何もなく、光ひとつ見出だせない暗闇の中。
紅色の炎の球がふわりふわりと彷徨う。まるで行き先に迷っている、あるいは戸惑っているように。
――オ、レ、ハ……。
炎は苦しんでいるような、藻掻いているような唸り声を発する。
事実、炎はだんだんとだが消え去っていた。
――マダ、マダ……。
消えてなるものか、とでも叫んでいるかのように――否、実際に炎は叫んでいた。
徐々にそこにはない脚で、炎は駆け出す。
光のない暗闇を切り裂く。脚の感触が戻ってくる。
それでも突っ走る。あのときの包囲を暗闇に置き換えて。
――オレハ……オレハッ……!
身体がデータを修復していくかの如く、構築されていく。
新しい身体が、『彼女』を――『怪物』を蘇らせる。
人間の女性と同じ細い腕。『彼女』が少し握るだけで、それに筋肉が盛り上がる。
人間の女性と同じ形の足――否、脚。『彼女』には、それがどことなくガラスのようだと感じる。
紅蓮の炎を灯した、紅色の双眸。そこに一筋の光が反射する。
長い赤髪をたなびかせ、紅の瞳が細まり――改めて新たな脚で空間を踏み込み、一直線に駆け抜けていく。
――脚が……身体が……人間のものになって……。
『彼女』はにやりと牙を剥き。
「ハハハ……ハハハハハッ!」
急に立ち尽くし、よはど面白いことが起きた時みたいに、大声で笑った。
そこには恐怖も躊躇いも戸惑いもなく。
あったのは――未練だけだ。
唐突に笑うのを止め、『怪物』の顔は一切の表情もない能面となる。
一筋の雫が、暗闇に吸い込まれていく。
「……おい、いるか?」
眼前にある光に向かって、彼女は怒気を含んだ声を発する。
今度こそ逃さないとばかりに、睨めつける。
涙を頬から垂らしながら、『怪物』は告げた。
「今度こそ、逃さん。オレより先に逝かせんぞ」
『怪物』――イージーゴアは光に歩みだし、そして――。
――それを掴んだ刹那、世界が変わった。
「なああいつ、凄すぎないか……!?」
「なんだよ……あれ……」
「二十一バ身も、あそこから離した、だと……」
トレセン学園のレース場。そこは今現在、どよめき一色に塗り替えられていた。
「あのウマ娘は貰ったわ!」
「あっ、おまっ、ズルいぞ!」
そんな空気を作ったウマ娘に、各々トレーナーたちがスカウトになだれ込む。
「俺と組めば、クラシック三冠だって獲れるさ!」
「いーや、わたしと一緒に日本のウマ娘を席巻しましょう!」
誰も彼もが彼女をスカウトしようと、躍起になる。
だが、彼女は見向きもせずに立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれ!」
「それだけの才能を腐らせる気か!?」
その行動を読んだトレーナーたちはさらに慌て始める。それだけ、彼女を育て上げたいのだ。
けれど彼女は溜め息をつき、ペットボトルに入った水を口に含むと、意も介さずにその場から歩き出す。
「……イージーゴア、か」
ふと彼女――イージーゴアの耳が跳ねる。
「……誰だ。名乗ってくれないか?」
言いながらも声を発した男性を視線だけで縛り、動けなくする。
「
頭部の後ろで腕を組み、口笛を吹くも、どこかもどかしそうに答える。
そのもどかしさへの答えは、既にイージーゴアが知っていた。
「……貴様」
「アッ、ハイ」
宗太郎はビクリと身を震わせる。
「オレのトレーナーになってみないか?」
「アッ、ハイ。……えっ」
続きはないです。勢いだけで終わらせた感覚が凄いマン……。