TS転生先がエロRPG世界っぽいので最高の敗北を味わうために全力処女プレイしてみせる!   作:北京院

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目標を決めるなら『最高の敗北を味わうために全力処女プレイしてみせる!』

 魔王軍幹部を名乗り人語を話し、矢が刺さらず剣で斬ることも困難なオークが潜んでいた魔物の巣。

 調査だけの予定だったが勢いから接敵してそのまま勢いでなんとかしてしまったけれど、とんでもない事態だ。

 

 しかも今は反応がなくなったが謎の鏡からは俺たちを観察されていたらしいし、ひょっとしたらここから援軍が現れるかもしれない。

 何が起きるかわからないので距離を十分にとったまま魔力を軽くぶつけてみる。強力な氷の槍をぶつけたはずなのに虚空に吸い込まれるように消えた現象は再現されず、ただの鏡のように見える。

 そのままぐにぐにと性質を持たせていない魔力で干渉してみる。……うん? ちょっと変な感じがする。

 

「ユートさん、サナリアさん、おふたりともよろしいですか?」

 

 ふむ、と考えているタイミングでシャルリアが声をかけてきた。

 鏡の方はとりあえずおいておくことにする。襲われていた女性も意識は戻ってないけれど呼吸も穏やかでケガもふさいであるし心配なさそうだ。

 ……と、そのお姉さんをシャルリアが担いだ。どっせい、とまるで米俵のように。

 

「この方のケガはサナリアさんが治してくださいましたが、念のため先に街へ連れていこうと思いますの」

 

 あぁ、なるほど。確かにシャルリアの脚力なら人ひとり担いでの移動も平気そうだ。

 俺は今回なんにもできなかったが、ケガぐらいは治せたのはよかった……いや、本当に……

 

「ありがとうございます……あ。それなら、少しだけ待ってください」

 

 ……もうひとつぐらいは役に立てるかもしれない。ツノウサギのツノにゴブリンの内臓、魔物の『素材』になる部分の共通項。

 たぶん魔物のエネルギー的なものが集中している器官があるのだ。だったらこのオークにもそういった器官があるだろうし、これだけ強かったのだしいい素材になるに違いない。

 シャルリアの目的はじいやさんのお薬の素材というなかなかぶっ飛んだ理由だったわけだが初めてみるモンスターのどこをどう使ったらいいかなんてことは当然知らない。

 

 専門の薬剤師……調剤師? 製薬師? まぁとにかく薬にしている人はどう使うかはわかるだろうがそんな知識は俺たちにはない。

 この巨体を担いで帰るのは流石に難しいだろうし、ここまで専門知識持ちの人が来れるかはわからない。

 

 ──というわけで俺の出番だ。さっきの鏡の確認でひらめいたが、たぶんできる。オークの死体に魔力をゆっくり流して違和感を探す。

 さっきまで棍棒をぶん回していた右腕……の付け根。肩が一番『強い』気がする。うん、たぶんここだろう。

 魔力の刃で切り裂く。生きてた時はあんなに硬かったのが嘘のように簡単に刃が通って腕が落ちた。

 冷静に、凍りつかせて砕く。いい感じだ。血が滴ったりしないようにしておこう。

 そのまま置いておいても丸一日は溶けないぐらいに落ち込んだ気持ちを込めて念入りに冷やしておいた。

 

「……たぶん、薬に使えるのはこのオークだと右肩です。じいやさんのお薬が必要だって言ってましたよね。これを持っていってください」

 

 即解体してたユートにドン引きしていた俺がやることではないかもしれないけれど、今回のMVPは間違いなくシャルリアだ。

 じいやさんのおかげで健やかに育ったお嬢様のパワーで我々はピンチをあっという間に切り抜けることができたのだから助けになれるのなら、嬉しい。

 

「まぁ……! 素晴らしいですわ! きっとじいやも喜びます! 感謝いたしますわ……!」

 

 どうしてそんなことがわかるのか、という疑問もなく信じてしまう。そんなシャルリアをこそロジィさんは隠したかったのかもしれない。悪意のある人にも簡単に騙されてしまいそうだ。

 俺の両手を握ってぶんぶんと喜びを表現するシャルリアはとても可愛らしかったが肩の人大丈夫かな、と少し心配だった。

 ……一応担がれている人にも改めて魔力を流した。ちゃんと人間だし、おかしなところはなかった。さっきふさいだケガも問題なさそうだ。

 ひとしきり喜んだあとに改めて肩の人を担ぎなおしてシャルリアがお礼を言う。

 

「お二人を担いで帰るのは流石に難しそうですし……お父様にお迎えを用意していただけるようにひとっ走りいたしますわ!」

 

 いい笑顔でグッと親指を立てると「いってきますわー!」と洞窟に反響する大きな声で宣言して駆け出して行った。

 見送るために手を振る。いや、もう見えないところまで走って行ってしまっていたけれど気持ちの問題で。

 

 ……ところで、迎えをこの洞窟までよこしてくれるということはここで待っていた方がいいのだろうか。

 広間を改めて確認するために見渡してみる。よく見るとところどころ血の跡があったりするのは先に調査に来た人のものだろうか。

 死体などはないが、回収したりしたんだろうか? 無事な可能性は……流石に低そうだ。重たい気分が増す。

 

 死体も、囚われている人も、他の魔物もいないことを考えるに鏡がゲートになっていた可能性はやっぱり高そうだ。援軍が来てもまずいし詳しく確認してみる。

 魔力を流す形で調べてみると若干違和感がある。プリンターで印刷中の写真を無理やり引き抜いたような、途中でぷっつりと途切れてしまっている感触がある。

 魔法を鏡越しに撃ち込まれて動揺して切ってしまった、とかだったりするだろうか。つまりこっちに転送される前に先んじて攻撃できたということで、ファインプレーなのかもしれない。

 しかしまた改めて敵が現れないとは限らないわけだし割っておいたほうがいい気がする。

 

「うん、今は普通の鏡みたいだけど……怖いし割っていいかな?」

 

 振り返ってユートの方を見る。胸を押さえて苦しそうにしていた。

 ……えっ!? 嘘だろケガでもしたのか!? さっき俺を助けるときに飛び込んだから? 

 慌てて近づく。顔色がよくない。やっぱりどこか痛めたんじゃなかろうか。

 

「だ、大丈夫……大丈夫だから……」

 

 そう強がるユートだけれどどう考えたって普通じゃない。苦しそうだし、息も荒い。

 あのオークが倒され際に何か残していったのか、呪いのようなものだったりするんだろうか。

 気づくのが遅かった。シャルリアに担いでいってもらうのをお願いするべきだった。

 

 状態を確認するために肩に手を触れたまま魔力を流す。ケガがあるならこれでおおってふさいでやれば治る……額のキズはもうなくなった。

 細かいキズはあったけれど他におかしなところはなさそうだ。呪いの類いは俺には感知できないのか? 

 俺がちょっと油断したせいで、ユートが苦しんでいる。無力感に苛まれる。あ、ちょっと泣きそう。天才魔法使いのはずなのにダメダメじゃないか俺。

 自己嫌悪している場合じゃない。治れ治れと願いながらおかしいところはないかさらに探ろうと、流す魔力を増やそうとしたところで止められた。

 

「う……ん。ありがとう、サナ……落ち着いてきたから、もう平気だよ」

 

 そういって笑うユートは、確かにさっきまでよりは穏やかな顔をして、俺を慰めるように頭をぽんぽんと撫でてきた。

 ……まぁ、ケガはないし本人が落ち着いたというのなら信じよう。頭に置かれた手を握ってどかし、もう一度魔力を流してみる。異常無し。

 

「ひょっとしたら強い魔物を倒したから一気に成長したのかも。なんだか身体が強くなった気もするし……」

 

 ……レベルアップシステムもあるんだろうか。流石勇者だと感心するがそんな苦しいものなのか……俺もレベルアップするのか? とりあえずおまけのゴブリンを倒した程度じゃ成長できていないみたいなんだけれど。

 えっちなことしないとレベルアップしないゲームもあったな……ハッ、シャルリアが実はめちゃくちゃえっちなことをしてレベルをあげまくっていた可能性が!? ……ないな。絶対ない。あれは経験値ゼロだ。まぁ俺もだけども。

 しかしいいなぁ。勇者(ユート)はまだ強くなるのか。すごいなぁ……

 

 ユートも俺が放した手のひらをみて開いたり閉じたりして感触を確かめている。やっぱり違和感が抜けなかったりするんだろうか? 

 

「……ねぇ、サナ」

 

 顔を上げたユートと目が合った。

 真剣な表情だ。そういえば鏡を割るかどうかって話をしてたんだった。

 証拠保全とか考えた方がいいかとも思うけど危険なのはよくないよね。ユートはどう思っているんだろうか。

 

「僕は、サナがいたから旅に出られたんだ」

 

 うん。うん? 

 

「困ってる人を放っておけなくって、だれより魔法が得意だけど鼻にかけたりなんかしなくって、優しいサナの隣にいたかったから頑張れたんだ」

 

 ……ひょっとしてこれは告白されようとしているのだろうか。

 二人きりの時間が取れるのがこれから減りそうだから、みたいな? 悪いがその気はない。

 シャルリアが離れた隙に、じゃなくってもっとムードを作るかむしろ無理やり行くぐらいの強引さは欲しい。ほほえましい気分にしかならないぞ? 

 

「僕が女神様に選ばれたのは運が良かったからだけど……サナは自分の力だけで、努力してなんでもできたんだ。みんなのためにって頑張ってた」

 

 ……いや、違うな。これは今回やらかした俺へのフォローだ。

 なるほど俺が落ち込んで見えたのか。うん、確かに最後の油断は本当にやらかしだ。次からは自動迎撃魔法でも考えて完全に安全になるまで常時発動するぐらいやってやる。

 だけどその前の戦闘に関してはユートやシャルリアが前にでるからフォローに徹しようと考えていたからであって手段を考えなければまだまだやりようはあったのだ。

 

「さっきだってシャルリアさんの薬のことを思い出して、どうやってかはわからないけど素材になる部位を見極めたりもして……すごいと思った」

 

 洞窟ごと埋める気で爆裂呪文をぶちこめばたぶんミンチよりひどいぐらいにバラバラにできただろうし。でもそうしたらじいやさんのための薬の材料とか鏡とかがどうなっていたかわからなかったわけだし。

 会話できたということは呼吸もしていたわけだし水球呪文を顔面に張り付ければ呼吸困難にできただろうし……いや、速くて振り払われていたかな。

 だったら周囲ごと真空にしたり、いっそ魔力を大量に使って自分の周りだけ空気をありにして大量の水に閉じ込めて水流に流し続ければ無力化できたかもしれない。

 誤爆が怖かったけれど皮膚で止まらない電撃なら内部まで浸透して効果が大きかっただろうし動きも止められただろう。

 

 こうして考えれば考えるほどなんとでもなったということは分析できる。なぜなら俺は天才美少女魔法使いだからだ。

 

「サナ」

 

 ユートが真剣なトーンで呼びかけてくるが、もう大丈夫だ。

 一生懸命励まそうとしてくれる気持ちはありがたいが立ち直ったし、そもそも折れていない。

 というか冷静に考えたら世界を普通に救えそうな人材が増えるのはよいことでは? 俺が途中で犠牲になったりしても人類は負けないということではないか。

 身を切る手段が取りやすいならいくらでもイベントも起こせる。

 

 姫プもできるし、ユートやシャルリアのためになら犠牲になりがいもある。美味しいポジションじゃないか。

 2人がピンチの時に「ここは任せて先に行け!」と殿をやって大量の敵を倒すけど数には勝てずに最終的に捕まってしまい「お前が殺した数より多く産んでもらうぜ」みたいになるやつだってできる。

 うん、悪くない。ユートの思惑は当たらなかったが気持ちは嬉しかったぞ。

 納得してユートの顔をみる。若干歪んでみえる。あれ? 

 

「シャルリアさんは確かにすごかったけど、僕が一番尊敬しているのはサナだよ。だから……泣かないで」

 

 何をバカなことを、と思って自分の頬を触る。つめたい。

 ……言われてようやく気づいた。涙が流れてる。泣く気はなかったのに勝手にあふれてきている。

 手でぬぐっても止まらない。違う、泣いてない。悲しくない。悔しくない。

 俺は役立たずじゃない。本当ならもっとやれたんだ。天才なんだ、なんでもできるんだ。

 

「ちが、う……ちがう……っ……」

 

 否定しようとして、勝手にひっくひっくとしゃくりあげてしまって言葉が途切れる。

 涙が止まらない。なんで泣いてるのか自分でもわからない。

 おいていかれてしまうと思ったからだろうか。いなくてもいいと思われるのが嫌だったんだろうか。

 そんなこと、ユートが言うはずないのに。シャルリアだって人に悪意をもちっこないのはみてて一発で理解できたろうに。

 

 言葉にされて、ようやく安心できたのだ。

 

「……それに、さっきはちょっと強がっちゃったけどサナに治療してもらってすごく楽になったんだよ。ありがとう」

 

 ユートに撫でられる。子供をあやすみたいにゆっくりとだけど、心地いい。

 成長しちゃって、男の子め。やるじゃないか。きっと女の子にもモテモテ違いなしだよ、本当に。

 

 だって──いやいや、待て。なんでこんなに安らいでるんだ俺は。励まされて嬉しいが、これじゃあ乙女じゃないか。

 ……しかし恋する乙女が好きな人にもされたことをなかったりすることをされたりするのも定番シチュでは? 

 確かにユートは好きだった人を寝取られそうな顔をしているけれども。

 誰が寝取られものの女だ俺は寝取られないぞ。そもそもユートとも寝ないぞ。

 

 打算から付き合って寝取られ女ポジションになろうとするのは流石にユートにも悪いし、愛がない関係はダメだろう。無論愛がないこと自体が魅力のシチュエーションはおいとくとしてだ。

 

 撫でられて落ち着くのも、きっと勇者の加護の一種に違いない。まったく油断も隙もない。やれやれまったく危ないところだった。

 そうだ。俺の目的を忘れてはならない。『いつか』先での全力を尽くした先の敗北での最高のバッドエンド。

 油断して負けてしまうのも悪くないけれど、死力を尽くしてそれでもかなわない相手に膝を折ることだ。

 

 どこかで負けてもいいだろうという気持ちがあるからちょっとすごい魔法使い程度として振る舞ってしまっていた。

 俺はファンタジーを楽しみ過ぎて、初心を忘れていたのだ。

 

「ありがと、ユート……もう大丈夫だから……」

 

 それにしても落ち着いて考えれば考えるほど恥ずかしい。

 みっともなく泣いて撫でられて落ち着いて、まるで子供じゃないか。

 

 感情を魔法にしてぶっぱなせば目減りするだろうか。この洞窟まるごと水に沈んだあとその水全部を蒸発させて周囲一体を熱帯地方みたいな気候にするぐらいには放熱できそうなんだけれど。

 

 ユートが撫でる手を放す。もう涙は出ない。

 決意を新たにする。そうだ俺は──最高の敗北を味わうために全力処女プレイしてみせるのだ。

 

「よかった」と笑うユートがかっこよく見えたのは、レベルアップの効果が容姿にもあるからなのかもしれないと、そう思った。

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