TS転生先がエロRPG世界っぽいので最高の敗北を味わうために全力処女プレイしてみせる! 作:北京院
自らを「魔王軍幹部」と名乗ったオークは大きな棍棒を構えてどっしりと構えた。
ここは大きく開けた広間のようになっていて明かりも少し大きい。しっかりとあたりが見渡せる。
近くのゴブリンはあと10匹──今、ファイアボールで1匹しとめてシャルリアが1匹殴り倒したので8匹。
オークはこちらを観察したまま動かない。ユートはオークを警戒しているのでこっちも動けない。
じっとりとした視線が向けられているのを肌で感じる。
「ほう……いい雌を連れているようだ」
正直気持ちのいい感覚ではないな、と思った。なるほどこれが『欲望の込められた視線』というやつなのか、と納得した。
身近にいたみんなは本当に優しい人だったんだなぁという実感と共に頭のどこかが冷静に
「氷矢よ、我が敵を射貫け。アイスアロー!」
嫌悪感を材料に作られた氷の矢が風を切る音を鳴らしながらオークへと飛んでいく。
ファイアボールよりも速度の速い矢が何本も突き刺さった──ように見えた。
しかし、頑丈な皮膚で防がれたのか傷を作ることすらできていない。パキリ、と軽い音を立てて矢が折れていってしまう。
一見すると太っているだけに見える身体はおそらくほとんどが筋肉なのだろう。豚がそういう生き物だという話を聞いたことがある気がする。
──つまりこいつも綺麗好きだったりするんだろうか、なんて関係ない話がふと頭をよぎった。
「しかし軽いな、ではこちらから──」
オークが上段に棍棒を掲げ、飛び上がる。
合わせて向かって来ようとしたゴブリンへは残った氷矢をぶつけてしとめた。あと7匹。
流石に大人しく殴られる気はない。痛いのは嫌だし、ユートやシャルリアを傷つけさせたくない。
拒絶の意思を込めて魔力を練る。壁を張るイメージと弾き飛ばすイメージ。嫌なものを遠ざける魔法。
「障壁よ、我が敵を弾け! プロテクション!」
半球状に魔力の壁が具現化し振り下ろされた棍棒を受け止める。ドームを少し大きく作った結果として内部にいたゴブリンが弾き飛ばされて壁のシミになった。あと6匹。
しかしオークの振るう棍棒は吹き飛ばされることもなく押し込もうと力をこめられ続けている。普通なら殴った本人か少なくとも武器は吹っ飛ぶはずなのに、とんでもない膂力だ。
障壁ごと押し込み、俺たちに害を為そうとしている。衝撃は完全に防いでいるはずなのに、気分が悪い。
拒絶の意思自体をへし折ろうとしているかのような圧力を障壁に巡らせた魔力越しに感じる。
「このっ……離れろ!」
押し付けたままではらちが明かないと判断したのか振りかぶりなおそうとしたオークへ、ユートが切りかかる。オークは見た目にそぐわぬ軽快なステップでそれを避けると距離を取った。
こちらもいったん息を入れる。障壁の展開が解けて元の態勢に戻った形だ。……相手のゴブリンの数だけは確実に減ってはいるけれど。
「ふむ……面白い手土産になりそうだ。持ち帰って──むっ」
「させるかッ!」
もう一度オークが襲い掛かろうとするのをユートが先制して切りつけるが、やはり皮膚が厚いのか刃があまり通っていないようだ。振り回される棍棒をまともに受けてしまったら剣のほうが折れかねない。単純な重量差がありすぎる。
何度か打ち合ってはいたが、オークが横薙ぎに振った棍棒に弾き飛ばされてしまった。無事に着地はできているけれど、血が出ている。額のあたりを切ったのだろうか。
「氷槍よ、我が敵を貫き凍てつかせよ! アイシクルランス!」
追撃しようとしたオークへ目掛けて矢よりも鋭く破壊力のある槍を放つ。
貫くことはできなかったが腕に刺さり、傷を作ることができた。内部から凍りつかせる冷気も送り込んでいるはずだが、動きが鈍ってはいない。
勢いよく腕を振るわれると槍は抜けてしまったがダメージは与えられている。急所に刺されば十分な効果があるはずだ。
ついでにぶっ刺したゴブリンが砕けてバラバラになった。あと4匹。
敵討ちのためか向かってきていたゴブリンがもう1匹いたが、シャルリアが割って入って蹴り飛ばした。あと3匹。
「サナリアさん、ご無事ですか?」
心配そうな顔でシャルリアがこちらを見ている。とりあえずは問題ない。
集中力は途切れていないから魔法はまだまだ使えるし、ユートたちを巻き込まないように気をつけてもう少し強力な魔法を撃ってもいい。
だから大丈夫。ここではまだ負ける気はない。死力を尽くしていない。バッドエンドはまだ早い。
浅く早くなってしまっていた息を整える。後ろの女性も無事に送り届けなければならない。
意識を失ってしまっているが、息はある。ここで負ければ俺だけじゃなく、この人も、シャルリアも、ユートも危険なのだ。気合を入れなければ──
そこでパチン、と両ほほを手で挟まれた。
「あなたはとても優しいんですのね……ですが、気負い過ぎですわ。ご安心なさいまし」
急な衝撃に目をぱちくりさせているとシャルリアが一歩前に出た。
そのままなんでもないようにオークに向かってゆっくりと歩いていく。
「この身体は、拳は。人の上に立つものとして──誰かの前に立つものとして、磨いてきたんですから!」
残りのゴブリンが一斉にとびかかる。『危ない』と思って詠唱破棄で生み出した火球が届くより早く、シャルリアの拳が全員の顎を砕いていた。
しかしそれに合わせて振るわれたオークの棍棒が直撃する。ユートが駆けだしていたけれど、遅かった。
俺が酷い目に遭うならともかく、これはあんまりじゃないか。ちょっとおバカだけれど、優しいお嬢様が一瞬でこんなむごい目に合うなんて聞いてない。
絶望に染まりかけた思考の中、土煙の中から現れたのは無惨に轢きつぶされたシャルリア──では、なかった。
「さぁ、じいやの薬の材料になってもらいますわ! ついでに、何を企んでいたのかも聞かせてもらいますわよ!」
無傷。洞窟に向かう途中で合流したときと同じような高いテンションの声。
不敵に笑うシャルリアは、オークの棍棒を頭突きで迎撃した体勢のままそう見得を切った。
オークもこれは予想外だったのか、明らかに動揺している。というか俺もユートも動揺している。
「……あっ! ハレンチですわ!」
全員が固まって注目していることに気づいたシャルリアが自分の身体を見ると、なるほど確かに棍棒の衝撃に耐えられなかったドレスが大きく破損して結構な面積の肌があらわになってしまっていた。
いや、そこじゃないんですけれど。俺の張った障壁越しでも衝撃を与えてきて勇者のユートを吹き飛ばす一撃を頭突きで迎撃して無傷なことに驚いてるんですけれど。
「もうっ! 許しませんわよ!」
ぷんすこ、と音が出そうな怒り方をしたシャルリアが思いっきり拳を振るう。
正気に戻ったオークの棍棒が迎撃しようとして中ほどで折れた。さっきユートの剣をへし折りかけたやつを。拳で叩き折ってしまった。
「バ、バカな……!」
オークの動揺が増している。うん、こんなバカなって話だね……この子、バカエロ系の主人公の器だったのかもしれない。
えっちな目にあっても割と気にせずケロっとしてるタイプのやつだ。
「『加護』だと……報告せねば、帰還を──」
慌てて逃げ出そうとオークが背を向けるもシャルリアのほうが遥かに速い。
俺の氷矢も、ユートの剣も傷つけることができなかった身体をゴム鞠のように弾き飛ばした。
ひょっとして俺たちがいなくてもこの洞窟調査はなんとかなったのでは? という考えが頭をよぎる。
「グッ……おのれ……おのれ……!」
さっきまでは正直なところ恐怖心がいっぱいだったが、こうなってくると少し哀れにも思えてしまう。
しかし逃げようとした時に俺たちの背にある入り口側ではなく、広間の奥の行き止まり側へ向かおうとしたように見えた。
いったい何があるんだろう──と、少しだけ意識をそらしてしまった。
「せめて──」
満身創痍のオークがすさまじい速度で迫る。詠唱は無理だ。拒絶の魔力──集中力が途切れてる、まずい、変に気を緩めるんじゃなかった。
後悔先に立たずとはいうけれど、こんな何にもえっちな目にも遭わずにただ死ぬなんて嫌だ。どうせなら負けてズタボロに犯されてみたいな死に方をしたかった。まだ服だけ溶かす粘液を出す触手も乳首ねぶりスライムも見てないんだぞ!
思考だけが加速する。意識の集中ができていないから、バカな考えが浮かんで消える。魔法の形にできない、魔力だけでも放出しなければ。
結果として目の前に迫る死に立ちすくむことしかできていない。どうしようも、ない。
でも、避けられないはずの死は俺に触れることなく一刀両断されてしまった。
「サナッ! だ、大丈夫?」
さっきまで剣が通らなかったはずの相手をまっぷたつにし、ユートが俺の顔を覗き込む。
流石勇者、いざって時は頼りになるんだから……いや、本当に危なかった。助かった。
最後まで気を抜いちゃだめだなんて、魔物との初遭遇で理解したことだろうに自称幹部なんて偉そうな相手に同じことをしているのでは世話が無い。
「うん……ごめんね、ユート。また、やっちゃった……」
本当に反省している。今度こそは死ぬかと思った。魔法抜きでの俺は本当にただの美少女なのだ。
魔法で身体能力強化! というのも試してはみたもののしっくりこなかったのであまり効率はよくはない。もししていたとしても今は気を抜いていたのだから効果が切れていただろうけれど。
油断していなければ拘束する方法だっていくらでもあったはずだ。それこそ両手足を折るなり切断するなりしてしまえば動きは封じられたし、何やら作戦があったであろうオークを拷問することで情報を聞きだすことだってできたかもしれない。
それもおじゃんだ。せめて、オークが撤退手段としようとしたであろうものを探すために広間の奥へ視線をやる。
半透明な黒色のカーテンのかかった鏡が、山をくりぬいて作ったような空間でぽつん、と主張していた。
撤退と言っていたからあそこから脱出するつもりだったのだろうか。ワープゲートのようなものになるのかもしれない。詳しく確認しようかと考えたところで悪寒が走る。
『何か』が見ている。鏡の向こう側から、とびきり悪意のこもった視線を感じる。
咄嗟に出たのは氷の魔法。最速の矢よりも鋭く貫く氷の槍。
鏡面に突き刺さるはずのそれはしかし飲み込まれるように消えていき、同時に感じていた視線もなくなった。
「いまの、は……いったい……?」
思わず言葉に出た疑問に答えられる相手はここにはおらず、突然の魔法に困惑するユートと「ところでどの部位が薬にできるのでしょう?」と呑気にしているシャルリアと気絶しっぱなしのお姉さんしかいなかった。