鴻渡千歳は救われたい -僕のヒーローアカデミア ATONEMENT-   作:佐鳥五鹿

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第5話 auxと検証

 雄英高校入学から初の週末を目前とした金曜日の朝。

 

 念願の雄英に入学が叶い気力は充実しているが慣れない新生活に疲労がないわけがない。ヒーロー科の戦闘訓練を交えた授業はその疲労をより濃いものにしている。

 1年の生徒の大半がそんな感じで、初の週末を目前にしてどこか気分がふわふわとしている様子が伺えた。

 

 1年B組 物間寧人もその例に漏れず、それ故に下駄箱に入っていた見覚えのない封筒を無意識に警戒せず取り出してしまったのも仕方のないことだろう。

 

 今は登校時間。当然周りにはクラスメートが同様に登校してきており、"物間様へ"と書かれたその封筒を目撃されてしまう。

 

「ま、まさかそれは…伝説のラブレター!?」

 

 声を上げたのは泡瀬洋雪。

 

 A組同様にB組も初日は体力テストを行ったが、担任の方針の違いによりB組は最初に全員自己紹介をしている。

 その場で物間は最初だからと取り繕うこともなかったので、他のB組生徒からは悪い意味で一目置かれることになった。

 

 そんな物間に、どんな物好きが。

 

 その場にいた数名は封筒を持ったままの物間を取り押さえそのまま教室に連行することとした。

 

 ただでさえ他人の色恋沙汰への関心が高くなる年頃だ。その行動を咎めようとする者はこの場にはいなかった。

 

 そうして教室に連れてこられた物間は衆人環視の中、封筒を開ける羽目になる。

 拳藤ら数名はさすがに苦言を呈したが、結局はその流れを変えるには至らなかった。

 

 観念した物間は封筒の中身を取り出して、そこに書かれた文に目を通す。周りの面々もそれを覗き込んだ。

 

 本日の放課後、体育館Bで待つ。

 ヒーローコスチューム着用のこと。

 使用許可は申請済み。

 

 鴻渡千歳

 

 あ、果し状だコレ。

 B組一同は察した。

 


 

「"個性"にはそれ自体の能力以外に予備効果が付随する場合が稀にある。これをauxiliary(オグジリアリ)、通称aux(オークス)と呼ぶ」

 

 本日最後の授業はイレ先生のヒーロー基礎学。

 

「内容は様々でプラスに働くモノもあればマイナスのモノもある。毒にも薬にもならない場合も多い。例えば――」

 

 イレ先生の髪が逆立って捕縛布が浮かび上がる。10秒くらいその状態を維持してから元の状態に戻った。

 

「俺が『消去』を発動してる間、極めて狭い範囲に微弱な反重力が発生する。役には立たないし"個性"の発動をヴィランに悟られる、マイナス効果だ」

 

 確かに、ある程度強くてよく観察するヴィラン相手だとこんなわかりやすい合図は論外だろうな。イレ先生ドライアイだから『抹消』の連続使用は厳しくてインターバルが必要になるし。

 

 ……。

 

「イレ先生」

 

 手を挙げて発言の許可を求めてみる。

 

「……なんだ鴻渡」

 

「捕縛布だけなら戦闘中だったらバレにくいと思うので頭を坊主にしてしまえばいいのでは」

 

 今みたいに髪もっさりよりその方が清潔感も出るし。一石二鳥じゃないかな。

 

「……このようにauxの把握は戦局を大きく左右する要素と成り得る」

 

 が、イレ先生これをスルー。

 

「前回の”個性”と同じ様にauxについてチーム内で意見交換して結果をまとめるように」

 

 auxか…。そういえばキャプ*1も、『飛行』の”個性”はエアロダイナミックフィールドの効果が強いからアメリカで上位ヒーローになれたって言ってたな。

 

「ってもなぁ…俺別に何もないぞ」

 

「俺も心当たりはないな」

 

「私も特には…困りましたね。他のチームの例で考えてみましょうか」

 

 砂藤くんも尾白くんも『個性』がシンプルだからかauxらしいものは思い当たらないらしい。

 かく言う私もauxに当てはまるようなものは…何かあるかな?

 

「芦戸とか常闇は見た目からわかりやすいよな。あれはプラスもマイナスもないauxってことになるのか?」

 

「どうでしょうか。常闇くんは多分何もないですが、芦戸さんは酸に対して耐性があると思います。それがあの肌の色として出ているんじゃないでしょうか」

 

「自分の個性で傷つかないようにってことなら爆豪も爆発耐性があるよな。外見には現れてないけど」

 

 イレ先生は個性発動時のエフェクト。芦戸さんに常闇くん、口田くんにも見られる外見的特徴。キャプのような実はそっちが”個性”の本体なんじゃないかという効果。

 auxはそれらを便宜上まとめて呼称しているに過ぎないのがややこしい。

 

「しかしそうなると自分を守れてない緑谷は勿体ないな。あのパワーで反動が無ければそれこそオールマイト並だってのに」

 

 まぁ実際オールマイトの"個性"だからね。使いこなせるようになったらすぐにでも上位ヒーロー入り間違いなし。

 

「それを言ったら青山もそうだよ。あんな反動のある"個性"で雄英に入るって相当努力したんだろうな。……そういえば、千歳は反動大丈夫なのか?」

 

 確かに青山くんのあの反動は…って私?

 

「そっか、あれだけ色んな"個性"使ってるんだから当然合わない"個性"もあるよな」

 

「え? ……言われてみると、個性が合わなかったって事はありませんね」

 

 気にしたこともなかった。

 確かに自分の"個性"が合わないって人、それによって苦しんでいる人がいるということは知っている。私の知り合いにはそういう人はいなかったから知識としてでしかないけれど。

 

「興味深い話だな」

 

 話に入ってきたのはいつの間にか話を聞いていたらしいイレ先生。

 

「試しに青山の『ネビルレーザー』を使ってみたら検証になるか?」

 

「イレ先生……特殊性癖が悪いとは言いませんがうら若き乙女がトイレに駆け込む、或いは最悪そのまま、なんて姿を見たいというのはちょっと」

 

 青山くんは男子だからまだ、まぁよくはないんだろうけど……普通の女子なら絶対そんな姿見られたくないだろうし、いくら私でも多少抵抗がある。

 

「推測が正しければそんなことにはならないだろ」

 

 いやまあそうなんですが。

 

 イレ先生の推測、多分私も同じ可能性を考えている。その前提で考えるなら思い当たる節もある。

 でもそれが当たっているなら、私の『チートコード』は本当に反則みたいな"個性"ということに。

 

「それと私、基本的にヒーローやヒーローを目指している人からはコードを取得しないことにしてて」

 

「取っても使わなければ取ってないのと同じだろ」

 

 わぁ暴論。これは逃してくれそうもないな…。

 

「コード・アクワイア」

 

 検証以外で使わないことを条件として青山くんにお願いして、あっさり許可を貰えたので私は『ネビルレーザー』のコードを取得した。

 

 流石に教室で検証するわけにもいかないので外に移動することとなり、見に来ても教室に残ってもいいとイレ先生が言うと誰も教室に残らず外に出た。

 

 もしも推測が外れていたら私は明日から笑い者に…はならないだろうけど扱いは変わってしまいそうだ。

 

「ハァ…じゃあ撃ちます」

 

 青山くんの『ネビルレーザー』は結構威力がある。初めてで加減がわからない私が下手に使えば校舎に穴を空けたりするかもしれないので、取り敢えず斜め上空に向けて撃つことにする。

 

 服をめくっておへそを露出させると視界の端で緑谷くんが顔を真っ赤にして顔を背けるのが見えた。

 

「ん……」

 

 感じたことのない奇妙な感覚。レーザーの"個性"は使ったことのタイプだからだろうか。

 お腹がほんのり暖かく感じて、そして光が解き放たれた。

 

「え……」

 

 狭い発射口から解放されたビームは幅約10m程に広がり、爆音と衝撃波を撒き散らしながら蒼空へと飲み込まれて行った。

 

 不安定な体制で撃った私は反動で地面に強か背中を打ち付け、後に残った木々の揺れや異変を察知した鳥が飛び立って行くのを痛みを堪えながら眺める羽目となる。

 

 幸い一番の懸念点だった反動はなく私の社会的な死は回避され、そして私は自分のauxを確信した。

 

 どんな"個性"でもそれを扱うのに適した身体になる"個性適応体質"。それが私のauxだ。

 


 

 何故見ず知らずの相手と雌雄を決さないといけないのか。

 

 ヒーロースーツを身に纏い体育館Bへと向かう物間の足取りは重く、さながら死刑場へと進む受刑者のようだ。

 

『推薦入試の時に見たよ。背は小森より小さかったかな、癖っ毛で眼鏡の子。実技試験で凄く目立ってからよく覚えてるよ』

 

 証言1 取蔭切奈談。実技試験の障害物3kmマラソンをとんでもない速度で駆け抜けて首位独走だったらしい。

 

『体力テストの結果はA組の1名を除外すればB組の方が平均は上だ。その1名、鴻渡千歳のことは考慮しなくていい』

 

 証言2 ブラドキング談。A組に対して対抗意識の強い担任がこんな限定勝負をしないといけない時点でその異常性は察すことができる。

 

『A組では1対4で勝った生徒がいたんだけど、誰かチャレンジしてみるかい!?』

 

 証言3 オールマイト談。B組に先んじたA組の戦闘訓練での話らしい。名前は言っていなかったけどまず間違いなく鴻渡千歳のことだろう。

 

 その他複数の証言から鴻渡千歳の"個性"が他人の"個性"をコピーして使うと知り、物間と"個性"が被ってるから目をつけられたのではないか、という話になった。

 

 呼び出しなんて無視してしまいたかったが、こんな何考えてるかわからない相手を放置する方が怖いのでそうもいかなかった。

 

「……」

 

 体育館Bについてしまった。物間は意を決し、深呼吸をしてからその扉を開いた。

 

 入口の正面、体育館のほぼ中央にその姿はあった。

 背が低くて癖っ毛、眼鏡。事前に聞いていた特徴に一致している。

 

 物間はゴクリと唾を飲み込み、彼女に近づいた。

 

「物間くん、ですね? 鴻渡千歳です。急な呼び出しに応じていただきありがとうございます」

 

 少なくともいきなり襲われることはなさそうだ。少し安心して物間も返事をする。

 

「物間寧人だ。それで僕に何の……何?」

 

 千歳は観察するように彼の周りをぐるっと回り、物間はその突然の行動に困惑するしかない。

 

「どうしてタキシードなんですか? 結婚相手が殺されたりしたのでしょうか」

 

「何を言ってるんだ? 『コピー』の個性なんだから奇をてらう必要がないってだけさ」

 

 ふむふむ、と何か考えてるらしい千歳に対して物間は困惑する。もしかして、果し状だと思ったあれは本当にただの呼び出しだったのだろうか。

 

「その腰の時計は何に使うんですか?」

 

「これは『コピー』の……ってなんで敵にそんなこと教えないといけないんだ!」

 

 流されてベラベラと喋ってしまいそうになったがそれを飲み込んだ物間は千歳に食ってかかる。だが千歳は不思議そうに小首を傾げるだけだ。

 

「敵って、物間くんはヴィランなんですか?」

 

「ハァ!?」

 

「違うんですね。ライバルということならそれは敵ではありませんよ。私達の敵はあくまでヴィランですから」

 

 ぐっ、と物間は言葉に詰まる。

 

 ずっとヒーロー向きの"個性"ではないと言われ続け、物間は他人を敵視する癖がついてしまった。

 目の前のこの少女も自分と同じタイプの"個性"なら同じように言われてきたのではないのか。

 なんでこんなに考え方が違うのか。

 

「それで、今日来てもらったのは一緒に"個性"の検証ができればと思ったからなのですが。似たタイプの"個性"と聞きしましたので」

 

 他人と協力することに躊躇がない。圧倒的に実力差があるはずの相手とでも、だ。

 

「……わかったよ、降参だ。互いに利益があるようだし協力しよう」

 

 千歳が「降参?」とまたしても首を傾げていたが、物間は少し笑みを返しただけでそれについては答えなかった。

 


 

 2人は互いの"個性"についての説明を行い、『コピー』と『チートコード』の比較を行った。

 

 千歳はこの2つは似てるようで全然違う"個性"だと結論付ける。

 

 『チートコード』戦闘開始前に手札が決まる。手札はいくらでも増やせるし、よく知った"個性"で戦うことができるけど状況の変化には対応しにくい。

 

 『コピー』は戦闘中に手札を変えることが可能だけどその場に知り合いがいつもいるとは限らず、知らない"個性"を急いで理解して使いこなす瞬発力が重要になる。

 

 そして、検証の中で1つ気になる事象が発生した。

 『チートコード』をコピーしようとしても書き換えた"個性"しか使えない。どうやっても『チートコード』自体を『コピー』で物間が使うことができなかったのだ。

 

「それ、本当に"個性"なのかい?」

 

 物間に言われたけれど千歳自身にだってそれはわからない。わからないので気にしないことにした。

 

 こうして物間と千歳は知り合い、後のA組とB組の交流へと繋ぐ一歩となるのだった。

*1
キャプテン・セレブリティ




後書き
風邪で2週も空いてしまいました。

千歳のauxについて補足。
ネビルレーザーの威力に関しては、青山は個性が合ってなくて補助具なしでは使えない→威力も本来より落ちてると解釈してます。それでも威力はある設定みたいなのでちゃんと合ってる人が使ったら千歳が撃ったようなネビルレーザーになると想像しています。
個性適応と個性の成長は別なのでビームソードとかは今の千歳じゃできません。
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