フランドールの禁断書架   作:サクウマ

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第二十二編:刺殺死体を手土産に

 よおこそ。

 机の上にシュークリームを用意しておいたわ。昨日の話を読んだらふと食べたくなってしまったの。折角だもの、一つお裾分けするわ。

 

 ……黄泉戸喫?

 なかなか通なものを知っているのね。安心して頂戴、食べたからといって帰れなくなったりはしないわよ。幻想郷と外の世界は結界があるだけで地続きだもの。

 ええ、永久に貴方を辿るような縁が繋がったりもしないし、勝手に連れ去られたりもしないし、性転換も……性転換?

 ……どうしてそんな発想が生まれたのか、聞かせて貰っても良いかしら?

 

 

 ……成程、ね。

 幻想郷に男はいないのではないか、ねえ。

 いえ、言いたいことは分かるのよ。私の交遊を持っているのは誰もが女性ばかりだものね。疑問に思っても仕方ないわ。

 

 当然だけど、男はいるわよ。だってそうでしょう? 人間は男がいなければ子供を産むこともできないのだもの。妖怪の場合、自然発生の割合がかなり高いのだけど。

 彼らが私達と関わらないのは、「スペルカードルール」というものが「少女たちの遊戯」であると元来規定されているから。

 当然よね。なにせ、男というものは勝負ごとになるとつい熱くなってしまうでしょう?

 本当のところはそんなもの、ほんの少しも価値は無いのに。

 

 それにやっぱり、長身痩躯の青年よりも小柄で華奢な少女の方が、いざ豹変して襲い掛かってきたときに、ずっとずっと恐ろしいように思うのよね。……違うかしら?

 

 さて。それなら今日は、妖怪らしい掌編でも一つ、どうかしら。登場するのはいつもの面子。つまり、こいしと、私よ。

 それじゃあ、楽しんで頂戴。――『ゆっくりしていってね』。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 こいしが死体を持ってきたので、私は驚いた。

 刺殺だった。

 

 

 

 

「驚いたって。フランちゃんたら面白いこと言うよね」

 けらけらと笑ってこいしは言うけれど、そんなことはないと私は思う。人間だって隣人が突然獲れたての猪を持ってきたら驚くはずだ。そう言うとこいしは「うーん都会っ子」などと返すのでもう諦めることにした。ひとは分かり合えないのである。

「でもこいしはそういうことしない質だと思ってたんだけど」

「でもほら、私はメリーさんでもあるわけでして」

「メリーさん?」

「あら、知らない?メリーさんの都市伝説」

「One sheep,two sheep,three sheep sleep...」

「うーんブリティッシュ」

 流石にこれは冗談だった。くすくすと笑いながらこいしは口を開いた。

「お人形のメリーさんはある女の子のお友達。でもそのうち女の子は大人になってメリーさんを捨てちゃった。だからメリーさん怒っちゃって女の子のことをぶすりと一刺し。そんなお話よ」

 知らない話だった。奇妙な話だと感じたから、そういう意味ではこいしらしかった。けれどその話とこいしが関わり深いというのは、少し想像し難いところがあった。

「なにしろ私は基本的には、子供にしか見えないわけなので」

「まあ、こいしは子供よね」

「言葉の綾がねーほんとにねー」

 うーんと困ったように笑うこいしに私は首を傾げてみせて、続く「つまり大人には私の姿が見えないの」という言葉で漸く理解の齟齬に気付いた。嗚呼と思わず唸った私をこいしは面白そうに眺めていた。

「だから、大人に捨てられたメリーさんと、大人に気付かれない私。同じでしょ?」

「……確かに、そうね」

 私の返答に、満足したような様子でこいしはふふんと頷いて言葉を繋いだ。

 

「そういうわけで、私とて大人は狩るのです」

 

 

 

 

 

 

「なんでなんだろう。私はどうしてあれを逃がしちゃったのかしら」

 部屋に入るなりこいしが首を傾げながらそんなことを言うので、とりあえず私は視線で続きを促した。こいしはえーっとと首を傾げて、そこで説明不足に気付いたような素振りだった。

「いつも通りね、道に迷ってるひとがいたから襲うことにしたの」

 私はただ黙って頷いた。いつもそうしていたのかとか、訊きたいことは幾らかあったが、けれど今はどうでもいいことだった。

「でもあの人、今日は娘の誕生日なんだ、とか言い始めてさ。莫迦だよね。そんなんで妖怪が見逃してくれるわけないじゃん」

 そう言ってけらけらとこいしは笑ったけれど、その表情はどことなく寂しそうに私には見えた。

「なんで見逃したの」

「分かんないや」

 私はやれやれと首を振った。どうせ私には分かるわけがないのだ。当の本人すら分かっていないのだから。

「気付いたら逃がしちゃってた」

 そう言ってこいしは寂しげに笑った。

 

 

 

 

 

 

「やほーフランちゃん、はいお土産!」

 次の日もこいしが死体を持ってきたので、私は呆れて溜息を吐いた。

 刺殺だった。

 

「でも不思議なのよね。この人、なんだかこないだ見た気がするのよ」

 こいしは首を傾げてそんなことを言う。

「昨日逃がしたやつなんじゃないの」

 単純な推理だった。というより、こいしが最近出会った相手でまだ存命の人間というのは、私はそれぐらいしか知らなかった。けれど私の言葉に、こいしはまたまたフランちゃんたらひとをからかうようなこと言ってー、なんて笑いながら手を振った。

「そんなわけないって。私、昨日は他の人には会ってないんだもの」

 

 その言葉は、なんとも、こいしらしい返答だ、と。

 そんなことを、私は思った。

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