※文字の削除忘れがありました。すいませんでした。(編集済み)
さて、遅ればせながらに一同が揃ったホームの中、ステイタス更新を済ませ、ちょっとだけ豪勢な食事を終えた僕達はベッドへと潜り込んでいた。このベッドはオベロンさんが今日購入したものらしいが、物凄くふわふわで何というかすごかった。
そして神様もすうすうと寝息を立て始めた頃、ずっと気になっていた質問を投げかけることにした。
「あの、オベロンさん」
「何かな?」
「妖精と精霊って何が違うんですか?」
そう言うと、オベロンさんの表情がピタリと固まった。
(あっ…これはやってしまった)
「…どうして、そんなことを聞くんだい?」
「いえ、その、色々なお話にも妖精は出てきますけど、書いた人や地方によっては混合してたりすることがあって…その、気を悪くしたならすみません」
怒らせてしまったかとビクビク怯えていると、「なんだ、そういうことか」と笑顔で返してくれた。
「まず、妖精と精霊では存在も何もかもが別なんだ」
「別?」
「そう、別物。簡単に言ってしまうと神の分霊…まあ分身みたいなものが精霊。惑星の分霊が妖精かな」
「ほ、星…」
精霊が神様の子供や分身であるというのは知っていたが、妖精の方はまるっきり予想外だ。スケールがかなり広がった。
「だから精霊はしっかりとしてるんだよ。最初っからある程度の知識や常識、理解力もあるし、神や人と同じ様に考えて自分の道というものを一人で切り開くことが出来る」
「神や人と…って妖精は違うんですか?」
「うん違う。妖精は生死に頓着しないんだよ。死んだらその瞬間に自分と同じ役割を持った、いうなればもう一人の自分が生まれる。そして妖精は良くも悪くも純粋すぎる。だから無垢な心のままでどんな事でも平気な顔でやってしまう」
「ど、どんなことも…」
確かに、精霊や神を怒らせてしまった話などは、大抵の場合人間側に非があるが、妖精からのものにはこれといった理由づけがされていなかった。
「まあ、それを人は都合のいいように『悪戯』なんて呼んだりするけど、実際は悪いとも嫌なことだとも理解していないよ。妖精は基本、自分が楽しければそれだけで世界が完結しているんだ」
なんだろう…。知れば知るほどに妖精へのファンシーなイメージが薄くなって、恐ろしげなイメージが増していく。
「でも、何で今は居なくなっちゃったんですか?精霊は生まれ変わりとかは無いですけど、妖精は代替わりするんですよね」
「いい質問だ、好奇心が旺盛だね。妖精には基本寿命は無い。…これは精霊も同じだね。でも、妖精は目的が無いとやがて全てを忘れて消滅してしまうんだ」
「しょ…消滅…」
「こうなると、もう次代が新たに生まれることもない。それが立て続けに起こった結果、今や世界に残っている妖精は僕だけ。僕は、どれだけやっても失われないことが目的だからね。大丈夫さ。もし消えるならそれはきっと僕が願いを果たした時で、その時には君はとっくに死んでる」
顔に出ていたのだろう。僕をフォローするようにそう続けてくれた。「さ、そろそろ寝ないと疲れが残ってしまうよ」オベロンさんが指を鳴らすと最後に残っていた照明が消える。
それと同時に、すぐに意識が曖昧になって微睡んでくる。
(あ…そういえば……オベロンといえば……ティ…ターニ……ア…)
それを最後に、真っ暗な室内は静寂に包まれた。
―――――……
「やあやあこんにちはオラリオの諸君!今日も元気に生きているかい?」
翌日、僕と共に街へと繰り出したオベロンさんは道行く人達へと挨拶を交わす。
「おお、オベロン!オラリオに戻ってきていたのか!」「オベロンかい!?アンタのお陰でいい林檎が出来たから見ていってくれよー!でもお金は返しておくれ!」「オベロンだ!今日も元気な予定だよー!アンタが貸した金を返してくれるならもっと元気が出るよ!」「オベロン、今度こそ私とデートをしましょう!お金もそろそろ返して欲しいわー!」「おーう!久しぶりだなオベロン、そろそろツケを返せー!」
…何やら、この辺では名の知れているらしい。…いい意味でも、悪い意味でも。金だのツケだのと不安だ。おかげで隣りにいる僕にも奇異の目線が向けられる。
「あの、一体どれだけ…」
「ははははは…止めてくれないか!今はファミリア唯一の仲間と来ているんだ、お金の事は黙っていてね!」
誤魔化しと共に鎮めるように叫ぶオベロン。しかしそれを受けた街の人達はハハハハ!と笑い飛ばす。
「分かってる分かってる!誰も本気で言ってないさ!」「あんたからは色々と世話になってるからね!駄賃ならもう十分さ!」「また奢ってやってもいいぞ!」「今度はそこの坊主やジャガ丸くんのとこの神様も一緒にな!」「坊主もオベロンのとこのファミリアか?ならいつかウチの店にも寄ってくれよ!」「可愛いねそこの君ー!元気でねー!」
そう、何というか、予想以上に人気者らしい。その余波がこちらまで押し寄せてくる。この空気はどこか故郷の村にも似たような雰囲気で、オラリオで色々と都会の厳しさを味わった身としては、オベロンさんの人望がどれほどの物かを思い知らされた。
「こほん、ベル。僕は妖精王だ。つまりは普通の人じゃない。だからお金なんて普通は無くても困らない。でも街に住んでいる以上、お金は必要になってくる。だけどファミリアも門前払い。それで零細ファミリアに入ったものだから………分かってくれるだろう?」
まあ、実際それは分かる。今までの生活では細かく節約していかないと明日の食事代すらも怪しかったから。酷いときは一食ジャガ丸くん一個だった事もある。
「おっと、すまないがここらでお別れだ。僕は表立ってダンジョンには入れないからね。他に仕事があるんだ」
「えっ、てっきり一緒に探索出来るのかと…」
「ごめんね。もう時間もあまり無いんだ」
そう言うと、数ある分かれ道の一つへと消えていった。
「今日もソロか………」
見事に期待を裏切られ、背中から哀愁を漂わせ、今日もダンジョンに向かう。
「あの…これ、落としましたよ?」
♢♢♢♢♢
駆ける。翔ける。駈ける。
迷宮の様に入り組んだそれを進みながらオベロンは考える。
(何を考えているんだあの美神…。いや、どうせまた気に入ったからとかそんな程度の理由か…!)
だが、その程度の事で俺の目的がバレる訳には行かない。まだその時ではない。仮にバレるとしても、それは奴自らが気づくべきこと。みすみす晒すような真似はしない。
だが、これは渡りに船と捉えることも出来る。むしろ自らがリスクを犯すことなく英雄を育てられるのだから。恐らくだがヘルメス辺りも噛んでくるだろうが、まあ誤差にもならない。
しかし、それよりもオベロンにとっては気になる点があった。
(『妖精恩寵』…ね。一体誰のものだ?ムリアンか?)
【
・早熟する
・想いを紡ぐ限り効果持続
・想いを紡ぐほどに効果向上
・条件を満たせばこのスキルは昇華される
ベル・クラネルに発現したこのスキル。
効果自体はオベロンが望んだものに限りなく近いが、スキル名と最後の効果が懸念材料だ。
これまで、『妖精』と名のつくスキルや魔法は見ることがあったが、しかしてそれはエルフ族ゆかりのものであったり、本来の妖精とは全く別の、所謂俗称というやつだ。
だがこのスキルは違う。ベル・クラネルはトモダチを通して見てきていたが、神と関わる事はあっても妖精とは全くの関係が無い。また、それに足るだけの何かを発現させている訳でもない。
何よりこの場合におけるスキルとは可能性の具現。スキルが発言するに足るだけの経験と、それに応じた名になるという事が分かっている今、これは明らかに不自然なのだ。
「おや、ブランカ。おかえり」
パタパタと羽音が近づき、思考を一度止める。
オラリオ中を飛び回らせていた雀蛾のブランカが帰ってきたのだ。今までもこうして色々な場所に派遣し、情報収集には余念を欠かさなかった。
「…ふむ、なるほど、そんなことが。……へえ、そういう」
どうやら怪人共も動き出すらしい。手を回しているこっちとしては勝手な行動は謹んで欲しいんだけど…。まあ、事を起こす階層によってはベルを育てる事に時間を割けるかもしれない。引き際は弁えてるだろうし、問題は無いか。
それじゃあ一応ディオニュソス…いや、エニュオとか名乗ってるんだっけ。あいつらにも伝えとくか。
あいつらは俺を『いつでも消せる便利な手駒』と思っている様だが、そっちの方が都合がいい。
闇派閥の一体どれだけが気づいているのかな?どう足掻いたとしても決して願いは果たされない事を。どっちに転んでも、自身の破滅しか無いということを。
「そうだな、ブランカ。君はオラリオにいてくれ。大丈夫。君の役割はちゃんとあるさ」
テルスキュラの予定も改めなければね…。
♢♢♢♢♢
時は夜。街の至るところから食欲を唆る匂いが放たれた頃。
客足の絶えない賑やかな酒場があった。
名を『豊饒の女主人』。冒険者向けの酒場で、ベテラン冒険者から木っ端冒険者、およびに恩恵を持っていない一般人までもが足を運ぶ人気店。その人気の秘訣とはひとえに料理の質の高さと、店員たちが見目麗しい美少女たちばかりであるからだろう。
だがしかし、その様な光景を目にして尚ベル・クラネルの顔は明るいとは言えなかった。
「まさか、神様もオベロンさんも来れないなんて…」
神様はバイト関連による打ち上げが被ってしまい、オベロンさんは関わっているファミリアが苦手、との事。
朝に知り合った街人からの評判も良く、お世話になった二人へとご馳走をと思案していたが、見事に挫かれてしまった。
「いや、次に他のお店とかに行くときは確り確認しないと……」
「もう!ウチの店にいるのに他のお店の事を考えるなんてベルさんって浮気性なんですね…。私は悲しいです」
「うわっ…シルさん!?」
考えにふけっていたせいか、注意力が散漫になっていたらしい。気がつけばすぐ近くにシルさんの薄鈍の瞳が覗いており、情けなくも声を上げてしまう。
「す、すいません。確かに失礼でした」
ヨヨヨ…、とわざとらしく泣き真似をする彼女と、カウンターの先にいる女将さんへと謝罪。
「まあ、別にいいさ。それで、酒は?」
どうやら今の失言には目を瞑ってくれる様だ。酒はどうしようかと、悩み、断っておいた。飲めないことも無いけど、今回は僕ひとりだしわざわざ頼みたいとは思わない。お金も余分にかかっちゃうし。
しかし、女将さんは僕の言葉が届いていないかのようにドンッと
聞いた意味ないじゃん…。もしかして実はさっきのは許されていなかった?代わりに金を落として行けってことなのか?
「楽しんでいますか?」
「いや、正直…圧倒されてます」
恐らく、みんなでくれば様々なことが楽しいのだろうけど、どうにも一人では肩肘張ってしまう。
「ほんとに神様もオベロンさんも来れればよかったのになぁ…」
あ、でもオベロンさんは店自体が駄目なのか。
はあ、ともう一つため息。仕方ないから存分に楽しんで、これからの参考にしようか。そんな考えを抱きながら、酒場を見ていると、一人の給仕が近付いてくる。
よくよく見れば横に突き出した笹耳。――エルフだ。薄緑の短い髪を持つ彼女は何やら硬い表情をしていた。
(も、もしかして僕がシルさんを拘束して職務を妨害しているように見えてる!?)
聞いたことがある。確か酒の絡む場所では女性への性的な接触を酔った勢いで仕掛けたり、迷惑な絡み方をするマナーの悪い客が居るのだと。
そう思いを巡らせ、即座に言い訳を考える。いや、実際はシルさんから来ているから言い訳なんて必要ないけど、それでも納得して貰えそうにないから――。
「そこのヒューマンの少年――」
「あっ、ハイ!いや、これは違くてですねっ!?」
ああもう僕の馬鹿!結局テンパって余計に怪しまれそうな事を…!あ、でもこの店員さんも凄く綺麗で……って何考えてるんだ僕!早く誤解を解かないと…!
しかし、鈴のような声音で紡がれた言葉は、僕の予想した物ではなかった。
「――今、オベロンと、そう言いましたか?」
オベロン(裏)が実は一番難しい。
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