三次創作 とある装蹄師に自覚と反省を促す取材記録   作:zenra

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辞め時を見失った感がある


File  14

 

 

漸く見つけましたよ

お話宜しいですか…?

 

 

「おや、お客人かね……まぁ、構わないよ…今、一区切りついたからね」

 

 

ありがとうございます

それはそれとして、動じませんね…?

 

 

「客人が来る事は珍しいが、ない事じゃあないからね、驚くほどじゃないだろう?」

 

 

いや、自分で言うのも何ですけどノンアポで来た記者とか怪しいでしょうに

 

 

「怪しいかどうか程度で判断はしていないから問題は無いね」

「ま、不埒者なら鎮圧するだけさ」

 

 

誘導バ時代に護身術教室開いてましたものね、貴方…

 

 

「フム…褒められている、と取ろうか」

「それで、本題は何かね? 時間を取るのは構わないが、無駄にできるほど余っているわけではないんだよ、私の時間は」

 

 

おや、それは失礼しました

現役時代から今に至るまでを簡単にお聞きできれば、と

というかですね、私が言うのもおかしな話ですが

貴方の経歴が流転し過ぎなのでは…?

 

 

「フム…? そうかね?」

 

 

芝でデビューして次走からダート

条件戦で芝とダートで行き来して、チームを離脱

スカウトを受けて専属トレーナーと共に障害レースへ転向

現役引退後は誘導バとしてターフに舞い戻り、後輩への指導や現場での改善案等で活躍

かと思えば突然の退職からの大学入学

京都産業大学で生命システム学科で学び、卒業と同時に静岡大学に編入学

現在は博士課程で光医学工学研究科にて何やら開発している、と

此方で掴んだ情報では、ウマ娘の脚部治療の為の装置だとか?

 

 

「君は、中々に優秀なようだね」

「一応は秘匿研究なんだがねぇ…表向きは医療器具の改善案を洗い出している事にしていたんだが?」

 

 

蛇の道は蛇、というやつですよ

 

 

「ふぅむ…そこはまぁ、構わないんだがね」

「そこまで調べてあるなら、私の口から語る必要があるとは思えないのだが?」

 

 

調べたことが全てではないでしょうからね

やはり、お聞き出来るなら、というものですよ

 

 

「まぁ、その辺は解らなくは無いな…」

「良いだろう、デビューの頃から話せば良いのかな?」

 

 

えぇ、それでお願いします

 

 

「私は最初、選抜レースを経てチームに入った」

「その次の週にはダートで出走、クラシックの4月までだったかなぁ…ダートで走り続けたものさ」

「残念ながら、勝利は条件戦で一度だけだったがねぇ」

 

 

諭鶴羽山特別、アタマ差勝利のレースでしたか

 

 

「うむ、こう言っては何だが、芝もダートもしっくりこなくてね」

「そんな中で勝てたレースだったから嬉しくはあったさ」

「だが、私の中ではダートでは無い、と感じていたのも事実さ」

 

 

条件戦の露草賞を最後にチームを離脱されてましたが、それが理由でしょうか?

 

 

「それが全てではないが、そうだね…」

「まぁ、今ならいいかな…あれから10年以上たってるし…」

「実は、トレーナーにスカウトされたのが切っ掛けだったんだよ」

 

 

えっ?

基本的に、双方の同意ありき、とはいえ

トレーナー側が決定権を、ウマ娘側が選択権を持っている関係で色々と暗黙の了解があったと聞いてますが…

(根本的に生徒側に選ぶ自由と教育者側に決断の責任がある、という事らしい)

例えば、積極的な引き抜きや、移籍を焚き付けるような真似は厳に慎むといった感じで

 

 

「その認識は合っているよ」

「トレーナーと出会ったのは本当に偶然でね」

「その時、私の関節や筋肉の柔らかさ、バネを見て障害で走るのも面白そうな素材だな、と」

「そんな独り言を言っていたのを私が聞いただけだったんだ、最初はね」

 

 

最初は?

 

 

「トレーニングで見かける度に私がアドバイスを求めてね、それでそれなりに親しくなったのさ」

「勿論、褒められた事では無い」

「だが、私は私が感じる違和感の解消の…手がかりだけでもいいから、欲しかった」

 

 

感覚的なモノは当人以外には伝わりにくいものですからね…

 

 

「感覚を言語化して他者に理解できるように伝達する、この難しさはいつになっても変わらないな」

「感覚だけに曖昧な部分も多くなるしねぇ…ま、それは別にいいんだ、今は関係ない事さ」

「チームでは私は浮いていた、というか…まぁ、馴染めていなかったからね」

「良いチームではある、と感じていただけに、忍びなくてね」

 

 

忍びない、ですか?

 

 

「そうとも、私は勝てない事よりも、違和感の解消を気にしていた」

「練習にも励んではいたが、それでも勝つためのトレーニングを積むチームの者達とは着地点が違うからね」

「それで結果を出しているならまだしも、結果も出さずに毛色が違う者が混じっていれば、それは不和の種にもなるさ…残念ながらね」

「夏合宿を前にしてチームから離脱したのは、コレ以上私の事情で空気を悪くするべきではないと考えた結果さ」

 

 

(言うほど当時のチームは気にして無かったようなんですがね…むしろ、力になれないから申し訳ないとかそういう風に思っていたらしいので、空気が悪く云々は違う意味であってそうなのがアレですが…)

 

 

「そうして、フリーになってレースにも出れなくなったウマ娘が一人出来上がったわけさ」

「脱退したその日にトレーナーに出会ったのは、良かったのか悪かったのか」

「普段ならアドバイスを求めてくる私が静かだったのが、余程意外だったのだろうね」

「あの御人好しのトレーナーは、根掘り葉掘り聞いてきたんだ…いやぁ、懐かしい」

 

 

御人好し、ですか?

此方が調べた限りでは無口無表情の鉄面皮

新人トレーナー一年目でサブトレーナーとして研修

二年目はあちこちに研修の名目で助手のような仕事を請け負って走り回り

二年目の夏合宿前に貴女をスカウトした、という流れだったと思うのですが?

 

 

「はっはっは…うんうん、外から見ればそれは正解だね」

「が、真実は少々異なる」

「先ず、彼女はサブトレーナーとして業務を請け負った理由だが…シンプルに、担当が付かないことを心配されて、直接の先輩に声を掛けられたそうだよ」

 

 

は?

 

 

「二年目の仕事を請け負っていた、というのは、彼女の仕事ぶりが先輩から漏れて、手伝ってほしいと先輩の同期連中に言われたのを受け入れたからさ」

「夏合宿前に頼まれた仕事を終わらせて、ウマ娘とのコミュニケーションもそれなりに取れるようになったのだから、担当を探してみろ、と送り出された所で私と出会った」

「私が担当になった時に、先輩とその同期連中が祝いの品を持ってきていたので確かめたから、間違いないよ」

 

 

はぁ…

つまり、鉄面皮でうまくスカウト出来ないのを心配されて

サブで色々なチームのウマ娘とコミュニケーションを取る事で慣れさせて?

大丈夫かな、と心配されながら送り出された、と

 

 

「うむ、良い理解だ。 アレで案外愛され系というヤツなのだよ」

「何というか、付き合いがある人間には好かれるが、付き合いが無いと距離を取られるというタイプだね」

「ま、話を戻そうか…トレーナーは私の違和感解消の手掛かり探しに付き合ってくれていたのもあったからね」

「その場で専属契約を結ぼう、と言われ、そのままあれよあれよと言う間に先輩連中の合同合宿に連れていかれてね」

 

 

あ、強引というか、勢いよく話を進めるのは本当なんですね

 

 

「そうだね、トレーナーは決断したら躊躇いを持つことは無い人だったね」

「合流してからは様々なタイプのウマ娘がいたからね、色々と試したよ」

「その中でも、一番違和感なく走れたのが障害レースの練習だった」

「そこからはトレーナーが一気に動いてね、私を障害レースに転向させて、出走登録まで済ませてきたんだ」

 

 

そこは相談とかは…?

 

 

「いや、私が最初に任せるから、良い時期の良さそうなレースを見繕ってくれと」

「移籍した翌月の走ったこともない障害レースに登録してきたのは想定外だったがねぇ」

「流石に合同合宿していた先輩連中にも心配されたが、そこはそれ、飛越練習用の短距離コースを流して見せたら色々教えられたよ」

「中には、手作りの練習用障害なんて持ってきて、私に並走練習をさせてくれた人もいたね」

 

 

わぁ、優しい世界(震え声

 

 

「そうでもないさ、障害レースは出走者も少ない」

「十分な練習を積ませようにも、並走なんてまず出来ないからね」

「そういう意味で、お互いに利があると判断しての行動だったのだろうさ」

「後々、色々な意味で長い付き合いになったギフテッドクラウン先輩との出会いもここだね」

 

 

貴女同様に、芝ダートを走ってから、障害レースに転向

東京オータムジャンプや小倉サマージャンプを制した、あの…

 

 

「うん、戦歴に目を通した時によく似た戦歴だな、と思ったものさ」

「それだけに、競争中止で倒れた彼女の姿はよく覚えているよ…」

「私は最後のレースも走り切って、故障が発覚した」

「治療に専念して一か月様子をみるも、回復しなかったために引退を選んだ」

「だが、彼女はレース中の負傷に気づかず走り切ってしまった…」

 

 

復帰は絶望的、として引退を表明でしたか

車椅子で引退発表をしていたので、私も覚えていますよ

 

 

「私も引退したばかりだっただけに、酷くショックを受けた覚えがある」

「先輩は私の分まで走って来る、なんて言っていたからね」

 

 

それは…

 

 

「無論、それで私のせいだと喚くつもりは無いさ」

「だがね、先輩が走り切ってしまったのは、私に言った一言があったからかもしれない、そう思うのは止められなかったよ」

「まぁ、本人に突撃されてごめんねーって言われて面食らったのは…良い思い出…? なのかなぁ…」

 

 

えっ?

 

 

「いや、ニュースの引退会見は録画だったんだけどね」

「見てる最中に先輩が突然突撃して来てねぇ…」

「で、ごめんねー、私も引退しちゃったーって、笑いながら言うんだよ」

「とても…とても、面倒見のいい、優しい先輩だったからね」

「心配させてしまったんだろうね、私が気に病むのでは、と」

「それはそれとして着替えまで用意して泊まり込みでパジャマパーティー開催して帰って行ったのはどうかと思うが」

 

 

は、はぁ…

マイペースなんですね…?

 

 

「あぁ、そうだね…レースでもマイペースで、崩れない人だったから…本当に手強かったんだ…」

 

 

阪神ジャンプSと京都ハイジャンプですね?

 

 

「うん、私が制したレースだが、先輩も本当に強かった」

「飛越で差を付けても、マイペースにスパート位置を探って、走る」

「先行されている状況で、冷静にそれをやるのがどれだけ難しいか…」

 

 

ウマ娘の闘走心の強さを理性でねじ伏せる

レースを走る上でどう折り合いをつけるのか、難しい問題ですよね

 

 

「その通り、だからこそ私は先輩を尊敬しているのさ」

 

 

成程…

ギフテッドクラウン先輩大好き♡ということですね?

 

 

「〇すぞ」

 

 

冗談です(震え声

 

 

「フン…ま、いい。 話を戻すか」

「続く中山グランドジャンプで惨敗、同時に故障発覚で引退は先に話した通りだね」

 

 

元春の中山大障害、障害G1の大一番、ですか

 

 

「そうだね、グランドジャンプと中山大障害は、障害レースを走る者には掴みたい頂きだからね」

「まぁ、悔しかったが…同時に満足もしていた」

「違和感なく走り、跳ねて、駆ける」

「それでいい、と思えたんだよ」

「先輩の故障引退を見て、進むべき道を決めたのは、この時の満足があったからかもしれないなぁ」

 

 

進路決定の切っ掛けですか

 

 

「そうだね、所でウマ娘は免許証や資格試験等の一部に緩和措置が設けられている場合が多い」

「何故だと思うかね?」

 

 

え? いや、それは…何故ですかね?

 

 

「これは個人的な推察でしかないがね、レースを走らなくなったウマ娘の本能がどこに向かうか、わかるかね?」

「様々な方向に行くが、問題が起こる頻度は少なくないのだよ」

「これは、闘走心が特に強い者に起こりやすい」

「それを回避する為の措置、その一環であると私は考える」

「目指すものに手を伸ばせる環境、というものが有ると無いとでは随分違うだろうからね」

 

 

それはまぁ、試験そのものは同一であったりしますが、受験資格が緩和されているケースは確かに多いですが…

 

 

「これにはもう一つの面があってね」

「こうでもしないとトレーナーの奪い合いに乗り出す者が増えてしまうのではないか、と考えている」

 

 

は?

 

 

「海外では一人のトレーナーが複数のウマ娘に狙われた結果、事実上の重婚状態に追い込まれるケースが散見されている」

「このケースはレース以外に目的、というか目標かな? それが存在しない場合に陥るパターンと言える」

「年々、URA理事会への多夫多妻制度認可を嘆願する書類は増えているんだよねぇ」

 

 

あの、それって部外秘なのでは?

 

 

「なぁに、噂話から推察した、単なるたられば話さ…そうだろう?」

 

 

アッ、ハイ

 

 

「今では事実上の一夫多妻を黙認している国も増えていてねえ…」

「財産分与等でもめる事が無いように、法整備に慎重になっているとも取れるが」

「URA理事会は世界中に根を張っている。 組織としても無視できない規模だからね」

「そこから提案として流れてくれば、完全無視も難しい話だろうさ…」

 

 

えぇ…その話聞いてていいんですかねぇ

 

 

「名家や財閥連中は、囲い込んで年頃のウマ娘のトレーナーとして宛がい、最終的には一族に引き込む…そういう流れは少なくないよ?」

 

 

あ、すいません、この話はここまででお願いします(土下座

 

 

「ま、良いだろう…では、現在の進路に至るまでの話をして、締めとしようか」

「先輩の故障引退、私自身の故障引退」

「ウマ娘のレースに故障引退は付き物、とはいえ」

「故障から復帰出来るなら選択肢は増える…」

「だから私は治療の手段を増やせないか、と考えたのさ」

 

 

ふむ?

でしたら誘導バとしてのお仕事は何故…?

 

 

「実にシンプルさ、ターフで見るウマ娘から最も奪うべき故障を見極めていたんだ」

「データで見ればそれで済んだかもしれない、だが、私は実際に見て考えたかったんだ」

「そして、私なりに見極めた結果、屈腱炎の克服を目指せないかと…そう、強く思ったんだ」

 

 

それで、突然の退職と大学入学となった訳ですか…

 

 

「うむ、生命システム学科で現在の治療法以外のアプローチや、より効果的に治療を施すには何が必要かを考え続けた」

「結論としては、今以上に器具や設備を向上させて、より繊細な治療を可能とする」

「その方向性に進んだ訳さ」

 

 

卒業してから編入学して光医工学研究科で博士課程にまで進んだのはそう言う事ですか…

 

 

「時間はかかったが、まずまずのモノが出来たと思っているよ」

 

 

幹細胞移植治療、ですね?

 

 

「その通り、あの治療法は画期的だった…」

「それだけに、限られた設備や器具での対応しかできなかったが…」

「私達のチームで開発した検査機器や治療の補助器具は、まだまだ高価なものであるがね、間違いなく治療を受けられる数は増えるだろう」

「今後はより廉価で機能を落とさずに作れるようになれば、一区切り」

「そこまで行くのは未だ遠い道のりだが…踏破してみせるさ」

「さ、これで話はおしまいだ…インタビューとしては申し分ないだろう?」

 

 

えぇ、まぁ、はい

それでは、今回はありがとうございました、アイディンサマーさん

 

 

 

 

 

 

 

額に白い星を持つ鹿毛のジャンパー

 

通算成績21戦4勝

芝もダートも走り、障害レースへ転向した彼女は、そこで天性のジャンパーとして開花する

阪神ジャンプS、京都ハイジャンプ

この二つのレースで、彼女は障害を越える度に加速する走りを見せました

トレーナー曰く、障害が多いほど彼女は早くなる、と

それだけに春の中山グランドジャンプでの敗戦と、故障発生に関係者は深い悲しみに沈んだそうです

 

引退後は誘導バとしてターフに戻り

後に京都産業大学に入学、卒業と同時に静岡大学へと編入学

現在は博士課程を修めつつ、医療器具や設備の開発に注力しているそうです

 

当時のトレーナーにお話を伺ったところ、予防が難しいので治療法しか探せない自分を不甲斐なく思っている、との事

志は高く、レースで障害を越えていた時のように、超えていく姿を見せてくれることを期待したいですね

 

 

 

さて、次のインタビューは…





…?


あれ、おっちゃん出てねぇ

並びは

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  • 分けない
  • ちくわ大明神
  • そんな事より続き書けや
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