白と黒の殺意   作:紫 李鳥

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 刑事は自分の閃きに自信を持つと、エマを再度取り調べることにした。

 

「奥さん。あんた、ニック・スミスに頻繁に電話をしているね」

 

「……」

 

「何者だい、この男は」

 

「……以前、飲みに行ったことがあるバーのマスターです」

 

「そうだよね。〈FANCY〉というバーのマスターだよね。なんでまた、そんな男にしょっちゅう電話してるんだ?旦那も子どももいる既婚者のあんたが」

 

「……2年前、初めて会った時から好きでした。でも、彼は白人。どうせ付き合ってくれないだろうと思って、気持ちを打ち明けませんでした。……でも、今でも忘れられなくて、声を聞けるだけでいいんです。スティーブがいない時に電話をしてました」

 

 俯(うつむ)いて語るエマの話には真実味があった。だがその台詞(せりふ)は準備していた台本だと判断した。

 

 

 エマを帰したその日の夕刻、ニックが店に出て誰もいないはずのアパートを見張った。ーー間もなくして、ニックの部屋から女が出てきた。顔を見た途端、刑事はアッと心の中で叫んだ。読みが的中したからだ。声をかけると、スージーはびっくりした顔を向けた。

 

「覚えてますか?私のことを」

 

 その問いに、スージーは小さく頷いた。

 

 目の前にある公園に誘うと、街灯が照らすベンチに腰を下ろした。ふと見上げると、空は淡い紫色に染まっていた。

 

「エマとは連絡を取ってる?」

 

「いいえ」

 

 スージーははっきりと言い切った。

 

「どうして?友だちだったんでしょ?〈Nice〉で一緒に働いていた頃は」

 

「ええ。でも、嫌いになったんです」

 

「どうして」

 

「私の彼のニックにモーションをかけたことを知ったからです。友だちだと思っていたのに、私の彼を横取りしようとしたことが許せなかった。だから、絶交したんです」

 

 丸暗記した台詞を喋っているように刑事には聞こえた。スージーもまた台本を用意していたようだ。

 

「……なるほどね。けど、エマはあんたの恋人のニックと今でも連絡を取り合っているよ」

 

「えっ?うそよ!」

 

 わざとらしく驚いた顔を向けた。

 

「うそじゃない。エマ宅の通話履歴でニックの名が浮上、それでアパートが判明し、こうやって、同棲しているあんたを取り調べるまでに至ったわけだから」

 

「チキショー!あの女。亭主も子どももいるって言うのに、私の彼にちょっかいを出しやがって。亭主にばらして、離婚させてやろうかしら。ったく」

 

 スージーのその汚い言葉は演技だと、刑事は見抜いていた。

 

「さっき、エマとは連絡し合ってないって言ったよね?」

 

「……ええ」

 

「なのにどうして、子どもがいることを知ってるの?」

 

 途端、スージーは狼狽(うろた)えた。

 

「……それは、〈Nice〉にいたころからスティーブと付き合ってたのは知ってたから、あれから2年も経ってれば結婚して子どももいるだろうと推測して……」

 

 お茶を濁すかのように早口で捲し立てた。

 

「……なるほど、推測してね……エマの父親が死んだのは知ってる?」

 

「……いいえ。新聞は読まないから」

 

 目を逸らした。

 

「どうして、新聞が関係あるの?」

 

「えっ?」

 

 言ってる意味が理解できない様子で顔を向けた。

 

「どうして、エマの父親の死が新聞に載ってると思ったの?」

 

「えっ?」

 

 目を丸くした。

 

「死んだと言っただけで、殺されたとは言ってない」

 

「……それはつまり、2年前に私の父が殺されたから、そのことが頭の隅にあって、たぶん殺されたんだと思い込んで」

 

「先入観てヤツ?」

 

「……たぶん」

 

「ところで、×日の午後3時ごろ、どこで何をしてた?」

 

「×日ですか?」

 

「そう」

 

「……部屋にいたと思いますーー」

 

 

 スージーにはアリバイがなかった。仮にニックが、‘スージーと一緒に部屋にいた’と証言しても、恋人の証言は信用性が低い。完璧なアリバイにはならない。いよいよ、刑事の読みが色を濃くした。

 

 刑事の見解はこうだ。スージーの父親を殺したのはエマで、エマの父親を殺したのはスージー。つまり、【交換殺人】だ。肌の色こそ違えど、二人は背格好が似ている。その方法はメーキャップとかつら。黒人のエマはライトナチュラルのファンデーションとブロンドのかつらで白人に扮した。その逆に、白人のスージーはブラウンのファンデーションとアフロヘアーのかつらで黒人に扮した。そして、アリバイを完璧にするために目撃者を作ると、ブロンドやアフロなど、わざと目立つ髪型を印象付けた。

 

 

 交換殺人を確信した刑事はその夜、エマの自宅を訪ねると、鎌をかけてみた。

 

「スージーが自白したよ」

 

「えっ!」

 

 エマが目を剥いた。

 

「交換殺人のからくりを」

 

「……」

 

 エマは俯いた。

 

「スージーの父親を殺したのは、白人に扮したあんたで、あんたの父親を殺したのは、黒人に扮したスージーってことを」

 

「……」

 

 刑事の読みが図星であることを教えるかのように、エマは身動(みじろ)ぎ一つしなかった。

 

「最初から話してもらおうか」

 

 覚悟を決めたのか、エマはため息をつくと、ソファに深く座り直した。

 

「2年前、一人の中年男が店にやって来たのがすべての始まりでした。その男を見た途端、スージーの顔色が変わったんです。話を聞くと、その男は父親で、その父親が怖くて逃げてきたと。そして、私と同様に虐待されていたことを知りました。スージーを父親の呪縛から解き放してやりたかった。いつもの明るいスージーに戻してやりたかった。だから、殺害する方法を考えたんです。それしか、スージーが幸せになる道はないと思ったから。

 

 あの日。店に電話を寄越したスージーの父親、アルバートからモーテルの部屋番号を聞き出すと、『明日、スージーの友人が直接モーテルに行く』と伝えました。

 

 翌日、スージーの上手なメイクで白人になった私は店を休みました。アルバートと会う約束の午後3時までの間、指紋がつかないように指先に透明のマニキュアを塗ったり、返り血を浴びても目立たない服選びをして、部屋で待機していました。

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