腐れろ夢よ。終われよ世界よ   作:食卓の英雄

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急いで書いたから最後ペースがおかしいかも…


水曜日にも怪物は哭く

「はあぁっ!」

 

 裂帛の気合と共に銀色のナイフを振るう。的確に急所を裂いたナイフにより断末魔の悲鳴を上げることもなく塵へと還った。しかしそれを見届ける暇もなく、次のモンスターが立ちはだかる。

 

『アギャッ!?』

 

 体ごと下に滑りこませ、通り過ぎ様に魔石を穿つ。ただそれだけでヤモリの様な『ダンジョン・リザード』は息絶える。

 走り寄るゴブリンとコボルドを逆手に持つナイフで一刀両断し、次々と死体の山を生み出していく。しかし、そんな光景を作り出しても、僕の心は全く満たされず、むしろ渇いていた。

 

(…足りない)

 

 かつての僕ならばこの数相手に立ち回りを可能とした時点で自らの成長を実感し、歓喜に打ち震えていた事だろう。

 しかし、足りない。この程度ではミノタウロスと出会ったら殺されてしまうし、あれだけの啖呵もでまかせだ。

 強くなる。そう誓ったからには雑魚を相手にしていてもダメだ。当然、数でカバーする事も可能だが、僕ではどれだけかかるか、いや、きっとどれだけかかってもあの人たちの足元にも及ばないだろう事は自明の理。

 幼子の様にただ漠然と理解しているのは強い相手と戦うという事だけ。きっとエイナさんには理解されないだろうし、叱られること間違いなし。だがやるしかない。

 

 意外にも、疲労や傷は少ない。ここまでに現れたモンスターは全て相手にしているが、まるで案山子でも相手にしているかの様だった。いつもなら焦っているのだろう。けれど今は気分が高揚して収まりそうもない。

 大丈夫、今までにもソロでモンスターと戦ってきたのだ。もっとステータスが低く身のこなしも不十分な頃にだってこのくらいは乗り越えてきた。ならば、もっと深く潜ってもいいのでは無いだろうか。

 

 次の階層へ足を踏み出し、ふと、エイナさんの「冒険者は冒険をしてはいけない」という言葉を思い出す。僕の中に残った理性が止めろと囁きかけるが、構っていられない。

 確かに普通に生きるぶんにはそれで十分なのだろう。しかし強く、それも第一級冒険者レベルを目指すならば普通では足りない。

 

(ごめんなさいエイナさん――)

 

 そう心中でプリプリと怒る彼女に謝罪の言葉を投げかけ、第6階層の土を踏んだ。

 

 僕以外に人の気配の感じられない迷宮を歩く。時折襲い来るモンスターを殺し、どこか濁ったような思考で奥へ奥へと走り寄る。

 うすぼんやりと光る外壁は見慣れた薄青色から淡い緑に変化し、けれどそれを気に掛ける事はない。

 これまでより強化されたゴブリンの胴体を引き裂き、悶絶しているそれを背後へ蹴り飛ばす。置いていったゴブリンが消滅する音を聞き流し、ある道へと差し掛かった。

 

 それは細い一本道と、それから繋がる広場。その中央へと歩を進めると、次の瞬間――ビキリ。異音が鳴り響く。

 

「―――」

 

 続けてビキリ、ビキリと迷宮の壁がヒビ割れ、中からは十字の頭部に真円状の単眼を持つ影が現れる。それも()()

 6階層出現モンスター、『ウォーシャドウ』。新米殺しとも呼ばれるそれはこちらを確認したと見るや、ナイフのように鋭く尖った三つ指を用いて攻撃を仕掛けてくる。

 

「――っ!」

 

 一つを躱したら、すぐに次の影が隙間を縫うようにして三方から襲い来る。そのいずれをとっても5層までとは一線を画しており、対応も難しくなってくる。

 けど、この程度で音を上げて溜まるか。ミノタウロスの方が怖かった。オベロンさんの方が疾かった。ロキ・ファミリアの狼人の方が、ずっとずっと圧があった。

 それに比べれば、こいつらなんて吹けば飛ぶ紙のような軽さしか感じられない!

 

「うり、ぃぃやあぁぁぁっ!」

 

 最後に仕掛けた三匹目、その刺突に合わせて全体重を乗せたカウンターで魔石を突き穿つ。掠れたような声を上げるそれが消える前に、背後へ迫るウォーシャドウの盾として扱う。

 

「でぁっ」

 

 突き刺さった死体ごと壁へ蹴り、眼前に迫る指刃を一重で回避し、伸び切った腕を切り飛ばす。一瞬止まったそれの足を強く踏みつけにしアッパーカットの要領で胸から頭部にかけてを切断。続けて復帰した一匹にナイフを投擲。

 当然防がれる。しかし上げた腕を下げた直後に迫る黒刃には気が付かなかったようだ。

 僕が投げたのは『ウォーシャドウの指刃』、今倒したヤツが落としたドロップアイテム。軽く刺さった指刃を追い打ちの蹴撃で完全に魔石を破壊した。

 

「はっ、は…」

 

 口から漏れる息が浅く乱れている。あれを相手取ったというのに疲労は存外少ない。何より今の立ち回りだ。その場に合わせた戦い方をしたが、中々どうして有効だ。その証拠として僕は今の戦いで傷らしい傷は負っていない。

 

 …これは、いけるんじゃないか?

 

 つい、僕にそんな考えが沸沸と湧き上がる。

 第6階層ですら一蹴する力。今なら、今ならやれる気がするんだ。もっと…もっと奥へ…。

 

 

 

―――…

 

 

 

「うやあぁぁぁぁあぁあっ!」

『ギシャァアッッ!』

 

 強く振り下ろしたその刃はしかして堅牢な甲殻に阻まれる。

 四本の脚に二本の細い腕、大きな眼は暗闇の中に映える赤白に光っている。全身が赤い堅殻に覆われた、一見して蟻を連想させる。

 ダンジョン製のモンスターなだけに、普通の蟻とは異なり僕と同じくらいに巨大なのだ。

『キラーアント』。

 7階層になって初めて姿を現すモンスター。冒険者の間ではさっき相手にした『ウォーシャドウ』と並んで新米殺しと呼ばれているらしい。

 当然、そう言われるからには相応の理由がある。それは頑丈な甲殻と、より上層のモンスターとは比べ物にならない程の攻撃力。その外皮は僕の短刀が弾かれた様に鎧のように硬く、半端な攻撃では傷を与えることさえままならない。

 腕先には湾曲した形の鋭い鉤爪。命を刈り取る形をしているそれは見る者に不気味な怖気を感じさせ、虫ならではの無機質な挙動と合わさって冒険者の恐怖心を煽る。

 

(危っ…!)

 

 振るわれた鉤爪を飛び上がって避ける。甲殻に阻まれた事で一瞬回避が遅れてしまい、ズボンの端が破かれる。

 今も僕がなりかけた様に、防御を攻め崩せない間にその鉤爪で致命傷をもらう。これがキラーアントにやられる常套句だ。更には仲間を呼び寄せる事もあるらしい。確かにこれまでとあまりに勝手の異なるモンスターに、慣れ始めたと感じた冒険者たちは餌食になってしまう。

 

『ギギッ』

 

 キチキチキチ、キラーアントが口をもごもごと動かし歯を鳴らす。まるで仕損じた事に苛ついているかのように、僕を睨みつける。

 長期戦に持ち込むのは愚策。今の僕のステータスと装備では絶対に不利。狙うは僅かな甲殻の隙間のみ。失敗は許されない。

 ふー、火照った体を冷却するために少し息をつき、瞬間、僕から駆け出した。

 

「――はっ!」

 

 遅れて左腕を振るうキラーアント。宙に弧を描く四本の鉤爪が右から迫り――膝を折り上体を剃る。駆けた勢いはそのままに地を滑り、虚空を斬ったキラーアントは動かない。否、動けない。

 直下、頸の関節の隙間にサブウェポンの短刀を突き入れてグキリと頸を折る。その拍子に割れた甲殻の中、柔らかい肉をナイフで取り除く。

 

『ギシャアァァァァァ………!』

 

 沈黙、のち消滅。今のキラーアントが最後の一匹だ。あたりに散らばる魔石やドロップアイテムを確認し、奥より出づる増援に舌打ち。

 今度現れたのは小型種の『ニードルラビット』と『パープルモス』。その小さな体を活かして戦うモンスターだが、生憎と僕との相性は悪いようだ。

 跳躍するニードルラビットへカウンターとして短刀の一撃。か細い悲鳴を上げるそれを尻目に、二匹が左右から挟み撃ちで躍りかかる。分が悪いと見て大きく退がる。そして標的を見失った二匹を纏めて塵へ還す。

 最後に空を悠々と回遊するパープルモスに砕いたダンジョンの破片による飛礫を食らわせる。四匹のうち、二匹が羽を撃ち抜かれて落下していくのを眺め、ダンジョンの壁を掴んで上へと駆け上る。登れた限界ギリギリの位置に強く短刀を突き刺す。

 

 片手でそれにぶら下がり、体全体を使ってぶらぶらと、ターザンの様に揺らす。短刀の柄が異音を発するが、最もエネルギーの溜まった頃に壁を蹴り飛ばして加速する。

 そのままに離れた位置のパープルモスにウォーシャドウの指刃をスローイング。見事魔石の位置を刺し貫いた事を見、近い位置のパープルモスへ掴みかかる。

 如何に空を飛ぶといえど、小柄で低級モンスターのパープルモスがこれを耐えるのは酷と言わざるを得ない。

 

「うぅぅぅぁぁあっ!」

 

 落下時、パープルモスを下敷きに衝撃を殺して着地。

 

「ぜえ……ぜぇ、ふーっ…」

 

 息が上がってきた。着ている服は汗と汚れまみれで客観的に見て汚らしい。ここまで来ると流石に無傷とは言わず、細かな傷や服に染み込んだ血が痛々しい。

 ふらふらと定まらない足にムチをうち、魔石を回収する。ロクなリュックなど持ってきてはいないが、拾うに越したことはない。半ば無意識に行った作業も、ガタが来ている短刀や新たな装備、つまり強さに繋がるために欠かさない。

 

 ああ、今は何時だろうか。神様は心配しているのかな。かなり時間が経った気もするけど、外はどうなっているんだろう。

 

 一度気を抜くとぽつりぽつりとそんな思いが湧き出てきてしょうがない。ふらりふらりと幽鬼のように歩く僕。その顔はきっと酷いことになっているだろう。流石に疲れた。…ああ、そういえば寝ないで潜っているんだった。

 

 次の階層へ続くと思われる道を発見する。なだらかな坂になっている入り口へと歩き――――目の前に何かが翳される。

 

「おっと、坊主、そこから先は止めときな」

「………?…っ!?」

 

 気づかなかった、気づかなかった!そこまで意識が朦朧としていたのか、ここまで接近されてるのは駄目だろう!

 そう顔を上げると、その何かとは木の杖である事が分かった。そして、その持ち主は男性で、短刀を構える僕へと自然体で話しかける。

 

「こっから下――つまり10階層からは大型のモンスターやダンジョンギミック、怪物の宴(モンスターパーティー)と難所が詰まってる。お前さんが上級冒険者だってんなら話は別だが、そうじゃあねぇだろ?防具一つつけちゃいねえし、その短刀だってそれ以上の酷使は控えたほうがいい」

 

 曇りに曇った思考でそれを飲み込む。直ぐには理解出来なかったが、取り敢えず、これ以上は絶対にダメって事か。

 折角わざわざ何の義理もない僕を止めてくれたのだ。せめて顔を覚えて、お礼を……。

 

「ぁ…りが…ざぃ……ます」

 

 あれ、瞼がだんだん重たく……。

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

 

 男は、か細く礼を言った白髪の少年を赤い眼差しで見下ろし、やれやれとばかりに首を振った。

 

「はぁ、ようやく限界が来たって事か。どうみても無茶なダンジョンアタックだ。むしろここまで来れたのが奇跡か」

 

 倒れた少年の状態を確認し、疲労以外にも「毒」の状態異常になっている事を理解する。そしてそれが罹ってから既に二時間以上が経過している事も。

 

「へえ?中々根性あるじゃねえか」

 

 形のいい眉を歪め、愉快そうに笑う男は、指で何かを切ると、たちまちベルに刻まれた傷は癒え、毒で苦しそうな表情は緩和された。

 

「気に入った、面白いもんを見せてもらった礼だ。地上まで送ってやるよ」

 

 そう言うと、男はベルを背中に背負い、上層へ向けて歩き出した。

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

「ベルくーん!どこにいるんだーい!?」

 

 ヘスティアは今、オラリオの街並みを駆けていた。

 その理由は昨夜まで遡る。

 バイトの飲み会から帰ってきたヘスティアだったが、夕食に出かけるといったベルが帰ってこなかったのだ。それだけならば、夜遊びでもしてるのかと頬を膨らませていたが、流石にベルの人柄から考えにくく、更には夜通しで回っても、それらしき話は聞かなかった。

 結局、徹夜で駆け回っても見つからず、焦燥感は募るばかりだ。一度はホームへと戻ったが、朝の五時を回った頃に、再び街へと駆り出した。

 普段どおりならば、人に迷惑をかけることを選ばず、むしろ率先して謝りに来そうな彼が、ここまで何の連絡も無いと来ると、いよいよもって何か事件に巻き込まれたとしか考えられない。

 今度は住民にも声掛けをし、それとなく探して欲しいと頼み込み、捜査の網を広げていく。

 

 しかし、ヘスティアの必死の捜索も虚しく、ベルの姿は疎か、有力な情報の欠片もない。八方塞がりだった。

 

「くそう……一体どこにいるんだよぅ……」

 

 ぐずぐずと泣き出しそうになりながらも、昨日から続けて三回目の捜索へと出かけようとし、協会の前に立つ影に気がついた。

 

 それは、深くフードを被った人間の男の様で、魔法使いなのか身の丈ほどもある杖――それも相当に上質なもの――を携えている。

 そして何より、その人物が抱えているのは自分が現在最も求めている白髪頭の少年であった。

 

「あーーーっ!!」

 

 思わずといった様子で、大きな声を張り上げるヘスティア。それで男も気づいたのか、ヘスティアの元に向かう。

 

「ベ、ベル君じゃないか!?ど、何処に!?いや、こ、こいつだな?こいつがベル君をー!?」

「どうどう、落ち着け女神サマ。オレはこいつをダンジョンで拾って連れてきてやっただけさ」

「むぅ……嘘は、無いみたいだね」

 

 最初の大声からか、ベルはゆっくりと目を覚まし、ここが自分のホームである協会の前だと処理し、ヘスティアと、自らがおぶられているという事を認識する。

 

「わっわっわっ、ど、どういう状況…?」

 

 自分はダンジョンに居たはずで、最後の記憶はこの男の人と話して……それ以上からが何も思い浮かばない。おぶっているという事は、もしかして、あの階層から運んできてくれたのだろうか。

 

「ん?おう起きたか。そんじゃ、後はあんたらの問題だ。オレはおさらばするぜ」

「え、あの」

「じゃあなっ!」

 

 降ろされたかと思うと、本当に魔法使いかと疑うほどの速さで去っていってしまった。

 礼を言う暇もなく言ってしまった為、恩だけを積み重ねていく形となってしまった事に若干の罪悪感を覚えたが、それよりも先に解決すべき問題が現れた。

 

 ニコニコと微笑を浮かべた神様は、けれど目だけは笑っておらず、背後にメラメラと燃える漆黒の炎を幻視する。

 

「……ベ〜ル〜く〜ん?ボクに何か言うこと、あるよね?」

「す、すみませんでしたぁぁぁぁっ―――!」

 

 神様を怒らせるのは出来るだけ避けようと、再認識した僕であった。




ベルくんがいけると思った原因は夜のとばりEXが原因です

この中で好きなキャラは?(一位のキャラは登場し、最下位は愉悦展開にする予定)

  • アーディ・ヴァルマ
  • フィルヴィス・シャリア
  • レフィーヤ・ウィリディス
  • シャクティ・ヴァルマ
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