鴻渡千歳は救われたい -僕のヒーローアカデミア ATONEMENT- 作:佐鳥五鹿
プロローグ ほどなくして訪れる未来
『悪夢のような光景!突如として神野区が半壊状態となってしまいました!現在オールマイト氏が元凶と思われるヴィランと交戦中です!』
テレビから報道の音声が聞こえている。
オル先生が戦ってる…相手はヴィラン連合の影のボス…だとさっき教えられた。
「オールマイト。彼は素晴らしい人間だよね。誰よりも強くて誰よりも輝いてる。でも、その大きすぎる輝きのせいで――」
――何これ、やば
――オールマイトボコられてなかった?
――うっわめっちゃやられてんじゃん!
――神野区ってどこだっけ?
――明日パパ会社休みかも…
――他のヒーローは何やってんだ!?
「ぐっ…うぅ…」
巨大な掌を持つ脳無に上半身を包むように掴まれ、身動きが取れない私の頭の中に言葉が、感情が流れ込んでくる。
「精神同調」。目の前のヴィラン――界世こころのその"個性"によって、この光景を見ている人達の感情を強制的に流し込まれている。
――たるんどる!!なんつって。まーでも実際あると思うわ
――最近敵暴れすぎじゃね?
――むしろヒーローがやられすぎな気ィする
――いやぁしかし結局今回もオールマイトが何とかするっしょ!
脳無の力はとてもつもなく、私の身体は破壊され続けている。"個性"「超回復」によって自動的に復元されるけれど、治ったそばからまた壊され現状打破の糸口が掴めない。
こころから私を殺そうとする意思は感じられない。私が回復できる、けれど逃げる隙がないように脳無を調整しているんだ。
なんて、たちが悪い。
「強すぎる彼の存在のせいで、人々の心はこんなにも醜く歪んでしまった。
生贄にヒーローという欺瞞に満ちた名前をつけて、全てを押し付けて、自らは何も成さず。何様のつもりなんだろうね」
「オル…先生…」
『オールマイトが…しぼんでしまっています…』
テレビに映し出されたオル先生の姿が…あの姿は…。
――オールマイト…やばくない……!?
――そんな…嫌だ……オールマイト…!
――あんたが勝てなきゃあんなの誰が勝てんだよ…
――姿は変わってもオールマイトはオールマイトでしょ!?
――いつだって何とかしてくれてきてくれたじゃんか!
――オールマイト!頑張れ
――まっ負けるなァ、オールマイト!!
――頑張れえええ!!
「オールマイトが負けたら自分たちの安全が脅かされる。だから勝って。
なんて醜いんだろう。弱者であるということを盾に無責任に他者に縋って。誰もオールマイトの心配なんてしちゃいない。オールマイトが負けた時の自分の心配しかしていない。
ねぇ千歳ちゃん。こんな人達、守る価値があるって、本当にそう思う?」
「精神同調」を介してこころの悲しみ、絶望を感じてしまう。
この"個性"によってこころは人間を信じられなくなり、それでも信じたいという思いが消せずに。
「私は見たいの。人間の本当の素晴らしさを。
信じたいの。人間という存在を、その輝きを。
ヒーローに依存したままじゃ人間は駄目になってしまう。だから…」
――私と一緒に、このヒーロー社会を壊そうよ――
私にはそれがまるで、悲鳴のように聞こえた。