腐れろ夢よ。終われよ世界よ   作:食卓の英雄

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今回ちょっと短いかも

〈2021/11/04 17:24追記〉

最後の方を整えました。投稿した当時は頭が働かず、おかしな感じになっていたので


それはもう、虐めなのでは?

「オッタル。あの子、また強くなったわ」

「重畳、ですか」

「ええ」

 

 薄暗い室内、都市のすべてを見渡せるかという高台に位置する摩天楼施設(バベル)最上階。魔石灯の明かりが蝋燭のように仄かに揺れる中、フレイヤは静かに口端を吊り上げた。

 あまりに美しすぎる女神の言に答えるは、筋骨隆々の武人。オッタルと呼ばれた猪人(ボアズ)の彼は、敬愛する主神の意を組み、ただそこにあり続ける。

 

「見違えたわ。【ステイタス】は勿論だけれど、それ以上に魂の輝きが洗練されたわ。魔法という切っ掛けを一つ手に入れただけなのに……。かつては見えた淀みも、いつの間にかあの子の心を燃やす燃料になっているようだし。…どうしてかしら?」

 

 若い白ワインを月夜に照らし、乱反射する光が水面にきらめく。かと思えば、淡く瑞々しい桃色の唇をグラスにつけた。

 そのワインには深みや味わいといったものは感じられないが、フレイヤはそれがいいとでも言うかのように愛おしく眺めている。

 

「…恐らくは、人間として、男として目指すべき場所を確定させたのでしょう。ならばこそ、何かに執着する事を無駄だと断じたのかと。…確固たる信念を持った相手は油断なりません」

「あら、そう?まああなたが言うのならそうなのでしょうね…」

 

 玉体が宙に晒される。ワイングラスをテーブルに置き、静かに瞳を都市へ向ける。

 

「ただね、オッタル。一つだけ解せないことがあるの」

「…解せないこと、とは?」

 

 珍しく表情を歪ませたフレイヤ。常より微笑と余裕を絶やさない主神に、武人は何かを感じ取る。

 

「何ていうのかしら…予知じゃなくて、虫の知らせ…とも違うわね。予感……。そう、予感。嫌な予感がするのよ。順調に育つあの子はいいの。でも、何かそれが恐ろしいものを起こしているんじゃないかって、ふふっ。神らしくは無いわね」

「…フレイヤ様」

 

 そう告げるフレイヤは、自分でも分からないと不思議そうに首を傾げる。

 

「貴女が何に懸念を抱いているのか、矮小なこの身には分かりかねますが、もしその様な事が起こった場合、我々は貴女の為にこの身を尽くすと。貴女の不安を取り除くと、そう誓いましょう」

 

 フレイヤからすれば軽い小噺程度のつもりだったのだが、生真面目に答えた眷属にくつくつと笑う。

 

「ええ、ええ。いいわね。貴方の事がよりいっそう愛おしく思えて来たわ。でもねオッタル。そこは我々、ではない方がいいわよ。特に女性に言う場合にはね?」

 

 そう投げかけると、オッタルは巌の様な顔を朱に染め、恥ずかしそうに耳を伏せる。

 

「そうね、でも、いいかもしれないわ。私の不安を取り除いて頂戴?その為にも、今回は貴方に任せるわ」

「はっ」

 

 オラリオから立ち昇る光は地を照らし、星空が夜暗を彩る。地を這う人々はそれを見上げ、風流を感じた。けれど、銀月は見えず。

 どうやら今日は新月の様だ。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 日も出ない程の早朝、都市の外壁上にて、金属音が鳴り響く。

 金の髪を靡かせ、苛烈な打突を幾度も繰り返す。相対する白兎はこれまた器用に手足を滑り込ませ、軽減を繰り返す。

 連携が途切れ、ここが好機と前に飛び出す。姿勢は低く、下からの突上げを狙っているらしい。

 

 しかしそう上手くはいかない。即座に薙ぎ払うように脚撃が繰り出される。これを躱すのは不可能と判断し、前のめっていた体を引き戻し、両手を重ねて受ける。同時、石畳を蹴り飛ばして背後に飛ぶ。

 

「があっ!?」

 

 しかし、それでも相手は第一級、加減されているとはいえその威力は黙して然るべきだ。

 威力は軽減されたが、その分だけ遠くに飛ばされる。ベルは受け身を取ることも許されず、石壁に叩きつけられた。

 

「うっ……痛てててて…」

「ごめんね…大丈夫?」

 

 背中を擦るベルに、アイズ心配の意を投げかける。

 先の模擬戦は動きも良く、咄嗟の判断も出来ていた。しかし、予想よりも上手かった為に、アイズも手加減をほんの一瞬だけ止めてしまった。

 勿論、当てる前に威力は殺したが、今までよりも重い一撃であった事は確かだろう。

 

「さっきのはすごく良かったよ。攻守が両立出来てたし、冷静に場を見極めてた。……同レベル帯なら、もう負けることは無いんじゃないかな」

 

 破格とも言える評価。しかし、それも贔屓目に見ているわけではない。アイズは当初、軽い指導を行う予定だったのだが、ベルたっての申し込みで実戦形式となった。

 当然、双方共に動き回るし、容赦のない攻撃が交わされる。どれもがベルにとっては致命の一撃足りえ、あらゆる全てにおいてベルよりも遥かに格上。気絶したら即叩き起す。その様なイジメにも近しい稽古を何度となく繰り返してきたのだ。

 

 その結果。ベルのあらゆる技能は大幅に向上し、気絶するまでの時間が伸び、そしてとうとう、今の一戦では最後まで意識を保っていた。

 修行開始から既に二日経過しているが、あまりの適応力にアイズは舌を巻いていた。何故ならば、模擬戦はLv2を相手している感覚で行っていたが、回を追うごとに欠点が修正されていくのだ。これで退屈しろと言う方が酷だろう。

 彼女は彼女なりに楽しんでいたのだ。

 

「一旦、休む?」

 

 流石に堪えただろうとジャガ丸くん片手に呼びかけると、ベルは慌てて飛び起きた。

 

「まっ、まだまだ!ご指導よろしくおねがいします!」

「…うん、分かった」

 

 更なる意欲を見せる少年に、用意したジャガ丸くんをしょんぼりさせながらしまい込むとアイズは笑顔で剣をとった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 再度開かれた模擬戦。先の疲労が色濃く残っているだろうに、ベルはそのポテンシャルを遺憾無く発揮していた。これも訓練の成果であり、ペース配分が上手くいっている証拠だ。 

 ぶつかり合い火花を散らす戦いを、影から眺めている者がいた。

 

「そこっ、あっ!そう、そうやって…そこで腕!違っ、そこは駄目っ………ああやっぱり!」

 

 山吹色の髪とエルフ特有の尖った耳が特徴的な彼女。名をレフィーヤ・ウィリディスという。

 アイズと同じく【ロキ・ファミリア】所属の彼女が何故この様な野次馬染みた真似をしているかというと、二日前まで遡る。

 

「アイズさん…こんな朝早くから、どこへ……?」

 

 偶然ホームから抜け出すように出ていったアイズの姿を捉えたレフィーヤは、その不審な素振りと合わせ、すわ迷宮探索に向かうつもりだろうか、と慌てて後を追跡する。

 

 しかし、アイズの姿を途中で見失い、何かしら知っているだろうヒューマンの少年にも振り切られ、気分はすっかり沈んでいた。

 長時間の全力疾走にLv3の体力も底をつきかけ、ダラダラと汗を流しながら彷徨っていた。今はこの肌寒い冷気が心地良い。

 

 やがて、レフィーヤの耳は寒空に強烈な打撃音が響いている事を捉えた。

 

(何の音…?こんな早くにこんな場所で…?)

 

 余りに重いものだから、不審に思い恐る恐る除くと、そこには壁に叩きつけられる白兎の姿が。

 

(ア、アイズさん…何を…??)

 

 対する人物は記憶に新しい。数週間前にベートさんが罵倒してしまっていた少年だ。私自身、不謹慎とは思っていたものの、特にこれといった悪感情は抱いていなかった。……本人がそこにいるとも知らずに。

 少年自ら名乗り出た時には、他複数の団員と共に恥じ入ったものだ。

 その後の啖呵も無謀と言えば無謀。蛮勇と言われればそれまで。出来もしない約束を一方的に結んだ挙げ句、自殺に近い迷宮探索にまで駆け出していた。けれど自分に足りない何かとはそれなのだと、そう感じたのだ。

 

 しかし、それとこれとは話が別。憧れのアイズさんに鍛えてもらうなんて羨ま…もとい別派閥なのに図々しい。

 そう思い怒りと嫉妬を滲ませていたが、倒れ込むベルに容赦なく追撃を加えていくアイズの姿を見て思考が停止する。

 

(ん?)

 

「そこで蹲るのは駄目、攻撃してくださいって言ってる様なもの。もう少し離れるか、次につなげる行動をとって」

「あぐっ、はがっ!?はっ、はい!」

 

 既にボロボロの少年が答える時間すらも許さず、この会話の合間にも痛烈な打撃音が体から発せられる。

 正直、傍から見ていたらただの暴行現場だと言われた方が納得出来る。傷ついた体に鞭をうち、果敢に攻めかかるベルにもまるで情の欠片も無いような連撃を繰り返す。よくみれば、急所にもいくつかの当たっている。

 そしてベルもなまじ根性がある為、起き上がる度に動きの精彩を欠き重い一撃を食らう。

 

 それは後衛とはいえLv3のレフィーヤから見ても絶対に巻き込まれたく無い暴嵐の乱打であり、自分だったらあそこまで起き上がる真似はしない。絶対、途中でリタイアしている。

 

(どうしてそこまで…)

 

 ただの努力としては異常極まりない程に苛め抜くそれに、真っ当な疑問を持つレフィーヤ。こんな訓練をしていれば、いつか死んでも可笑しくない。そう感じさせる程の迫力に恐々とし、はたと思い至る。

 あの時、ベートさんに啖呵を切ったとき、何と言っていたか。

 確か、『絶対強くなってやる』と言っていなかったか。

 そう、少年はあの宣言に妥協を許さず、ベートさんに認めさせる程に強くなろうとしているのだ。

 何という信念、何という素直さ。

 

 そうと分かれば、羨望の感情は消え失せた。アイズに構ってもらっているという嫉妬こそ普通に残っているが、あまりのフルボッコ加減に同情が強まったらしい。

 

 そして暫く眺めていると、少年の動きが変わった事に気付く。先の指摘を活かし、更には即座に応用してみせた。

 しかし、それでも壁は高い。今度はカウンターをまともに受け、再度蹲る。続く追撃、流れは先程と同じ。しかし、今度は脳天に振りかぶられたそれを手甲で受け流す事に成功してみせた。

 

(すごい…)

 

 率直に言えば、魅入っていたのだろう。リンチよりも酷い過酷なものであるが、諦めずに何度も立ち上がり、反省を即座に活かす。そんな青臭い努力は、彼女の瞳には好ましく写っていた。

 

 それからというもの、妙に気になってしまい、連日ここに通ってしまっているのだ。

 

「ああもう、そこは踏み込みを軽くして受け止めた方が響かずに済んだものを……」

「いや、でもあの体であそこまで動けたことを褒めるべきだ。それ以上を求めるのは酷と思うけど」

 

 痛烈な一撃により気絶したベルを尻目に、傍観者達は今の一戦の感想と改善点を語り合っていく。

 

「それは分かってますけど、やっぱりこう、あそこまでいったならもうちょっと粘って欲しかった気も…。流石にアイズさんの攻撃を受けきれとは言いませんけど、もうちょっとやりようはあった筈です」

「ああ確かに、今回は上手くいってたから油断したんじゃないかな?そうだね、そこの観点から見ればあそこは一回フェイントを掛ければ良かったかもね」

「それは駄目じゃないですか?アイズさんは多分引っ掛からないどころか、むしろ前に詰めてきますよ?」

「いや、その後、防いだ後さ。確かに態勢は崩したけど、あの時点で右に動こうとすれば、きっと無茶な逃げ方を叱る為に右脚を出しただろう。そこに一撃いれる事が…」

「…成程、下手に仕切り直すより接近した利点を使って速攻を仕掛けることも…」

「おっと、ベルくんが起きた。次はどう出る?」

「うーん…多分、今度は低姿勢からの突上げ…に見せかけた体術じゃあ…」

「しっ…声が大きい。僕達が見ているのは秘密なんだから、もうちょっと抑えてくれ」

「あっ、すいません、不注意でした…」

 

 さあ次はどうでるかと頭を働かせ……はたと、気付く。自分は仲間を連れてきていただろうか?否、一人だった筈だ。

 ならばこの声は一体…?恐る恐る振り向くと、これまた怪訝そうな顔をした、子供の様な、大人の様な容貌の男性と顔を見合わせる。

 当然、知るはずもない。

 

「「誰だい(ですか)君(あなた)っっ!!?」」

 

 正直遅すぎる気がしなくもないが、二人は瞬時に背後へと飛び退った。オベロンとレフィーヤは声を張り上げ、一体何者なのかと口を開こうとし―――

 

「オ…オベロンさん…?」

 

 横から声が差し込んだ。

 

「何で、レフィーヤが…?」

 

「「あ」」

 

 騒いだせいであっさりと発見され、すごすごと、格好のつかない登場を果たした二人であった。




予想よりもこれに文字を使ってしまった…。
ミノくんは強化しないとアカンよね…。
これを面白いと思ったなら高評価、感想お待ちしております。

なんにちもなんにちも何もたべていない虫がいました。虫はずっと我慢していたのです。そんな虫の目の前に、美味しそうなお菓子が入ったバゲットがありました。虫はどれくらいたべたのでしょう?

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