腐れろ夢よ。終われよ世界よ   作:食卓の英雄

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難産だった…。
あまりに遅いので、興味を失われた方もいらっしゃるでしょう。どうもすみませんでした。
ところで、前話のことですが…警告はしっかり前書きでしている筈なのですがねぇ…


腫れた唇。憧憬と笑み

「サポーター、かい?それはまた何で?」

「その、こんなことを言うのは失礼かもしれないんですけど……」

 

 時刻は夜、ベル・クラネルはオベロンに自らの雇ったサポーターに関しての相談をしていた。

 

「えっと、その子は犬人(シアンスロープ)の女の子なんですけど、何かを抱えているような気がするんです。距離感があるっていうか、自分以外を拒絶するような、いや……冒険者を嫌う、憎んでるっていうのかな…?こう…言葉では説明できないんですけど、とにかくそう視えるんです」

 

 何とか自らの脳から語彙を抽出し、言葉に押し込めて訴える。きっと、オベロンならば様々な観点から見てくれるだろうとの願望込みでだ。

 

「そうかい。…今から僕は君の求めるキレイな回答は出来ないかもしれない。でも、心して聞いてくれ」

「……」

 

 心なしかいつもより険の深い顔でゆっくりと言葉を紡ぐ。ベルはそう言われるであろう事は理解していた。僅かに顔を伏せてぎゅっと拳を握る。

 

「はっきり言って、その子とは直ちに契約を切るべきだ」

「…そうですか」

「ああ、聞いたところ、何か裏があるというのは分かっているんだろう?それに、先日ナイフを失くしたのだって、盗難として考えれば、別れた時間や状況から真っ先に容疑者としてあげられるだろう。容姿に関しては相当な変装技術や魔法なんかで説明もつく。変装だとしたら、流石に背丈は簡単に変えられないだろうから大分絞れるしね。その子の話だって、どれほど信じられたものか…。それに【ソーマ・ファミリア】所属ときた。騙されてポイならいい方で、下手したら何か危険な目に遭わされるかもしれない。まだ言い足りないけど、そういう事だ」

「………っ」

 

 分かっていた。分かっていたとも。彼女の視線には所謂、そういう感情が向けられていたし、ナイフだって物欲しそうに見ていた。

 自分一人なら何かの間違いと見過ごしていただろうが、こうまで並べられるとやはりそういう事だろう。

 それでも、彼女は何かに苦しんでいる様にも見えた。自分に見せている明るい顔でなく、時折覗く全てに諦観したような態度。あれがきっと彼女の素なんだろう。

 

「ただし!」

「え」

「もし君がそれを悟っても本当にまだ続けたい、関わりたいと願うなら、僕は止めないよ」

「オベロンさん…」

 

 お茶目にウィンクをして続ける。

 

「君は俗に言うお人好しって奴だ。時には疎ましく思われてしまうかも知れないが、その性質は紛れもなく善の方向にある筈さ。結局、君が模索し、君自身が選ぶことが重要なんだよ。事情を聞くのも、待つのも。それを知ってどう接するかも君が決めるんだ。騙されたって構うものか、何故なら分かって尚もついていったのだから。君がやるんだ。他ならない君が掴むんだ。君が目指すべき場所は何処だい?」

「お、オベロンさん…!」

 

 最後にピタッと左胸に指を指される。僕の心に聞け、という事らしい。……僕の心の声。誰も干渉できない潜在意識。脳裏に浮かんだあの顔に、僕はどうしたいと願ったのか。……そんなの決まってる。

 

「…僕は!あの子の、リリの助けになりたい!何であんな顔をしているのかも、本当に盗んだのかも全部知りたい!それで、僕に助けられるものなら力になりたい!向こうの事情なんか関係ない!これは僕がやりたい事だから!」

「…うん。いい顔だ。やはり君はそっちの方があってるね。君は割と馬鹿なんだから、一人で悩むよりも、誰かに聞くといい」

 

 一度吐き出してしまったら先程までうじうじと悩んでいたのがバカらしくなってくる。…というか、今さりげなく馬鹿って…。

 

「それで何があっても一つの経験、大人になる為に必要な事の一つ。よっぽどの事にはならないだろうさ。なんたって相手は【ソーマ・ファミリア】なんだから。どっちにしたって君は損をしないのさ!騙されたら必要経費!助けになったのなら誇ればいい!少々厚かましいくらいが丁度いい。なんたって、妖精王のお墨付きだからね!」

「はい!…ところで今馬鹿って」

「いやぁ、解決して何より!これは何か良いことが起こるかも知れないねえ!?それじゃ、僕はちょっと友人に会う予定があるからさらば!」

「あ、ちょ」

 

 僕よりも大きな背丈で駆け出すものだから狭い部屋の圧迫感がより増し、そこらに置いてあった神様の私物が散らばってゆく。

 一人残された僕は何をするでもなく出ていった先を眺め、ため息を一つ。良いことどころか、幸せが逃げていってしまいそうだ。

 

 

―――…

 

 

 

「魔法が、発現した」

「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 あれから数日、肝心のリリの抱えるものは未だ話してくれない。けれど先日、僕の方には新たな風が吹き込んできた。

 そう、魔法の発現だ。魔法というものにかなりの憧れを抱いていた僕は狂喜狂乱し、神様とオベロンさんを困らせてしまったけれど…。とにかく、僕だけの魔法が、必殺の一撃が出来上がったのだ。

 夜中、神様に内緒でやった試し撃ち。体を縮め(これにはとても驚いた)ポーチに入って着いてきてもらったオベロンさん曰く、詠唱がいらない魔法なんてものは見たことが無いらしく、本職の魔法使いからすれば反則と言われてもしょうがないらしい。ただ、威力が控えめという一言を頂いたが、そこは数や速攻性でカバー可能だ。むしろ基本ソロで戦う僕にはこっちの方が都合がいい。

 途中、アイズ・ヴァレンシュタインさんやリヴェリア・リヨス・アールヴさんとも出くわしたが、魔法を扱う際の注意や、精神疲労(マインドダウン)なんてものを教えて頂いた。……やはり、無闇矢鱈に撃っていた僕は子供っぽかったとのこと。穴があったら入りたい…!

 オベロンさんは一度体感しておいた方がいいとわざと言わなかったらしい。……覚えといてくださいよ…?

 

 そして今日、知りたくなかった新事実が発覚した。してしまった。

 

「……こ、これっ、魔導書じゃないか!?」

「ぐ、ぐりもあっ?」

 

 耳にしたことのない単語を聞き返すが、神様の顔は相当に青ざめており、冷や汗をかいている様から嫌な予感が沸々と湧き上がる。

 

「簡単に言ってしまうと、魔法の強制発現書ってやつだね」

 

 その本を抱え、だんまりと黙する彼女に変わってオベロンさんが続ける。

 聞いたことはない、けれどその内容ははっきりと理解出来る。

 神様は本の内容をパラパラと流して見て、ようやく固い口を開く。

 

「『発展アビリティ』なんて言っても…ああ、知ってる?そうかい、ならいい…いや、よくはないんだけどさ。とにかく、『魔導』と『神秘』っていう希少なアビリティを両方併せ持ち、かつそれをかなりの高みにまで鍛えた者だけにしか作成できない、そんな超貴重な魔道具なんだよ」

 

 二種類の発展アビリティ…つまりは最低でも二度のランクアップ、即ちLv3以上でかつこの二つを持っている人物の著作。世界的に見てもかなりの貴重品であることは想像に難くない。

 壊れたような薄笑いを浮かべて石化する。

 

――これ、誰かの落とし物だ。

 

 場所は『豊饒の女主人』。冒険者は多数訪れるし、【ロキ・ファミリア】の様な所まで集まる酒場。……ともなると、魔導書が何故あったかという疑問は氷解し、代わりにとんでもないことをやらかしたという実感が出てくる。

 

「ね、値段は…」

「残念ながら、一回だけの使い切りで、【ヘファイストス・ファミリア】の第一級装備と同等かそれ以上。大手ファミリアでもおいそれと手は出せない値段さ」

 

 僕はそんな貴重品をネコババした挙げ句、そんな高価な代物を台無しにしてしまった事になる。

 

「す、直ぐに謝らないと……!」

 

 嫌な汗がぶわっと吹き出し、急いで事情を説明しに行こうと魔導書を掴み……ヘスティアが離さない。

 何かの間違いかともう一度引っ張ると、血管が浮き出るほどの力で抵抗する。その細腕のどこにそんな力があるのやら、慈母の如き微笑みを浮かべながら全力で抱え込む姿は初見では何が起こっているか分からないだろう。もちろん僕も分からない。

 

「あの、神様?手を離してください…?」

「いいかい?君は本の持ち主に偶然会った。そして本を読む前に持ち主に直接返した。だから本は手元にない、間違っても使用済みの魔導書なんて最初から無かった……そういうことにするんだ」

「黒っ!?黒いですよ神様!?」

 

 何言ってるんですか本当に!?

 

「いや、それは良くないと思うよ」

 

 …!そうだ!まだオベロンさんがいた!オベロンさんなら神様よりも客観的に物事を考えられる筈で…

 

「それじゃあ本来の持ち主が聞いてきた時にバレる。だから、この本を手に帰路に着いたベルくんは、それを魔導書だと見抜いた良からぬ輩に盗まれてしまった。慌てて追うが、相手はLv1のベルくんではとても太刀打ち出来ず、魔導書だなんて気づかなかったし、ローブで姿もよく分からなかった。……こっちならベルくんの罪がかなり軽くなる。相手も納得してくれる筈だ」

「それだ!」

 

 それだ!じゃないですよ!?本当に何やってるんですか二人して!?クソッ、オベロンさんまで加勢してきた!

 

「ベルくん、世界は君が思ってる程きれいじゃないんだっ……!」

「そうだそうだ!神や妖精なんかより気まぐれなんだぞ!?」

「変に名言っぽく言わないでくださいよ!?どのみち他の神様連れてこられたらバレるんですってば!」

 

 結局、力が緩んだ一瞬の隙をついて引き剥がす。

 二人は惜しそうな顔こそするものの、奪い取ろうとはしない。どうやら、好きにしろという事らしい。

 いや、オベロンさん、さり気なく引っ張らないで…。

 

 

 そうして、【ヘスティア・ファミリア】の魔導書騒動は終わりを告げた。結局、素直に持っていったら女将さんに叱責され、罪の意識は消え去ったのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 金色の旋風が迷宮を駆ける。時折聞き込みに止まることはあれど、その素早さは翳りを見せない。

 アイズは今、先日のレベルアップで更に増した敏捷性を以てダンジョン上層を駆け回っていた。理由はエイナと名乗るギルド職員の依頼を受理したからである。

 昨夜にも、『黄昏の館(ホーム)』に客人として訪れていた彼女は、あの白髪のヒューマンの担当アドバイザーだという。どうか助けてほしいとの依頼をアイズは受諾した。

 その程度の事ならば、今日一日特に用事もないのでと引き受た。何より、自分としてもあの白髪の少年にはどこか不思議な印象の冒険者。

 

 初めて会った時はどこか懐かしい雰囲気の彼の側にいた、何処にでもいる低級冒険者。かと思えば、翌日には絶対に敵わないベートさん相手に震えながらも啖呵をきる威勢を見せた。

 それが単なる強がりではなく、覚悟と実績を伴っていた物でもあった。一昨日の夜、ダンジョンからの帰りに見かけた彼は、最初とは見違えるほどにアビリティが成長していた。

 ただ一つの能力値だけを常に鍛え続けたとしても、この短期間でそこまでの領域に到れるかといえば、首は横に振らざるを得ない。それが、恐らくはほぼ全アビリティだ。それに、魔法も発現していた。超短文詠唱のレアマジック。

 

 あれだ。あの輝きは何というのだろう。もやもやする様な、ぽかぽかするような…。でも、強くあろうとする意志が見えた。昔の、ただ強くなるためだけに生き、人形の様に無機質な私とは違う。体ばかりが強くなり、心が脆い私とは違う。弱くとも、誰かの為に怒れる人だった。

 

 …どうしてそうあれるのかを、私は知りたい。

 

「白髪のヒューマン?……そういえば、少し前に見た気がする。確か、サポーターと一緒に8階層の方に…」

 

 Lv6の走力をふんだんに使い、あっという間に階層を走破するアイズ。しかし、先の目撃例であった8階層にも、その先の9階層にも白髪の影はない。

 

(まさか――10階層?)

 

 必死に捜索を続けてきたアイズの胸に初めて疑問が生じる。

 確かに強くなっていたのは確信した。驚くべき成長速度と絶え間ない努力が見え、一時は納得していた。

 しかし、これは余りに速すぎる。レベルアップの世界最速記録持ち、それもファミリアのサポートも手厚かったアイズですら、半年はかかった道のりだ。それをいくら努力しているとはいえ、半月で?いくらなんでもありえないと理性が訴えるも、心の奥底では幼いアイズがすごいすごいと讃える。

 

 入り交ざる困惑と興味により思考を働かせ、頭を降る。今はそんなことよりも捜索する方が優先される。

 

 やがて、階層間を繋ぐ階段を下り終え、10階層に到着する。最初の広間を飛び出すと、その先に立ち込めるのは白い霧だった。

 視界を妨げるこの霧はダンジョン上層における『迷宮の陥穽(ダンジョン・ギミック)』の一つと言っていい。充満する白霧は方向感覚や視界を奪い、モンスターの察知を鈍らせ、下位冒険者を苦しめる。人の探索が難しくなった環境に、アイズは鍛えられた聴覚を最大限に活用し、件の人物の痕跡を辿る。

 

「――っ!」

 

 聞こえた。モンスターの雄叫びと、激しい戦闘音、そして人の咆哮が。

 荒くれ者の野太い声ではなく、聞き覚えのある高い声音だ。理解したと同時、アイズは転身した。道中のモンスターは一呼吸に斬り捨て、音の出処である広間へと出た。

 ひろびろとした空間には枯れ木がまだらに立し、中央付近では複数の影が入り乱れて暴れている。

 

 インプやオークなどの多様なモンスターは何かに引き寄せられるように集い、その度に血飛沫を上げていく。

 

「こうして、こうだ!――【ファイアボルト】!!」

 

 次の瞬間、裂帛の気合と共に魔法が放たれ、炎雷が霧の海を切り裂いた。見開かれた金の眼に写ったのは、多数のモンスターを相手に一歩も引かない、どころか攻め立ててすらいる白髪の少年の姿だ。

 

 ――間違いない!

 そう確信すると同時、少年の無双ぶりにアイズで以てしても舌を巻く。体さばきは我流なのか、見たことのない動きや連携が絡み、一挙手一投足においてもモンスターを薙いでゆく。例の超短文詠唱の魔法はカバーと距離の離れた獲物に的確に放ち、それを複雑な動きの中で完成させている。

 

 正直に言って、このレベル帯ではあり得ない程の動きを見せていた。低級冒険者は【ステイタス】は勿論、それ以上に動きが拙い者が多い。いわば、身体能力によるゴリ押しをする者が多いのだ。……これが、オラリオの冒険者の内半分がLv1で止まっている原因だ。上手く動けないから、自分より僅かでも強いと途端に敵わなくなる。自分より弱い敵としか戦わないから、能力値が上がらない。

 

 …しかし、この少年はどうだろう。

 恐ろしいほどのスピードで成長し、その短期間で上がった身体能力をここまで使いこなしている。10階層に到達出来る『アビリティ』を持っていたとしても、ソロで、かつあそこまでに集まったモンスター相手に立ち回れるLv1がどれほどいるのだろうか。

 

「はあああああああああああああぁぁ―――っっ!!」

 

 驚愕に打ち震える間にも、少年の攻撃は止まらない。オークの攻撃に合わせて大きく離れると、Lv1とは思えない走力で駆け回り、もう一度魔法を放つ。直線上に放たれていたはずの魔法は枝分かれし、一度に多数のモンスターを塵へ帰す。

 

 何故か、と疑問を呈し、視界の端にきらりと光が反射する。

 

(――糸?)

 

 そう、今の走破で導線を引き、再度の魔法で拡散させる事に成功したのだ。

 確か、魔法は二日前に発現したばかりの筈。応用がかなり早い上、攻撃魔法に何でもないただの道具を合わせる発想など思いつかなかった。私の【エアリアル】は付与魔法(エンチャント)である為、最初からいくつかの物に応用出来たが、それでも武具程度。純正の魔法使いならば考えすらしないだろう。

 

「……すごい」

 

 思わず、といった様子で称賛が漏れる。あの少年はどれほど努力したのだろう。どのような気持ちで戦っているのだろう。疑問は堰を切ったように湧いて出る。

 しかし、呆けているのも束の間、ハッとすべき事を思い出したアイズは愛剣を振るいモンスターを蹴散らしてゆく。

 何やら、この少年は急いでいる様子。それも、このモンスターすら放って置きたいほどにある道へと固執している。必死な表情は身の危険を危ぶむものでなく、あの時と同じ誰かの為の輝きを伴っている。ならば、やる事は一つだろう。

 

「シッ――」

『グギャアッ!?』

 

 彼の周囲に集る怪物を嵐を感じさせる剣戟で肉塊へと変え、道を切り開く。予想外の援軍に、振り返った少年は驚きに目を大きく見開いた。

 

「ア――アイズ・ヴァレンシュタインさん!?」

「……行って。何か、あるんでしょ?」

「な、何でそれを」

「そんな目をしてたから?」

 

「え…」

「……ここは私がやるから。行って」

「あ、ありがとうございます!」

 

 少年は告げると、速やかに件の穴へと走り込む。そんな彼を背後から狙わんとする不届き者を両断し、そこを境界としてただの一歩も通さない。

 事情は分からないが、助けになれただろう。そう安堵し、背後から声が届いた。

 

「ありがとうございました――また後で!」

「―――!……うん、また後で」

 

 ――人形にも喩えられる幼き美貌に、柔らかな弧を描いていた事には、終ぞ気が付かなかったのである。




リリ編はカット!悪いけど、これから先を進めるためにもここに時間をかけていられないんだよね。
許して…。許して…。許し亭許して…。
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なんにちもなんにちも何もたべていない虫がいました。虫はずっと我慢していたのです。そんな虫の目の前に、美味しそうなお菓子が入ったバゲットがありました。虫はどれくらいたべたのでしょう?

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