朝ごはんを食べ、昨日とおんなじように電車に揺られ、学校に行く。クラスについても、話しかけてくる人は誰もいない。そこも昨日と変わらずだった。変わったのはクラス内に、知り合いができたことぐらいだろう。だがその知り合いもまだきてない。だから席に着き、ただ細雪を読むのだった。
だが、来たからといって、話すわけでもない。ついこないだあった奴とたまたま話してそれからずっと話すかと言われたら話さないだろう。そうして彼女とは一切話すことなく帰りのホームルームを迎えた。ちょくちょく視線は感じるものの、一向に話に来ることはなかった。こうして俺の学校生活は終わりを迎え、掃除で机がなくなった俺は教室の隅っこで窓に寄りかかりながら、読書を楽しもうとした。昨日のスクールアイドル同好会の3人よりもうるさいこの教室では、読書なんてできるはずもなかった。
すると不意に強い風が吹き、窓から勢いのいい風が入ってきた。周りにいる奴らはみんなそれに驚いてキャピキャピと騒いだ。これのどこが面白いんだと思い、俺は窓に目を向ける。窓の向こうには何本もの桜の木が一直線に咲いている。だがそれもそろそろ終わる。三月には満開に咲いていた桜も、四月にはもう少しずつ散っていきところどころピンクじゃなくなっていた。作りたれのパズルのように…その散っていく桜は趣があるとか儚さがあるとか言うらしいが俺にはどうもそうは思えなかった。確かに綺麗で、花はすぐに落ちて、象徴と言えるものがなくなる。でも、それは………
「…花以外いらないみたいじゃないか。」
「何が要らないの?」
「おわぁ、なんだ中須さんか。」
ほうきを持ったかすみが俺に声をかけてきた。
「むぅ〜なんでかすみんって呼んでくれないの?あ〜そっか恥ずかしいんだ〜まあ〜超絶可愛いこのかすみんの名前を呼ぶのは、恥ずかしいもんね〜」
そう言うと、かすみは頬を膨らませてる。だがすぐに、自分に都合の良いような解釈をして、自分を納得させる。正直こう言うぐいぐいくる感じの子はあまり好きではない。だが、彼女は友達や先輩のためになんでもできる子だと、俺は昨日知った。だからこう言う絡みをされても、嫌いにはならない。
「まあ〜そうだね。中須さんみたいにぐいぐいいくのは俺にはできないからね。中須さんだからできることなんじゃないかな。」
「えへへ〜そうかな〜………ってそうじゃな〜い!!かすみんって呼んでよ。」
「そうやって素直にいえばいいじゃん。かすみん。」
俺はそういってかすみの方へ振り向く。乙女ゲームの真似事みたいなことをしたが、恥ずかしさで口元が緩む。
(ねぇ、なんか言ってよ。この時間辛いんだからさ〜)
そう思ってかすみのことをずっと眺める。しかし、予想の反応とは全然違う反応が返ってきた。
「…………うえぇぇん〜りく男に意地悪された〜」
急に叫んで教室を出て行ったことで、俺とかすみは注目の的となった。その注目が恥ずかしかった俺は急いで荷物を持った。
「え、ちょ……俺何もしてないだろ!!」
そう言って廊下へ飛び出した彼女を俺は慌てて追いかける。どこに向かっているのかわからないが、とにかくどうにかして誤解を解かなきゃと俺は必死でかすみを追いかける。だが、どんなに走ってもつく気配もないし、なんなら追いつけない。
(くそっ、まさか追いつけないなんて、まあ、俺は失敗作だから、どんなに頑張ったって所詮は失敗なんだよな〜)
こんなことを思ったが俺は全く、心にダメージを受けてない。ただ現実を考えているだけのこと。立ち直れなかった時に、最初に思いついた手が、兄さんへの対抗意識の前に、現実を受け入れることだった。それは確かに効果があった。だがそれはなんの代償もなく、解決できることではなかった。結論俺はやる気、気力、あらゆる頑張る気持ち、頑張ろうとする意思を失った。これが俺が休んだ一週間に考えた対処法と俺が払った代償だ。自己犠牲なんて誰かの人生を潰すよりマシだ。また同じことを繰り返さないためにも………だ。
すると気づけば、俺は外でかすみを追いかけていた。そしてかすみが向かった先は部室練と言われる、部活や同好会の部室がある塔だった。そんなことには目も暮れず、真っ直ぐかすみのことを見て追いかけ続ける。そして階段を登って、とあるフロアを直進して走って、ある部室の中へかすみは姿を消した。そのドアには“スクールアイドル同好会”と書かれていた。ここはかすみや彼方さんたちが所属している同好会の部室のようだ。
「スクールアイドル同好会か…彼方さんたちが入ってるとこか。」
(でも、流石に見ず知らずの輩が入るわけにも行かないよな。だからといって帰るわけにもな〜)
そうして俺はその部室の前のソファーに腰掛ける。同じようなことが何度も頭をよぎる。その度に、ぞれは違うと自問する。
「あれ、陸人くん?」
「ん…あ、璃奈ちゃん。」
「なになにりなりー知り合い?愛さんにも紹介してよ〜」
璃奈ちゃんの隣には金髪のギャルらしき人が一緒いた。完全に見た目はいじめられている人といじめている人みたいに見えるのに、その二人は非常に仲良く話している。
「そっか、君が陸人くんか。昨日はかなちゃんのことありがとうね。」
「いえこちらこそ、僕のせいで彼方さんが部活に遅れる羽目になってしまったので。」
「私は宮下愛。前聞いたから、君のことは少し知ってるよ。で、なんで君はここに?」
「あっ、そうだった。あの、中須さんの用があるんですけど。なんかちょっといじったら、泣かせちゃって、それでここまで走ってきたんです。」
「中須…中須…泣かす………クスクス」
そんな話をしたら、愛さんが急にくすくす笑い出すたこの状況でなぜ笑えるのは俺にはふしぎだった。
「なんで笑ってるんですか?」
「いや〜ごめんね。中須を泣かすって………クスクス」
「愛さんダジャレ大好きだから、ダジャレ見つけるといつもこう。」
「そうなんだね。それでどうしようかなって。」
「ん〜じゃあ中入っちゃえば?」
笑い終わった愛がそう俺に提案した。まさかのことに俺は動揺が隠せなかった。
「え、でも部外者ですよ?いいんですか?」
「大丈夫だよ。ゆうゆー、そう言うの歓迎してくれるし、りっひーなら尚更じゃないかな。」
「りっひー?」
俺はそう言って少し区部を傾げる。
「そう。陸人だからりっひーだよ。」
「そうだったんですね。ありがとうございます。」
俺は少し微笑んでそう言った。やはりなんでお礼?と言う顔をされたが俺はスルーした。
「じゃあ、入ろ?」
璃奈ちゃんは俺も袖をクイっと引いて下から俺を見上げる。それは小さくて可愛い妹みたいだった………妹………
「………うん。お邪魔するね。」
「こんにちは。」
「あ、璃奈ちゃんこんにちは。そちらの方は?」
「お、お邪魔します。普通科一年の水無月陸人と申します。」
「そんな固くならないで、陸人くん。昨日はありがとう。」
そう言って黒髪ツインテールで毛先の方が緑な人は俺にお辞儀をした。俺は両手を横に振って、顔を上げるよう促した。
「私は部長の高咲侑。今日は来てくれてありがとう。疲れたでしょ。座っていいよ。」
「あ、はい失礼します。」
俺はキャスター付きの椅子に座って、みんなで囲んでいる丸い机の一席に入る。
「とりあえず部員紹介していくね。左から、幼馴染の上原歩夢、全ての始まりの優木せつ菜ちゃん、演劇少女の桜坂しずくちゃん、宇宙一可愛い中須かすみちゃん、眠り姫こと近江彼方さん、読者モデルの朝香果林さん、同好会のお母さんのエマ・ヴ、ヴェルデさん、噛んだ………そして、機械エンジニアの天王寺璃奈ちゃんとダジャレがうまい宮下愛ちゃん。」
「ゆうゆー噛んだね。」
「言わないでよ愛ちゃん。」
「侑ちゃん可愛かったよ。」
「歩夢までやめてよ〜歩夢の方が可愛いんだから…」
「ふぇ?あ、ありがとう…」
「歩夢先輩ずるいです!かすみんにも可愛いって言ってくださいよ〜!」
「可愛いよ。かすかす〜」
「えへへ〜って、愛先輩バカにしてませんか?あと、かすかすじゃないです、かすみんです!」
「かすみちゃん可愛いよ。それはみんな知ってるから、バカにはしてないと思うよ。」
「え、そうなんですか?皆さんわかってますね〜それと、愛先輩あんなこと言ってごめんなさい。」
「いいよいいよ。愛さん楽しかったから。でも愛さんも言いすぎた。ごめんね。」
高咲さんはそれぞれを紹介した。紹介されると、各々おじぎや手を振ったりなどをしてきた。俺もそれに合わせて手を振ったり、お辞儀をを返した。言葉には人格が宿ると言うが、紹介する前に、彼女たちの特徴や長所を話す彼女もまたいい人なんだろうと思った。
そして、少しの茶番が終わってから、優木さんが話題を変えるように話し始めた。
「じゃあ早速本題に入ろっか。」
「え、なんのことですか?」
「かすみさんからお話を聞いたから来たのではないのですか?」
優木さんがそう言って首を傾げる。俺も何が何だかわからずに首を傾げる。
「確かに、中須さんを泣かせてしいまったので、ここまで追ってきたんですけど、なんせ教室でほとんど話してないので、話したのなんて名前で読んでくれってことぐらいですので。」
「あはは…やっぱりかすみちゃん恥ずかしくて話しかけられなかったんだね。」
「だ、だって〜侑先輩〜かすみん男の子と話すの初めてで〜」
「いや、昨日話したじゃん。俺ら」
「でも、いざ話すってなると、恥ずかしいって言うか…さっきだって恥ずかしさで逃げちゃったし………」
「え、中須さんの恥ずかしがってたの?」
「〜〜〜〜!!りく男のバカ〜しず子〜」
「恥ずかしかったね。よしよし。」
どうやら俺はまた中須さんを泣かせてしまったみたいだ。なんで泣いているのかは俺はわからなかったが、みんな中須さんのことを見て、苦笑いしていたから、どうやらわかっているようだった。
「まあ〜かすみちゃんあんな感じだけど、話進めちゃおっか。」
「そうですね。」
高咲さんと優木さんはそれで納得して話を始めた。
段々と日が落ち、黄昏時となった午後4時過ぎ。斜陽が部室を照らす最中、部長と元部長が話し始める。それを俺はただ静かに聞いた。泣き声と寝息と話し声が混じるその空間で。