TS転生先がエロRPG世界っぽいので最高の敗北を味わうために全力処女プレイしてみせる! 作:北京院
唐突ながら、俺はエロゲーが好きだ。
本格的なノベルやシミュレーションも好きだが、お手頃価格でエロ要素がある女主人公モノのRPGが特に好きだった。
スケベな敵やモンスターの中を強かったり、戦う力がなかったり、無知だったり、耳年増だったりする女の子が必死に生き抜く話が好きだった。
すぐにぐちゃぐちゃにやられてしまうのも嫌いではなかったが一番好きなのは「頑張ればエロイベントを回避できるゲーム」だ。
必死に戦い、抗い、それでも一歩届かなくて凌辱されてしまうという悔しさが必死に綺麗なままにしようとしていたものを汚してしまったような取り返しのつかなさに変わり普段よりも興奮できたのだ。
詰みイベント的にめちゃくちゃに強い相手に取れる手段すべてを切ってギリギリで勝つのも、それでも足りなくて負けてしまうのも好きだ。
負けたくないと必死になって手を尽くそうと知恵を絞るのが楽しかった。
何らかの理由でバッドステータスや人質を取られて負けてしまうのも悔しくて悔しくて涙がでそうで興奮した。
前提のフラグをどこでたてられたのか考えたりそのうえで罠を踏み潰す手段を考えたりするのも楽しかった。
負けてしまった後に弱体化したステータスになっていることや『経験値』が付与されてしまったことを確認するのは壊れてしまった大切なものを改めて認識できて最高だった。
もう戻らないものなのだと思えば思うほど胸が高鳴ったし、そこから増えていくことを想像すると芽吹いたばかりの種を愛でるような気持ちにもなった。
……さて、どうしてこんなことを振り返っているのか。それはこの前世の記憶を『思い出した』からだ。
『私』は年のころは10の少女であり、剣と魔法のファンタジーで普通の──よりは少々才能があるかもしれないけれど──女の子として村で平和に生きてきていた。
名前はサナリア。あだ名はサナでショートの栗色の髪に青い瞳。
自分でいうのもなんだけれど可愛い女の子だと思う。
目の前には幼馴染のユートが心配そうに顔を覗き込んでいる。前世の記憶は魔力の制御がうまくいかなくって爆発してしまった衝撃で思い出したようだ。
強めの魔法を使えるようになったことがうれしくて楽しくて、特訓しようとして少しはしゃぎすぎてしまった。
はしたない。ちょっと、恥ずかしい。
ユートは少し長めの目が隠れそうなぐらいの黒髪に黒目で少し内気な性格の男の子だ。
幼馴染みの女の子に負けるのが嫌で、というよりは幼馴染みを──俺を、サナリアを守れるように強くなりたくて一緒に訓練をしている。
一生懸命だけれどあまり上達は早くなく、少しドジだけどほうっておけないところがある。同い年だがまるで弟のようなものだと思っている……のだけれど。
なんだかこう……めちゃくちゃ強いけど性格最悪な勇者に幼馴染みと一緒にパーティーに召し上げられるも自分は荷物持ちにされて変わっていく幼馴染みを見せつけられたり山賊に不意をつかれて目の前で汚される幼馴染みを見せつけられたりする寝取られものの男みたいな、幸の薄そうな顔をしている。
そこまで考えてから気づいた。ユートの幼馴染は俺だった。
誰が寝取られものの女だ俺は寝取られないぞ。
そもそもユートとも寝ないぞ。
「だ、大丈夫?」
「うん……ありがと」
差し出された手を取ろうとしてユートの顔が赤くなっていることに気が付いた。
目をそらされて不思議に思い、自分の身体を見ると肩が大きくはだけてしまっている。
爆風で体に傷はついていなかったが、服がボロボロになってしまったらしい。
「ご、ごめんっ!」
勝手に魔力を暴走させて、勝手に自爆したのはこちらなのに何を謝ることがあるだろうと少しおかしかったけれど、それと同じぐらいに恥ずかしかったので両手で体を隠した。
お母さんに怒られてしまうかな、と心配にもなった。
ともかく、俺は前世があってこの世界はファンタジーだが、それだけではない。
──どうやら俺はエロゲーの世界に転生してしまったらしい。
この世界自体に見覚えがあるわけではない。ただ前世の豊富なお手頃価格RPG系エロゲ知識が「これはよくあるやつなのでは」と呼びかけてくるのだ。
それこそ幼馴染みを寝取られるためにいるような弱くも優しく懸命に生きるユートであったり、娘が戦う力を身に付けようという時に「何よりも逃げることを優先すること」と言って魔物との対峙を極端に恐れる母親だったり。
ゴブリンが存在しているらしくって、そいつが女性を「ひどいめ」にあわせるらしかったり、なんか魔物の体液とかが滋養強壮にものすごくいいらしくっておじさんたちに人気らしかったり。
それから何よりも『神に祝福された勇者たちは死を乗り越え何度も蘇り魔王を倒した』というお話が当たり前に受け入れられていたりすることだったりだ。
つまり「HPがゼロになったけどデッドエンドじゃなくってイベント回収して生き返れるよ☆」というやつだと思う。
普通のファンタジーなら死んだら死ぬ。死なないで生き返るのはよっぽどのイベントで自らの命を代わりに捧げるみたいな大イベントの時ぐらいのものだ。
しかし勇者は生き返るものだったというのはこの世界の常識のようなところがあるらしい。
つまりはここがRPG的な世界であることは間違いないだろう。教会もなんか立派なのがあるのであそこが蘇生場なんだと思う。
前世を思い出す前、自分に魔法の才能があることを知って学びたがったときに真剣な顔のお母さんに魔物の怖さを説かれたことも今なら納得できる。
一人娘がぬぽぬぽがっぽしな目にあうかもしれないと思えばそれはそれは気が気でなかっただろう。
魔物の体液がどうこうと話されたのもつまりよくあるえっちなやつだと思う。
前世で聞いた名高き乳首ねぶりスライムとかもいるのだろうか。
さて、過去を思い出した俺には選択肢が二つある。ひとつはこれまでのように普通の少しだけ才能のある村娘として生きる道。
もうひとつは……この身体を使って、とことんまでこの世界を『楽しむ』ことだ。
もちろんそんじょそこらの雑魚魔物やらスケベなおっさんに身体を触らせてやるなんて意味ではない。
なかなかに目鼻立ちも整っているし、幼いながらも我ながら可愛らしい顔をしているのだから、きっとたくさんの魔物やおっさんやら山賊やら、なんならスケベ貴族やら好色商人なんかにもモテモテなこと間違いなし。
そんな身体を、心を安売りしてなるものか。
二度目の生を受けて、ゴブリンやらスライムやらの人外が跋扈する世界で、少しばかり戦える才能があるらしい可愛らしい少女としてどう生きるのか。
心優しい少女なら、困っている人をほうっておけないだろう。
世間知らずな女の子には数々の苦難が襲いかかるのだろう。
その中で少しずつ無垢な少女は汚されていく。
なんて
なんて
ただそんじょそこらの理不尽には屈してやらない。負けてはならない。
だって最初の一回が一番辛くて重いはずだからだ。どこまでも善を信じて貫いて、それでもかなわず屈するその瞬間が一番
その
抗って、抗って、抗って。それでもどうしようもない絶望に膝を折る。
──なんて素敵な計画だろう! 最悪の敗北のためには可能な限り悪いフラグは叩き折って進まねばならない。セーブも、ロードもなしでの超高難易度だ。
でも、きっと。そのぶんだけいつかの『絶望』は
「ユート、私ね」
我慢は嫌いじゃない。目的のための努力は苦にならない。
だから、やる。
「将来は困ってる人たちを助ける旅をしてみたいな」
俺は難易度不明のこのエロゲ世界で「処女プレイ」を全力で貫いてやる。
そう決めたのだ。
◇ ◆ ◇ ◆
僕は弱い。
幼馴染みのサナに勉強でも運動でもぜんぜん勝てたことがない。
「私が守ってあげるからだいじょうぶ!」
そういって笑う栗色の髪と青の瞳はとてもまぶしくって、胸がドキッとした。
それと一緒に情けなくって、もっとがんばらないとと思った。
子供の頃から……今も子供だけれど、もっとちいさいころから、僕とサナはよくいっしょにいた。
他の子とも遊んだりしたけれど、みんなの中心にはいつもサナがいた。
明るくて、優しくて、女の子を泣かせる男の子にお説教をしたり男の子を無視する女の子に話を聞いたり、いろんなことに関わっていた。
お節介な彼女を嫌いな友達もいたけれど、僕は彼女にとても憧れていた。
近くの家に住んでいて、生まれた頃も近いからというだけで彼女の近くにいるのが恥ずかしいぐらいだ。
きっと彼女にとって僕はたくさんいる友達のひとりだけれど、いつか特別になれたらいいな、なんて思っている。
「ユート、私ね」
だから。
「将来は困ってる人たちを助ける旅をしてみたいな」
優しい彼女の将来の夢を聞いて、僕は強くならないといけないんだと決心した。
旅をする。いうだけなら、簡単だ。でもそれはとても難しい。
何人も護衛を雇って村へ荷物を運ぶ商人の人たちがいる。それは盗賊対策でもあるけれどそれ以上に魔物対策の意味合いが強い。
魔物は強く、残忍だ。そして何よりも『人の心を壊すこと』に長けている。
むかしむかしのおとぎ話……魔物が今よりもずっと多くて、強くて、その王である『魔王』が人を滅ぼそうとしていたとき。
神様がもっと近くにいて、祝福をもらえた人間はとても強い力を発揮することができたという。
そして何よりも、祝福を受けた人の魂は強い意思があれば自らの身体へしがみつくことができたらしい。
それはつまり致命傷を負っても──どころか、命を奪われようとも『諦めなければ』死体に意志を──魂を遺していられたのだ。
死体を回収し、傷口を魔法と薬で塞いで、動くことができるようにすれば立ち上がれる。
人を超えた『奇跡』を、人が及ばぬ敵への対抗手段として振るって、かつての人たちはなんとか魔王を打ち倒したという。
ただ、魔物たちは学習してしまった。
『人間をただ殺しただけでは神の奇跡と祝福でもって蘇ってくる』ということを。
ならばどうするのか?
殺された人は、死の寸前までの記憶を確かに残している。だから負けてしまった相手でも対抗手段を練ることができた。
伝えられた情報を共有して悪逆非道へと怒り、恐怖を乗り越え戦うことができた。
だから、魔物たちは人間たちの身体を破壊するだけではなく──心を、破壊することを考えた。
死の直前までの記憶は残っている。だから、死の痛みと恐怖を乗り越えられたものだけが『蘇生』の奇跡を受けることができた。
ならば乗り越えられないようにしてしまえばいいと、魔物たちは考えたらしい。
魔物に殺される人間は、簡単に死を迎えることができない。
僕も詳しく教えてもらったわけではないけれど、生きていることを後悔するような凄惨な目にあうのだという。
腕をもがれ目を削がれ、それでも死は許されない。二度と立ち向かうことを考えられなくなるように念入りに殺す。
生を貶めて死を辱しめる。生きていられなくなるように、死んでしまいたくなるように。
だから魔物に対しての警戒はしてもしすぎるということはない。
『もしも』の時に、どれだけ残酷な目にあうのかわからないのだから。
今はもう蘇生の奇跡を受けられる人はいなくなった。
魔王が消えて人の世が栄えて神様が遠くなってしまったから。
神の祝福が遠ざかり、魔王が世界から消え去って、それでも魔物の本能は変わらず……むしろ王を討った人間への恨みをもっているみたいに獰猛さを増した。
皮肉なことに魔物たちの血肉や魔法は人の身体を癒し、死までの時間を延ばすことに優れているという。
死なないようにいたぶるための進化だ。だから魔物を倒せば薬の素材にすることができる……そのために魔物を狩ろうとして、帰らない人になってしまう人が時々いる、らしい。
これは母さんが教えてくれた話だ。うちに父さんがいない理由だ。
父さんは昔、大けがをした友達のために魔物を殺して薬を作ろうとしてそれきり帰ってこれなかったんだと言っていた。
魔物は怖い。身軽な旅なんて、もしも魔物に襲われたらということで絶対に止められる。
でも、サナは結構がんこだからみんなが止めても旅に出たいと思ったら出てしまうと思う。
その時に僕は隣にいたい。
サナを絶対に守り切ってみせるといえるほど強くないけれど、彼女が襲われるときに身代わりになれるぐらいの存在ではいたい。
生きていることを後悔させられるなんてことを絶対に味わわせてなるものか。
だから僕はサナの旅の夢を強く止めることをやめた。きっとサナのお父さんもお母さんも止めてくれるから、止められて止まるならそれでいい。
それでも止まらなかったとき、僕は彼女と一緒にいって、彼女が犠牲になることだけはなんとして止めてみせる。
そう決めたんだ。