鴻渡千歳は救われたい -僕のヒーローアカデミア ATONEMENT-   作:佐鳥五鹿

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第3話 こうして世界は終わった

 最終戦、くじで残り千歳の対戦相手となったのはEチーム青山・芦都ペア、Fチーム口田・砂藤ペアの4人だった。

 

 舞台となるビルの前までやって来た4人は、互いの個性の確認とここまでの4戦を参考――参考にならない対戦もあったが――に作戦を立てる。

 

「口田はここから鳥でビル内の探索。俺たち3人は1階からクリアリングだ」

 

「核か千歳が見つかったら合流してから総攻撃だね!」

 

 「核兵器」が抑えられたら負けとなるこのルールでは、「核兵器」の守備を放棄してヴィラン側が攻めるのはハイリスクとなる。

 今回ヴィラン役は1人。「核兵器」から離れられずにいると4人は読んだ。

 

『屋内対人戦闘訓練最終戦 開始』

 

 オールマイトからの通信で開始が宣言され、4人は予定通り行動を開始する。

 

 口田は鳥を呼んで各階の窓へと飛ばし、他の3人はビルの入口へと油断せずに歩を進めた。

 

『ヒーロー諸君』

 

 そうしてビルに入ろうとした時だった。その突然の声に3人は身構える。

 声は千歳のものだったが周囲に姿は見えない。

 

『私は悲しい。君達ならば、私の真意を理解してくれると思っていたのだがね。

 まぁいい。歴史を変えられると思い上がっているのならば、いつでもかかっておいでなさい。ハーッハッハッハッハッハ!!』

 

 三人と、少し離れていた位置にいた口田にもその声は届いており、揃って呆気に取られる。

 

「な、何だい今のは」

 

 今の声が何かの罠ではないかと辺りを探るが何も見つからない。

 つまり、今のは只のフレーバーテキスト。演出だ。

 

「ノリノリ過ぎんだろ…」

 

「今時こんな古典的なヴィランいないよねぇ」

 

「歴史を変えるって言うのは何の話かな?」

 

「――(高笑いが全然似合わない)」

 

 各々ツッコミを呟くが、4人にはある共通認識が産まれていた。

 

 曰く、千歳はアホの子なんじゃないか、と。

 

"個性"『伝言(メッサージュ)』

触れると再生される伝言を残せるぞ! それだけだ!

 

 4人共、最高峰のヒーロー科である雄英高校に入学できたのだ。自らが優秀であるという自負はある。ある、が。

 

 "個性"把握テストでは断トツの成績で総合1位を取った。

 担任からもオールマイトからも4対1で勝負になる、或いは勝てると、そう判断されている。

 

 そんな千歳相手に気後れしていなかったと言ったら嘘になる。

 

「フフフ……」

「アハッ、アハハハハ!」

 

 緊張が解けて、4人共思わず笑い出してしまう。

 

 どんなに凄くても千歳も同じ高校一年生、かなう筈ないと端から諦めていたら勝機なんてないのだと。

 

 ひとしきり笑った後、気を取り直した3人は改めてビルへと侵入するべく入口前に立った。

 それとほぼ同時に斥候の鳥が数羽、口田の元へと戻ってくる。

 

 入口の自動ドアが開く。口田は鳥から報告を受ける。

 

 ビルの中には――ドアを塞ぐようにして「核兵器」が置かれていた。

 

「……は?」

 

 目の前に勝利条件がある。再び呆気に取られるも、咄嗟の判断で芦戸がその「核兵器」に手を延ばす。

 

 「核兵器」に触れてさえしまえば勝ちなのだ。ならばどんな罠があろうともここは行くべきだ、と。

 

「――っ!」

 

 鳥からの報告を聞いた口田はそんな芦戸を止めようとするも、間に合わない。

 

 ――パンッ!

 大きな破裂音が響き、芦戸が触れた「核兵器」が消失した。

 

「芦戸っ!」

 

「あー……びっくりしたね!」

 

 焦った砂藤は芦戸の無事を確認するも、当の芦戸はケロリとした様子で笑って見せる。

 

「だ、大丈夫そうだな」

 

「ねぇ、奥…」

 

 青山は「核兵器」がなくなって開けた視界の先を指差す。

 そこには、「核兵器」があった。いや、「核兵器」しかなかった。

 ビル内を埋め尽くす核、核、核……。

 

「これ全部、さっきのと同じ…?」

 

「――!!」

 

 追いついた口田が身振り手振りで他の階も似たような状況だと説明する。

 

 4人はこれ全部を割っていかなければならないのかと辟易する。

 青山の『イビルレーザー』でまとめて壊していく手段も考えられたが、万が一この中に本物があったらターゲット破壊で負けになる。下手な手は打てなかった。

 

"個性"『どっきり☆バルーン』

外見を完璧にコピーしたバルーンを作成するぞ! 触れると大きな音を立てて破裂するけど攻撃能力なんかは全くなくてビックリするだけだ!

 

 破裂するのが分かっている巨大風船になんて誰だって触りたくはない。だが迷っている時間もないので、4人は一先ず1階の「核兵器」を壊して回ったが、結果として1階に核兵器は無く、全てが偽物であった。

 

 制限時間は残り10分、こうなると最初の『伝言』も時間稼ぎの一環だったのではないかと勘ぐってしまう。

 

 4人は再度相談して、それぞれ1フロアずつ対応することに決めた。誰か一人が千歳と遭遇してしまうことにはなるが、各階の偽物を全て確認する事を優先すると決めた。

 

 千歳の戦闘能力は4人にも、この対戦を観ている他のA組生徒にも未知数だ。

 オールマイトですらそれは断片的な情報で知るのみで、相澤に「次世代の平和の象徴になり得る」とまで言わしめたその実力の一片を見られるのをワクワクしながら待っている。

 

「おかえり、親愛なる我が友よ。…と言ってあげたいところだが、どうやら我々の同志に戻るつもりはないようだね」

 

 砂藤が進んだ5階、その最奥の部屋に千歳の姿はあった。芝居がかった台詞、大仰な手振りで砂藤を出迎える。

 

「どんな設定か全然わかんねぇよ!」

 

 千歳が立ちはだかる先に「核兵器」が1個だけ置かれているのを確認した。まず間違いなくあれが本物だと砂藤は確信する。

 

 仲間には既に通信で千歳を見つけたことを伝えた。だとすれば今やるべきことは1つ。自分が倒されても千歳が今どんな"個性"を使えるのかを確認する。

 

「うぉおお!!」

 

 "個性"『シュガードープ』を発動させ、増強したパワーで千歳へと突進した。

 躱すならそのまま「核兵器」を抑える。

 『オランウータン』でパワー勝負に来るなら望むところ。

 

 千歳は避けない。迎え撃つように構えるのを砂藤は視認し、ならばと姿勢を低くして全力で千歳を押し倒すべくタックルした。

 

「……は?」

 

 モニタールームで観戦していた面々には一連の流れが見えていたが、砂藤には何が起こったか理解できなかった。

 

 目の前で千歳が突然消え、ターゲットを失ったタックルは当然失敗して床に滑り込む。その直後に消えたと思った千歳が地に伏せる砂藤を踏み付けてその上に立った。

 

「う、うおお!」

 

 追い払おうと身体を捻って腕を振り回すと千歳はあっさり飛び退いて、立ち上がり体勢を立て直した砂藤と相対する。

 

 体重の軽い千歳に踏まれてもダメージは全くなかったが、今の不可解な現象を警戒して次の攻撃に移れない。

 

 今のはどんな"個性"なのか、千歳に攻め気が感じられないのも気にかかる。

 砂藤はジリジリと間合いを詰めながら、慎重に手を探る。

 

「…!」

 

 突然千歳がバランスを崩したように転がり、その一瞬後に光り輝くビームが千歳が居た空間を貫いた。

 

 部屋の入り口には青山、口田、芦戸の姿がありそのまま砂藤に合流する。

 

「他の階の核は全部潰したよ!」

 

「チェック、だね」

 

 4人は「核兵器」を背に守る千歳を取り囲む。

 

 千歳がどんな個性を使おうとも、この状況から「核兵器」を持った上で逃げ出すのは困難であろう。モニタールームで観戦している生徒も含め、誰もがそう思った。

 

 当然4人にも油断はあっただろう。

 しかしそれでも、千歳が後ろ手に触れた「核兵器」が消失したことに驚き、動きを止めてしまったことは責められることではない。

 

「Oups !」

 

 千歳はその隙を突いて青山をすっ転ばせ、そのまま部屋の入口へと逃れた。

 千歳の左手には何か、500mlペットボトル大の物体が握られている。

 

「あれ「核兵器」!?」

 

「どうなってんだ! 何の”個性”なんだ!?」

 

 3人は慌てて千歳を追いかけ青山も少し遅れてそれを追い、千歳はそのまま4階まで駆け下り部屋に転がり込んで身を隠す。

 

 4人は見失ってしまった千歳を探すべくまた分かれざるを得ず、そうして人数が減ったことで千歳を発見しても捕らえることができずに3階に逃げられてしまった。

 

 千歳はまたしても部屋に隠れ、ならばと4人は固まって行動した。だが4人が別の部屋に入ったのを見計らって千歳は2階へと逃れた。

 

「ハァ、ハァ…お、追い詰めたよ」

「ゼェ、ゼェ、もう、逃さないぞ」

 

 完全に息が上がってしまいながらも、今度こそ4人は千歳を追い詰めることに成功する。

 縮んでいた「核兵器」は元のサイズに戻され千歳は守るように立っている。5階であった状況に戻った形だ。

 

 この時点での4人には知る由もないが、千歳が使った"個性"は『縮小』。

 

"個性"『縮小』

物を小さくする"個性"だ! 最大で大体1/10くらいにできるぞ!

 

 この"個性"、麗日の『ゼログラビティ』と同様に個性の発動を止めたら効果も消えるタイプの"個性"なので維持したままだと体力の消耗が早い。

 

 準備時間で『どっきり☆バルーン』を大量に出したのもあって、もう千歳の体力はほとんど残っていなかった。

 

「ヒーロー諸君、私は悲しい。君達ならば私の真意を……」

「確保っ!」

 

 言葉を遮って、4人は同時に千歳と「核兵器」に向かう。

 

 芦戸によって千歳は無抵抗で床に組伏せられ、他の3人の手が「核兵器」に届く。

 

 ――パンッ

 

 そして「核兵器」が弾けて消えた。

 

「そんな…偽物…」

 

 呆然として何もなくなった空間を見つめる。

 

 では本物は何処に?

 各階は各々で分担したから誰かが見落とした?

 いや、千歳を追って全ての階を全員で回ったが「核兵器」はなかった。

 

「残念ながらもう手遅れだ。書の魔獣は誰にも止められないのだよ。終焉の炎がこの旧世界を屠り、全ての歴史を呑み込むまで」

 

 動くに動けずにいた4人へと千歳は告げる。

 

「聴こえないのかい? 我々を新世界へと導くあの音が…」

 

『タイムアップ! ヴィランチームWIIIIN!!』

 

 タイミングぴったりにビープ音が響きオールマイトの声が時間切れを知らせたのだった。

 

 こうしてヒーロー達は敗れ、カルト教団により発射された核は世界を灼いた。

 カルト教団が信仰していた書の魔獣とは一体なんだったのか。

 歴史の闇に葬られた世界で、真相を知る者は亡し。

 

 ……勿論、千歳の脳内ストーリーの話である。

 

 

「はいお疲れ様!!」

 

 うん、本当に疲れた…。もうへとへと。

 

 4人と一緒にビルを出ると既にモニタールームで観戦していた皆が待っていた。

 その中に緑谷くんはいない。まだ戻ってきていないようだ。

 

「早速講評といこうか! まずはヒーローチームの4人、どうだった!?」

 

「いやどうもこうもよ…途中は結構いい戦いしてたと思ってたんだけど」

 

「終わってみたら全然輝けてなかったネ、僕ら」

 

 砂藤くんの言葉を青山くんが繋ぐ。

 

「結局「核兵器」は何処にあったんだ?」

 

 質問者は切島くん。外に出る時に回収したから先にモニタールームから移動した皆には回答が見られなかったらしい。

 

「ビルの入り口扉の上ですよ。出っ張りがあってそこに横にして置いてありました」

 

「――…」

 

 続いて口田くんが…何か言ったらしい。全然聞こえないけど。

 

「そう、口田少年の言う通りだ!」

 

 マイトイヤーは地獄耳。

 

「ビル内に大量に置かれたバルーンを壊して回る内に「核兵器」のサイズが3mくらいだってのが染み込んじまったな! つまりバルーンは二重の罠だった訳だ!!」

 

 縮めた「核兵器」をただ隠していたなら何かの拍子に気付いて見つけていた可能性はあった。その場合入り口に置いてあるのだから私に確保の阻止ができるわけもなくそれでゲームオーバー。

 

 それを許さないのが『縮小』と『どっきり☆バルーン』の組み合わせによる認識阻害、ということ。

 

「コレ無理ー! 勝ち目なかったってー!」

 

 ムキー! となっているのは芦戸さん。

 

「…いいえ、それは違いますわ」

 

 八百万さんは気付いたらしい。1戦目の講評での発言も的確だったし、才女って感じがする。

 

「千歳さんは……ヒントを出していたのだと思います。わざわざ4人が集まるのを待ってから目の前で偽物の「核兵器」を小さくしました。あの時点で千歳さんの近くにあったのが偽物かもしれないと発想できていれば本物の「核兵器」もまた、小さくされて隠されているかもしれないと発想できるということですわ」

 

「それは僕も気付いていた。もっとも外野で見ていたから言えることで、あの場に立っていたら気付くことができた自信はないが…」

 

「ヒントって言うなら最後に下へ下へと降りて行ったのもそうだろうな」

 

「それな、わざわざ本物の「核兵器」に近づいてったんだもんな」

 

「……そしてこの2つの鍵を開始時に暗示していた。”君達ならば、私の真意を理解してくれる”、つまりはそういうことだろう」

 

「あー! それで2階でも同じことを繰り返したんだね」

 

「言われた時点で1階に向かっていたらギリギリ間に合ってたかもしれないわね」

 

 飯田くん、轟くん、上鳴くん、常闇くん、葉隠さん、蛙吹さん。皆は口々に答え合わせをしていく。

 

 この戦略は戦闘訓練と呼ぶには相応しくないものだったかもしれないけれど、こちらの勝利条件がタイムアップしかなかったから仕方ない。

 それでもできる限り対等に戦うために私はヒントを散りばめた。

 

「第二戦で轟も半端ねぇって思ったけど別方向にレベルが違うわ」

 

 自信無くすぜ、峰田くんがそう零すのをマイトイヤーは聞き逃さない。

 

「それは仕方ないな! なんたって鴻渡少女は経験値が違う!!」

 

 ……え? あの、ちょっと、オル先生?

 

「5年間もヴィジランテとしてヴィランと戦ってきたんだからね!!」

 

 止める間も無く言い切られてしまった。

 明かされてしまった真実に皆がざわついている。

 

「あの、オル先生? ヴィジランテのことは"絶対に"、"誰にも"、"何があっても"、口外するなってイレ先生にきつく言われていたのですが…」

 

 ヴィジランテ。然るべきヒーローライセンスを持たず、勝手にヒーロー活動を行う人達のことだ。

 

「……まずかった?」

 

 オル先生は”善意の私人”に対して寛容なんだろう。

 

 だけど法的には殆ど真っ黒のグレーゾーン。そんなことを雄英高校入学直前まで続けてきたのだから、私の身体は叩けば埃が出るどころの話ではない。遵法精神に欠けヒーローの適正なしと断じられても何も言えない。

 

「……はぁ。イレ先生への言い訳はお願いしますね?」

 

 今更誤魔化しようもない。じゃあもう開き直るしかない。

 

 私は前に歩み出て、オル先生の隣に立ちまだざわついている皆と向かい合う。

 

「もう隠し事をしても仕方ないのでお教えします。私は小学5年の春より鳴羽田のヴィジランテとして活動してきました。何度もヴィランと対峙してきましたし何度か死ぬような目にも合ってます。ですので皆さんが私と比べてどうこうと思う必要はありません。

 皆さんに強要できる立場にはありませんが、どうかこの秘密を共有してもらえると嬉しいです」

 





現在判明してる使用可能"個性"コード
コックローチ
オランウータン

移動罠
治癒
ゼラチナスマター
強化睡眠記憶
伝言(メッサージュ)
どっきり☆バルーン
縮小

超回復
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