三次創作 とある装蹄師に自覚と反省を促す取材記録   作:zenra

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ある意味続いてる感


File  13

 

 

今日はお忙しい中、ありがとうございます

 

 

「ええ、本当に忙しい中よくもまぁ…」

「しっかり根回し済みだったから、良いですけどね」

 

 

はっはっは、警部補殿に釘を刺されましたからね

 

 

「あの子はもう…」

「ま、良いですよ…ただ、流石に此処では…」

 

 

あ、リハビリ室の隣の部屋を許可貰ってますんで

 

 

「本当に手回しが良いですね」

 

 

御褒めに与り恐悦至極

 

 

「皮肉ですよ」

 

 

皮肉ですとも

 

 

 

「本当に噂通りですね…ま、良いです。さっさと済ませましょ」

 

 

はいはい、では移動ですね

 

 

「それで、何から話せば?」

 

 

デビューの辺りからでお願いします

 

 

「はぁ…デビューはダート、二戦目まではそのまま走ってたわね」

「チームにスカウトされて、トレーナーに言われて芝に転向」

「其処からは条件戦でステップアップしながら進めてたわ」

 

 

途中で一度だけ掲示板を外してましたね

 

 

「チッ…良く調べてるね、そう、あの時はアタシの脚部不安が発覚してね」

「それでトレーナーと少し折り合いが付かなくって、まぁ、あのザマ」

 

 

成程、脚部不安なら走らせるのは止めたくもなりますからねぇ

下手に悪化すれば歩くこともままならなくなる

大人として、責任者としては葛藤があったのでしょう

 

 

「今ならその理屈はわかる」

「でもね、子供だったアタシは走りたかった」

「走って、アンタの教え子は、アンタの担当は勝てるんだって見せたかったの」

「あの頃はそんな素直に言えなかったのもあって揉めに揉めたけどね」

 

 

だから中15日での出走を強行した、と

 

 

「強行、と言われればそうだけどね」

「あの時のアタシには引けない勝負だったの」

「其処から駆け足で条件戦を挟んでエプソム、毎日王冠」

 

 

G1バを制して、満を持しての天皇賞秋、でしたか

 

 

「そう、あの屈辱と羞恥と憤怒と後悔に塗れた天皇賞」

 

 

メジロマックイーンに6バ身差での決着

そして、斜行と判断されての降着

 

 

「アタシにも、自信はあった」

「自負も、矜持も」

「ダイタクヘリオスとバンブーメモリーに勝ってたどり着いたあの場所で」

「どれほど強く踏み込んでも、どれほど必死に脚を前に出しても」

「一歩進むごとに、あの背中は離れていった…」

 

 

G1史上初の裁定でしたが、間違いなく、あのレースでの最強は彼女でしたね

 

 

「名目上はG1バとしてアタシは名前を刻んだ」

「けど、あの背中を何度も夢に見た」

「有馬への出走が決まるまで、何度も、何度も」

「そして、目を覚ますと決まって思い出したのが、能面のような顔をしたトレーナー」

 

 

あのウイニングライブは異様な空気でしたからね…

その後の記者会見で有馬直行を予定している、と発表

今度こそメジロマックイーンに勝つと宣言

何が正常なのか解らなくなるような状況でした

 

 

「そして迎えた有馬では、4着…結局メジロマックイーンに先着することすら出来なかった」

 

 

まぁ、あの有馬は波乱も波乱でしたから…

参戦者も、ナイスネイチャさん、ダイタクヘリオスさん、メジロライアンさん

そして、ツインターボさんとダイユウサクさん

誰もが予想もしなかった激走と、誰もが想定した爆走でペースも崩れていましたし…

 

 

「ツインターボの大逃げは解ってた、だから備えられた」

「でもダイユウサクは普通に走って普通に勝った…ただ、強かった、速かった…」

 

 

前走に比べれば着差も縮まってはいたようですが?

 

 

「さっき貴方が言ったじゃない、崩れていたからそうなっただけよ」

「おまけに脚部不安が悪化、様子を見るも快方には向かわず、引退…」

「悔しかったわ、トレーナーに胸を張ってG1勝利を見せられなかったのが」

「チームのみんなの応援に結果で応えられなかったことが」

「もう、走って結果を掴めない事が…」

 

 

…通算戦績、15戦7勝

東京レース場では5戦して全勝

芝中距離では10戦して7勝して、二着は3回

掲示板を外したのはたった一度だけ

これ程の成績を示した貴女が、自慢の愛バで無いわけがない

違いますか?

 

 

「……トレーナーは最後に、お前は私の自慢で誇りだ、って」

「何時もの優しい微笑みを浮かべて、そう言ってくれた」

 

 

立派なトレーナーさんだったんですね

 

 

「アタシ達のチームを率いて、育ててくれた自慢のトレーナーよ」

「だから、後輩達に託してしまった…」

 

 

彼女たちも、それを受けてしっかりと前を見据えて走っていたじゃないですか

 

 

「それでも! …それでも、アタシは余計なことを、言わなくて良いことを伝えてしまったんじゃないかって、ずっと思ってた」

 

 

そんな貴女に、プレゼントです

警部補殿が音頭を取って、皆で用意したそうですよ

この、寄せ書きを

 

 

「…」

 

 

貴方は間違ってない

貴方の意志を、闘志を、願いを

受け継いだチームの皆さんは、トレーナーさんと共に誇りを持って走ってましたよ

 

 

「ありがとう、ございます」

 

 

いえ…

それでは、そろそろ御暇します

今回は、ありがとうございましたプレクラスニーさん

ゆっくりと、その寄せ書きを読んであげてください

 

 

「そうします…あの子達の、その後輩達の思いを…ゆっくりと、受け取ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

小柄な体躯、透き通るような白い肌、そして太陽に輝く芦毛を翻し、駆け抜けたプレクラスニーさん

現在は医療従事者として、日々の激務に奔走しているそうです

戦績を並べれば、優駿と呼ぶに相応しい、素晴らしい戦績を刻み

脚部不安から引退を余儀なくされた名バの一人

天皇賞秋と有馬記念は余りにも異様、尋常ならざる波乱

結果として、彼女はあまりに低く見られ、所属チームすらも侮られる結果となりました

それでも、彼女の後輩たちは奮戦を続け、闘走の中で消えてゆきました

余りに当たり前に見すぎて、お忘れでは無いでしょうか

中央で走れるだけでも一握りなのだと

そこで勝利するだけでひとつまみなのだと

重賞を走るだけでも上澄みなのだと

 

G1出走だけでも世代の上澄みなのだと

 

決して、侮られて良い存在ではないのだと、思い出して頂きたい

 

 

 

さて、次のインタビューは…




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