鴻渡千歳は救われたい -僕のヒーローアカデミア ATONEMENT-   作:佐鳥五鹿

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第1話 自己紹介から始めましょう

 私の名前は鴻渡千歳(こうどちとせ)

 この春めでたく雄英高校ヒーロー科に合格して、今日はその入学の日。

 

 万が一にも遅刻しないようにと早く登校しすぎたみたいでA組の教室にはまだ私一人。何もすることがないので机に突っ伏して時間が過ぎるのを待っている。

 

 私の実家は東京、流石に実家から通うのは現実的じゃないので雄英すぐ近くの部屋を借りて一人暮らしを始めた。登校にあまり時間がかからないのはすごく楽。

 家事はまだ慣れないし一人の食事は寂しくもあるけど。

 

「むっ」

 

 ぼーっとしてたら教室の扉が開き、生真面目そうな黒髪メガネの男子と目が合った。

 

「おはようございます」

 

 突っ伏したまま会釈をすると男子は几帳面に振り返って扉を閉めてから、私の前まで歩いてきた。

 

「おはよう! てっきり僕が一番かと思ったが先を越されたな」

 

 元気のいい人だな。何というかリーダータイプというか委員長タイプっぽい。

 なんとなく地元でお世話になったヒーローに似ている気もする。

 

「私立聡明中学校出身、飯田天哉だ」

 

「鴻渡千歳です。東京の鳴羽田(なるはた)中学でした」

 

 鳴羽田、その名前を出した途端に飯田くんの動きが一瞬ピタリと止まる。

 

 東京スカイエッグ崩壊事件、ポップ☆ステップ事件、そして悪夢の一夜 鳴羽田ロックダウン…爆破の"個性"を持つヴィランによる一連の事件で私の生まれ育った街は不本意な形でその名前を歴史に残すこととなってしまった。

 まだ風化するほど月日も流れておらず、あの事件がトラウマになっている人も多い。

 

「そうか…よろしく頼む、鴻渡君」

 

 気遣いの出来る誠実な人なのだろう、鳴羽田のことには触れずに手を差し出してきた飯田くんの手を取って、

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 私もその誠意に応えた。

 


 

 その後、当たり障りのない会話を飯田くんとしていると他のクラスメイトもポツポツと登校してきた。

 

 近くに座った何人かと飯田くんとしたように軽く自己紹介をしたりしていると、少し離れたところで飯田くんが何かガラの悪い人と言い争ってるのが聞こえてきた。

 

「聡明~~? 糞エリートじゃねえか、ぶっ殺し甲斐がありそだな」

「君ひどいな本当にヒーロー志望か!?」

 

 …雄英って生活態度は合否に影響しないんだろうか。

 

「うわ…おっかねぇな」

 

 隣に座っていた上鳴くんがヒソヒソと小声で私に振ってくる。

 

「そうでしょうか。無闇矢鱈な威嚇は不安があったり自信がない人がするものです。ああ見えて意外と臆病なのかもしれませんよ」

「ちょ、声」

 

 慌てた様子の上鳴くんの言葉を遮るようにガタッと大きな音を立てて立ち上がったガラの悪い人がこちらに向かってくる。

 

「聞こえてんぞ眼鏡女、誰が臆病だって?」

 

「聞かれないように話していませんから。別に意識して聞こえるように話していたわけでもありませんが」

 

 睨まれたので見つめ返す。

 

 この人…あれだな、ニュースで見たことある。確か泥みたいなヴィランに捕まってオールマイトに助けられていた。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 大きな声じゃないのに不思議と騒がしい教室でもよく通る、そんな声に教室中の意識が扉に向く。

 

 扉の前には麗日さんと頭がもさもさした地味めの男子が居て、今の言葉はその二人に向けて言われたらしい。

 

「ここは…ヒーロー科だぞ」

 

 あ、イレさん…じゃなくてイレ"先生"か。

 麗日さん達越しに見えたあの頃と変わらない姿――いや、ちょっと老けたかな?――に思わず頬が緩む。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 あ、やった。イレ先生が担任なんだ。

 

 何を隠そう、私が雄英に入学した理由の半分は、鳴羽田でお世話になったイレ先生が雄英の教師をしているから。どうせヒーローを目指すならイレ先生のようなヒーローになりたいと私は思っている。

 

 ちなみにもう半分は推薦もらえたから、というだけだったりする。

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 そう言うとイレ先生はさっさと教室を出て行ってしまった。

 

「ちっ…邪魔が入ったな。眼鏡女、話は後だ」

 

 私からは特に話すことがないのだけど。

 返事する間もなくガラの悪い人も行ってしまう。

 

 周りの人達に「度胸あるなー」とか声をかけられながら、私も更衣室に向かった。

 


 

 グラウンドに出た私達に告げられたのは"個性"把握テストをするということ。

 

 さっきのガラ悪い人――爆豪くんと言うらしい――が爆破の"個性"を使ってボールを投げて700m超えの記録を出してみせた。

 

 そして、8種目やって総合順位が最下位の人は除籍処分になるらしい。

 理不尽だという声も上がったけど、イレ先生の言葉に一蹴される。

 

「plus Ultraさ。全力で乗り越えて、来い。さてデモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

 最初は50m走になるようで、イレ先生が移動を促す。

 確認するなら今しかないと、私は小走りにイレ先生に追いついて声をかけた。

 

「イレ先生、お久しぶりです」

 

「鴻渡か。推薦入試で見かけた時も驚いたが、まさかお前が俺の生徒になるとはな」

 

 4年半くらい前に初めてあった頃は、私もまさかこんな展開になるとは夢にも思っていなかった。そもそも当時はイレ先生が教職についてない、ヒーロー一本槍だったのもあるけど。

 

「イレ先生が居たので雄英に来たんですよ? それであの、私も"個性"をフルに使っていいのでしょうか」

 

「当然だ。むしろ手を抜くんじゃないぞ」

 

 お墨付きを得た。私の"個性"は少し特殊なので一応確認しておきたかったけど、これで心置きなく使える。

 

「おい」

 

 振り向くと爆豪くんだった。

 

「なんですか」

 

 絡まれてめんどくさいという態度を隠さずに対応する。

 

「舐められたままなのは我慢できねぇんでな。宣戦布告だ、圧倒してやるよ」

 

 私の"個性"も知らない内から凄い自信だ。

 確かにボール投げの記録は凄かったし、彼自身の応用力もあるみたいだけど。

 

「わかりました。一種目でも私に勝つことができたら認めてあげます」

 

「…あ?」

 

 想定外過ぎて呆気にとられたのか、或いは何を言われたか理解できなかったのか。固まってしまった爆豪くんを置いてさっさと移動する。

 

「あ゙あ゙ん!?」

 


 

第一種目 50m走

 

「3秒04!」

 

 飯田くんの記録が出た。

 あの"個性"はエンジン。やっぱり飯田くんはターボヒーローインゲニウムの血縁っぽいな。

 後で話してみよう。

 

 さて私の番。少しだけ緊張する。

 

『ヨーイ…START!』

 

 シグナルの瞬間、意識が加速し世界がスローモーションになる。

 私の身体は即時トップスピードに入り、レーンを駆け抜けた。

 

「0秒80!」

 

 "個性"を使わないで普通に走ると8秒くらいだったかな、流石に速い。

 

「すげーなお前!」

 

 戻ると何人かに囲まれる。

 

「まさか早さで負けるとは、僕も精進しなくてはな」

 

「なんの"個性"なの?」

 

「今のは『コックローチ』の"個性"です」

 

 答えると、コックローチがなんのことか知ってるらしい何人かが固まった。

 

「コックローチってなんだ?」

 

「平たく言えばゴキブリです」

 

「ゴッ…!」

 

 そして知らなかった人も固まった。

 

"個性"『コックローチ』

高速移動や滑空が可能だがイメージは最悪だ!

 

 速いし硬いし結構な強"個性"なんですけどね。

 

「はっ、陰気臭せぇお前にはお似合いの"個性"じゃねえか」

 

 聞いていたのか爆豪くん。

 その"個性"で他の種目をどうする気だ、と暗に言ってる気がする。

 

 まあ確かに『コックローチ』でアドバンテージを得られるのは後は長距離走くらいだけど。

 

 でもこのテストのルールは私に「有利過ぎる」んですよね。

 

第二種目 握力

 

「えいっ!」

 

 思いっきり握るとデジタルメーターが400kgを示す。

 直前に540kgを出していた男子が居たので先程みたいな騒ぎにはならない。

 

「凄いねえ、ゴキブリって握力も強いの?」

 

 騒ぎにはならないけど、測定が終わると芦戸さんに聞かれた。

 

「いえ、今のは――」

 

 答えようとして次に測定しようとしていた子の行動に目を奪われる。

 

 え、なんであの子握力測るのにお腹出してるの。あ、お腹からなんか出てきた。そういう"個性"なんだ。あれは…万力? え、え、それ使うの。握力とは一体…。

 

「あれいいんだ…」

 

 芦戸さんも呆然としてる。

 あれはそういう手もアリだと知っても、そうそう真似できないな。

 

第三種目 立ち幅跳び

 

 えーと…これはどうしたらいいんだろう。

 

「イレ先生ー、私このまま結構何処まででも行けちゃいますけどー」

 

 測定用の砂場を通り過ぎて、そのまま空中で振り返ってイレ先生に問う。

 

 記録、∞。

 

「…お前、"個性"2つ持ってるのか」

 

 髪の毛が左右で白と赤に分かれてる男子に聞かれた。この男子とはまだ自己紹介していないので名前はわからない。

 

 他の皆からもそれぞれ奇異なものを見る視線を感じる。

 

「うーん…"個性"を2つ持っているというか何というか。確かに今のは『羽』の"個性"で『コックローチ』とは別の"個性"なのですが」

 

"個性"『羽』

対象に羽を付けて飛ばすことができるぞ! だいたい500kgくらいが限度だ。

 

「私の"個性"はちょっとややこしくて。あまり長々話してるとイレ先生に睨まれそうなのでテストが終わってからでいいですか?」

 

「…ああ」

 

 よかった、納得してもらえた。

 さてどう説明したものかな。

 

第4種目 反復横跳び

 

 この種目は、峯田君がボールでぼよんぼよん跳ねてるのを見て真似することにした。

 

"個性"『移動罠』

触れた対象を特定の方向に移動させる罠パネルを設置できるぞ!

 

 中心に加速、加速の左右に加速に向かう罠を置いて、→―←と。

 

 右の罠に飛び乗る。

 

 うん、いい感…じ…? あれ、思ったより加速が。

 

「わわわわわー!!」

 

 あっという間に加速してすごい速度で左右に揺られる! 加速を踏む頻度が多すぎた!

 

 何とか20秒耐えて、罠解除。記録116回。

 

 もうこんな使い方しない…でもヴィランに踏ませるのはありかも。

 

第5種目 ボール投げ

 

 これも『羽』の"個性"で飛ばして記録∞。

 

「…」

 

 少し考えてみる。この"個性"把握テスト、"個性"によっての有利不利が過ぎる。

 

 『透明化』の葉隠さんとか『帯電』の上鳴くんとか、身体能力に直結しない"個性"の人は記録が伸びていない。

 

 イレ先生、本当にこんなことで除籍処分にするつもりなのかな? それこそイレ先生が嫌いな不合理だと思うけど。

 

「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう」

 

 ん?

 

 皆がざわついていたので見てみると、さっき麗日さんと話していた地味目の男子がイレ先生に"個性"を消されたらしい。

 

「見たところ…"個性"を制御できてないんだろ? また行動不能になって誰かに救けてもらうつもりだったか?」

 

 あの男子はさっきから記録らしい記録が出ていない。身体能力に直結しない"個性"なのかと思ったけど、"個性"を使うと行動不能になる…?

 

「緑谷出久、お前の"力"じゃヒーローにはなれないよ」

 

「…」

 

 イレ先生は誰かに救けてもらう、と言ったけどそれはまだ恵まれた状況。あえて言わなかったんだろうけど本質はそうじゃない。

 

 その場に誰も味方がいなかったら? 孤立した状況で身動きが取れなくなったら結果は死、以外にない。

 

 ヒーローは人を救けるのが仕事。

 

 だけど、そのヒーローもまた人であり一つの命だと言うことを、大抵の人が見落としてしまっている。

 人を救けても自分が死んでしまっては【要救助者の救出に失敗し犠牲者を出した】ということに他ならない。

 

 ヒーローとしては、失格。

 

 もっとも、今制御できなくてもプロになるまでに教えるのが入学させた学校の責任なのでは。

 教えなくてもこなせるなら教育機関の存在意義がないわけだし。

 

 除籍の件、この緑谷くんへの叱咤。合わせて考えればこのテストで見ているのはその結果じゃなくて…。

 

 とりあえず多分必要になりそうだし、あの"個性"を使う準備はしておこう。

 

「スマ―ッシュ!」

 

 緑谷くんが二投目を投げる。ボールは凄いスピードで遠くへと飛んでいった。

 

「まだ…動けます」

 

 緑谷くんの指が腫れ上がってる。身体が壊れてしまうほどの超パワーの"個性"…といったところなのかな。

 

「どーいうことだこら、ワケを言えデクてめぇ!! んぐぇ!!」

 

 爆豪くんが緑谷くんに突っかかって行こうとして、イレ先生に捕まった。

 誰にでもあんな態度の狂犬なのかな、爆豪くんは。

 

 そんな光景を横目で見つつ、私は緑谷くんに近づいた。

 

「大丈夫ですか? 緑谷くん」

 

「えっ!? あ、う、うん大丈夫!」

 

 聞いておいてなんだけど、これを大丈夫と判断しちゃうのはダメじゃないかな。

 

「そうですか。ちょっと失礼しますね」

 

 ちょっと届かないので背伸びして、緑谷くんの頬にキスをする。

 

「んなーーーっ!」

 背後から誰かの声がした。

 

「ななな何、何で」

 緑谷くんも真っ赤になって後退った。

 

「応急処置だけですが。少しはマシかと思います」

 

「えっ。あ、ほ、本当だ…」

 

 緑谷くんの赤黒くなって腫れ上がっていた指は、色はまだそのままだけど腫れが引いている。

 

「リカバリーばあさんの"個性"か。鴻渡、勝手に助けるな」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 イレ先生にお小言もらうだろうな、とは思ってた。

 

 緑谷くんの怪我は緑谷くん自身の判断で緑谷くん自身の"個性"を使用したもの。

 判断には責任がつきまとう。本来ならば怪我をおしてこのままテストを続けるのが筋なんだろう。

 

「でも、ある人が言ってたんです」

 

 思い出す。

 そう、あれは鳴羽田で出会った人達の…。

 

「悪党を殴るとスカッとするって」

 

「…」

 

 イレ先生が表情を変えずに私を見ている。

 

「…」

 

 緑谷くんが信じられないようなものを見る目で私を見ている。

 

「…間違えました、コレジャナイ。えーと…私、何が言いたかったんでしたっけ?」

 

「知るか。タチの悪い連中の影響受けやがって。もういいから戻れ、テストの続きだ」

 

 シッシッと追い払われたので大人しく従って緑谷くんと一緒に移動する。

 すると何人かが寄ってきた。

 

「入学初日からいきなりカップル成立かよ!」

「鴻渡君、不純異性交遊はいけない!」

「緑谷…許せん…!」

 

 冷やかしとか注意とか妬みとか色々考えることは違うらしい。

 

「ち、違うよ! 鴻渡さんは僕の指を治してくれて…」

 

 緑谷くんが皆に見えるように指を出す。

 

「それって…リカバリーガールの"個性"?」

 

 反応は目に見えてよろしくない。さっきまでの明るい雰囲気は掻き消えて、困惑が広がってる。

 

 速くて、力も強くて、空を飛んで物も飛ばす。罠みたいなトリッキーなこともして、その上に他人の治療までできる。

 皆の目には私がそんな規格外の化け物に見えているのだろう。

 

 誰だって理解できないものは怖い。それが知ってしまえばなんてことないものでも。

 

 皆の不安を払拭する為にも、"個性"の説明するのは吝かではないんだけど。

 

「先程そちらの紅白くんには言いましたが」

 

「…轟焦凍だ」

 

「轟くんには言いましたが、私の"個性"について気になるなら後で説明します。イレ先生がこちらを睨んでるので」

 

 イレ先生は既に次の種目のスタート位置に移動していた。

 遠くて表情は見えないけど「今すぐ来ないとお前ら全員除籍処分だ」と雰囲気だけで語っている。

 

「さ、行きましょう」

 

 


 

 

第6種目 持久走

走る競技は『コックローチ』の"個性"の独壇場。1位。

 

第7種目 上体起こし

背中がつく位置に上方向の『移動罠』をセット。反動がちょっときつかったけどさっきより全然マシ。1位。

 

第8種目 長座体前屈

"個性"『ゼラチナスマター』を使用で2位。蛙吹さんが舌で記録を伸ばしたので負けてしまった。

 

"個性"『ゼラチナスマター』

自分の身体がスライム状になる。物理攻撃には無敵に近いが温度変化等には弱いぞ!

 


 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する。ちなみに除籍はウソな、君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

「「「はーーーー!!!!??」」」

 

「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」

 

 八百万さんがポツリと言った。

 確かにイレ先生自身が虚偽と言ってるんだからそう思うのが普通なんだけど。

 

 私はイレ先生をじっと見た。その視線に気付いたイレ先生は首を横に振る。

 何も言うな、か。

 

「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ。緑谷、リカバリーガールのとこ行って治してもらえ」

 

 そう言ってイレ先生は緑谷くんに保健室利用書を差し出す。

 

「私、治しますよ?」

 

「いや。『治癒』の"個性"の注意点はばあさんから聞いてるだろ?」

 

「はい。体力を消費するのでやり過ぎると逆に死ぬって」

 

「そのやり過ぎにならないように治癒の利用を記録してるんだ」

 

「そういうことですね。出過ぎた真似をしました」

 

「それとな、"個性"の発動方法的にあんまり節操なく使ってると俺はともかく他の教師から問題視される可能性がある」

 

「…それは不合理ですね」

 

「全くだ。だが痛くもない腹を探られるのも面白くない。だから治癒は緊急時だけにしておいてくれ」

 

「わかりました」

 

 こればかりはイレ先生に文句を言っても仕方ない。

 

「…そろそろいいか?」

 

「轟くん」

 

 そうだった、"個性"の説明するって話だった。

 忘れてた、なんて言えない。

 

 見れば他のクラスメイトも一人として教室に戻ろうとはせずにこちらの様子を伺っている。

 

 それでは、自己紹介から始めましょう。

 

「既に半分くらいの人とは挨拶しましたが改めて。私の名前は鴻渡千歳。名字だと口田くんとややこしいので千歳と呼んでください」

 

 皆に見えるように手を掲げて、"個性"『ゼラチナスマター』を発動させた。手首から先だけゲル状に変化してグニャグニャと動かしてみせる。

 

「今日の"個性"テストで私は6つの"個性"を使いました。『コックローチ』『オランウータン』『羽』『移動罠』『治癒』そしてこの『ゼラチナスマター』です」

 

"個性"『オランウータン』

腕が長くなって腕力や握力が向上するぞ!

 

「どの"個性"も元々はそれぞれ別の人達の"個性"でした。それを私はコピー…とは厳密には違うんですけど、まあそんな感じで使わせてもらってます。私自身の"個性"の名前は『チートコード』。自分の"個性"を別の"個性"に書き換えることができます」

 

鴻渡千歳 "個性"『チートコード』

自身の"個性"を書き換えることができる。

書き換える為のコードは他人から読み取りが可能。

書き換えには2分前後必要で、書き換えに失敗するとハングアップして10分程行動不能になる。

 





現在判明してる使用可能"個性"コード
コックローチ
オランウータン

移動罠
治癒
ゼラチナスマター

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