フランドールの禁断書架   作:サクウマ

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第七編:無間無条理無理問答

 よおこそ。

 前回の話はどうだったかしら。あの世界のこいしもなかなか愉快な性質だと思うのだけど。

 そんな調子でこいしの性質は平行世界毎にまるで違うの。無意識に関わる、ある程度他人に気付かれにくいという点だけは同じなのだけど。面白いでしょう?

 

 ……あら、何かしら。

 態々後日聞くのではなくて、読んだその時に感想を聞けばいい?

 はあ……これは私の持論なのだけど、読後の余韻に浸る時間ほど貴いものは他にないのよ。そういう状態の相手に向かって、無理に余韻から引き離してまで話を聞いてほしいとは、私はとても思えないわ。

 こればかりは譲る気はないの。悪いのだけど。

 

 ああ、丁度良いわ。

 今日のところはこれでも読んで、明日来るまでに読み解けるよう頑張ってみてはどうかしら。

 キャストは二人、こいしと、私よ。

 それじゃあ、精々悩んで頂戴。――『ゆっくりしていってね』。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 机の上には林檎が一つ。それを正面に二人の少女が、向かい合って座っている。

 

「今日は雨かしら」

 

 少女の一方、フランドールが問いかける。

 

「猫が可愛かったわ」

 

 少女の他方、こいしが応える。

 

 二人の少女はころころと笑った。傍からそれを見たものがいれば、まず「不気味である」と評するに違いないような雰囲気であった。会話が全く噛み合っていない風であることも、彼女らには全く気にならないかのようであった。

 

 

「本が汚れてしまうわ」

「とっても綺麗よ」

「それ、甘いわけ?」

「まるで夢のようだわ」

「芳しい香りね」

「わたし、綺麗?」

「貴方の目の前にいるわ」

 

 二人はじっと互いを睨めつけた。どちらの口元にも薄っすらとした笑みが張り付いていた。ただし、それはあくまで口元だけの話だった。二人の視線はどちらを見ても、互いのことを値踏みするように、鋭く細められていた。

 

「最近、新しい子と知り合ったのよ」

「お姉様ったらひどいのよ」

「いつもはずっと川辺にいたみたいなんだけどね」

「最近お姉様が図書館の方に入り浸ってたんだけど」

「その子、実は抜群に釣りが上手かったのよ」

「何してるかと思ったら私の部屋を監視してたのよ」

「だからね、訊いてみたの。なにかコツとかあるのかなって。そしたらね、」

「しかも、それを指摘したときのお姉様の言い訳ったら傑作だったのよね」

 

 そして二人は、歯を剥き出して同時に言った。

 

「レミリアさんって最近なにか面白いこと言ってた?」

「最近の子ってどうやって上手く釣るのかしら」

 

 けらけらと、くすくすと、二人は揃って笑い出した。

 

「残酷ね」

「ワンコインよ」

「素敵だと思うの」

「美味しいわ」

「雨模様よ」

「言うほど幻想的かしら」

「とっても甘いと思うけど」

「気紛れだものね」

「木管楽器だけに?」

「猫よ」

 

 少しづつではあったけど、二人の言葉を交わす速度は、どうやら上がっているようだった。証拠に、二人の言葉を返すまでの間の長さは、既に初めの半分ほどになっていた。

 

「まあ犬だからね」

「時間はあるかしら」

「本で読んだんだっけ」

「羽虫だと思うのだけど」

「鋏借りてもいい?」

「鼠があるわ」

「わ、しか合ってないじゃない」

「牡丹餅だものね。……あ、しまった」

 

 瞬間、フランドールは心底慌てたように口を抑えた。

 

「お、やった」

 

 こいしはにやりと口を歪めた。

 

「……ふふん」

「あっ」

 

 そして、すぐに二人の表情が入れ替わった。

 

 

 

 

「むむー、不覚……」

 

 こいしは唸りながら仰向けに倒れこんだ。その表情は、先程までの感情の読めない不気味な笑顔から一転していて、まさしく姿相応の少女と見紛うほどだった。その眼前で腕を組み、不敵な笑みを浮かべているフランドールの側を見ても、それは同様のようだった。

 

「前のお返しよ。悪く思わないで頂戴」

「別にいいんだけどさー。うーんでもまさか私がフェイントに引っかかるとは」

「鍛錬が足りないのではなくて?」

「わーお辛辣」

「冗談よ」

「知ってる」

 

 フランドールは笑いながら机の林檎を手に取って、そのまま齧り付いて見せた。その様子を見てこいしが言う。

 

「知恵の林檎の味はどう?」

「最高ね。糖質が疲れた脳髄に染み渡るわ」

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