「マツ、あのトレーナーの人と何してたの?あ、まさか契約で声かけられたとか?」
「あらへんあらへんって。それにまだ走ってないでしょ」
「あ、そうだった。けどさ、真面目に走ったらコダチ姐よりも早いのにさ」
「いつの話よ。もう届かへんって・・・よいしょっ・・・と」
「えぇ、そんなことないと思うけどなぁ・・・って聞いてる?!」
「はいはい、聞いてますよー」と、聴き流しながら準備体操を行っておく。
これぐらい体、特に脚をほぐしておかないと、走った後の調子がよくないのを経験してからは、少なくとも重点的に行うようにしていた。
そして、ふと、声をかけてきた人物は、そういえばどうだったんだろう?と思い
「あれ?そういや、セっちゃんは走ったん?」
「うん。とっくに走り終わってトレーナーさんたちからは声がかかったけど…」
そういわれて見せられたのは、届け出の紙の束。
複数のトレーナーたちから勧誘されたのが見て取れる。
セっちゃんは昔から生真面目で、地元のみんなとの競争でも速かったから、こういう選考レースで選ばれるのは確定してるだろうなぁと思ってはいた。
だから、今さら思う事もないが、各トレーナーからの言葉に対して、キチンと受け答えをしている姿を想像できてしまい・・・
「『少し待ってください。契約云々は、じっくり考えさせてください』って感じで真面目に受け答えして」
「えっ?あっ、なんで知ってるの!?」
「で、一人一人丁寧にあたま下げて・・・」
「あぁ、やっぱり見てたでしょ!!」
「見てへん見てへん。セっちゃんの事だから、こうなるかなぁーってさ」
「もぅ!マツったら!!」
「ごめんごめん」
「「・・・プッ」」
「なんか、おっかしー」
「せやね」
そうして、二人して笑いあう。
「んで、いつもなら・・・「お前たちは、もう少し真面目にならないのか?特にマツカゼ、お前は・・・」」
「アハハハハハ、コダチ姐にソックリ」
「ってな感じに・・・って、そんな似てた?」
「うんうん、似てた似てた」
「けどさ、フォー姉もコダチ姉も、どこ行ってるんだか」
「そういえば、同じ学園に入学したけど入学式の時ぐらいだよね、顔みたのは。寮でも歓迎会にもでてなかったし」
出身地が同じで、このトレセン学園にセっちゃんと一緒に編入する事になったけど、私たちより前に同じように編入していった人たちがいる。
セっちゃんの実姉のミストレスフォース姉と、仲間うちで一番年上のコダチ姉さん。
私たち二人と同じ地元で、小さいころにおなじ学校に通って何故か意気投合して、よく集まっは馬鹿な話したり、将来の話をしたり、いっしょに走ってたり・・・
手紙で二人ともが生徒会の役員になっているのは知ってたけれど、いつも多忙で会うことができなかった。
始業式の時に顔はみれたけど、言葉が交わせれないことに、セっちゃんは少し寂しく思っていたりした。
「ほんと、いつ会えるのかなぁ・・・」
「マツカゼ、いつもみたいに柔軟は念入りにやらなくて良いの?」
「って、ウワサをしていたらフォー姉きちゃったよ・・・」
「フォー姉だ!!」
「こら、いきなり抱き着かない。そうそう、いまさらだけど入學おめでとう。って、噂?」
「ほら、始業式の時に顔を見ただけで、直接会ってなかったねって話してた」
「ああ、そういえば…新学期だと色々あって。あの時は時間が取れなかったからごめんなさい」
「ううん、わたしは気にしてないから!」
「ところで、フォー姉は何で選考レースに?」
「今も雑務員として駆り出されて・・・ちょうど交代休憩になったから様子をみに来た訳だけど・・・ねぇ、セカンド?そろそろ離れない?」
「ぶー、久しぶりのフォー姉だもん・・・」
「また、時間作ってあげるから、そろそろ離れよ?」
「はーい、あと、時間作ってくれるの絶対だよ?絶対だからね!!」
と、抱き着いてきていたセっちゃんが離れては、こちらをしゃがみこんで視線を合わせてくる。
あ、これはお小言の予感がする・・・
「今日という今日は、少しだけでも真面目に走ってみてマツカゼ。いい?」
「えぇ・・・」
「うんうん。マツもちゃんと走ったら、契約とりにトレーナーにたっくさん囲まれたりするから」
「えっ?あんな事になるん?」
ストレッチをしながら、セっちゃんに集まるトレーナーと、手渡される紙の束を想像し・・・
うん、絶対にああなるのは嫌だな。
「ああいうのは、ちょっと苦手やな」
そうキッパリ言い捨てる。
やっぱり、静かにのんびりとやっていくってのが長生きの秘訣だとも、じっちゃんも言ってたし。
「もぅ、マツったら・・・やっぱり、勿体ないって」
「ならセっちゃんに」
「あたしは、マツと一緒のとこがいいの!一番近くで見ていたいし!」
「えぇ・・・なんで・・・」
「そう決めてるの!」
「ほらマツカゼ、セカンドの頼みだし、ちゃんと走って契約をとってきなさい」
「えぇ・・・」
うぐ、真正面から真剣な視線でこちらを見つめてくる。
フォー姉の本心というのは分かっている。
お前は誰よりも『強い』と信じてる目だ。
『そろそろ、次の走者は、発走準備してください』
「ほらマツ、招集がかかったみたいだし、待ってるよ!!」
「ほらほら、いってらっしゃ」
「うぇ・・・」
* * *
「マツーガンバレーー」
ゲートの中に入ってからも、セっちゃんからの声援が聞こえてくる。
何だか、おなかのあたりから、痛みが出てきそうな感覚にさいなまれるけれど・・・とりあえずは、走る準備だけはと心構えをしておく。
<ゲート開きました。綺麗に出たのは7番マツカゼ。綺麗なスタートだ>
扉が開く、その前に何故かわかる開く瞬間。
それに合わせて、ゲートにぶつかる様に一歩踏み出すクセがでて、頭一つ先に走り出してしまった。
なんとなく、開く瞬間が分かるというか・・・
っと、だいたいこんな速さで良いかな・・・
<最初に抜け出したのは3番、最初のコーナーに差し掛かります。
つづいて、2番、6番と続き・・・>
先行は4,5番手まで、あとは後方ってとこかな?
前よりに位置取りしてる先行あたりは、そろそろ息を入れて・・・
<向こう正面で先頭集団が一まとめになり、その後方に7番のマツカゼがポツンと追送している形だ>
うーん、どうしようか・・・
やっぱり、追い抜きたいっていう性分は、この身体が言ってくる。
けど、けどさ・・・
(田舎菌がうつるー)
(お前みたいな芋が走ってるのがウザいんだよ)
(貧乏人がしゃしゃりでてくんな)
昔いた場所、競争で走った後の記憶・・・
速く走ったとしても、喜ばれる事もなく、いじめてくる理由にされた・・・
速く走れば走るほど、逆に虐げてくる者たちがいる事を知ってる・・・
<マツカゼどうした?先頭集団との差が広がっていくぞ!そのまま、先頭集団は最終コーナーへ>
「お前は真面目に走らなさすぎる。もったいない。そら、もっと走るぞ」
「そうそう、一緒に走ったら、きっと楽しいぞマツカゼ」
「はやーい、マツってやっぱすっごい早いね!!」
一人は興味を、一人は走る楽しさを、一人は単純な感情をぶつけてきた。
引っ越した先で受け入れられた時のさ・・・
みんなの目がさ・・・眩しくてさ・・・
ワタシもそこにいていいのかなって・・・
「マツー!イッチャエーーー!」
耳に聞こえてくるセっちゃんの声。
うん、やっぱ、みんなと離れたくないなぁ・・・
(久しぶりに、本当に久しぶりだけど・・・やれるかな・・・)
大きく息を吸い込んでは、水中へと潜るかのように息を止め、静かに身体を沈みこませる。
脚の筋肉の動きと合わせて、足の裏のとりつくタイミング、特に繰り出す力の使い方に集中し、前を見ることなく大きく身体を動かす事に意識を集中し、歩を前へ前へと進めては、後ろ後ろへと蹴りやる。
<おおっと!マツカゼが急激に上がって来た!残り600!!>
まだ、まだ潜れる。
腕を速く振りぬき、脚も前にだす速さを増し、
邪魔されない外側から・・・
・・・邪魔
"「お前、邪魔なんだよ」
"「外から来た奴なんだろ?田舎者じゃね?」
"「なんで一緒に走らなきゃならないんだよ」
"「後ろにいたらいいんだよ」
あ、あぁ・・・・
「ぐっ、はぁ!!」
残り1ハロンから、いきなり呼吸がおかしくなっては身体が起き上がり・・・
<一着は3番、二着は4番・・・>
掲示板に白いチョークで書かれた結果は9人中7番。
潜るタイミングを間違えた結果かな。
こんなもんか・・・
うん・・・これでいい・・・コレデイイ・・・ソウシナイト・・・
「マツ!・・・大丈夫!?・・・やっぱり・・・」
走り終わり、呼吸がおかしい自分に駆け寄ってきてたセっちゃん。
セっちゃんは、いつも私の心の中を覗いてくる気がする・・・
顔には出していないはずなんだけどな・・・
周囲ではトレーナーたちが、上位着順の者へと声掛けしようとしているのを、肩で息をしながら見続ける。
最後に息が切れて崩れた私に、そういう人がいるわけもない。
息を整えながら邪魔にならないように、コースから離れるように移動しては仮設観戦場のすみに座り込んでしまう。
やっぱり、自分にはああいう舞台に上がる資格なんてないんだ、と・・・
「はい水。マツ、無茶しちゃだめだよ」
「そうだな、無茶をするのは駄目だか・・・ま、いまはまだ全力は辛いか」
「「えっ?」」
「コダチじゃない?忙しそうだったけど、来れたの?」
「ひと段落はついたからな」
懐かしい声に振り替えると・・・
「「コダチ姐?」」
そこには、私たち地元組のもう一人、コダチ姐が座り込む私を見下ろすように立っていた。
「ん、いやまぁ、ここはマツカゼが少しでも真面目に走ろうとしてくれたことを褒めるべきか?」
「・・・いや、コダチ、ちょっとそこズレてるから」
「ん、そうか?フォース」
コダチ姐も、自分たちの事を"かわいい妹分"という恰好で弄ってくる。
けど、その行為がやさしさと温かさを知ってるから、嫌いにはなれない。
「お前の事だ、(走ろうという意思はあったのだろうが・・・心の傷は、未だ癒えずか)・・・」
「?」
「いや、何でもない。そうだ、今日は久しぶりにみんなが揃ったんだ、あとで街にでもくりだそう。学園の先輩として甘味をおごるぞ?フォースも一緒にな」
「本当に?やったー!!コダチ姐大好き!!」
「って、セツ、お前・・・いきなり抱き着くな」
「って、うっぁ、つべたっ・・・」
「あ!ごめん!!」
盛大に抱き着いたセっちゃんの勢いで、コップに入ってた水をまともにかぶってしまった。
これは、着替えなきゃな・・・
「いいの?コダチ。この後も雑務があったんじゃ?」
「ん?許可はとってきている。かわいい妹分たちが選考競技会に出るから打ち上げに、とはな。でなければ、今後、会長の書類整理を手伝わないとも伝えたがな?」
「はぁ、それ、脅しっていうやつじゃ?」
「交渉した結果だ」
「んー、やっぱり、私はおぜんざい!あ、マツは金時とかだったよね?」
「じゃ、私は洋菓子で」
「ちょっとまてフォース、君は先輩だから私の側に立つべきだろう?」
懐かしい、みんなで集まって、みんなで騒いで・・・。
けど、こんな温かい輪に、自分が入っているのが良いのだろうか・・・。
田舎者、貧乏人、食み出し者、異児・・・
自分に向けられた、冷たい視線が見つめてくる。
思い出したくもなかった感情が、さっきから迫ってくる。
ちがう、今は違う、違・・・
「どうしたのマツ?」
「な、なんでもないよ。何食べようかなって考えてただけ」
「そう?ならいいけど・・・あ、自由解散だって、じゃ、さっそくシャワー浴びにいこ!ひっさしぶりの甘味だー」
「う、うん」
そんな冷めた視線の過去を隠しては、いつも通りに接していく。
すくなくとも、この学園だけでも、一緒に居続けたらいいなと思いながら。
そんな姦しい光景を、ただぼんやりと競技会を見ていた人物だった者が、興味本位で注目していたがために、その違和感に気づいていた。
チラシ裏だけの設定開示
淀組
故郷を京都(競技場)にもっているウマ娘たちの集まりの一つ
→コダチ
淀組の中での姉貴分。コダチ姐と呼ばれる
先立って単身トレセン学園へ入学し、優秀な成績(クラシック二冠)を収め
生徒会役員(副会長)のポストへと就任
マツカゼの素質を見抜いており、自身の無しえなかった三冠をと早々に考えている。
一応、真面目
→ミストレスフォース
淀組の中でのお姉ちゃん枠。フォース、フォー姉とも呼ばれる
コダチを追う形でトレセン学園へ、かつ別の道へと進むことにし、
無敗でダブルティアラを収め、こちらも生徒会の役員を務める形に。
フォースセカンドの姉役でもある血縁関係にはあにはあるが…
良識人
→フォースセカンド
マツカゼと同年代の大親友かつ一番のファンを自負しているウマ娘
マツカゼの事はマツと呼び、その素質と才能を誰よりも早く気づいている。
ミストレスフォースとは血縁関係で、実の姉として慕ッている。
血縁関係の為か、推薦枠でトレセン学園の門をたたくことができた
ムードメーカー
→マツカゼ
幼いころに淀競技宿舎へと転入してきたウマ娘でフォースセカンドとは同年代
フォースセカンドの事は、セっちゃんと呼ぶ友人関係。
淀組の三人とはこの頃に知り合いとなり一緒に過ごした。
フォースセカンドに一緒がいいと連れられる形で、補欠枠でトレセン学園に入学する。
超集中の無酸素走破をすると、異様な引き脚と蹴り脚が当時としては独特なオリジナルフォーム(体重を沈み込ませたフォアフット走法)になり、類を見ない驚異的な末脚を爆発させる。
欠点として、耐えれる一般的な蹄鉄が無いために真っ先に壊れ、指先が故障しやすい。
後に、専用の蹄鉄を製作することとなり……