鴻渡千歳は救われたい -僕のヒーローアカデミア ATONEMENT-   作:佐鳥五鹿

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第2話 「本気でやる」っていうのは「何をしてもいい」ってことじゃない

 "個性"テストから明けて翌日、午前中は普通科と同じカリキュラム。

 

 ヒーローを一生の仕事とできる人は少ない。体力的な限界は必ず訪れるし、怪我が原因で引退することも多い。

 将来のことを考えれば勉学を疎かにするわけにはいかない。

 ヒーローは国の枠を超えて活動をする場合もあるから、特に英語は必須技能になる。

 

 ところで私は、自分が使える"個性"の中でいくつか反則みたいな"個性"があると思ってる。

 そのうちの一つ、『強化睡眠記憶』はとにかくチートコードとの相性がいい。

 

 寝る前に書き換えるだけだから他の"個性"と競合しないし、結構な数の"個性"を管理できているのもこの"個性"のおかげなところがある。

 普通に勉強していれば成績上位をキープできるのも凄く助かる。

 

 この『強化睡眠記憶』を貰ったのは私の"個性"が発現して間もない頃だった。

 元気にしてるかな…鋼くん。

 

"個性"『強化睡眠記憶』

眠りによる長期記憶への定着がほぼ100%になるぞ!

 

 昼食を挟んで午後からの授業がヒーロー基礎学。

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

 担当教師はオールマイト先生。今まで主にテレビの中で見るだけだったナンバーワンヒーローの登壇に教室中がざわついた。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ!! 単位数も最も多いぞ。

 早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」

 

 テンション、高いな…。素でこれは疲れないんだろうか。

 

「そしてそいつに伴って…こちら!!!」

 

 教室の壁がゴゴゴと音を立てて迫り出してきた。収納式のロッカーになっていたらしい。

 

「入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」に沿ってあつらえた…戦闘服!!!」

 

「おおお!!!!」

 

 再度教室がざわつく。一部は立ち上がる程だ。

 

 これでは全く盛り上がってない私の方が浮いてるんじゃないか、そう思って軽く周りを見てみると八百万さんや常闇くんのように静かに座ってる人も居て安心…いや違う、我慢してるだけだあれ…明らかにウズウズしてる。

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」

 

「「「はーい!!!」」」

 

「はーい…」

 


 

 提出した書類を基に学校専属のサポート会社が最新鋭のコスチュームを用意してくれるシステム、被服控除。

 

 私の場合は素人の意見を出すよりプロに仕立てて貰ったほうがいいと判断して"個性"の情報だけは詳しく、後は身体のサイズだけを書いた。

 そんなわけでどんなものが出来上がっているかは私も知らない。

 

 移動してきた更衣室でスーツケースを開くと、中から紙が一枚ハラリと落ちる。

 

「!?」

 

 説明書でも入っていたんだろうか、そう思って落ちた紙を拾おうとした私の目に映ったのは、『ゴメンナサイ』という文字。

 心なし字が赤黒くて、まるで血文字のように見える。

 

 そんなまさか…と首を振って拾い上げた紙の裏面は…というかこちらが表みたいで、メーカーからの謝罪文のようだ。

 

 内容を要約すると――『やりました、やったんですよ必死に! その結果がこれなんです! 我々は、なんの成果も挙げられませんでした!』といったようなことが書かれていた。

 

 …なんか、悪いことしてしまった気がする。

 

 "個性"を持っている私自身どうしたらいいか分からないから丸投げしちゃったわけで、責める気も起きない。

 

 そういえばB組にも他人の"個性"をコピーして使う人がいるって聞いたけどその人はどうしたんだろう。今度聞きに行ってみようかな。

 

 ともかく、"個性"に合わせたコスチューム機能はないけれど、汎用性重視に全力で良いものを仕上げてくれたらしいので中身を見てみる。

 

 トップスは軍服ライクなデザインの白のリーファーコート。ボトムスはショートパンツにオーバーニーソックスの組み合わせで、いわゆる絶対領域が露出する…デザイナーのフェチズムを感じる…少なくともヒーローっぽくはないんじゃないかな、コレ。

 

 っと、じっくり品定めしている場合じゃない。早く着替えて行かなければ。

 そう思い、他の皆の様子を確認するべく目を向ける。

 

「……」

 

 やっぱり皆ちゃんとヒーローらしいコスチュームのように見える。

 まだ皆も着替え途中なので、急いで着替えれば一人だけ遅れるということはなさそうだ。

 

 …そんな考えより真っ先に思ったのは――みなさん はついく よすぎない ですか――だった。

 

 昨日はあんまり意識しなかったけどヒーロースーツって身体のラインが強調されるようなデザインが多いからかな。

 

 思わず自分の胸に手を当ててみる。申し訳程度のほのかな膨らみが私の手をわずかに押し返し、控えめな主張をした。

 

 ……人類は不平等というしがらみから逃れる術を持たない。

 

「千歳、どうかしたの?」

 

「耳郎さん……」

 

 浅緋色のシャツに黒のジャケットとズボンという衣装に着替えた耳郎さん。ブーツには何か仕掛けがあるようでサイズが大きい。

 

 そんなことよりも、そのスレンダーな体型に親近感を持ってしまうけれど。

 

「いえ……頑張りましょうね、お互い」

 

「?」

 

 怪訝な顔をされるが、いい加減本当に遅れてしまうので私も急いで着替え始めた。

 


 

「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!! 自覚するのだ!!!! 今日から自分は…ヒーローなんだと!!

 さあ!! 始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!!」

 

 オールマ先生によると今日の訓練はヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内対人戦闘とのこと。

 ヴィラン組は「核兵器(という設定のオブジェクト)」を制限時間まで防衛するかヒーローを捕まえる、ヒーローは「核兵器」を回収するかヴィランを捕まえる。

 

「コンビ及び対戦相手はくじだ!」

 

 くじか…私の場合は相方や相手に合わせて”個性”を書き変えるのが前提になるからそこが一番重要かな。

 

「あ、鴻渡君は引かなくていいから」

 

「……はい?」

 

「鴻渡君には最初の試合が終わったらサプライズがあるから、楽しみにしているといいぞ!!」

 

 なんか、嫌な予感が…。

 


 

 最初の対戦はAチーム麗日・緑谷ペアがヒーロー、Dチーム飯田・爆豪ペアがヴィラン。

 個性テストの順位で考えれば10位20位ペア対3位4位ペアで圧倒的にAチーム不利になるけれど、Bチームはチームワークに不安があり過ぎる。

 

 時間制限がある中でターゲットを探す必要があるヒーロー側は不利だけれど、早いうちにターゲットが見つかってしまえば今度はヴィラン側が防戦を強いられる。

 何しろ「核兵器」は3m前後はありそうな大きさの上、回収はタッチするだけでOKという中々の緩い判定。

 

 「核兵器」を建物から外に運び出すのが条件だと時間制限的に難易度が跳ね上がるし仕方ないのだろうけど。

 

「サプライズってなんだろうねー」

 

 対戦について考察しつつ皆と一緒にモニタールームに移動している中、さっきのオル先生の話を振ってきたのは隣を歩いていた葉隠さんだった。

 

「どこかの組み合わせに加わってハンデマッチとかかな?」

 

「オールマイトとタイマンだったりしてな」

 

 他の皆も気になったようで口々に予想を口にする。

 他人事だと思って好き勝手言ってるな。オールマイト相手とか絶対無理だし嫌なんだけど…。

 

 モニタールームに到着すると、既にモニターには各チームの様子が映し出されていた。

 

 ヒーローチームは見取り図を見ながら作戦を立てているのだろうか。

 一方、ヴィランチームは何かを話しているようだけど相談している風ではない。

 

 そんな調子のまま、やがて対戦の開始時間となった。

 

「さぁ君たちも考えて見るんだぞ!」

 

 ヒーローチームの初手、麗日さんの『ゼログラビティ』を使用して4階の窓から侵入。周囲を警戒しながらビル内を進んでいく。

 

 対するヴィランチームの初手、

 

「いきなり奇襲!!!」

 

 爆豪くんが独り「核兵器」から離れてヒーローチームを襲撃した。

 

 いち早く察知した緑谷くんが麗日さんを庇いつつ爆豪くんの『爆破』を避けるも、緑谷くんのヒーロースーツの仮面は半分に破れてしまった。

 

「……?」

 

 アレ、本当にヒーロースーツ?

 

 雄英高校の専属サポート会社が製造したものならプロのヒーローが使用する製品と遜色ないモノのはず。耐熱・耐衝撃性のある素材で作られていて当然なのだけど。

 

 さすがにあれだけで破れるってことは普通の布のハリボテなんじゃ…。

 

 でもそれだと被服控除使わないでスーツを用意したってことで、なんのメリットもない非合理な選択だしよくわからないな。

 

「おお!!」

 

 私の明後日の思考は歓声で遮られる。緑谷くんが爆豪くんを投げ落としたようだ。

 

 爆豪くんはすぐに立ち上がってあまりダメージはないようだけど、頭に血が上っているのか激高しているのが音声のないモニター越しでもわかる。

 

 後ろ手に『爆破』を利用して再び緑谷くんに向かっていく爆豪くん。戦場から離脱する麗日さんには目もくれない。

 

 一方の緑谷くんは"個性"を使わず、攻撃を防ぎ避けながらもテープを用いて確保のチャンスを狙う。

 

 お互い決定打がないまま緑谷くんが逃走し、遭遇戦は幕を降ろした。

 

 5階のモニターに視線を移すと「核兵器」が設置された部屋の入口に潜伏していた麗日さんが、待ち構えていた飯田くんに発見されていた。

 

 二人の間合いはジリジリと詰まり、こちらも戦闘開始…と思った矢先だった。

 

「爆豪少年ストップだ、殺す気か」

 

 オールマイトのその物騒な言葉に、爆轟くんを映すモニターに視線を戻そうとした私の目が捉えた光景は、赤。

 複数のモニターにその爆炎は映り込み、同時にドオォという爆音が地下のモニタールームにまで響いた。

 

「授業だぞ、コレ!」

 

 そう、これは授業。訓練だ。

 勝っても負けても得られるものは評価でしかなく、それは当然命を賭けるに値するものではない。

 

 何をやってるんだ、爆豪くんは。

 

「緑谷少年!!」

 

 ビルの破壊による塵埃で塞がれたカメラの視界が晴れた時、そこに緑谷くんの姿を認めて一先ずは安堵する。

 

「先生、止めたほうがいいって! 爆豪あいつ相当クレイジーだぜ、殺しちまうぜ!?」

 

 切島くんも今の爆轟くんの攻撃は問題だと感じたようだ。声には出していないけど他の皆も大方同意見のようで、切島くんが言わなかったら中止を提言していただろう。

 

「いや……爆轟少年、次それ撃ったら…強制終了で君らの負けとする。屋内戦において大規模な攻撃は守るべき牙城の損壊を招く! ヒーローとしてはもちろんヴィランとしても愚策だそれは! 大幅減点だからな!」

 

 だけど判断は警告止まり。オル先生には何か考えがあるのだろうか。

 

 反則負けは流石に嫌なのか、爆豪くんは再び接近戦に切り替えて攻撃を仕掛ける。

 先程までの直線的な攻撃と変わってフェイントや体術を織り交ぜ、緑谷くんは全く対応できずに攻撃を受けてしまった。

 

「リンチだよコレ! テープを巻きつければ捕えたことになるのに!」

「ヒーローの所業に非ず…」

「緑谷もすげえって思ったけどよ…戦闘能力に於いて爆豪は間違いなくセンスの塊だぜ」

 

 戦闘の才能は確かに認めざるを得ない。確かに爆豪くんは強い。

 ……勝利のチャンスをみすみす見逃すなんてことがなければもっと良かったんだけどね。

 

 緑谷くんは爆豪くんから逃げるように壁際まで移動した。追い詰められたように見えるけど、爆豪くんに向き合い何か言い合う様は勝ちを諦めた人のそれではない。

 

 二人共に腕を振りかぶり、緑谷くんの超パワーの"個性"、爆豪くんの『爆破』の"個性"がお互いを捕え――ることはなく、『爆破』だけが緑谷くんに直撃し、超パワーは上方に向けられ天井を穿つ。

 

 こんな作戦を実行したということは建物を破壊するなという警告は爆豪くんだけに通信されていたのだろう。

 5階では麗日さんが崩れたビルの柱を振るって破壊により産まれた破片を飯田くんに向けて打ち出した。その破片に混ざって自身も突撃してそのまま「核兵器」に抱きつくことに成功した。

 

「ヒーロー…ヒーローチーム…WIIIIIN!!」

 


 

「まぁつっても…今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」

「なな!!?」

 

 講評の時間。緑谷くんは保健室に運ばれていったので3人だけが戻ってきていた。

 

 八百万さんが先生顔負けの批評を披露し、爆豪くん緑谷くん麗日さんへの駄目出し、シチュエーションに対応したからこそ負けた飯田くんを称賛した。

 

「オル先生…質問いいですか」

 

 講評が終わったところで私は手を上げた。

 このまま授業を受けるなんて気持ちにはとてもなれなかったから。

 

「ああ! 何かな?」

 

 私は一つ息を吐き、気を落ち着けてから言葉を紡ぐ。

 

「訓練に本気で挑めない人間は本番で全力を出せない、そんな理屈はわかっています。でもこれはあくまで訓練なんです。必要以上に級友を危険に晒す爆豪くんとも、後に響きかねない怪我を厭わない緑谷くんとも、私は戦いたくありません。ヒーロー科ではこんなことが当たり前なのですか?」

 

 「本気でやる」っていうのは「何をしてもいい」ってことじゃない。

 こんなことを繰り返していたらヒーローになるどころか、卒業するまでに取り返しのつかない事になる。

 

「う…む……。爆豪少年、君はあの大爆破を緑谷少年に当てるつもりはなかった。そうだろう?」

 

「……」

 

 爆豪くんがわずかに頷いて肯定を示す。

 

「"個性"でどこまでやっていいかってのは線引きの難しい問題だ。だからこそヒーロー以外の"個性"の使用は禁じられてるし、皆も他人に向けて個性を使ったことはほとんどないだろう。その辺りの塩梅もこれから覚えていかなければいけないぞ!!」

 

 ……失念してた。個性に慣れてないのが当たり前、なんだよね。ましてや対人戦なんて。

 

「わかりました、認識を改めます。失礼しました」

 

 ヒーローにはヴィランを殺害する権限はない。

 自分の"個性"と向き合いながら、相手を殺さずに倒す方法を覚えていかなければいけない。学校が護ってくれる間に、自分の責任で"個性"を振るうことになるその時までに。

 それこそがヒーロー科に求められ……私には既に身についている感覚。

 

「それでは次の対戦の前に!! 鴻渡くん! 君には最終戦で四人相手に戦ってもらうね!!!」

「……はい?」

 

 ナニソレ。

 

「マジかよ…」

「4対1…?」

 

 あんまりなサプライズにクラスメート達もざわついている。

 

「人数のバランスが変わるから相手を確保するルールは廃止、「核兵器」の確保だけが勝敗の条件になるぞ!!」

 

 速攻で4人を無力化する勝ち筋まで塞がれた……。

 

「相澤くんに言われててね! 鴻渡少女は程々の所で手を抜くだろうからそんな余地もないくらい負荷をかけてほしいってさ!!」

 

 イレ先生、酷いです。

 

「その代わり、今からセッティングに入って他の対戦が終わるまでが準備時間になるぞ!!」

 

 通常の準備時間5分に制限時間が15分で3組分の時間、それに講評の時間とかもあるから…最長おおよそ1時間半。それだけ時間があればやりようはある、かな…?

 


 

 こうして私は一人、最終戦のビルへと移動して準備を始めることとなった。

 

 タブレット端末を渡されたので対戦とモニタールームの様子を見ることはできるんだけど……。

 

「…寂しい」

 





現在判明してる使用可能"個性"コード
コックローチ
オランウータン

移動罠
治癒
ゼラチナスマター
強化睡眠記憶

超回復
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