺の手の隙間から流れ落ちていく。

 

 

「…ただいま」

 

「あ、お兄ちゃんおかえり!」

 

「うん。ただいま。澄美麗ちゃん。」

 

沈んでいる俺に元気よくおかえりと言って、玄関まで走ってくる澄美麗ちゃん。そのあと杏花さんも玄関にきたが、俺を見て何かを察してくれた。

 

「澄美麗、ママ夜ご飯作るから手伝ってくれるか?」

 

「てつたう!!」

 

少女はそう言って手をピンと伸ばしてリビングへ走って行った。その後俯いて立ち尽くす俺に彼女は手を頭に置いた。

 

「疲れただろう?今は休め。ご飯になったら呼ぶよ。」

 

そう言って杏花さんは澄美麗ちゃんが待つリビングへ戻ろうとした。

 

「………っな、なんでなにも聞かないんですか?」

 

俺はなぜかそれを口にした。意図的にではなく、直感的に。それを聞いた杏花さんは動きを止めて俺の方を向いた。

 

「君の顔を見ればわかるさ。昔から陸人くんは顔に出やすいからね。それに、私は母親である前に、君のおばだ。兄さんや光さんには………いや、妹の海音ちゃんには負けるけど、そこら辺の人よりは君のことを知っている。」

 

「そうですね。あの人たちは一年前から俺への愛なんてなかったんだから。」

 

「ちなみに、陸人くんはその時話さなくても、いつか必ず話してくれるから。だから気が済むまで悩んで自己解決出来なかったら、言ってくるし、言ってこないってことは解決できたんだなって思うから。」

 

「………完全にバレている。」

 

(おばだとはいえこんなに見透かされるのか。そんなに俺って顔に出るのか?!)

 

俺は杏花さんに完全に見透かされた。その時ふと俺のことを見透かしたもう一人のことが頭に浮かぶ。おばでここまでできるのに、それと同等までに見透かしてきた彼女。近江彼方は相当人のことをちゃんと見てるんだと思った。確かに見透かされるのは怖いけど、それだけ自分のことをちゃんと見てるんだと思うと少しにやける。

 

「なんだ、なんかあったのか?」

 

「いや、そうじゃなくて…今日さっきの杏花さんみたいに見透かしてきた人がいたんです。初対面のはずなのに、色々読まれて、この時顔に出ていることも知ったんです。」

 

「その子は君の理解者になってくれそうかい?」

 

「どうでしょうね。ただ、まだ怖いけど、あの人といて、悪い気はしないんです。」

 

「そうか。」

 

「ママまだ〜?」

 

そんな話をしていると、リビングから大きな声が聞こえる。澄美麗ちゃんが手伝いをしたくてずっと待っていたのだ。

 

「あ、すぐ行く。さぁ、着替えておいで。」

 

「はい。」

 

そう言って靴を脱いで二階に上がろうとした時、あっ、と杏花さんが俺を止める。

 

「さっきの見透かされた話をしてるときの君、いい顔してたよ。ワクワクした子供のような顔だった。」

 

「そうですね。明日から楽しみです。」

 

そう言って俺は二階へ向かった。明日への想いを胸に秘めて。

 

 

 

 

 

それは陸人が敷地を出る少し前のこと、スクールアイドル同好会の部室にて…

 

「かすかす〜かなちゃんは〜?」

 

「かすかすじゃないです。かすみんです!なんかかすみんのクラスの人に膝枕されながら、寝てました。」

 

「で、その彼方は?」

 

果林がそう言ってかすみに詰め寄る。かすみはその圧に負けどんどん後退する。

 

「それは………」

 

「彼方さん迷っちゃったのかな?」

 

「でも、彼方さんのことだから、迷うことはないんじゃない?道端で倒れるように寝たとか。」

 

歩夢の心配をネタとして返す侑。歩夢にそれ逆にダメだよって釘を刺されて、少しシュンとする。

 

「でも、来ないの、心配。璃奈ちゃんボード:ガクガクブルブル」

 

「そうですね。何かあってからでは遅いですからね。」

 

「それで、彼方ちゃんに膝枕してた子も一緒にいるんだよね?」

 

「はい。でも、かすみさんの話だとその人、今日初めて学校に来たらしくて、初見でこの広さだと迷うに決まってます。」

 

みんなが二人の心配をし始める。かたや、広くてどこに行けばいいかもわからない人。かたやどこでも寝られて、どこで寝てるかわからない子。そんな二人をどう見つけろというのか………

 

「もう、かすみさんがあそこで、走るとかいうから。」

 

「え、かすみんのせい?!しず子だってりな子だってノリノリで走ってたじゃん!!」

 

「それはそうですけど、原点回帰をしたら、明らかにかすみさんでしょ?」

 

「たしかに初めに言ったのは、かすみんだけど…」

 

かすみとしずくがどちらのせいかで揉める。どっちもどっちだとも気付かずに。

 

「まぁまぁ、落ち着いて二人とも。」

 

「そうよ。かすみちゃんもしずくちゃんも」

 

侑がその場を収めようとする。その後果林もそれに賛同する。

 

「「落ち着いてます!!」」

 

「おお、綺麗なハモリ…これは曲として使えるのでは………」

 

「侑ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃないから!」

 

またしてもこんな雰囲気をネタに変えようとする侑。それを静止しようとする歩夢。

 

すると部室のドアが突然開き、目当ての子が入ってきた。

 

「ごめん〜遅くなった〜」

 

「彼方さん!なにもなかったんですね。」

 

「うん大丈夫だよ〜それより遅れちゃってごめんね。」

 

「いえ、私たちこそ、陸人さんに任せてしまったので。」

 

そうしずくが言うと、一年生3人がごめんなさいと頭を下げた。いいよいいよと彼方は手を横の振って顔を上げさせた。

 

「彼方ちゃんその陸人くんって子はどこ?」

 

「ああ、誘ったんだけど、断られちゃったんだ〜」

 

「そうなんだ。残念お礼したかったのに。」

 

「じゃあさ、明日かすかすに連れてきて貰えば?」

 

「あ〜〜」

 

その愛の意見にかすみ以外は賛同する。そしてみんながかすみの方を見る。

 

「なんでみなさんこっち向いてるんですか?あと、愛先輩、かすかすじゃなくて、かすみんです!」

 

その叫ぶの後、侑が手を一回叩く。その音にみんな侑の方を見る。

 

「じゃあ、みんな揃ったことだし、練習始めよっか。」

 

そうして明日連れて行かれることになった陸人と、連れていくことになったかすみなのであった。

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