腐れろ夢よ。終われよ世界よ   作:食卓の英雄

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見切り発車。
実は2部6章終わらせてない人。
そしてこれはあくまでこの世界のオベロンです。Fate世界の本人ではありません。


妖精王オベロン(奈落の虫ヴォーティガーン)

 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?

 

 複雑奇怪にして魑魅魍魎の跋扈する奈落にも等しき大迷宮。これに挑まんとする勇者はいないか? ガヤガヤザワザワ、人間たちが悩んでいます。

 うーんうーんと唸っていると、俺だ私だポンポンポン。魔法のかかったお花の様に、挑むよ挑むと手が挙がる。恐れを知らぬ、百戦錬磨の猛者たち。ぐんぐん穴へと進んでいくと、怪物、宝物ゾロゾロゾロ。おおこれは凄い、ああ凄い。怪物を恐れていた彼らも、この魅力には勝てませんでした。そして貴方もさあさあ行くぞと剣を取る。

 

 未だ見ぬ冒険と富と名声を求めて、彼らは征くのだ。ダンジョンの奥底へと果てぬ夢を抱いて。その先に待ち受ける物が、きっと良いものだと愚かにも信じて。

 

 

 

 

 

 

 

――ああ、気持ち悪い…。ヒトも、モンスターも、虫も妖精も精霊も神も世界も、忌々しきこのダンジョンも…!気持ちが悪い。吐き気がする。――死ね――死ね――死ね。

 

 

 

 

  

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           Pretender

 

 

 

「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっっ!?」

 

 背後から迫る死の気配。ドシンドシンと地面を踏み鳴らし、僕へと狙いをつけた牛頭人体の怪物が追いかけてくる。

 それはLv.1の僕では絶対に敵わないモンスター。Lv.2にカテゴライズされる『ミノタウロス』が唸り声を上げる。

 間違いなく死んだ。これは終わった。もしも時が戻せるのなら、あの時もっと深くへ行こうとする僕を説得、いや、もっと前の冒険者登録をしている僕の顔を殴り飛ばしてやりたい。

 

『ヴモオォォォッ!』

「ひぃあっ!?」

 

 攻撃を飛び上がって躱すが、着地は無様としか言えない。こんな所を神様に見られたら、きっと赤面していた事だろう。しかしこの状況ではそんな反応すら勿体ない。 攻撃で止まった内に急いで角を曲がる。あわよくば地上へ通じる道があると信じて――

 

「――え」

 

 残念ながら、運は彼に味方しなかった様だ。

 彼の曲がったその先は、正方形の広いフロア。要するに、行き止まりと言うことだ。

 

(あぁ、もうダメだ。ごめんなさい神様…)

 

 ガチガチと歯を鳴らして心の中で自分に良くしてくれた影を思い浮かべる。神様は僕が死んだら悲しんでしまうのか、それとも神様らしく超然とした雰囲気でやり過ごすのだろうか。いや、あの人のいい神様の事だ。きっと悲しんでくれる筈…。いやでもそれは結局僕が死んだ後の話で…。

 

 そんな事を考えている間にも、筋骨隆々の巨影はじっくりと焦らすように近づいてくる。きっと追い詰めたことを理解しているのだろう。意地の悪い笑みを浮かべている。

 

――おじいちゃん、ダンジョンに行っても女の子との出会いは無かったよ。

 

 そんな、余裕すら見えるような考えが浮き出てきて、場違いにも苦笑する。そうして目を開けた頃には大きく腕を振り上げるミノタウロスの姿が映り込み――

 

 次の瞬間、風のような鋭い一撃が脳天を貫いた。

 

「え?」

『ヴモ?』

 

 そのあまりの早業に僕とミノタウロスは同じく間抜けな声を上げる。

 続いて分厚い筋肉、上腕、肩足腹へと風穴が空いていく。いずれも目に見えないほどの速さで行われ、さながら銀の風がミノタウロスの体を通り抜けている様だった。

 

『グボッ!?ヴゥモオオオォォォッッ!?』

 

 牛頭の断末魔が響き渡り、体中に空けられた穴から血を吹き出して崩れ落ちる。

 

「……大丈夫かい?」

 

 ミノタウロスという壁が無くなった事で、その奥に佇む人影に気が付いた。

 そこにいたのは華奢で可憐な美少女……などではない。

 童話の中から飛び出したようなメルヘンチックな王子服に見を包み、手には先の一撃を撃ち込んだであろうレイピアが握られている。

 子供というには大き過ぎ、かといって大人にしては幼い風貌の不思議な男性。

 最後に背中に大きなアゲハ蝶の羽を持つ彼は、こちらに向けて人の良さそうな笑みを浮かべていた。

 

「え、誰…。あっ、いや、助けてくれてありがとうございました!」

 

 何かと異質な姿だが、オラリオならばこんな事もあるのだろう。そう切り替えて礼を言う。すると男性は気さくに、まるで友人に話しかけるような自然体で語る。

 

「やあ、はじめましてベル・クラネル。救出が遅くなって申し訳ない。 なんて、突然言われても迷惑かな?いや迷惑だろう、君、顔に出やすいってよく言われない?」

「いや、そんな。迷惑とかじゃなくて、ただ驚いて…。あの、あなたは…?僕の事を知ってるみたいですけど」

 

 助かった。安心した。そうなると心には余裕が芽生え始め、目の前の男の詮索という選択肢を選ぶ。

 そう問われると男は待ってましたとばかりに大仰な振り付けで自らの存在感を醸し出す。

 

「よし。王としてはどうかと思うけど、従者はいないので自分から名乗っちゃおう!

――僕の名はオベロン。君の先輩にして、君を助けることをヘスティアから指示された、ヘスティア・ファミリアの団員さ。 人呼んで妖精王オベロン。どう?かっこいいだろう?」

 

 名乗られたそれはおとぎ話の登場人物。普通はからかわれていると判断するのだが、目の前の彼からは嘘をついているような雰囲気も無く、本当にそうだと理解出来た。 そして何より、先の言葉には僕と同じファミリアだという事が語られ……

 

「え、えええぇぇぇぇぇぇえっ!?」

 

 

―――…

 

 

「ま、まさか僕以外に団員がいたなんて…」

「あれ?ヘスティアが言ってなかったかい?」

「い、いえ。確かに思い返せば言っていた様な……。あの時は見栄を張っていたのかと…」

 

 僕の絞り出した様な声にうんうんとよく頷くオベロンさん。「ヘスティアらしいな〜」なんて信頼を感じさせる仕草に、ほんの少しだけ羨ましく思ってしまう。

 

「いや〜、まさか僕のいない間にヘスティアが眷属を新たに迎えているなんて知らなかった。それで戻ってきたら急に『ベルくんが心配だから見に行って欲しい』さ。まずなんの事か分からなかったね」

 

 確かに事情も分からないまま知らない人の名前を出されても困惑するに違いないだろう。改めてヘスティア様はどこか抜けているんだな、なんて感想が出てくるくらい。

 

「オベロンさんって、今までどこに居たんですか?僕は見かけたことが無いんですけど…」

 

 そう、僕がヘスティアファミリアに入ってから二週間が経過していたが、一度だってホームに帰ってくることは無かった。遠征などをしていたのなら話は違うが、それまで団員一人の零細ファミリアで行う事などありはしない。

 

「ああ、僕は別件でちょっとオラリオを出ててね。タイミングが良かったよ」

 

 それは恐らく僕を助けるのに間に合ったということで、改めて命を救われた事に感謝の気持ちを覚える。

 

「確かに僕は何とかという所で君を助けたが、僕が居なくても今のは大丈夫だったと思うよ

 

――だろう?そこのお嬢さん?」

 

 語りかけ、そう振り向いた先には、目を剥くような美少女が壁から除くような位置でこちらへと顔を向けていた。

 

 軽やかな銀鎧と大胆に露出した白磁のような肌。腰まで伸びた金糸の様にきめ細やかな長髪に、オベロンさんとは違った意味で浮世離れした幼げな美貌。

 

 ここまで条件が揃えば僕だって分かる。このオラリオでも最高峰の実力を持つ(レベル5)女性冒険者。『ロキ・ファミリア』所属の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 

 ツカツカと感情の篭もらない瞳で歩む彼女が、僕達に一体何のようかと思わず身構えてしまう。

 しかし開口一番に謝罪の言葉が飛び出すとは思っていなかった。

 

「…ごめんなさい」

「へ?」

「うん?それはどういう?」

 

 目を伏せて語られたそれは、ミノタウロス上層進出の原因がロキ・ファミリアにあるということ。そして僕が襲われて殺されかかったということ。オベロンさんが助けたのを見かけたという事だった。

 

「……本当に、ごめんなさい」

「いっ!?いえいえっ!僕は特に何も無いですし、わざとじゃない上に謝ってくれた人なんて責められませんよ!で、ですよねオベロンさん!」

 

 あまりに申し訳なさそうにするので、かえってこちらが悪いように感じてしまう。

 

「そうだね。僕としても大事にする気はない。これといった被害もないし、君も責任を感じているようだ。よし、ここは無かったことにしようじゃないか」

 

 しっかりとレイピアを納刀し、考えるような顔で提案した。それには僕も大賛成で、きっとアイズ・ヴァレンシュタインさんも納得してくれるかと思いきや、何やら愕然とした様な表情を浮かべていた。

 あれ…、そんなに驚く程のことなのかな…?

 

「オベロン……?アルベリヒじゃなくて………?」

 

 

―――…

 

 

 あの後、再び謝罪したアイズ・ヴァレンシュタインさんはお仲間の方に呼ばれたようで去っていった。

 僕達もいい頃合いだとダンジョンから帰還し、僕の担当アドバイザーであるエイナさんへと報告を済ませたのだが……

 

「もう!何で君は私の言いつけを守らないの!ただでさえソロで潜ってるんだから、不用意に下層へ行くなんて…。普通は安全の取り過ぎでも足りないくらいなんだよ!」

「はいぃ…ご、ごめんなさい」

 

 この通り、烈火の如く怒られてしまった。確かに今回ばかりは言いつけも守らず危険性を軽視してしまった僕に非がある。まさかミノタウロスに出くわす等とは思っていなかったが、それでも5階層は初心者冒険者にとって一種の壁にも等しい階層。何かが起こってからでは遅いのだ。

 

「そちらのあなたも、ベル・クラネル氏を助けていただきありがとうございます」

「いやいや、僕は同じファミリアだから助けただけさ。何よりあんな状況で助けるな、なんて事は僕には出来そうもない」

「そうでしたか。…ん?同じファミリア?…………ベ〜ル〜くぅ〜ん?」

 

 振り返るその顔はどこまでも綺麗な笑顔で、でもそれが今は物凄く怖く感じられる。おじいちゃんが女は恐いって言ってた理由が今やっと分かった。出来れば知りたくなかったけど……。

 

「まあまあ、十分にベルは反省しているし、僕がいることも知らなかったんだ。大目に見てくれないかな」

「……はあ、本当に気をつけてね?今回は運良く助かったけど、いつもそうとは限らないんだから」

「はい、スミマセンデシタ……」

 

 すっかり意気消沈した僕を見て、二人はくすりと笑った。

 

「それと、ミノタウロスの事は災難だったね。アイズ・ヴァレンシュタイン氏曰くロキ・ファミリアの不手際らしいって事だけど、ミノタウロスがそんな風に逃げるなんて聞いたことないんだけどなぁ」

「そんな珍しい事なんですか?」

 

 本当に不思議だ、という調子からそこまでの事なのかと興味が湧いてきた。あの時の醜態や恐怖はなんのその、喉元過ぎればなんとやら、だ。

 

「珍しいなんてものじゃないよ。ダンジョンのモンスターってのは普通は戦いもせず逃げなんてしないし、逃げたとしても階層を超えるなんて稀も稀。例外としてラムトンっていう階層移動モンスターもいるけど、それは逃走じゃないし…。10階層も上がってくるなんて、ここ数十年で一度もそんな報告は無いし……」

「そ、そんなになんですか?」

 

 そのあまりの異常さにギョッと目を剥いた。それ程にギルドの情報というのは多いのだ。ただでさえ多い冒険者。毎日様々なファミリアの様々な人達が訪れる事により、あらゆる情報が届けられる為、たった一年分の資料でもとんでもない量になる。

 それでも一件すらないなんて、超希少モンスターに立て続けに出会った方が確率は高いのだという。

 

「ふむ、そういえばあのミノタウロス達は少しおかしかったね。普通じゃないっていうか…」

「あ、そ、それもそうですね!僕は普通のミノタウロスにも出会った事も無いですけど、何か変でした!」

「どこが変だったの?」

 

 そう言われると、オベロンさんと共に口を閉じる。あくまで感覚的なだけでこれとった確証は無いからだ。

 

「まあ、一応報告書には書いておくけど…あんまり考えすぎても分からない物は分からないんだから」

「それもそうだね。僕達には預かり知らない事情でミノタウロス達は階層を超えてきた。こういうのはもっと上のファミリアに任せればいいさ。僕達零細ファミリアは明日を生きる為に必死なんだから」

「ハハハ…それはまあ、なんとも…」

 

 その苦笑は僕達の生活苦を示しているようで、何だか少し情けなくなってしまった。

 

 

 迷宮都市オラリオ。

 『ダンジョン』と呼ばれる地下迷宮の上に築き上げられた巨大都市。都市、及びにダンジョンを管理する『ギルド』を中核として栄えているこの都市は、ありとあらゆる種族のヒト種が生活を営んでいる。

 さてオベロンさんもその類かと思って聞いたのだが…。

 

「いや、僕は本物の妖精だよ。君たちヒト種とは根本的に違うのさ。この羽根だって本物の羽だし。そうだな……ベルは英雄譚とかは読むかな」

「はい!結構詳しい方だと思います!」

「『アルゴノゥト』ってあるだろう?知ってる?まあ割と有名なお話だから知ってるだろう。あれに僕出てるんだよね。アルゴノゥト達が訪れた妖精の森の王様さ。……ま、今は妖精なんてこの世に残っていないから、お飾りの王様なんだけど…」

 

 驚愕。驚きの新事実。まさか本当に妖精だったとは…。神様からの後押しもあり何とか信じられたが、ずっと僕を和ませる冗談だと思っていた。

 最後の方は悲哀の表情を浮かべており、この様子ではきっともう彼の仲間はもう…。

 

「えと、そ、それで!何でオベロンさんはヘスティア・ファミリアなんかに!?」

「こらー!確かにウチは新興も新興、零細ファミリアとはいえ他ならぬ君がそれを言っちゃダメだろう!」

 

 話題を切り替えようと声を張り上げたが、それはそれで別の反感を買ってしまった。

 

 今のは僕達ヘスティア・ファミリアの主神であるヘスティア様の声だ。二つ結びにした艶やかな黒い長髪と、幼い身体に不釣り合いな大きな果実を持った神様。やっぱり零細という事は気にしているらしい。

 

「というか初耳だぞオベロンくん!君はそんな昔からこの世界に居たのかい!?」

「あれ、言ってなかったっけ。僕神々が降りる前から居るけど」

 

 むしろそこまで来たら本当に何故最近出来た振興派閥に入ったんだろう。

 

「いやー、僕もそろそろファミリアとやらに入ろうと思ったんだけどね。『お前みたいなコスプレ野郎はお断り』だの『ナヨナヨした奴はいらない』とか『貧弱そう』とかね。それで彷徨ってたらヘスティアに勧誘されてこの通りさ。…にしても酷いよね。確かに直接戦闘は苦手だけど、色々と出来るのに」

 

 やれやれと身振り手振りで示すオベロンさん。意外にも、僕と同じような方法で入団したらしい。

 

「直接戦闘は苦手って…一体どれくらいのレベルなんですか…?僕にはあのレイピアが全然見えなかったんですけど…」

 

「ん、ああそうか。普通はそう思うんだね」

「え、僕なんか変なこと言いましたか?」

 

 クツクツと、秘事をしている童子の様な顔で答える。

 

「僕は恩恵なんてものは貰ってない。必要ないのさ。これでも妖精、それなりの力は持ってるよ」

 

 世間話の様になんてことないと語られたそれは、妖精という種族の強さを表していて、僕は今日何度目になるか分からない叫びを上げた。

 

 

 

 

 

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Ruler

 

 

 

 

 さあさあさてさて、ミノタウロスの様子が可笑しかったのは何故なのかな。俺には全くわからないよ。

 

《オベロンだ!オベロンだ!大嘘つきのオベロンだ!》

 

 五月蝿いな、静かにしろよ。

 

《………》

 

 まあいいや。…にしてもまさかミノタウロスが逃げるとはね。あの薬は失敗か。

 …まあ、別にあんなものどうだっていい。

 もうそろそろで俺の悲願が叶う。この2000年…本当に永かった。狙うなら今だ。今が本格的に進めるべき刻だ。その為の布石は整えた。英雄となるべき存在も確保した。

 さあ、冒険者よ。地底迷宮を攻略するがいい。そして出来るだけ死んでくれ。世界中を飛び回ってるアイツも、冒険者と争ってくれるだろう。

 この汚物の掃き溜めみたいな世界もようやく終わる事が出来る。

 まあ、別に今すぐにって訳じゃあないけどね。




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